第7話 対極的双子VS世垓功次

「行くよ、夜見やみ!」

「う、うん」

「くっ…」

そして『属性』を持つ双子との戦闘が始まった。


「夜見!お願い!」

「う、うん…『ロスト』」

日狩ひかりと呼ばれる少年の背後から夜見と呼ばれる少女が姿を消す。

「消えた!?どこ行きやがった!?」

「夜見はどこにでもいるよ。そして僕もね」

日狩も体を光の粒子に変え、姿を消す。

どうやって姿を消しているんだ…いくら『属性』と言えど、そこまで出来るのか?

「何処に行った………なっ!?」

周囲を見渡していると、両腕の感覚が急になくなった。

そこに目を向けると腕は謎の闇に包まれていた。

「くっそ、なんだよこれ!?」

なんとか動かして振り外そうとしているが、動きに合わせて闇は纏わりついてくる。

「くっそ…なら無理矢理吹き飛ばしてやる。『バースト』!」

爆発によって吹き飛ばそうとしたが、発動しない。

「はぁ!?なんでだ!」

いつもなら使えていた能力が使えなくなるとこういう状況で困るな。

「動けないね、お兄さん」

「っ!?」

背後から声がし、すぐに振り返る。

「どう?僕の妹の力は」

今度はさっき向いていた方から日狩の声が聞こえる。

…囲まれたか。

「なんともまぁ、厄介なことしてくれたな」

「お兄さんの妹…愁那だっけ?あの人も夜見の力に負けたんだよ」

「なんだと?」

あいつが負けた?

あのとき襲ってきた時点で、俺より強そうなあいつが?

「殺すことはしてないよ?安心してよ。でも、お兄さんはこれから死ぬんだけどね」

「…」

「案外弱かったね。皆が言うほどお兄さんを怖がる理由が分からなかったよ」

日狩の背後に光の粒子が集まり触手のようになっていく。

「じゃ、さよなら。『ライトニングスリル:トリプル』!」

3本の光の触手が俺に向かってくる。

「『炎脚』!」

全力で触手から逃げる。

腕が使えないなら足で行くしかない。

いつもの喧嘩で愁那は蹴りで来たんだ。

それに習っていくぞ!

「はっ!お前の触手なんざ遅いんだよ!」

「は、早い…」

触手を振り切って日狩に向かう。

「おい!逃げるな!」

日狩は再度体を粒子に変え、姿をくらます。

「…じゃあ、次、私」

「くっ…そこか!」

背後から聞こえた夜見の声を頼りに蹴りをいれる。

しかし空振りに終わる。

「どこ行きやがった…なっ!?」

今度は足元の感覚が薄れていくのを感じとりそこを見ると、地面から夜見の腕が生えて俺の足を掴んでいた。

「このっ放せ!」

もはや幽霊だよ、お前。

徐々に闇に沈み込んでいく足でなんとか抵抗するが、闇に飲まれた部位は感覚が失われる。

動かそうに動かせないし、『属性』も流すことが出来ない。

こりゃあ厄介だ。

「くっそ…」

この状況打開する策を考えるんだ…しかしそうこうしていると体は太もも、腰、肩まで沈んでいき首から上しか感覚がなくなってしまった。

「まずっ…」

そのままに頭も飲み込まれ、全身が闇に落ちる。

「やっばいな、これ」

感覚は全身に戻り、自由に動かせるようになる。『属性』も使える。

しかし視界には無限に広がる闇。

歩いても歩いても一向に景色が変わる気配はない。

「マジか…」

ずっと俺はこのままか?

正直一刻も早く抜け出さないと、何が起きるか分かったもんじゃない。

『属性』が使えるのなら、色々やってみるしかない。


「夜見、0はどうしてる?」

「私の…空間に」

「出てきそう?」

「暴れてるけど…無理…だよ?私の…中からは、誰も逃がさない」

「そっか。…母さんは元気?」

「うん…まだ寝てる」

「じゃあ大丈夫だね」


「くっそ…出れねぇ」

いままで使ってきた技を総動員しても何の変化もない。

『炎球』とかの中距離技はどこかへ飛んで行ってしまうし、『バースト』とかの爆発技でもただ衝撃波が起こるだけ。

どうやって出たもんかなぁ…永遠と歩いてみるか?

