第9話 世界を破壊する『属性』
時は功次が日本からの大脱出をしてから1週間。
世界は…。
場所:アメリカ合衆国・フロリダ州
『
重力を操る少年は向かい来る米陸軍を地に這わせ、戦車隊もそこらじゅうに崩された建物の瓦礫を飛ばし走行不能へと陥らせる。
『
既に少年を中心とし半径5キロに及ぶ範囲が荒廃とかしている。
そんな場所に米国は空爆を敢行。
しかし重力を操る者の前では無力に等しく、急激に重力をかけられ爆撃機は地に叩きつけられる。
『
そう叫ぶ少年の周囲には、浮遊する木と建物が舞っていた。
…ここに来て恐らく1週間。
今までの日常とは大きく離れている環境に、押しつぶされそうになりながら何とか生きている。
『飯だ』
「小僧、食え、と言っとるよ」
「…マジで?」
ついさっき村民は何かを手に隠しながら、こちらに向かってきた。
そして目の前に出されたのは、虫だ。
しかもまだ生きている親指よりも太く長いくらいの何かの幼虫。
うにょうにょ動いててキモイ。
「ギャアァァァッ!」
虫が大嫌いな、俺からするとそれは何よりも恐怖の対象。
今まで上げたことのないほどの大絶叫を上げた。
「どうした小僧。御馳走だぞ」
「いやいやいや、これは無理だって!」
「小僧、好き嫌いはよくないぞ」
「こりゃそういう次元じゃねぇ!」
確かに野菜苦手であんま食べようとは思わないけどさぁ!
これは違うだろ!
「一度食べてみるといい。虫を食べようとしないのは今の日本の価値観で、虫は旨いぞ」
「いやキッツ」
『…調理してやれ』
『分かった』
爺さんが幼虫を持ってきた村民に何かを言うと、幼虫の頭に串のようなものを刺して、火で焼き始めた。
うーわ…生きたままやってる…。
最初のほうは胴体をうねらせて抵抗していた幼虫も、次第に弱りついに動かなくなった。
そして戻る。
「ほんとに食うのか?」
「日本人の、もったいないはどこへ行った?」
「ここにまでそれ適応されるのかよ」
にしても、動かないけど、死んでてもこれを食う気には到底なれない。
「小僧」
「何?あがっ!?」
顎を掴まれ、口を強制的に空けさせられる。
「食うんだ」
爺さんは幼虫を手に取り俺の口にねじ込もうとして来る。
「ふひー(無理)!ふひー(無理)!」
しかし、抵抗虚しく口の中に幼虫は入ってくる。
「ぐっ………ん?」
致し方なく咀嚼をすると、旨味を感じる。
「どうじゃ、旨いだろう」
「…う、旨い」
信じられない。
こんなブヨブヨして気持ち悪い生物が旨いなんて。
「ここじゃ、御馳走なんじゃ。旨いに決まっておろう」
「だが…精神的ダメージは拭えないな」
俺が正と負の感情に襲われている反応をしているのを見て、村民は笑っている。
性格の悪い奴らだ。
何かを言っているけど、なんて言ってるのか分かんねぇ。
「悪かったのぉ。無理やり食わせて」
「謝るくらいなら…最初からやるなよ」
「じゃが、良い経験になったじゃろう。小僧等、都会民であり先進国民はこのような地の食も環境も感じることはない」
「…確かにな」
村民が笑っているのは別にいじめなどのそういった人を蹴落とすことから発せられる笑いには感じない。
単純に友人同士のいじりのような感覚の笑いにも感じれる。
これで不味かったらキレていたが、ちゃんと旨いし、さっきの幼虫は俺が食ったやつで終わりのようで、皆ここの普通の飯を食っている。
おそらく本当に御馳走だったんだろう。
それを完全に外の者である俺にくれるだけここの奴らは良い奴らなんだろう。
時は功次が日本からの大脱出をしてから2週間。
場所:中華人民共和国
『日本は愚かだ。昔みたいにこの中国の傘下に入っていれば、あんな化け物に遅れを取ることはないのに』
ある人は店で、自国民に料理を振る舞っていた。
客達とその国に広まる情報についての小話をしながら。
各国は出現する『属性者』の対応に追われているなか、その国にそのような人は出現していない。
…それが大半の認識であった。
『現在、黄砂による被害は年々増大しており…』
流れてくるテレビでの音声。
『そういや、最近の黄砂は酷いな。本当になんにも見えなくなりやがる』
それに客が反応する。
その頃、西側では…。
『クッソ化け物め!』
送られてきた軍勢を砂と共に吹き飛ばす者が一人。
『『
『弾が逸れる。当たらない!』
『『
その者の起こす突風は、周囲一体の人間を八つ裂きに切断する。
『………
そして都市部へ黄砂の波が押し寄せ始めた。
時は功次が日本からの大脱出をしてから3週間。
場所:ロシア連邦・国境
