第4話 襲撃

「マジかよ…」

ベッドに横たわる俺はそう呟くしか出来なかった。

気付けばあれから3ヶ月。

いや、気付けばではないな。

『属性』による何らかの影響で意識を失ってから3ヶ月。

まともな人間であれば三日間水分補給してない状態で死ぬ。

しかし少なからず俺がここまでで起きた記憶はない。

夢遊病はともかくとしてだ。

「そうだ、あいつらは…」

俺をここにつれてきたあの科学者達。

この謎の力…『属性』を調べているいかにも怪しい奴ら。

この空間もあいつらが用意したものだ。ならば気づいてはいないがカメラの一つや二つあるだろう。

俺はどうなっていたのかも知っているはずだ。

そう考えた俺は部屋を出るためにドアに手をかける。

「…ん?」

その瞬間俺の本能的な部分が叫び始めた。

…このまま出てはマズい…と。

この先に待っているのは以前のような研究所ではないということが、何故か分かる。

そして今、俺をそうさせている存在を知るために無意識的に目・鼻・耳・手に意識を集中させる。

「『熱源探知ねつげんたんち』」

目を閉じ、手を広げると自然と技名が口から零れた。

するとこの部屋の外に人型の反応が15個あることに気付いた。

しかもその手には俺が生成したものとは違う完全な銃が装備されていた。

…なるほどな。これは本当にマズい状況のようだ。

明らかな敵意のある存在がこの部屋を囲んでいる。

この状況に感づいていなければ、さっきのときに俺は蜂の巣にされていた可能性が高い。

しかしどうしたものか。このまま出れば先ほど言ったとおり100死ぬだろう。

たとえ撃ってこなかったとしても、危険な存在に違いはない。

ならば身を守る防御手段が必要だ。

身を守るもの…鎧とかどうだろう。

「よし…『炎鎧えんがい』」

俺がそう言うと体全身に炎を纏った。

これで何とかなるかは知らないが無いよりはマシだろう。

固体ではない炎で銃弾を防げるかはおいておこう。

「頼む、どうにかなってくれよ」

俺は生きれる望みをかけて、部屋を出た。


同時刻:研究者たちは。

「あれほどの高属性エネルギーを放出する『属性者』は何処だ?」

「…貴様らに答える義理はない」

「いい加減答えたらどうだ?貴様の『属性』も限界だろう?次に我々の銃弾を防ぐ事は出来まい」

『属性』の壁を一面はさんでのやり取り。

…油断した。まさかこの研究所に他組織の侵入を許すとは。

我々の居場所を感知されないために『属性』の流出を防いでいたが、半月前の彼の『属性』がそれを突破してしまった。

初期の『属性』行使による解放はそれまでの出力を大幅に越えた物を生み出すが、まさかあれほどの威力だとは…私の予想を遥かに越えた。

確かに少しの異常さには気付いていた。

初期の『属性』行使の反動、あれは私も経験した。しかし私が苦しんだ時間は3週間。これは今まで見てきた『属性者』と比べても少し長く、他の者の平均期間は1週間程度だ。

それに比べ彼はどうだ。2ヶ月。

私が今まで見て、経験してきたのとは次元が違う。

『属性』の反動の強さは、その者の『属性』の潜在能力を表すことが今までの結果から分かっている。

そう考えれば、たかだか3週間程の苦しみを味わうだけの潜在能力しか持たない私がどれだけ『属性』の流出を防ごうとも、防ぎきれないのも納得だ。

「ちっ!」

私はなんとか壁を造り身を守る。

織原らは無事なのだろうか。私と違い『属性』を持たない。

今はなんとか銃弾を防いでいるが、維持・修復により体力も底をつきかけている。

「往生際の悪いやつだ…グレネード!」

他組織の奴らは徐々に武器の威力を上げている。

ただの兵器で傷はつかないが、奴らの持つものはただの兵器ではない。

あの銃弾…『属性』が込められている。