だけどそんなことをしたところで何も変わらない気がするんだよな。

もっと強力な影響力を及ぼせば何とかなるか?それは脳筋すぎるな。

「…『熱源探知』」

真っ暗で何も見えない中、視界に頼らず周囲の状況を確認できる技を使ってみる。

しかし永遠と平らな空間…ん?ところどころに熱源反応がある。

しかもこれは…人間か?

倒れているな。でも、なんでこんなところに…。

「おい、大丈夫か?」

近くの奴に近づいてみる。

女性か。意識はないみたいだ。

息はあるな…脈も乱れていない。

死んじゃいないようだが、こんな状況で寝ている精神が分からん。

こいつも『属性』を持っているから、こんな精神力になっているとしか考えられんな。

「…ん?」

役に立ちそうにないから、他に寝ている奴のもとに向かおうとしたとき、女が起きた。

「起きたか。この状況について…」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「うわっ…」

起きたかと思ったら、すぐに土下座をして謝罪し始めた。

一体何が起きているんだ…なんか、怖いぞ。

「ど、どうしたんだよ?何を謝っているんだ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「…聞いちゃいないな」

とりあえず放置して他の奴の方に向かう。

その間もずっと後ろからごめんなさいの連呼が聞こえてくるもんだから、なんかのホラー映画か何かかと思った。

「おい、大丈夫か?…うっわ」

今度は男性だ。しかし息絶えている。

腹部に大きな穴が開いている。これで生きていたらもはやゾンビだ。

にしても普通に出来る怪我の次元は超えているな。多分こんなことが出来るのは『属性』位だろう。

…傷跡が光っている…?

「次は、っと」

また移動して、今度は二人並んで倒れている。

婆さんと爺さん。しかし両方とも死んでいる。

でも、こいつらはさっきの男みたいに殺されたという雰囲気は感じない。

体力切れか寿命かそれとも空腹か。

老人とはいえ、もはや骸骨のように瘦せ細っている。

「一体ここで何が…」

だが、今の俺にそれを知る事は出来ない。

ここはあの双子の空間。

永遠と謝罪をする狂気、普通じゃない死に方をする奴ら。

そんなのがいる空間に閉じ込められ続けるのはまっぴらごめんだ。

こいつらが役に立たないのなら、自力でどうにかするしかない。

頼むぞ。俺の『火属性』。


「…お母さんが、起きた」

「どうしてる?」

「…謝ってる」

「ふーん。そっか」

「出す?」

「駄目」

「…分かった」


「おらぁ、もういっちょ!『バースト』!」

結局さっきの状態に元通り。とにかく今使える技を発動しまくる。

この状況で一番威力があるのは、『バースト』か『生成:ランチャー』だ。

本来だったら『イラプション』が一番強いんだけど、今は使えない。

この空間、足は確かに地についている感覚があるのに腕がめり込むという感じはしない。

いや、腕は足よりも下の座標まで行けてしまうせいで、地面を爆破する『イラプション』が使えない。

「もっと強い技を…」

だが、今の俺に何か出来るか?