「キヒヒッ…ここには大量の死体があって面白いねぇ」
場所はロシア国境。
戦争により被害は拡大中。
しかしその中で一人の狂人は立っていた。
「キヒッ…流石にそんな簡単に『属性』の発言は見られないねぇ」
崩れた建造物を骨のように細い体で踏んで歩く。
『
すると、狂人は3人の軍人に迫られる。
「おやおやぁ?…キヒヒヒ…これはこれはぁ、露の国の軍人じゃあないですかぁ」
『
『
『
軍人は狂人の言葉に疑いの目をかける。
『
『
『
『
狂人は3方向から銃口を突き付けられる。
『
『
「…チガウヨ」
すると狂人は一人の顔に手を伸ばす。
『
それに反撃して、狂人は胸を撃たれた。
ドクドクと流れ出る血液が、地面を這い3人の軍人の足を濡らす。
『
『
『
そしてその場を離れようとしたとき。
「『ゼノ』」
『
3人の軍人の両足が捥がれる。
『
『な…にが?』
狂気に満ちた笑いを発する狂人は、むくりと立ち上がる。
『
「撃たれたねぇ…痛いねぇ…良くないねぇ…君たちがねぇ…していることはねぇ…こういうことなんだよぉ?」
『………』
「死~んじゃった、死んじゃった。ま、気にしないでよぉ。どうせ隠れてはいても、すぐに分かるよぉ?君達の国にも、恐ろしい悪魔が舞い降りるよぉ。核の方がよっぽどマシと思える何かがねぇ」
そして上半身だけになった軍人3人を引きづり、どこかへ向かう狂人。
「僕はねぇ。関係ない民間人まで上の指示で殺す馬鹿な存在は大っ嫌いなんだよぉ!?ま、いいさ。もう死んでるんだしねぇ。君達は気づいていない。侵略戦争で喜ぶのは、君達ではないよぉ?喜ぶのは、民ではなく、上。むしろ君達は、大量殺戮の大犯罪者。いい加減気づくといいよぉ?」
引きずられた軍人等の姿は見るも無残な姿になっていた。
「こんなもんかなぁ?」
そしてその死体が、狂人の体に取り込まれる。
「うーん…もっといい細胞が欲しいねぇ…キヒヒッ」
…おそらく南米の熱帯雨林であるここに来てから3週間。
今まで見てきた『属性者』の中で最も強いと感じる爺さんの厳しい訓練も体に馴染んできたころだ。
ここの原住民との会話は未だに出来ないが、そんな不自由なことはない。
初めてここの御馳走である何かの幼虫は、最初食った時のせいで感覚がバグったのか分からないが、5日前にもう一度くれたが、躊躇い無く口に入れることが出来てしまった。
以前の俺が今の俺を見たら、誰だお前っていうだろうな。
そして爺さんの家というか空間である大樹の中は、外で聞こえる獣や鳥の声も風になびく自然の音も全てを遮断しているのでとんでもなく静かだ。
こんな状況になった以上、爺ちゃんのところに帰ったりなんてしていないので、この木造建築の雰囲気はどこか落ち着く。
まぁ、木造建築というよりかは、素材そのままの木造だがな。
夜空を眺めるのも慣れてきた頃、俺は自身の『属性』の扱いが上達したことを感じ始めた。
「その調子じゃ」
「だぁっクッソ!当たらねぇ!」
…そんなことないかもしれない。
ここ最近は爺さんに時間があるたびに、『属性』の手解きを受けているが、未だ爺さんに届く気配はない。
しかし向かってくる攻撃に対しての反応速度などは早くなっている。
「『炎鎧』『生成:ソード』『炎球』からの『バースト』!」
右手に『炎球』左手に『ソード』を構え、『バースト』で距離を詰める。
「当たらんよ」
至近距離まで来ると、やはり爺さんは一定の距離を取る。
しかし、何度も戦って分かった。
いくら『属性者』と言えども、爺さんは歳により足腰が悪い。
この戦闘中の移動は、全て『属性』を使いながらしている。
燃やし尽くしても再生し続ける大量の葉で波を作りそれに乗ったり、何処からでも伸びてくる根に飛び乗ったりする。
そして移動中は攻撃の手が緩み、防御が多くなる。
そこを叩く!
「おうらっ!」
『炎球』を投げるが、防御のために出現した葉の壁に防がれる。
しかし壁は着弾した部分が炭になっている。
崩れ落ちようとしているところは、すぐさま新たな葉が埋めようとする。
ここだ!
「出力最大『フルバースト』!」
タックルの構えで壁に突撃する。
「ぐっ…」
『炎鎧』のお陰で衝撃だけで済んでいる。
その代わりに纏う炎が壁に焼く。
「崩れろ!」
「破られたっ!?不味い!」
壁を粉砕し、爺さんのもとへと勢いのまま突っ込む。
「吹き飛べ!」
「『森羅万象』」
「んなっ!?」
爺さんに当たる直前、植物、地面を引き寄せを作り身を隠し防御された。
マジか…この勢いで破れんのか!?
