第5話 帰宅からの最悪の敵
『80m先、右折です』
「やかましいわ。こちらとら飛んでんだから直進だよ」
スマホのナビの指示に意味はないがツッコむ。
今は
まさか自宅から約300kmも離れてるとは…あそこに行くまで車で5時間は揺られていたからこそ予想はしていたが、流石に遠すぎるな。
『ブースト』もいつまで持つかは分からない。
エネルギーの限界値を実感していないからこそ、不安だ。
突然『属性』を使えなくなって、地面に真っ逆さまとなってはおしまいだ。
まぁ、今のところそんな気配はないのでいいが。
それよりもこの飛んでいる間はかなり暇なので、東砂からもらった『属性』についての研究資料を読み漁っている。
「…なーる」
俺が知らないことが多く書いてあって興味深い。
読み進めていくうちに、改めて『属性』というのはファンタジーの具現化みたいなもんだ。
とりあえず、面白そうだったり、重要そうな情報をピックアップしてみる。
・『属性』とは
前提として『属性』というのは未だ未知の力である。
人間のモノとは考えられない現象を起こす・自然を操ることを我々はそう呼んでいる。
発現の原因は多種多様だが、最も多いのは『死』を経験する、またそれに準ずる経験をすること。そしてその時に、強い望みを持つことがカギとなると予測している。
例:私の戦争砲撃、世垓功次の暴行事件、~の衝突事故、~兄妹の虐待事件など
そして発現後、次第に『理性の欠落』が進行していく。
…俺以外の『属性者』がどのようにしてこれを手に入れたのかが書いてある。
皆、かなりの経験をしているっぽいな。
まぁ、それくらいしないとこんな強力な力は手に入らないと考えると妥当か。
・『理性の欠落』とは
これは『属性』を発現したものに強制的に
その内容は『属性』を得る際の望みに関連する。
これにより命を失うことは現状ないが、日常生活において支障をきたす可能性が大いにある。
…俺の場合はまだそこまでの影響を感じないが、日常生活に支障が出るんなら困ったもんだな。
俺の望みは普通の生活をすることだ。
・『属性』の覚醒とは
何かしらのきっかけを経て『属性』を発現してからしばらく経つ、または短時間の急激な酷使、これらの条件を達成せし時、『属性』は覚醒を果たす。
その際に強烈な苦痛が生じるが、この間は身体の基本習慣が全て停止する。例:飲食・睡眠・排泄など
覚醒後は『属性』の出力ともに汎用性の増加、エネルギー消費量の減少が見られる。
しかしそれと同時に『理性の欠落』の進行も早くなるという欠点も見つかっている。
・現状確認されている『属性』一覧(発見順)
石、電気、草、風、氷、火、光・闇、原子、水
…風とかは分かるけど、なんだよ『原子』って。
他に比べて何をしてくるか全く予想出来ない。
だからこそ、もしも相手にすることになれば怖い。
『光』『闇』…か。
ゲームとかだとかなり強かったりするけど、『属性』の場合はどうなんだろうか。
というかこの資料だと同時発見っぽいな。
…そんなことあんのか?
後はこの『水』だな。
この資料の表記から今のところ最新の『属性』っぽいな。
バルド戦で分かったのは『属性』にも相性というのがあるということだ。
そうなってくると俺からしたらこの『水』の『属性者』と戦うことになれば、かなり不利だ。
…出来れば相手したくないものだな。
・『気系属性』と『固系属性』
『属性』は大きくこの二つに分けられる。
『気系属性』は気体状や形を持たないエネルギー体が主体とする『属性』の総称。
例:電気、風、火、光、闇、原子、水
現状『属性』のほとんどがこちらに含まれている。
これは『
『固系属性』は固体や形がある物を主体とする『属性』の総称。
例:石、草、氷
『
…これか。バルドが戦闘中に言っていた俺が『気系属性』っていうは。
だから俺が『生成』でソードやらショットガンやらを作っていたのに関心を持っていたのか。
東砂やバルドは『固系属性』か。今のところ会った『属性者』が少ない『固系属性』っていうのも運がいいのか?