もっと火で強いのを、爆発で強いのを…………………よし。

そこで一つだけ思いついたので、やってみることにした。


「被検体0の気配は?」

「未だ確認できず。おそらく対極的双子による閉鎖空間に閉じ込められているのだと思われます」

「ふーむ。やはり被検体0は想定よりも弱かったのか?」

「…確かに対極的双子の力は現状の中でも飛び抜けています。しかし実質値で言えば、被検体0の方が高いです」

「しかし、強制増化剤にも反応が見られず、今も対極的双子に追い込まれている。『理性の欠落』がありながら、自身の『属性』を扱わない時点で何か異常が…」

「状況変化、対極的双子・夜見に変化見られる」


「さぁ、行くぞ!『炎鎧えんがい』!」

数少ない、俺の防御手段である『炎鎧』を発動する。

全身を『火属性』が包む。

「まだまだ!エネルギーを込めろ!」

体の奥底にある、いつも無意識的に使っていた『属性』を意識的に引き出し、『炎鎧』の出力を上げていく。

「はぁ…はぁ…く、苦しい。…でも、こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ!」


「あ、熱い…熱いよ…お兄ちゃん」

「ど、どうしたの!?大丈夫!?」

「0が…0が出てくる…」


「『スーパーノヴァ』!」


「うぅ…ウアァァァッ!」


全身に纏っていた『炎鎧』を全力で外に弾き出す。

その時に『バースト』とは比べ物にならない爆発と衝撃が夜見の空間を埋め尽くし、闇が消し飛んだ。

「お、出れた」

目を開けると、夜見の背後に立っていた。

その前には日狩もいる。

「0!?」

「だから…俺は世垓功次だ!」

「きゃぁっ!」

「うぐっ!」

勢いに任せて、夜見の背に蹴りをいれる。

その前にいた日狩も巻き込まれ吹き飛ぶ。

「次は…俺のターンだ」

「夜見、だ、大丈夫!?」

「う、うん。お兄ちゃん。でも…私の空間から出てくるなんて…」

二人は立ち上がり俺の方に向き直す。

「おい…0。僕の妹をいじめるなよ」

「あぁ?先に来たんはお前らだろ。生憎と俺はやられてやり返さない聖人君子じゃないんだ。もし、喧嘩を売ってきたんなら、たとえ子供だろうが老人だろうが災害だろうが神だろうが相手になってやる」

双方の息が整い、構える。

日狩は先程よりも殺気を放ち、夜見は先程よりもおどおどしている。

「『生成:ソード』『炎脚』!」

「『ライトニングスリル:インフィニティ』!」

「『ナイトメア』…」

剣を作り、足を炎で強化する。

日狩はそこらじゅうから光の触手を生やし俺に向ける。

夜見はこの空間を闇で覆い、闇の中に潜る。

…夜見は今度は何をしてくるんだ。

少なからずこの戦闘実験場すべてが『属性』の闇に覆われている以上、ここは二人の舞台だ。

そして日狩の触手。さっき閉じ込められたあの空間にあった男の死体。

あれはきっと日狩の仕業だ。

『属性』を持っていようが無かろうが、体はただの人間であることに違いはない。

ということは、だ。

あの触手が直撃すれば俺という名の死体がもう一つ並ぶことになる。

「行くぞ!」

俺は日狩に向かって走り出す。

触手が4本、俺に向けられる。

「はぁっ!」

3本を『ソード』で斬る。しかし1本取り逃がした。

「っぶねぇ!」

完全には避け切れず頬を掠る。

愁那の銃弾の時と同じように血が垂れてくるので殺傷力は予想通りだ。

しかしこの触手、消し飛ばしたのは再生しないみたいだな…斬っても斬っても意味が無いより数が多いだけと考えればマシか。

「まだまだ行くよ!」

日狩の動きに合わせて触手が向かってくる。

「あぁもう!めんどくせぇな!もう一本『生成:ソード』!」

空いているもう片方でソードを持つ。

これで二刀流だ。

「はぁっ!そりゃ!」

一本では無理でも二本なら近づくこともできる。

「まずっ…」

「斬る!」

徐々に迫る触手を切り捨てながら日狩に近づき、ソードの間合いに入る。

まずは一人。そう思った直後、日狩が両手を合わす。

「『フラッシュ』!」

「うぐっ…」

その手の隙間から眩い閃光が発せられる。

「いや、そのまま!…何!?」

目が見えなくても、間合いに入っている以上振れば斬れる。

そう思ったが、斬った感触はなかった。

「危ない危ない。夜見を残して死ねないからね」

「くっ!」

目が眩んで見えないが、背後から声が聞こえる。

だから急いでその場を離れる。

そして目を開けると、俺より一回り大きな光球が先程いた場所に出来ていた。

…なんだあれ?