「いーや、まだだ!出力最大『フルブースト』!」
さらに両足から『ブースト』の強化版『フルブースト』発動し、さらに勢いをつける。
「くっ…鎧が削れる…」
勢いが増した分、それだけ『炎鎧』の耐久がなくなっていく。
明確に耐久ゲージのようなものが見えるわけではないが何となく分かるのだ。
後30秒もすれば、耐久限界を迎え消失する。
そうなれば生身の肉体が木っ端微塵になる衝撃に襲われるだろう。
「くっそ…ここまでか」
『フルブースト』を止め、距離を取る。
すると爺さんを守っていた球体が崩れ自然に還った。
それと同時に『炎鎧』も消失した。
「危うく死ぬところであったわ。力をつけたな、小僧」
そうは言うが、爺さんの方に疲れや焦りの表情は一切見えない。
「そのわりには、かなり余裕そうな顔してるが?」
「この歳になると、そう驚くことも焦ることもないのじゃよ。経験というのは、場合によっては残酷じゃのぉ」
そう言って背を向け周囲の村民のもとに向かおうとする。
「若いというのは良いのぉ。知識も経験もまだ未熟。故に世界の殆どが未知であり、興味は尽きず、完成も刺激し得る。あー、腰痛い」
「…ちょっと待ってくれ」
「なんじゃ?褒めてほしいのか?」
「違う。そうじゃない。一つ聞きたい。さっきの俺の全力の攻撃を防いだ球体はなんだ?」
「あれか?あれは…まぁ、儂の最終防御のようなものじゃよ。あそこまで追い込まれるとは思いもしなかったぞ。腕を上げたな」
「…そうか」
爺さんは俺の質問に答えると、再度村民のもとへ向かう。
…初めて、爺さんが『属性』を発動するときに技名を言った。
あれだけやってようやく爺さん本来の『属性』出力を出すようになるのか。
こりゃどう頑張っても勝てないな。
固められた自然は俺の炎で燃やし尽くそうとも、その欠けた箇所はすぐさま再生する。
自然というのは恐ろしい。
ただの自然ではなく、ここら一帯は爺さんの『属性』に当てられた異常地帯だ。
『属性』を使って何をするでもなく、ここの自然は爺さんの意思をもとに自律的に動いている。
俺の『フェニックス』のように。
『属性』を持たない人間どころか、並みの『属性者』ですら、自然を相手にするだけで死ぬだろう。
正直俺も最初の時点で爺さんが、あの植物たちを止めなかったら体を捻じ切られて死んでいただろうな。
…さすがに少し疲れたか。
いくら何でも使いすぎた。
もっと頭を使って戦わないと爺さんの領域に1ミリとも至れない。
「…ん?」
後ろから視線を感じそちらのほうを向くと、この村の少年がいた。
身長は中一くらいだ。
そいつは手招きをしている。
「なんだ?」
「ツイテコイ」
「?」
名前は、ランサ。
こいつはこの集落で唯一日本語を使うことが出来る。片言だが。
どうやら日本に興味があり、日本人である爺さんから教わっていたらしい。
まぁ、しばらくここに居座る俺のことはよく睨んでくるんだよなぁ。
なんかしたか?
嫌われることとしたら、尊敬しているかは知らんが自分に教えてくれている爺さんと、半ば殺しあいのようなことをし続けているって言うことくらいか?
ただあれに関しては爺さんから言い始めた奴だから俺に難癖つけられても、知らんがな、としか言いようがないな。
「ノボレ」
「…これを?」
「ノボレ」
「…マジか」
そう指示されたのは、8mはあるだろう木だ。
このくらいの高さの木は、この地域ではさも当たり前かのようにあるが、この高さをなんの道具もなしに登るというのはただの高校生にしちゃ無理難題だ。
しかもここには当たり前かのように、虫がいる。
毒を持つものだって多くいるんだ。
そんなのがいるかもしれないのに、素直にやれというのは地獄の所業だな。
「マダカ」
「まだだな」
『属性』は戦闘の時以外使わないように言われてるし、やるしかないか?
ここで拒否しても、こいつの機嫌を損ねるだけだしなぁ。
「…これ、登っても倒れない?」
「タオレナイ、ボク、イツモ、ノボッテル」
「…毒ある?」
「キニ、ドクナイ」
「木じゃなくて虫の方」
「ドクムシ、イナイ」
「…そうか」
「ノボレ」
どう言っても登らざる得ないようだ。
「はぁー…分かったよ。でも、落ちたらちゃんとキャッチしてくれよ?」
「オマエ、オモイ、ボク、モテナイ」
「うるせぇ」
これでも65kgじゃ。普通くらいだろ。
でも、一応確認は取った。
これで毒持ちの虫に刺される噛まれるかしたら、一生呪ってやる。
「よっと」
案外登りやすい。
手がかけれるような窪みがある。
恐らくランサがよく登っているからだろう。
倒れる感じもしない。
かなり丈夫だ。
流石に一切の揺れがないと言うことは、こいつも爺さんの『属性』の影響を受けて丈夫になっているんだろうか。
「これに乗れば良いのか?」
てっぺんの草を掻き分けると、一辺2mほどの台があった。
「うお…たけぇー」
台に乗り周りを見渡す。
柵も何もないので一歩でも足を踏み外せば地面に真っ逆さまだ。