にしても『気系属性』が形を作ったり維持するのが難しいって書いてあるけど俺は結構普通にやってるな。
別に難しいとかは感じてない。ただイメージしたように『属性』を形作っているだけだ。
ちゃんとした機構とかは知らないしな。
・『属性』のエネルギー源
この超次元的な力の源は『属性』のエネルギー放出の流れから推測が可能だ。
まず『属性』を発現した者には通常の人間には存在しなかった器官が生成される。
こちらは『属性者』をレントゲンにより観察した結果発見した。
もちろん私や世垓功次にも存在する。
場所でいうとビー玉サイズの塊が心臓の内部、利き手側の
私では
そしてこの器官は人や『属性』による個体差は左程無いと見られる。
強いて言うなれば彩色位だ。例:『石』は黄土色、『火』は赤。
…え?俺の体の中に訳の分からん器官があんの?
え、怖っ。
全く違和感なく生きているけども、心臓の中にあるの?
そんな物の存在を感知出来ないままずっと『属性』を使ってきたのかよ。
・『属性』の外部付与
『属性』はある程度の練度やコツがあると、通常の物にその力を付与することが可能だ。流石に本人のものと比べると弱体化することに違いはないが、兵器に付与することで並の人間でも『属性者』に対抗できるようになる。
…バルド達が襲撃してきたときに使っていた武器はこれか。
まぁ、これに関しては俺が何かに付与することはないだろうな。
なんかの組織とかを結成しない限りは。
・『属性』の出力に関する考察
現状数人の『属性』を比較をしてきたが、その中で異常な出力に達した『火属性』の世垓功次。
私や他の者と彼の違いについて比較した際、いくつかあることが分かった。
一つ、純粋な潜在能力の差
当然だが、彼に関しては格別だ。
この潜在能力の差異に関しては未だ謎の部分が多いが、私の憶測では『理性の欠落』にも起因するものと考える。
潜在能力の規模は『属性』の発現から覚醒時の苦痛量によって変化する。
そしてこの規模には発現時の望みも関係してくると踏んでいる。
二つ、『属性』使用時の発声
彼だけに当てはある特徴と言えば、『属性』を扱う際に発する技名であろう。
これも出力に差異がある原因と考えるのもおかしくはない。
実際に彼が覚醒途中、私自身も『属性』の使用の際に技名を発するという事をしてみたが、確かに石柱の強度共に耐久値の上昇が見られた。
ここには仮説として技名を発することで『属性』の使用の際のイメージが結びやすくなるために出力の上昇として現れるのではないかとする。
しかしながらこのような事を思い付くことはあまりないため、今回の発見は新たな知見としては面白いものと言える。
…あの声は別にそんなことを意識してたわけじゃないんだよな。
元々はああいうのを言ったらちょっとカッコイイんじゃないかと思っていたんだが、結果的により強く戦う事が出来たおかげで襲撃もバルド戦も乗り切れたんだと考えたら、この中二病的なものには感謝しなきゃな。
・『属性』の新たなる力
ここまでいくつか未知の能力『属性』についての情報を提示したが、これらは『属性』の一部分ではないかと考える。
『属性』には個々により大きな違いを持ちうる。
そして既存の『属性』の限界を超えていく存在が現れ始めた。
これから世界は『属性』を中心に回り始めるだろう。
…現れ始めた…?