「『サンブレイク』!行ってらっしゃい、みんな!」

「何が………っ!?『炎鎧』!」

光球が爆発し数えきれないほどの小さな光球に分裂する。

「あだだだだだだだ…」

『炎鎧』を発動していても、衝撃で全身が痛い。

…全て耐えきると、衝撃が収まる。それでもジンジンとするが。

「お兄さんも疲れたんじゃない!?まだまだ行くよ!」

「くっ…またかよっ」

まだまだ残っている触手が迫ってくる。

しかし奴の言う通り先程の光球の衝撃で体にガタがき始めている。

「っぶねぇ!」

正直避けるのに精一杯だ。

「くっ…ホーミングが厄介すぎるな」

斬り落とせなかった触手は通り過ぎた後に方向転換をし、再度向かってくる。

これがとにかく厄介だ。

というか、夜見はどこに行った?

闇の中に潜ってからどこにも姿を表さないが。

「まぁ、いい。警戒しておけば…」

「…捕まえた」

「なっ!?」

先程と同じ様に地面から夜見が現れる。

「次は…逃がさない」

「次は捕まらねぇよ!『ブースト』!」

足が少し闇の中に飲まれている以上腕で何とかするしかない。

手から炎を噴射し逃げようとするがまだ拮抗するだけ。

疲労のせいか、いつもと同じ感じで発動しても出力が落ちている。

「くっそ、吸引力強すぎんだよ!」

そうこうしている内に日狩の触手も迫ってくる。

マズいな…。

「出力上昇!」

無理やり『ブースト』の推進力を上げる。

「う…あ、熱い…」

出力を上げたことにより、炎が夜見の腕まで届く。

そのおかげで夜見の腕が俺の足から外れた。

天井近くまで逃げて触手を避けてから先程立っていたところを見てみると、夜見は再度潜っていった。

「次はどこに…あがっ!?」

今度は天井から夜見が姿を現し俺の頭部を掴む。

「くっそ…放せ!」

「放さない」

見た目の割りに力が強い。

次はどうする…。

「夜見!逃がさないでよ!」

「任せて…」

「やっば…」

地面からも四方の壁からも無数の触手が迫ってくる。

「おうらっ!」

「効かない…よ」

ソードで腕を斬ろうとするが突如現れた闇に防がれる。

その間も触手は迫ってくる。

「まっず…『生成:ハンドガン・2丁』!」

ソードを解除しハンドガンに持ち替える。

迫る触手を撃ち落としていくが、限界がある。

もうヤバイと思ったそのとき、建物が強く揺れた。

「きゃあっ!」

「うわっ!」

「のあっ…放せとは言ったがいきなり放すな!『ブースト』!」

揺れの衝撃で日狩は倒れ、夜見は俺を放した。

突然放されたものだから落下してしまうのを防ぐのに、少し遅れた。

「…一体何が起きてんだ?地震じゃあるまいし」


その頃、上空では。

『主を返しなさい!』

フェニックスは『属性』の塊の体で体当たりを繰り返す。

炎で実態を持たない体が弾かれるのは、この建物が『属性』の膜を張っているからだ。

『固いですね…ただの建物ではないのは確実』

主の属性が微かに感知できたので、向かってくると明らかに複数の『属性』がいることに気づいた。

考えて考えてどういった方法で助けるか…しかし、主の膨大な『属性』を感じ取れた。

『カァァァッ…ハァッ!』

体を構成する『属性』のエネルギーを消費して、火球を放つ。

建物に直撃すると爆発を起こすが、大したダメージは見られない。

『待っててください!今すぐに!』


『警戒。『属性』による攻撃発生。戦闘員は直ちに戦闘態勢に入れ』

「『属性』の攻撃?俺以外の奴が暴れたりしてるのか?」

アナウンスの声からはそう思えるが…。

「うぅ…な、何が…」

何とか日狩はなんとか立ち上がり、夜見は目が回ったようにふらふらとしている。