昔は高所恐怖症だったが、『属性』を手にしてからは感覚が狂ったな。
移動の時の『ブースト』では高度を飛んでいるが、手足がなにかに接しているときに見る景色ではこれが最高の高さだろう。
「モット、ドケ」
「ちょ、落ちるから押すな!」
押されて少し退く。
この台、二人しか乗れないと言うか、一人でもかなりキツいんだが。
てか登るのか早いな。
「オマエ、オソイ」
「黙れ。んで、なんで俺をここにつれてきたんだ?」
「…チョウロウ、イッテタ、オマエ、スゴイ」
「なんだそれだけか?別にそんなことは本人から何度か聞いてる」
「チガウ、オマエ、シルベキ」
「…何を?」
ランサは地面を指差す。
「チガ、イウ」
「地?」
「セカイ、コワレル、ココモ、キエル」
「…どう言うことだ?」
「チョウロウ、シッテル、イツ、キエル」
「だから世界が、この村がなくなるってどう言うことだよ!?」
「オチツケ」
「っ、すまん。…それは本当か?」
「チョウロウ、ウソツカナイ、マチガワナイ」
「でも、どうしてだ?世界が壊れるなんて、感じは一切しないぞ」
「セカイ、コワレル、リユウ、ニンゲン」
「…人間?」
「コノママ、センソウ、オキル、セカイ、コワレル」
「戦争…第三次世界大戦が起きるとかか?」
「イマ、オキナイ」
「んじゃ、大丈夫じゃないか」
「デモ、スグニ、オキル」
「どっちだよ」
「オキナイ、リユウ、オマエ」
「…俺?」
「アト、チョウロウ、オナジ、ニンゲン」
「爺さんと俺と同じ人間…『属性者』か。なんでそれが戦争が起きない理由なんだ?」
「オマエ、イルト、セカイ、コマル」
「困る?」
「セカイ、テキ、オマエ」
「『属性者』が世界の敵だ?そんなにいる訳じゃあないし、今まで見てきた『属性者』は10人も満たないぞ。そんな量、世界の兵器の数と比べたら、相手にならない。いくら強くても、そこまでは…」
「チガウ、イマ、セカイ、オマエ、タクサン」
「…何だと?」
「イマ、セン?、クライ」
「1000!?」
なんでそんな数の『属性者』が?
いやでも、いるだけで世に知れ渡っているわけないよな。
今までだってそうだったし。
「セン、ソトノ、ニンゲン、シッテル、カズ、タブン、モット、イル」
「…マジか」
「デモ、セン、スグニ、シヌ」
「まぁ、流石に『属性者』も無敵じゃないしな。撃たれれば死ぬし」
「ミンナ、シヌト、セカイ、テキ、セカイ」
「…そう言うことか」
ようやく分かった。
知らなかったが、ランサの言う通りなら世界中で『属性者』が姿を現し始めている。
そしてその対応に追われている間は、世界で戦争は起こらないと言うことか。
言ってしまえば、共通の敵理論だ。
ただ俺らがいなくなれば、世界はまた国同士の殺しあいになる。
すでに大戦争の引き金は引かれつつあるのが今の世だ。
…でも、俺にどうしろと?
「チョウロウ、イッテタ」
「何を?」
「モウスグ、コノムラ、オワル」
「は?」
この村が終わる?
何でだ?
「ちょっと待ってくれ。『属性者』が世界にいる限り、戦争は起こらない。だからこの村も今は消えないんじゃないのかよ!?」
「セカイ、イマハ、コワレナイ、デモ、コノムラ、サキニ、オワル」
なんだ?
俺はてっきり戦火に巻き込まれることでここがなくなることを言っているんだと思っていた。
他にも要因があるのか?
「アト、ミッカ?」
「3日…だと…」
もうすぐじゃないか。
一体何故だ。
「ココニ、チガウ、オマエ、クル」
「…『属性者』?」
「ソイツ、ネライ、オマエ」
「俺を狙ってくる奴?」
…そこで、俺は一つ思い出した。
俺を狙ってくるような奴は今のところ、一つしかない。
あの愁那がいる組織だ。
あそこにはバルドも、久明とか言う奴もいる。
そんな奴らがここまで来るのか?
「皆は知ってるのか?」
皆というのは、この村の他の住人だ。
それなりの量はいる。
「シッテル、シラナイ、オマエ」
「俺だけかよ…でも、なんで爺さんは俺にだけ言ってくれなかったんだ?」
「チョウロウ、オマエ、フアン?、シンパイ」
「…俺が不安がると思ったのか?」
「ソウ」
…なんつー気遣いしやがる、あの爺さんは。
「なめてもらっちゃ困る。俺だって、こんな力を手にしてかなり経った。既に現実的なもので、退けなくなっていることを分かってるんだ。覚悟は決まってる」
たった2週間。
そんな短い期間でも、この村には恩がある。
長老である爺さんと同じ日本人であることは関係するだろうが、それでも嫌な顔せず、言葉も通じない俺に良くしてくれたんだ。
もし危険が迫ると言うなら、全力でそれを阻止する。
どんなことがあるのかは分からないがな。
「…なんでお前は俺に伝えてくれたんだ?」
「………」
「?」
さっきまでの片言日本語が止まり何か言い淀む。
「…フツカ?、ヨル、ミンナ、オマエ、ツレテク」
「何処に?」
「チカイ、ソト、セカイ、ヒト、オオイ」
ここらへんの人が多い場所?
都市部に移ると言うことか?