しかも私のモノよりも出力が高い。

このエネルギー形態はなんだ?今まで感知されていないタイプだ。

直接の『属性』ではなく付与されたモノとは言え、傷程度で済むモノではない。

「いい加減諦めたらどうだ!」

「ぐっ…」

増える爆発。ヒビの入る壁。

私もここまでか…。

その時だった。

「属性者発見!直ちに対応せよ!」

外から叫び声が聞こえる。

属性者だと?この研究所にいる属性者は私と彼しかいない。ということは、まさか…。

「『生成:ソード』!」

久々に聞いた声の叫び。

襲撃して来た組織の者の悲鳴が大量に聞こえる。

…彼が目覚めたか。


「あれが目的の属性者だ!殺さず無力化しろ!」

「はぁぁぁっ!!!」

こちらに向かってくる敵を炎の剣で切り伏せていく。

…まさか寝ている間にこんなことになっているとはな。

あの後、俺は『炎鎧』によって銃弾の雨から身を守った。

まさか銃弾が炎で瞬時に溶けるとは思いもしなかった。

一か八かの防御手段だったがこれは使える。

そして『属性』で周りを囲っていた敵は全滅し、研究者たちがいるであろう場所まで走ってきたというわけだ。

道中かなりの武装集団がいたが、『炎脚』で加速した俺をまともに狙える奴は誰一人としていない。

生成したハンドガンで的確に敵を殲滅していたら、見た事のある『属性』の壁があったから助けに来たが…割とギリギリだったぽいな。

俺が攻撃をしたときみたいにかなり傷ついている。

「生きてるか!?」

「あ、あぁ…なんとかな」

いつものような淡々とした感じの声ではない。

息が切れていてどこか必死さを感じる。

…でも、あの硬さの壁がただの銃弾でダメージが入るものなのか?

「くっ…上層部には生きて捕縛せよとの命令だがこのままでは我々が全滅する。腕一本くらいはお許し願いたいものだ!」

「ん?」

この部隊の隊長みたいな奴がグレネードランチャーを構える。

「避けろ!それにはかなりの『属性』が込められている!」

あいつからそんな叫び声が飛んでくるが、敵はすでにトリガーに手をかけ、俺も『炎鎧』を発動した直後だった。

「はぁっ!?なんだよそれ!?」

「くたばるなよ!」

ランチャー弾が発射される。避けろと言われてもそんな状態ではないため直撃は免れない。

頼むから『炎鎧』で何とかなってくれよ…。

「功次!?」

「…これでダウンはするだろう…は?」

二人は驚きの声を上げる。直撃した俺は何とも無かった。

流石だな『炎鎧』。防御性能は完璧だな。

…まぁ、維持に少し疲れるが。

「なーんだ、割と何とかなるじゃん」

「なんだと!?これにはあの方の『属性』が…」

なんか言っているが俺はすぐさま突撃の構えを取る。

「『バースト』!」

「なっ!?」

足元で『バースト』を発動し距離を詰める。

敵は殺す。

「死ねぇぇぇっ!」

俺は『ソード』を振り下ろし頭上から一刀両断する。

血は出ない。斬られた跡が一瞬で焼かれるからだ。

両断された敵は声を出すことなく静かに倒れた。

「…大丈夫か?」

『ソード』を解き、俺はあいつの方に向き直り手を貸して立たせる。

「助かった。礼を言う」

「いいよ。それよりもこいつらは何なんだ?」

「…『属性』を追っている組織だ。その狙いは分からないが、今回は君が目的だろう」

「まぁ、そうだろうな。…っと、それよりも織原達は?」

こいつと一緒にいると思ったが周囲には見当たらない。

「私が引き付けている間に逃がしたが、無事かどうかは分からない」

「そうか…なら…」

俺は五感に『属性』を行き渡らせる。さっきも使ったあれだ。

「『熱源探知』」

範囲が分からない以上、より広く探知しなければならない。

どこだ…どこだ…探せ。

…いたぞ!