あの闇はこの建物に張り付くように設置されている…と思う。

だから建物が揺れたことの影響を受けたんだろう。

「ふっ…俺はお前らよりか、ちと長く生きてるんでな。地震の経験は…」

まだ続く揺れにぶれることなく、両手にエネルギーを流しバスケットボール位の火球を生み出す。

「充分あるんだよ!『火炎クラスター』!」

今使えるエネルギーの半分を凝縮し、上に投げ飛ばす。

「何…あれ?」

「こ、怖いよ…お兄ちゃん」

俺の行動に二人が警戒する。

…そろそろだな。

「じゃあな」

天井近くまで火球が辿り着いたとき、指を鳴らす。

すると上で大爆発が起き、周囲に炎弾が拡散する。

これはついさっき思いついた技だ。…日狩のを参考にしてだが。

ぶっつけ本番でやったが、うまいこといけるものだな。

「うわぁっ!」

「お兄ちゃん!」

二人は拡散された炎弾の雨に降られる。

俺の元にも降っては来るが何の影響もない。自分の『属性』でダメージを負わなくて良かった。

俺でも流石にあんなん避けれっこない。

「…よし!」

爆発で闇が吹き飛ばされ、天井にヒビが入る。

多分ここは『属性』の戦闘実験用に使われる以上元から堅いんだろうが、あそこまで凝縮された爆発には耐えきれなかったようだな。

「これならいける!ぶち壊せ!『炎拳』『バースト』!」

ヒビの入った場所に向かって、拳を向ける。


『くっ!邪魔くさい!』

主を救い出すため建物に攻撃をしていると、複数の人間が出てきた。

そしてその中には主が以前戦闘をしたバルド・ダンガがいる。

「まるで炎のソデグロヅル。凶暴な事だ」

そしてもう一人。

バルド・ダンガと同等の戦闘力を持つ輩がかなり厄介だ。

空中にいる私の元まで瞬間的に台座を生成し、懐まで飛び込もうとしてくる。

いくら『固系属性』とはいえ、至近距離まで来るとは命知らずか。

「話しておる場合か、ダンガ殿。この不死鳥、おそらく被検体0と関係がある。ゆめゆめ油断するでない」

「こんなところで我が死ぬわけなかろう。それより久明、貴様が戦闘するところは初見だが…かなりやるようだな」

人間二人は話しながらも、私を建物から離していく。

やはり私では力不足か…申し訳ありません、主。

「不死鳥よ、隙であるぞ!」

『何っ…』

バルド・ダンガの攻撃を避けていると、上空から落ちてきた久明と呼ばれる男に刀を振り下ろされ、右翼を切り落とされてしまう。

『…っ、いや、まだだ!』

片翼を失い、撃墜されるだけでは主に造ってもらったのに役立たずで終わってしまう。

そこで終わるわけには行かない。

『爆散!』

「ぬっ!?」

切り落とされた右翼を爆発させる。

その衝撃に身を任せ、なんとか建物の上に着地する。

久明も『属性』で壁を作り防いだようだが、距離は取れた。

『しかし…このままでは…』

かなりの『属性』を消費してしまった。このままでは体の維持も出来なくなる。

「『火炎クラスター』!」

『主…?』

建物から主の声と爆発音が聞こえる。そしてヒビが入っていることにも気づいた。

やはり…ここに…。

「『属性』から成る生物は、なかなか厄介なものであるな」

金属の足場を生成しながら、動けない私の元まで久明が歩み寄る。

「貴重なサンプル故、口惜しいが…御覚悟」

『くっ…』

久明は刀を私の首元に振り落とせるように構える。

ここまでか…。その時だった。

「おぉぉぉらぁぁぁっ!」

先程ヒビが入っていた場所が粉砕され、主が飛び出す。

『主!』

「お、フェニックス。お前か」


全力で殴ると、天井が粉砕され出ることが出来た。

そして昨日ぶりの声が聞こえる。俺が生成したフェニックスだ。

親の警護を任せていたが、なんでここにいるんだ?