「チョウロウ、ヒトリ、タタカウ」
「何?」
「ダカラ、オマエ、テツダエ」
「…」
「チョウロウ、ブジ、イウ」
「……」
「タブン、チガウ」
「………」
「チガ、イウ、オマエ、オナジ、フタリ」
二人の『属性者』がここに来ると言うことなんだろう。
いくら爺さんが強くても、『属性者』が2人ともなると状況は良くないだろうな。
やはり…俺も出よう。
「…ランサ、爺さんのことは任せろ」
「マカセタ」
「ただ、直前まで爺さんには内緒な」
「ドウシテ?」
「これ、多分お前が独断でやったことだろ?バレたら怒られるぞ?」
「ソレハ、コマル」
あの爺さん怒ると怖いんだよな。
日頃怒らない奴が怒ると怖いとはよく言ったもんだ。
「ただし、他の皆には言っておけよ。俺の寝ているところを、担いでいく手筈なら言っておかないと俺はここに残って爺さんと戦えないからな」
「ワカッタ」
ランサが理解したようなので、俺は立ち上がる。
「ドコエ?」
「戦い前の晩餐Day1だ」
そう言って村に戻ることにする。
「マテ」
「ん、どした?」
「コレヲ、アゲル」
「…これは?」
「ニホン、ミサンガ、イウ」
ランサの左手にあったのは、オレンジ色のミサンガだ。
「…なるほど。俺は初めて見たな。でも、なんでこれを?」
「オマエ、クロウ、コレ、ネガイ、カナウ、チョウロウ、イウ」
「まぁ、苦労はしてるかもな」
「ダカラ、オマエ、アゲル」
「そうか、ありがたく貰おう」
貰ったミサンガを右手首につける。
「また会おう」
「アオウ」
何とか落ちないように、窪みに足をかけながら地面へと降りる。
まだランサは台にいるようだ。
なのでランサから見えるところに行き、手を振るとランサも手を振り返した。
「さてと、後の時間どう過ごしたもんかな」
村への道中一人で呟く。
とりあえずランサがここの奴らには言ってくれる筈だから、俺は普通に過ごすか。
「小僧」
「おわっ!?」
背後から声が聞こえて、腰を抜かす。
「なんで、爺さんがここに!?」
「なんでと言われてもなぁ」
なんとも神出鬼没な年寄りだ。
「そうだ、小僧。お前さん、何処へ行っておった?」
「…ランサのとこだ」
なにかと見透かされているような雰囲気を感じるが、今はまだ内緒にしておくと言う話だ。
隠し通そう。
「ところで小僧。このような言葉を知っておるか?」
「は?」
「壁に耳あり障子に目あり」
「知ってるが………まさか、爺さん」
「知っとるよ。お前さんが、ランサ君と何をしておったのかはな」
「マジかよ」
こいつ…恐ろしいな。
「ここら一帯はすべて儂の領域じゃ。たとえ距離が離れていようとも何をしようともすべて見聞きしておる。隠し事はできんよ」
「『属性』か?」
「そうじゃな。儂も今や『属性』の扱いにはそれなりに長けておると思うが、ここまで来るのには長い時間をかけた。その間溢れ出る『属性』に当てられてきた自然は、もはや儂の身体の一部と言えよう」
「だりぃ…」
しかしマズッたな。
黙っておくと言う話だったのに全て筒抜けだとは…。
こりゃ怒られるんじゃないか?
「小僧…」
「なんだよ」
「お前さん、余計なことはするな」
「いや、余計な事って…」
「ランサ君に聞いたじゃろ。3日後、ここに『属性者』が来る。恐らく小僧を追って、かの組織が遣わした者じゃろう」
「だったら、原因は俺にある。それに対処すべき存在は爺さんではなく、俺の筈だ」
「…小僧には未来がある。儂は永遠の時を生きるだけの老いぼれ。そして老いぼれは若人に未来を与える義務が、責務がある。ここは身を引いてくれ」
「嫌だね。ランサには爺さんがまだ必要だ。それに…俺の未来は潰えた」
ここで分からなくても通じ合えて、穏やかな生活をして感じた。
この力は…普通に生きるには向いていない。
俺は普通に生きたい。
ただ、いつものように、誰かと何気ない会話の出来る環境に戻りたい。
だが、一度この力を使ってしまってはもう…戻ることが出来ない。
だから…俺の未来は潰えた。
今は『属性』を持ちながら以前のような生活を出来る。
その方法を探すしかないことを理解した。
「小僧、お前さんは馬鹿か」
「なに?これでも五教科偏差値は60あったぞ」
「知能の事じゃあない。いつ小僧の未来が潰えた?」
何を言ってるんだ?