織原とあとの二人。…っ、その周りにはさっきの組織の奴らが6人いるぞ。

「マズい!囲まれている!助けに行かないと!」

「それは本当か…」

「俺はすぐに向かう。お前はどうする」

「…私は後から追う。行ってくれ」

「分かった」

そうして織原達を助けるため俺は『炎脚』を発動して向かった。


「やはり『属性』の力は偉大だな」

他組織に襲撃されてしまい、何とか逃がしてもらったけど研究所の外まで来て捕まってしまった。

あの人は大丈夫かしら。こいつらが『属性』付与されている武装を用意し始めてからかなり状況は悪いはず。

かなりの時間が経っているからもしかしたら…。

それに功次君も…彼の部屋はこの研究所の中で一番頑強に造られているから並の攻撃では破壊されないけれど、砕かれない岩はないのと同じでいつかは破壊されかねない。

早く起きて逃げてもらわないと。

「お前ら、こいつらはどうする?」

「さぁな。上からは『属性者』を捕縛して来いって話だからな」

私たちのあとについて話しているみたい。どうにか隙を見て逃げ出したいところだけど…。

「ぼ、僕は逃げます!」

「あ、ちょっと!」

一緒に研究をしていた一人が走り出してしまった。

すると一人が銃を構えて逃げた彼の頭を打ち抜いた。

「ひっ…」

「ったく、逃げるなよ」

そのまま私の方に銃口を向けてくる。

もしかしてここで殺されるの…?

「逃げるなよ」

私は静かにうなずいて理解したことを伝える。こんな状況で声は出ない。

「で、結局こいつらはどうする?」

「俺的には女は殺したくねぇなぁ。もう一人の男は知らんけど」

「だが、どこかで聞いた話だと上層部は『属性者』以外の関係者は皆殺しという話もあった気がするぞ」

「マジかよ」

それは私のセリフだ…。これでかなり私が生きれる可能性が低くなった。

「う、うぉぉぉっ!」

もう一人の同研究者が相手に飛びつく。

銃を奪おうとしているみたいだ。

「くっ、このっ!離しやがれ!」

「うわっ…」

「死ね」

引きはがされた瞬間にまた一撃で打たれて倒れてしまった。

「あぁーだりぃ。早く隊長終わらせてくんねぇかな」

「流石にあの方の『属性』が込められたものを並の『属性者』がこんな長時間防げるわけねぇよ。もう終わってると思うぞ」

「だよなぁ。じゃあもう一つの任務の、異常な値を出した『属性者』を捕縛する、っていうのに手間取ってんのかな」

「…さぁ。まだ時間がかかるかもしれない。我らは女を監視するだけだ」

流石にこれだけいると隙はないみたいね。…良い前例が二つある。

ほんと、このままだとマズいわね。

「うわぁぁぁっ!!!」

「ギャァァァッ!!!」

どうしようもなく拘束されていると後ろ側から爆発音と大量の悲鳴が聞こえてきた。研究所の方から?

「な、なんだ!?」

すぐに組織の兵は武器をその方に向ける。

すると聞いた事のある声が聞こえてきた。

「織原ーっ!」

「功次君!?」

起きたのね。いいタイミングだけど…あの人数を蹴散らしてここまで来たという事?