もしかして俺並に『属性』を使うような奴が他にいるっていう書き口だな。
戦うなんてことにはなりたくないなぁ。
これで気になるところは一通り見たか。
そんなこんなして久々の自宅を見えてきた。
『目的地周辺です』
「分かってらい。見えとるよ」
またナビにツッコミをいれる。
こんなふうに独り言を言っていかないとちょっと寂しい。
時刻・17:00
「ん?」
自宅上空周辺に来ると、車がたくさん止まっていた。
前に学校からマスコミを避けて帰ってきた時と状況は似ているな。
…あいつらの者ではないな。普通に見たことがあるような奴だ。
カメラやらメモを持った奴らがいる…マスコミだろうな。
ちっ…家を特定してここまで来るとはモラルのない奴らだ。
実に不快。
「よっと…」
ゆっくりと家の前に着地する。
突然本人登場に記者共は唖然とするが、すぐに切り替えて俺に詰め寄ろうとする。
ちょっくら痛い目に遭ってもらおう。
「
手のひらから炎を出しながら威圧的に話しかける。
されど答えはこない。
「そうか…それが貴様らの答えなら…」
天に腕を上げ叫ぶ。
「『生成:アサルト』!」
アサルトライフルを『属性』で作り出す。
「俺は本気だ。死にたくなかったら今すぐ散るんだな」
それでも動く気配がないので、俺は記者共の足元に向けて炎弾を撃つ。着弾するとアスファルトは黒く焦げ付いた。
「気付いていないのか?…貴様ら、死地に立っているんだよ」
そしてようやく状況、俺の様子を知ったのか蜘蛛の子散らすようにこの場を去った。
…これだからなぁ。しかしこんな状況で定期的に生存報告をしていたとはいえ、半年間家には我関せずの状態だったから迷惑をかけただろうな。
謝ろう。
「ただいま~?」
ポケットからカギを取り出して、玄関のドアを開ける。
するとすぐにリビングの方からどたばたという音が聞こえてきた。
「功次、おかえり」
「…ただいま」
母さんと父さんが出迎えてくれた。
…そこで俺の体からふっと力が抜ける。
「あぇ…?」
「大丈夫!?」
すぐに二人が支えてくれる。
「…なんか力が抜けた」
「安心したんじゃない?しばらくぶりの家だから」
「…かもな」
俺は何とか足に力を入れ自立する。
やはり、あの研究所で再現された俺の部屋では心が完全に休まる訳ではなかったようだ。
まぁ、どうしてもここは家ではないという考えがあるからな。
あいつらの言う俺の環境を同じにするということは失敗したっぽいな。
「…そうだ。愁那は?」
俺は未だに顔を見せることない妹のことを聞いてみる。
すると二人は何とも言えない表情をする。
…どういうことだ?
「…何だって!?あいつが俺と同じで『属性』を!?」
一リビングで落ち着いて話をしてみると、衝撃の事実を話された。
まさか、愁那までも『属性』を手にしたなんて…。
あの資料からすると…あいつも俺と同じで死ぬような経験をしたということか?
俺は東砂からもらった資料を二人に見せる。
そして納得したような顔をする。
どうやらあいつは俺が原因でいじめに近い状況に立たされていたようだ。
そしてある時、友達を守るために自分が出た結果、『属性』を手にする条件が果たされ、それを使い相手を皆窒息させたらしい。
そこに一切の感情はなく、ただ敵を消したという当然だと思うだけだったようだ。
…俺が原因で…か。
そこに気付いたとき俺はとんでもない罪悪感に襲われる。
確かにそうだ。世間から見れば俺は化物以外の何者でもない。
そんな奴の妹だとすると、それ相応の扱い、風評を受けるのは当たり前だ。
だけど俺は自分に起きたこの異常な状況をどうするかということだけに目が行って、周囲のことは二の次になっていた。
「で、あいつは今どこに?」
「…分からない」
「何?分からないっていうのはどういうことだよ?」
そこから話を聞いてみると、愁那は『属性』を手に入れた後家に帰ってきて自分も俺と同じ謎の力を手に入れたということを伝えた。
二人は俺が手に入れた時と同じようにいつものテンションでやり取りをして、どうなろうとも自分たちの生活が変わらないことを示した。
愁那も安心して少しの間は普通の日常を過ごした。
下手に『属性』を手に入れたということは言わずに。
友達の方にもあの出来事は言わないようにしてもらったようだ。
愁那が窒息させた奴らに関しては失踪したということになったらしい。
…俺はここに違和感を感じたが今は言わない。
そして最近、母さんが朝起こしに行った時にベッドから姿が無くなっていた。
家のどこにもいないので、近辺を探すがいなかった。
捜索願を出そうにもあの力があるから変な事は出来ない、ということで困って数日。俺が帰ってきたという状況だという。
「そうか…ちょっとやってみたいことがある」
俺は二人から少し離れて、目を瞑り全身の感覚を研ぎ澄ます。
「『熱源探知』」
真っ暗な視界がサーモグラフィーを通したかのような視界になる。
見えないはずの壁の外まで広がり、青や赤で形を作っていく。
…今は半径250mが限界か。
人型は赤く、反映されるため愁那の形がいればいいと思ったがいなさそうだ。
「…いないか」
「何をしたの?」
「『属性』を使って探してみた。この周囲にはいない」
俺の報告に少し肩を落とす二人。申し訳ないが今の俺の限界はこれだ。
するとポケットに入れていたスマホが揺れた。
久しぶりに通知が来たな。なんだ?