既に取り返しのつかない状況なんだぞ。
「小僧、未来と言うのは自信の持ちうる力全てを扱い作るもの。お前さんは未だそ持ちうる力の1%も使っておらんじゃろ。そんな中、いつ未来が潰えたと言うのじゃ。まだなにも始まってはおらんではないか」
「……」
「いつまで、世の言う普通と言うものに縛られておる。儂らが常人のように生きることの出来ないことは自明の理」
「…そう…だよな」
それでも、俺は考えてしまう。
まだ何か手段はあるのではないかと。
2週間前に、決めたことであると言うのに…未だに迷っている。
ここまで悩むようなことが今までの人生であっただろうか。
「そしてじゃ、わざわざその力を除く必要はないじゃろうと言っておる」
「でも、『属性』を持ったまま、普通に暮らすことなんて出来ない。それは爺さんも言っているじゃないか」
「じゃが、儂はそれを持ちながらここで生きてきた。持たざる者とも共存は可能なんじゃよ。」
「それは…爺さんの運が良かっただけだ」
「そうかもな。だが、少なからず不可能ではない。小僧はな、普通と言うものに固執しすぎなんじゃよ」
「…そうか?」
「そうじゃよ。普通と言うものは、ありふれて使われる言葉じゃが、その定義は曖昧なものじゃ。一体何処に普通の暮らしと言う基準がある」
「そりゃ、健康に犯罪なく適度に楽しんで天寿を全うできる生活…」
「無理じゃよ」
「なっ…」
俺の思う普通の生活を言うと即座に否定されてしまった。
「ならば一つ聞こう。お前さん、今までに体調を崩したことは?」
「まぁ、あるけど…」
「その時点でお前さんの言う普通の生活とやらは不可能になったな」
「は、いや、え?」
「だから無理なんじゃよ。極論を言ってしまえばな」
「そんなん無理だろ!?」
「そう、無理じゃ。そんな無理なことをしようとしておるのが、お前さんの、世の理想なんじゃよ」
なんと言う暴論だ。
これでは、他者からの言葉で傷つきたくないから、全人類を滅ぼすと言っているのと同じではないか。
「いいか。真の健康と言うのは生涯一度たりとも体調を崩すことなくいること。真の犯罪なしと言うのは、生涯一度たりとも法を破る行為をしないこと。こんなもの不可能に決まっておろうが」
「…」
「一度起こしてしまった出来事は何らかの形で未来永劫に刻まれる。それは記憶か情報か自然か。それを消え去ることは不可能であり、どんな存在も一度の過ちを犯すことなく生きることも不可能。そんな中、小僧と世の言う『普通』とやらの条件を満たす者は、万に一つとして現れない」
「なら…俺は…」
「そう深く考えんでいい。世の中生きてさえいれば案外なんとかなるもんでのぉ」
「そんな案外なんとかならんかった結果が今だがな」
「…良い生き方を教えてやろう」
「…なんだ?」
「日々、常に自分が正しいと思ったことだけを信じて生きるのだ」
「自分が…正しい…」
「そうじゃ。お前さんは『属性』がありながら、正気を失うことがないようじゃからな。この状況に立たされてから、殆ど弱音を吐く事無くここまで来ている。それは窮地に陥った人間の覚醒か天性の物かは知らんがの。元々出来ていたことが、ここの穏やかな風に当てられ、気が休まってしまった結果、今までの状態を維持できなくなり弱音を吐くようになったんじゃろう」
「…俺が、そんなことに?」
「知らんよ、儂は。じゃが、人間誰しも心が唐突に折れることはある。どんな強い者もな。そんなときは、その感情に身を任せ、落ち着かせることが必要じゃ」
「…そうか…なら、いいか?」
「なんじゃ」
「愚痴らせてくれ」
「構わんよ」
そして俺は少しずつ愚痴が口から溢れ出始めた。
『属性』を手に入れてから経験したことが。
…人を守ろうとして殺されかけて、反撃で『属性』を使うと完全に俺が悪者として扱われ始めたこと。
日本のそこらじゅうが敵になった感覚があったこと。
見知らぬ組織に誘われ、『属性』をなくせると思ったらそんなことはなかったこと。
俺のせいで家族にも影響が出ていたこと。
妹が敵になっていたこと。
そして感情に任せて話している内に、自然と涙が溢れ始めた。
どうして俺の人生はここまで狂ってしまったのか。
その問いに対する完璧な答えは、決して返ってくることはない。
それでも…それでも、この理解不能、理不尽な世界と未来に問いたい。
きっとこの先の道は、絶望しかないだろう。
愛も、希望も、何もかもが見えないバッドエンドであることを、この世界を作った奴も『属性』も知っているんだろう?
「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
長い嗚咽とため息が、絶え間なく口から出る。
それと同時に、口から何か熱いものが出そうになるが、途中で止まる。
今だけは『属性』も何も俺に干渉できない。
今の感情は、人間の俺の感情だ。
「これからは棘の道じゃ。ここで全て吐き出しておけ」
それでも、今は突き進むしかないことを理解している。
立ち止まっては入られないんだ。
だから…だから、今は一頻り叫ぶんだ。
もう、こんな機会来ることはないのだから。
『食え』
「ありがとう」
翌日、そして襲撃の2日前の昼。
虫はあれ以来食べていない。
いつものように出された飯を、口に運ぶ。
今日は芋だ。普通に旨い。
ただなんの芋かは知らない。
じゃがいも、さつまいも、里芋でもないな。
なんだこれ?
そろそろ、ここの言語も一部は理解できるようになったな。
さすがに会話をすると言うほどではないが。
結局あの後、爺さんは気づいていたことを皆に伝えた。
怒られるかと思ったがそんなことはなかった。
ただ、俺も爺さんと戦うことに関して、爺さんは頑なに了承しなかったが、「どのみちその『属性者』が俺を目的として来るのなら、もし爺さんが負けたとなるとその後は俺の方へ来るだろうと予想するなら、俺を連れていった村民にも被害が及ぶぞ」と言ったら、渋々了承した。
俺に『属性者』の手が伸びないようにするために、そんなことをしようとしたんだろうが、それならいっそのこと二人でそいつらを倒してしまえばいい。
『君はよく食べるな』
「…なんて?」
「小僧はよけ食うな、と言うとるよ」
「旨いからな」
そう話しながら、今日昼食を食べ終わる。
今のところ、知らない食い物が殆どだが、大体旨い。
あれだ。ここに来て、4日目くらいに食べた謎の実はあんま美味しくなかったな。
と言うかマズイ。
あれ以来食べてないが、村民が代わりに食べてくれている。
渡すと喜んで食べているが、ここの人からすれば旨いのか?