「おらぁぁぁっ!どけぇぇぇっ!『生成:ハンドガン』!」

研究所から爆発と共に功次君が飛び出してくる。

そのまま空中で銃を造り構える。


何とか間に合ったようだ。

…二人は間に合わなかったみたいだがな。

綺麗に銃殺されていやがる。軽い血の池だ。

「消えろ!」

作り出した『ハンドガン』を敵全員に向けて発射する。

殺された彼らと同じように確実に頭を打ち抜いていく。

悲鳴を上げさせることなく、全員倒れた。

「無事か?」

「えぇ。助かったわ、ありがとう」

さっきと同じように手を貸して立たせる。

そして頭を下げる。

「ど、どうしたの?」

「…遅れた」

「…あぁ。彼らの事ね」

「すまない」

出来る限り全力で来たが、それでも救えなかった。

敵を殺すことに罪悪感も遠慮もないけど、知り合いが死んだことに関してはやるせない気持ちになる。

…まだ、話に聞く『理性の欠落』が重度ではないのか?

「それに関しては彼らが焦って行動したからよ。あなたの責任じゃないからそんなに気負わないで」

「…そうか」

「それより、彼は?」

「あいつなら何とか生きてるぞ。敵は全滅してきたから今はゆっくりこっちに向かってるはずだ」

「じゃあ私達も行きましょうか」

「…分かった」

織原はすぐに切り替えて奴の方に向かったが、俺は撃ち殺された同じ研究者たちの方に向き直る。

「…すまない」

俺は一人、頭を下げ謝罪してから、先に行った織原のあとを追う。


「織原は助けられた様だな」

「あぁ、なんとかな。…二人は間に合わなかったが」

「…構わない。『属性』の研究をしている以上、死ぬことはある」

一応フォローされるが、俺の罪悪感は拭いきれない。

敵から守り切れなかった、敵意のない人間。

『属性』関係なしに人間として、それは最低限度有している善。

「…さて、これからどうするよ」

俺は背後に広がる圧倒的な惨状に振り返りながら二人に問いかける。

自らが作り上げた状況だが、改めて見ると…なぁ。

炎で撃ち、斬り、粉砕された死体の山々。

いくら敵とはいえ思うところがないわけじゃない。

…詳しくは分からんが、こいつらと同じように『属性』に関して何らかの目的で動いているのがいることが分かった。

しかしよくよく考えたらそりゃそうか。

『属性』を持っている奴が俺だけじゃないことは知っている。

そうなってくると同じように他にも『属性』関連の組織が存在することはおかしくない。

まぁ、ここまで派手に攻め込んでくるもんだとは思わんかった。

俺は落ちている武器を手に取り、観察してみる。

…5.56ミリのトランペットにパイナップル、って適当に言っただけでなんも分からん。だけど少なからず日本にはないであろう武装の数々。

ただの変人組織でないことは確実だ。

こんなんがまだいるとなると面倒以外の何物でもない。

「これだけ目立つことをしたんだ。相手の規模は分からないが、いずれにしてもここに居続けることは得策ではない」

「と言っても、行く当てがあるの?」

「つーかなんでこいつらはここに来れたんだ?」

『属性』が狙いだとしても、ここは相当な山奥。

普通にたどり着くこと自体困難だ。

「…『属性探知』かもしれないわね」

「…だろうな」

「おいおい、なんだよそれ」

二人で納得されても困る。

『属性探知』?俺がさっき出来るようになった『熱源探知』と似たようなものか?

「『属性探知』というものは『属性者』が無意識のうちに発する『属性』のエネルギーを辿るためにあるものだ。それなりの経験を持つ『属性者』であれば個人で使う事が出来、装置さえあれば『属性』を持たないもので扱うことは出来る。それは我々も保有している」

「ふーん。そんなものがあるのか。そんじゃなんで今までこいつらはここに来なかったんだ?」

「…それは今まで君と私の『属性』が外部に漏れないように結界を張っていたからだ」

「そんな事が出来るのか?」

「あぁ。我々と同じように世には広まってはいないが『属性』を研究をする組織・機関は存在する。しかしそのどれもが平和的・安全なものと言えるわけではない。だからこそ我々に接敵することが無いようにして来たんだが…破壊されてしまってな」

「なんでだ?」

「…何者でもない君が原因なんだがな」

「俺?」

何かしたっけ?