スマホを開くとメッセージの通知だ。その相手は真式だ。そこには『テレビの6チャンをつけろ』と。
『どうした』
『いいから今すぐにつけろ!』
言われた通り俺はリモコンを持ち、テレビをつけ6チャンに変える。
そこには速報という文字と共に、画面の中心には愁那が映っていた。
「どういうことだ…」
その現場は俺が『属性』を手に入れることになったあの駅周辺。
ニュースの内容は『謎の力を持つ少女が出現。周辺を襲撃。直ちに避難を』。
「…っ、すぐに行ってくる!」
俺は二人にそう言って家を飛び出した。
「…待てよ。また二人に何かあってはならないな」
今の俺に何が出来る…二人の護衛。俺と同じような存在がいる。
「やってみるしかない!便利な『属性』だろ!『生成:フェニックス』!」
俺は武器生成のときと同じように『属性』で生物を作り出す。
『…あなたの目的は分かりました。お二人の守護はお任せを』
「…マジかよ」
火で作られた人間サイズの火の鳥『フェニックス』が出現する。
まさかの喋ることも可能なんてな。
自分でやっといてなんだがこんなこともできるのかよ。
『属性』様様って感じだな。
俺は急いで二人の元に戻り、状況を説明してフェニックスを置く。
「任せたぞ」
『分かりました。どうかご無事に』
俺は再度家の前に立つ。
方向は…あっちだな。
「行くぞ!『バースト』!からの『ブースト』!」
俺は帰る時よりも出力を上げて、駅の方に飛んだ。
待ってろよ、愁那。
「…いた!」
数分飛んで愁那の姿を補足した。見た感じ周囲には誰もいない。
…にしても悲惨な光景だな。
近くの建物は倒壊、粉砕。災害でも起きたんかって感じだ。
これも全部、あいつが…?
「愁那!」
愁那の後ろに降り立つ。返事はない。
「おい!どうしたんだよ!?」
返事はない。
「『属性』を手に入れた後、放置したのは謝る。だから落ち着けよ」
されど返事はない。
…どうしたものか。
そして俺が一歩踏み出した直後。
「『ウォーターショック』」
「なっ…ぐふぉ…」
愁那が『属性』を発動し、俺の頭部を水球が覆う。
まず…息が…。
「ぐ…『炎…球』」
何とか『属性』を発動して、手に炎の球を出現させ頭部の水球にぶつける。
すると両方が消失した。
「…はぁっ…はぁっ…何しやがる!」
振り返った愁那の顔を見ると、その目はいつもの妹ではなく光ない目だった。
…意志の存在しない亡骸のような。
「おい!どうしたっていうんだよ!」
俺が叫ぶと、愁那が口を開く。
「『ウォーターカッター』」
「やばっ…」
『属性』により出現したリング状のカッターが俺目がけて飛んでくる。
それを何とか避けると、後ろにあった瓦礫がきれいに切断された。
…こりゃあ、当たったらひとたまりもないぞ。
しかもこの感じ…愁那の『属性』は水。
一番相手をしたくないと思った『属性』がまさかの妹で、しかも今は俺に向かって攻撃をしている。
…なんつークソゲーだよ、これ。
「話は通じなさそうだな。そっちがその気なら殺さない程度で行くぞ。『炎拳』!」
俺が構え、相対できる状態にする。
「連装主砲用意」
すると愁那の手に軍艦の砲台が『属性』によって形成される。
…は?
「撃て」
愁那の言葉と共に二発の水弾が発射される。
「くっ…」
俺は『炎拳』で防ぐために腕でガードをする。
そして着弾した時、強い衝撃が発生し体が吹き飛ばされる。
起き上がると水弾を受け止めた『炎拳』は消えていた。
「…マージかよ」
東砂の資料では『水』も『気系属性』じゃなかったか?