まぁ、多分俺の事を助けてやれと母さん辺りが言ったんだろう。

そしてあのフェニックスの近くにいる明らかに『和』みたいな男は何だ?

ただの刀で『属性』から出来ている存在を斬れるわけない。

っていうことは、あの刀は『属性』で出来ているということか。

でも、たかだか刀一本で飛んでいるフェニックスが負けるなんてことがあるのか?翼も切り落とされているし。

「今助ける!『ロケットパンチ』!」

『炎拳』状態である時にこれは使えるので、そのまま拳を和男に向けて発射する。

「やはり『気系属性』。一度退かせていただく」

着弾直前で和男が研究所から飛び降りる。

だが、遅い!そのタイミングじゃ、爆発範囲からは逃げられんぞ!

「吹き飛べ!」

「それくらいは拙者とて防ぐぞよ」

和男の刀が即座に変形し、鉄壁になる。

「ふむ。この程度の硬度では粉砕されるか」

仕留めきれなかったが、とりあえず距離は取れた。

「フェニックス!大丈夫か?」

『主、申し訳ございません。遅れました』

「いい、いい。むしろ助かった。お前が来てくれたお陰でこっちもまだ生きているからな。今すぐ治してやる」

フェニックスの体に『属性』を流し込み、翼を再生する。

「大丈夫か?」

『助かりました。して、これからどうするので?』

「そうだなー」

戦闘実験場は未だに『火炎クラスター』による爆煙が立ち込めている。

だからバックを日狩と夜見が襲って来ることはないはずだ。

なら前をどう突破するかだよな。

「どれどれ…っ!」

端まで行き、下を確認すると氷柱が飛んでくるのでなんとか避ける。

「ちっ、外したか。おい!世垓功次!下りて私と戦え!」

「うっわぁ…こりゃ、フェニックスが追い詰められるのも理解できる」

その声はバルドだ。あいつはかなり強かった。

流石に手練れの『属性者』二人相手はキツいぞ。

…逃げるか。

『了解致しました』

俺の考えを読んだフェニックスが腰を下ろし、背に乗るように勧める。

俺もそれに同意して背に乗る。

…実体がないのに、なんで俺はこいつの背に乗れてんだ?

