2話 生活とは自分を拒絶していくこと

私は元々自己肯定感が高くない。承認欲求が強いのは、その裏返しだと思っている。自分で自分を大切にできないから、代わりに誰かに大切にしてほしい。そんな他力本願な性格ゆえに、自分の体を雑に扱う癖ができつつあった。


幸子には慢性的な悩みがあった。始まりはおそらく高校生の頃。多感な時期にはよくある、体型の悩みが発端だった。周囲と比べては自分は太っていると思い込み、昼は弁当箱の底が見えるほどきわめて少量のお米をちまちまと食べた。それでも痩せないことに苛立ち、食べては吐くことを繰り返し行った。いわゆる摂食障害だ。その頃から、幸子の心は徐々に脆くなっていった。


そんな中、夢を否定されて就いた正社員の仕事。周りから見れば何不自由ない生活に見えただろうが、幸子にとってはそれこそが屈辱でしかなったのだ。幸子は給料が入るたびに食材を買い込み、真夜中に隠れるように、また、逃げるように胃袋に詰め込んでは吐いた。吐くときはいつも涙を大量に流していたが、吐く苦しみによるものなのか、人生を悲観している心によるものなのかは本人にもわからなかった。

誰か助けてよ、と部屋で一人つぶやく幸子だったが、「誰か」が誰なのかは全くわからない。神様のような、すがるものが欲しいとただただ漠然と祈っていた。それと同時に、自分や周りの人を呪い続けていた。

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