あれだと『属性』で形あるものの生成は難しいって…。
「撃て」
一息つく間もなく、愁那は俺を狙って水弾を撃つ。
何とか避け、背後の建物に着弾。そして粉砕。
とんでもない威力だな…。
「撃て」
続けざまに水弾が飛んでくるため、避ける。防戦一方だな…何とかこの場を切り抜けないと。
「くっそ、『炎球』!怪我すんなよ!」
『炎球』を作り、愁那に投げる。
当たるかと思ったその時。
「霧散」
愁那が『炎球』に手を出し、そう言うと『炎球』が消失した。
「…マジで?」
こいつ俺より強くね?普通に。
正直そうとしか思えないような状態だった。
確かに相性で言えば火と水だから最悪と言っていい。
それでもおかしい気がする。
どうやって正気に戻すか、活路を見つけるか。そう考え始めた時、愁那が倒れた。
「おい!急にどうした!?大丈夫か!?」
頭を打たないようにすぐに抱える。
一体どうなっているんだ…。
『被検体S。属性限界値に到達。意識の喪失を確認』
『即刻回収に迎え』
『被検体Sの近辺に別の属性者を確認。新たな指示を請う』
『作戦に変更はない。戦闘部隊は属性搭載装備で属性者の排除又は捕獲を行え』
「うっ…なんだ?」
上空からヘリが降下してくる。
こんなところに来る時点で記者とかではないだろうな。
ライトに目が眩んでいると、ヘリから数人の特殊部隊みたいな恰好をした奴らが降りてきた。
「抵抗するな。そいつをこちらに渡せ」
そいつらは俺に向かって銃を向け、愁那を渡すように言う。
「断る。大事な妹だ」
「状況を見てから言え。命を失いたくなければ大人しく引き渡せ」
「そう言われて、はい分かりました、となるほど落ちぶれちゃいないぞ」
「総員被検体Sを傷つけることなく射撃を開始せよ」
全員の銃口が俺に向けられる。
アクション映画とかで狙われる奴の気持ちってこういう感じなんだなぁ…というのを思った。
まぁ、そんなこと考えている場合ではないんだが、こんな状況でも一切動揺しなくなっているのは慣れというやつか?
「『炎鎧』!」
愁那を後ろに置いて、部隊全体を確認する。
左方に3人、正面に4人、右方に3人の計10人か。
「射撃開始!」
「くっ…」
炎鎧のおかげで銃弾の嵐を防げているが、衝撃がすごいな。
あの襲撃の時と同じで、こいつらの装備も属性搭載製なんだろうな。
でも、あいつらよりもこっちの方が威力が強い気がするな。あの時は『炎鎧』を発動していれば衝撃もなかったが、着弾したところに軽い衝撃が来る。
…まずいな。このままだと『炎鎧』が消失する。
「だーっ!うぜぇー!お前ら皆殺しだ!『生成:ハンドガン』」
下手に殺すことは避けたかったがそうも言っていられなくなった。
手にしたハンドガンで一人一人殺していく。
「いい加減にしろよ。お前らなんか跡形もなく消し飛ばせることを理解させてやる。『炎球:15連』!」
背後に展開して、奴らに向ける。
「発射!」
全弾を奴らにぶつけ爆発させる。
悲鳴すら聞こえることなくそいつらは粉砕された。
「…ふぅ。とりあえずひと段落だな。後は…」
愁那の方を見て、どうしようか考える。いまだ気を失ったまま。
担いでいくか?でも、こっから家までは距離がある。
『属性』で移動するにしても制御できるのは自分だけだ。下手に担ぎながら運んだ時に落っことしでもしたらヤバイ。
「うーむ…とりあえず起きるまで動かんでいいか。起きたら改めて考えよう」
愁那を後ろに瓦礫に座って休憩をする。
護衛としてここにいればある程度の事は乗り切れるだろうしな。
…にしても、愁那が『水属性』か。厄介なことになった。
ただでさえ『属性』を手に入れてしまったという事自体厄介で面倒なのに、俺の相手したくないと思った『水』だとは。
「はぁ~…いい加減にしてくれよ。この世界はよぉ。それに…」
俺は静かに両手を上げる。
「いやはや、さっき俺を攻撃してきたのは『属性』のせいだけじゃないっぽいな?」
そのままゆっくりと振り返る。
「なぁ、愁那?そんなものはお兄ちゃんに向けるもんじゃないぞ?」
そこには冷たい目で愁那が銃口を俺の頭に突き付けていた。
「私をこんな風にしたのは…全部お前のせいだ」
「功次は何とかしてるか?」