まぁ、今更か。

「飛んで逃げるぞ。追撃は俺が払う」

『了解致しました』

フェニックスは大きく翼を羽ばたかせ飛び立つ。

おぉ、これが自力ではなく何かに乗って飛ぶという感覚なのか。

「また会おう!」

すぐさまこの場を離れるが、謎の金属音が徐々に近づいてくる。

「待たれよ!ここで相まみえるのも天の定め。拙者と一太刀交わえ!」

「いやいや、そんなのありかよ!?フェニックス!もっと飛ばせ!」

和男は金属の板を足元に出現させては、それを踏み台にしてこちらに迫ってくる。

なんで飛ぶ鳥に自力の足で追いつけるんだよ。

「くっ、逃げきれんか。『生成:ソード』!」

「せいやっ!」

刀と剣が交わる。

『属性』からお互い成るので、激しくエネルギーが散らされる。

俺も全力で押し返そうとするが、高所から来た相手の方が強い。

「お主の方が『属性』の出力は上のようだが、腕は拙者の方が上と思われるな」

「何を…くっ…」

くっそ、徐々に押し込まれてきた。

このままじゃソードが破壊される。

「なら、これでどうだ!『炎球』!」

余裕がないため1個しか作れなかったが、吹き飛ばすだけなら十分だ。

「離れろ!」

「なぬっ」

出現させてからすぐに爆破する。衝撃で和男は吹き飛ぶ。

「拙者の名は久明金盛!いずれ真剣勝負が出来ることを待ち望もう!」

そう言い残して久明という和男は落ちていった。

「ふぅ…危なかった。フェニックス、大丈夫か?」

『いえ…それどころではなくなりました』

「は?」

とりあえず距離も取れ、一段落着いたと思ったがフェニックスのその言葉に俺はまだ終わっていないことを察する。

「一体どういうことだ」

『申し訳ございません。ある者に捕捉されています』

「誰だそれは。バルドか?」

『…主の妹君、愁那です』

「なんだと…」

俺は離れていく研究所の方に目を向けると、とんでもない『属性』の衝撃波が周囲一帯を破壊した。

それと同時にこちら目掛けて2発の水弾が向かってくる。

「避けろ!」

俺は咄嗟に叫んだ。


「連装主砲、チャージ。距離1万m」

「貴様は…世垓の妹の…。ここは貴様の呼ぶところではない」

逃げる功次の追撃に久明が向かって少しした頃、射程外となりその様子を見ていたバルドの横に一人の少女が立つ。

「…ここから離れろ」

バルドの忠告に愁那は忠告で返す。

「貴様っ…っ!?」

バルドは愁那の態度に苛立つが、その手に構えられた『属性』の砲塔に込められたエネルギーを感じ取ったバルドは急いでその場を離れる。

「そのエネルギー、どこから…『展開ラズバーティーバニー』!」

バルドは両手を広げ自身の所属する研究所全体に氷でドームを造り覆う。

「チャージ完了」

砲身の先端に2発の直径35.6cm水弾が生成される。

「構え…属性圧縮弾発射」

愁那の言葉と同時に、2発の水弾が発射される。

そしてその衝撃により周囲の木々は粉砕される。

「くっ…」

バルドもドームの維持に苦悶の表情を見せる。

「これが…功次の妹の力。奴の潜在能力は計り知れないが、これもこれで大概だ。…恐ろしい兄妹だ」


『避けきれません!お逃げください!』

「あっ…くっそ、すまねぇ!」

フェニックスは俺を振り落とす。

咄嗟のことに驚いたが、空中で向きを変えフェニックスを見ると胴体を水弾が貫いていた。

そしてフェニックスは周囲に微量な熱を放出し、霧散した。

多分まだ来るはずだ。何とか逃げなければ…。

「『バースト』!からの『ブースト』!」


「次弾装填完了。距離1万1000m」

「…あれをもう一度。恐ろしい娘だ。我とてあと一度で限界だ」

「構え…」

「お構いなしか」


なんとか『ブースト』で距離を取ろうとするが、フェニックスでも無理だったモノをそれより遅い『ブースト』で逃げきれるわけない。

「ヤバイヤバイヤバイ!」

分かる。見なくとも分かる。

遥か後ろでさっきと同じくらいのエネルギーが集まっているのが。

「妹に殺されるなんて笑えねぇよ!」


「発射」


「俺は死なねぇ!出力全開!『フルバースト』!!!」

今持てる力を全て使って全力の『バースト』を発動する。

その瞬間、体のすれすれを巨大な水弾が通り過ぎる。

しかし『フルブースト』の衝撃波は遠い地上にも到達し、大量の建物を吹き飛ばす。

俺は俺で一切の制御もしないで使ったものだから、吹き飛んだ体に当たる風圧で気を失う。

そのまま慣性に身を任せ遥か遥か遠くまで飛んだ。


「くっ…なぁっ!?」

バルドはなんとか愁那の砲撃に耐えたと思ったも束の間、それを上回る衝撃波に襲われドームが消失する。

「うっがぁ…」

衝撃波に直接晒された愁那はそのまま研究所に叩き付けられ、意識を失う。

「あの爆炎…奴が!?」

バルドは未だ消えない炎の塊を凝視し叫ぶ。

「ふぃー、危ない危ない。よもや拙者の身、此の世のモノ成らざる所であった」

「貴様、生きていたのか」

袴などの全身がボロボロになりながらも、なんとか戻ってきた久明。

「もっと嬉しそうにしてもらえぬものかね。にしても…」

振り返り、背後に広がる惨状を確認する。

「殺すつもりはなかったとはいえ、弾き返された後の衝撃波の対応には流石に死を覚悟した。ましてや飛び散る瓦礫の山々。拙者の『属性』が丈夫な『金属』でなければどうなっていたことやら」