日本の味覚だと分かんない感覚だ。
そう考えると、あれだけ旨い飯を腹一杯食えていたのは、今思うと幸せなんだろうな。
また翌日、襲撃の前日の朝。
「今何時だ…?」
前からの癖で起きてすぐにスマホを開く。
…チーン。そうだ、死んでた。
今の時代、生活に染みついているスマホという存在がなくなることはかなりの痛手だな。
でも、壊れたから捨てようという意識にはならない。
まぁ、お守りのようなものだな。
「いい加減窓付けろよ」
大樹の中から開けられた穴を通って、朝日を浴びる。
相変わらず
「小僧、早いな」
「おはよう。爺さんのほうが早いだろ」
「年寄りは朝が早くてのぉ」
そういって太陽を正面取る爺さんは、まるで光合成をする植物のよう。
「…そうじゃ、小僧」
「なんだ?」
近場の川で顔を洗いに行こうとすると、光合成中の爺さんに呼び止められた。
「お前さん『属性』の上位種を知っておるかの?」
「上位種?」
なんだそれ。
東砂が書いていたあの資料にもそんなものは書いてなかったぞ。
…でも、今のところ分かっているのは『属性』の力の一部分なんじゃないかみたいなことが書いてあったが、もしかしてそれのことか?
「上位種は既に『属性』を持つ者が、その扱い・出力の限界を超えた『属性』をそう呼ぶんじゃ」
「…なんでそんなことを知っているんだ?」
「…流石に長く生きておるでのぉ」
「…まさか、爺さん…」
今の話が本当なら、俺が殆ど爺さんに勝てないのも理解できる。
『属性』の扱いが手練れであるとかそんな次元ではない。
明らかに俺の出力が追い付いていないんだ。
普通に考えれば「葉」に負ける「炎」というのはおかしな話。
RPGとかだったら、絶対に勝てる相性が完全に覆され続けていた。
「小僧の予想通りじゃ。儂はその上位種と呼ばれる『属性』の域に達しておる」
「…マジか」
「儂の力が通常の状態じゃったら、小僧とは相性が悪すぎるのでなぁ。流石に勝てんよ。じゃが、上位種というのは相性と言うのを覆すことが可能なほどに変化する」
これが『属性』の上位種…。
今まで何度か『属性者』とは戦ってはいるが、いくら相手が強敵だとしても通用はしていた。
それが、殆どこちらの攻撃が聞かない時点で何かおかしいとは思っていたが、理由はそれか。
にしても上位種…まさか、まだ世にここまでの存在がいるのだろうか。
「そしてじゃ…小僧、お前さんはその上位種となる素質がある」
「何?」
俺がその上位種に?
そんな感覚は全くと言っていいほどないが。
「儂が上位種に移行したのは、力を手にして何年頃じゃったかのぉ…そうじゃ、40年頃じゃったな。じゃが、それはもとの力が小僧よりも弱いからじゃ」
「そんなかかるのか。じゃあ俺は到底無理だな。まだ手にして、1年も経ってない」
「いや、小僧はそこまでかからない筈じゃ。言ったじゃろう。儂がそこまでの時が必要じゃったのは、元が弱かったからじゃ。しかし、小僧は違う。最初から十分な出力を備えておる」
「だから、時間はかからないって?」
「そうじゃ」
「…まぁ、その上位種とやらに俺がなれるかは置いといて、どうして俺にそれを教えたんだ?」
「…単なる気分じゃ」
「…そうか」
気分か。
にしても、その上位種というのにも気を付ける必要があるな。
もしこれからそんな奴らと戦うとなったとき、今の俺では勝ち筋がない可能性が高い。
いざというときは全力で逃げよう。
そう考えた。
そして、そこからは普通の生活を過ごした。
襲撃の当日。
早朝に俺は、皆に起こされる。
ん?なんかいつもよりも冷える?
まぁいいか。
今日来ることはわかっていても、何時ごろに来るかは把握できていないからだ。
すぐさま皆は用意をしてここから離れる。
「オマエ、チョウロウ、マモレ」
「おう、任せておけ」
ランサは俺の心配をしていないようだ。
まぁ、いいけど。
『では、長老。後で、必ず会いましょう』
『長老気を付けて』
『絶対に死なないでくださいね』
『ちゃんと少年を頼ってください』
皆がここの言語でいうが何を言っているのかはわからない。
それでもなんとなく分かるのは、爺さんを心配する言葉なんだろう。
それだけで、爺さんがどれだけ慕われているのかがわかる。
『皆も気をつけてな。…そうじゃ』
すると爺さんは、大樹の中に行き何かを持って戻ってきた。
風呂敷?