「さぁな、あれ以来一切連絡着かないし。何をしているか、どこにいるかもわからない」
功次が愁那と戦闘前。真式の家に来た結朔は二人で話している。
「テレビをつければまた功次の事で何かやってるんだろうな」
「もう半年経ってんだ。いい加減飽きろよな」
「正直俺らにもなんやかんや取材が多く来るのもうざいしな。いっその事功次みたいな力持って一掃したいよな」
「あれはあれで苦労しかないだろうけどな」
そして真式はテレビをつける。
「おい、結朔!こいつ見てみろ!」
「あれ…愁那じゃねぇか!?」
テレビでは功次の妹の愁那が暴れていた。
周囲の建物を破壊しつくす恐ろしい映像。
まるで正気はない。功次が力を使っているあの映像とは違って、目的を動いている様子はない。
「繋がるか分からねぇけど功次に連絡だ」
結朔はスマホで急いでメッセージを送る。
ここ数か月は反応がないが、それでも一縷の望みにかける。
「…既読付いたぞ!」
「マジか!」
二人は久々の功次からの反応と生きていることに対して喜ぶ。
しかしすぐに意識を切り替える。
『テレビの6チャンをつけろ』
『どうした』
『いいから今すぐにつけろ!』
言いたいこと聞きたいことはあるが、それよりも優先すべきことがある。
少ししてテレビの速報は止められた。
上空を飛んでいたヘリが落とされたからだ。
またネットの方をスマホで確認をすると、すぐに愁那の話題で持ちきりだった。
功次のときと同じように。
「功次…いつか絶対聞くぞ。何が起きているのか…」
二人は変化していく状況に対しての不安を募らせながらも、またいつもの日常に戻ることを願った。
「それを下ろしてくれると助かるなー、なんて」
「…」
「無視か」
正直、状況はかなりマズい。
これだと何か発動した直後に脳天を鉛玉が貫通しておしまいだ。
あくまで冷静でいるが、冷たい汗が背を降りていく。
『属性』が使えなければ、体は普通の人間と変わらない。
転べば怪我はするし、事故れば骨折やら死にだってする。
「…愁那をそうしたのが俺っていうのはどういうことだ?」
「お前が私を化物に変えて、周囲から孤立させた。私はこんな力要らなかった」
「俺は別に何もしてはないはずだ。これを手に入れた時、放置したことは謝る。それでも、ここまでされるとは思えない」
「黙れ」
一瞬だけ銃口が逸れたかと思いきや、頬を掠って銃弾が飛んで行った。
そこからは静かに血が流れる。
「…さっきの組織。お前の知り合いか?ただ『属性者』を捕まえに来たようには思えない。それだったら俺も狙うと思うんだよ」
「答える必要はない。ここで死ね」
愁那は再度俺の頭に銃口を突き付ける。
あ…これは、終わった気がする。
引き金にかけられた指に力が入り始める。
すると再度銃口が俺の頭から外れ、あらぬ方向へと飛ぶ。
「…何故だっ…何故外れる」
愁那は訳が分からないといった様子で苛立ちの表情を見せる。
もしかしてこいつ…意識が微かにあるのか?
「おい!愁那、正気を保て!お前、本当はこんなことしたくないんだろ!?」
「黙れ黙れ黙れ!お前のせいで私は…」
荒ぶる愁那の左目にはうっすらと水が滲んでいる。
…やっぱりな。
だけど、どうする?こいつを正気に戻す方法が分からない。
一体何があってこうなっているのかもだ。
何かしらの細工があったりするのかと思うが…こういう時、ゲームとかだと変な装置がある。
しかしそれっぽいものは見当たらない。
さっきの愁那を渡せとか言ってきた奴らが怪しいが…もう土に帰っちまった。
「一体どうすれば………っ、な、なんだ?」
考えあぐねているとサイレンのような音が周囲に響き渡る。
その音は徐々に大きくなっていき、耳を塞がなければ鼓膜を破壊されるほどに。
「うるさ!何が起きていやがる!?」
周囲を見渡しその原因を探す。
何もない?こんな異常な事態で何もないわけないだろ。
「耳から手を離せねぇ。何とかしねぇと………あがっ!?」
その時背中に強い衝撃波が襲う。
な、なにが…なっ!?
「お…お前は…」
「…おやすみ、世垓君」
俺は衝撃的なその存在を視界に入れた直後、意識を失った。
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