「まだ良かったものだ。あそこも戦闘実験場の範囲内のため居住者は存在しない。もし通常の環境であれば、既に何千という死者が出ている」

「ダンガ殿にも他者をおもんばかる心があろうとは…」

「馬鹿にしているのか」

「いやいや、とてもそんなことは」

「…我とて人の心を捨てたわけではない。たとえ…どんな経験をしようとも、未知の『属性』に振り回されようと、人であることに変わりはない以上、捨てきれないものはある」

しみじみと語るバルドに久明は静かに頷く。

しかしその雰囲気を壊すように、研究所の方から激しく警報が鳴る。

「次は何事だ!?」「なんぞ!?」

『外界の侵入を確認。総員、直ちに対処せよ』

「チッ、次から次へと…」

バルドはかなり苛立ちを見せながら現場に走り出す。

「ふーむ。謎であるな。この空間は『属性』により空間が歪められており、一部の者のみ立ち入りが許されているはずだが…」

先を行くバルドの背を見ながら、久明は考える。

そして消えつつある炎の塊を見てはっとする。

「まさか、彼が?…まぁ、良いか。与えられた任務を成さねばな。…着替えをもらいたいところだ」

そうして久明も金属の足場を生成しながら現場へと向かった。


「被検体0がまだ推測の域を出ない上位種への移行も希望が見えてきましたね」

功次の起こした爆発を見ながら、女は言う。

「…そうだな」

男は、吹き飛びこの空間から去る功次を目で追いながら答える。

「しかし0はもとを言えばただ一般人。対して経験もないなか、あのような実力を手にするのは何故でしょうか?」

女は疑問を呈す。

「…この世の全てに意味があるとは思わない方がいい。時には天の気まぐれによる結果も生じるものだ」

男はそう返す。

「…いずれ天を操るのは我々だ」


「おい、こんなところ地図にないぞ」

地図を広げ、一人の男が言う。

「建物はあるが人の姿は見当たらない。変な光景だ」

もう一人の男もその異様な空間にそう言葉をこぼす。

「上からの指示で火の鳥を追ってきたが、当たりみたいだ」

「ここは何らかの力で空間が歪められていた。ただそれも何らかの力で崩壊した…といったところだろう」

「俺らは一応偵察のために来たからな。もう少し様子を見て回ろう」

そうして二人の男が歩き始める。すると…

「貴様らだな。侵入者というのは」

「うわぁ!」

背後にバルドが立つ。

「『属性』の反応無し。任務ゆえ斬り捨てさせて頂く」

そして久明も二人の前に立つ。

「に、逃げろ!」

二人は蜘蛛の子を散らすように走り出す。

「逃がすか。『凍結』」

斬捨御免きりすてごめん

バルドは一人を瞬間凍結し、もう一人を久明は首を斬り飛ばす。

「後始末は下の者にやらせればよいだろう。それより…」

久明が斬り殺した男が持っていたリモコンのようなものを手に取り、バルドは二人が来た方向を見る。

それに合わせて久明もそちらを見る。

「ダンガ殿も感じ取ったか。大勢の者がこちらに向かってくることを」

「あぁ。おそらく攻めてくるものだ」

「『属性』の気配は無い故、拙者等で対応できると思われるが…」

「援護は必要ない。すぐに終わらせる」

バルドの言葉と同時に、戦闘ヘリ、戦車、武装した人間が侵入してくる。

「これより掃討戦を始める」

「これ以上衣服が破れないことを願おう」

バルドは冷気を発し、久明は刀を生成し構えた。

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