『これを皆に持っていてもらいたい』
風呂敷を開くとそこには、ネックレスや腕輪などのアクセサリーのようなものだ。
微かに『属性』を感じ取れるな。
ここの村民分あるな。
そして村民はそれらの好きなものをとっていく。
各々が身に着ける。
『それは…儂に何かが起きた際に反応を示すものだ』
なんて言っているかわからないが、爺さんの言葉で村民はみんな一瞬暗い顔をした。
その雰囲気からわかるのは、よくないことを言ったんだろう。
…何を言ったんだ?
『もし、それらが震えたら…儂は死んだと思ってほしい。そしてそれからは、皆協力して生きて行ってくれ。しかし、それが温かくなれば、儂らが勝利した証明。その際は、ここに戻りたいものは戻ってくるといい』
「???」
やっばい何もわからない。
しかし爺さんの言葉で、村民は固く決意した表情をして頷いた。
『さぁ、行け!』
爺さんがそう言うと、村民は皆走り出した。
おぉ、すげぇ。これがジャングルの中で過ごし続けた人間の身体能力なのか。
まるで忍者だな。俺も運動はできるほうだけどあそこまではいかない。
そういえば、ランサもあの8mの木をサラッと登っていたな。
「さてと…これで、よいか」
「なんて言ってたんだ?」
「気にせんでええよ」
そう言う爺さんの顔は少し寂しそうな顔をしていた。
そしてその表情からは、何かを覚悟する雰囲気も感じ取れた。
…なるほど。
俺はそこからなんとなく、爺さんの心情を察した。
案外頑固だ。
「それより…小僧、『属性探知』は使えるかの?」
『属性探知』か…俺はまだ使えないな。でも、俺には他のものがある。
「…できないけど、他のなら使える。『熱源探知』!」
ここに来たときと同じく、自然は温暖。
離れたところに、村民の皆が感じれる。
遠いな。もうあんな所まで行ったのか。
…ん?そこで俺はあることに気づいた。
以前よりも、『熱源探知』の範囲が広くなっている。
感覚的には半径500mくらいは把握できる。
「それを維持できるかの?」
「…あぁ。ずっとやっていたら、ちょっと疲れるかもしれないけどな」
「他の技が出来なくならない程度には、体力を残しておくようにな」
言われた通り、維持をするようにする。
あまり他のことに意識がいかないようにするために、動かずにいる。
目を閉じているので、赤と青の世界で見えているとはいえ少し怖いな。
もし、探知が出来ない地面から攻撃されそうなときに反応出来ないだろうからな。
「爺さんは何をしているんだ?」
地面に手を当て、固まっていたので聞いてみる。
「戦場と成りえるここに儂の力を注いでおる。無からも自然というのを出現させることが出来るとはいえ、既にある物を操る方ががエネルギー効率がいいのでな」
ちゃんと準備中といった感じか。
「………………………………………………」
来ないな。
起きてから、7時間。
太陽も頂点まで登り、周囲の気温はさらに上昇している。
「小僧、大丈夫か?」
「あぁ。そっちは?」
「老人を侮るでないぞ」
「大丈夫そうでよかったわ」
まだ元気そうでよかった。
互いに戦闘前にエネルギーを少し消費し続けているんだ。
相手が二人である以上、こちらもどちらかが欠けるとかなり不利だ。
「もう昼か…小僧、何か食うか?」
「なんかあるのか?」
「これじゃ」
「…おっ」
爺さんの手には、幼虫だ。
…最早、一切抵抗なくなっているな。
「こいつぁ、栄養が豊富じゃからな。戦闘前に英気を養うべきじゃ」
「ありがとう。爺さんは?」
「儂の分もあるぞ。彼等が取ってきてくれたんじゃよ。御馳走と言うように、そこまで手に入るようなものじゃない。それでもなんとか探してきてくれたのじゃよ」
「…そうか」
目を閉じ、動けないので口にいれてもらう。
最初は無理矢理だったのになぁ。
『熱源探知』の精度を上げていると、五感の殆どを停止させる。
それでも、この旨味はしっかりと感じれる。
「………ん?」
「どうした小僧」
『熱源探知』の範囲の端から感じ取れる色が、赤から橙、緑から青になっていく。
「来るぞ」
「了解じゃ」
『熱源探知』を解除し、爺さんは地面から手を離し立ち上がる。
冷えていく方向を二人で見据える。
奥の方に見える高木が、その相手に向かって蔓などで縛ろうと動く。
俺にやってきたのと同じように。
しかし瞬間的に凍結し、動きを封じられる。
その後に凍った樹木は、その巨体をゆっくりと横に倒していく。
これは…まさか…。
ほぼ確信できる存在が俺の記憶にある。
そして現れたのは…
「バルド殿、いくら暑いと言ってもここまでする必要はあるのかね?」
「我は高温は好まん。なぜ我をこの方へ向かわせたのか上に問いただしたいところだ」
「傭兵殿は不機嫌なことで…おや?」
姿を表したのは、バルドと久明だった。
「お前らか」
「…知り合いかの?」
「…まぁな」
これは厄介な相手が来やがった。
「ほう、上の指示に従い当たることもあるのだな。久しいな、世垓功次」
「よもや、ここまで早急に再戦が叶うとは天の導き。御覚悟」
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