ここに連れてこられて以来、外には出ていない。意識が無かった期間を除いて2か月はあの自室(仮)から出ることはほとんどなかった。

変な機械がたくさんあったが、下手なことして何かが起こっても困るので触ってはいない。

だったら俺が結界というのを壊すタイミングは…。

「もしかして意識を手放す直前で放ったでっかい炎か?」

「そうだ。あれは私の予想を遥かに超えるエネルギー量であり。厳重に用意していた結界すら容易に破壊された。だからここを探知し襲撃で来たんだろう」

「…なんか、すまん」

まさかそんなことになっていたとは…やっぱり『属性』っていうのは強くて便利なもんだが使い方には注意しないとな。

出ないと…人を危険な目に合わせ、大量に殺す事が出来る。

「先程の襲撃で結界維持装置も破壊されちゃったみたいね」

「ってことは、まだ俺らの位置はあっち側に把握されっぱなしってことか?」

「そうだな。すぐにでもこの場を離れないければ…」

俺らがそう話していると、上空から尋常じゃない気配が迫ってきていることに気づいた。

「まさか先遣隊が全滅するとはな…属性無しの雑魚共では相手にならんかったか」

音も無く白いロングコートに身を纏った白髪の女が着地した。まるで雪女だな。外国人か?

だが、気になる点はそこではない。

少なからず視認した時には十数メートルの所から落ちてきた。それなのに音無し・反応無しの着地は人間じゃない。

そこから考えられることは…多分こいつは俺と同じ、『属性者』だ。

「…敵か…ガッ!?」

呼吸をすると冷気が体内に入り込む。それでむせる。

そこで気づいた。周囲の温度が急激に低下していることを。

「…寒っ」

「…マズいな…肺が凍るぞ」

「ガハッ…くっそがぁ!」

『属性』を使い周囲に熱気を発する。これで中和する。

「貴様の『属性』は『火』のようだな」

「…その感じ、あんたは『氷』とかかな?」

「その通りだ。褒めて遣わす」

「何目線だ」

「上から目線だが?…では、貴様に通告する」

何なんだコイツの圧倒的な余裕は。

表情から何も読み取れねぇ…薄目でずっと口角が上がっている。その不気味な雰囲気は冷気関係なく俺の背筋が凍らせる。

俺の本能が叫んでいる…コイツは多分ヤバい。

「今すぐ抵抗せず我と来い」

「拒否する、と言ったら?」

「力尽くでも」

「なるほど、分かった。じゃあここは思い切って、断らせてもらおう」

「…そうか。指示では四肢の欠損は許容するという、それでも断るというのなら…」

すると相手は先程までの余裕のある笑顔が止み、コートの中から大量の氷がガラガラと落ちてくる。

「拡がりなさい」

氷が地面を這い拡がり始める。

「お前ら!逃げろ!」

俺が指示をすると二人はすぐさま離れるために走り出す。

しかし少し離れると地面から氷の壁が出現し、それを阻む。

「逃がすわけなかろう。貴様らのうち二名は『属性者』…片方の能力は低いようだが。無能力者であろうとも『属性者』の近辺にいたのだ。何らかの影響を受けているかもしれぬ。連れていくなら全員だ」

「…そうかい。なら!」

手を地面に向けエネルギーを流す。

「『炎陣』!」

同じように炎を拡げ、氷の壁の元まで着いた時に炎を浮き上がらせる。そして壁を溶かす。

「今だ!逃げろ!」

再度指示をして二人を逃がす。コイツと戦うとなるとどれだけ暴れることになるか分からない。

…本格的な『属性者』との戦闘。俺の望んだ普通の人生からはよりかけ離れていく。

それでも、戦わなければ死ぬというのならそれも致し方ない。

「ほう…覚醒から短時間にしては使い方が達者だな」

「そりゃどーも。で、あんたらの目的は何だ?」

織原達よりかは過激な組織であることに違いはない。

あいつらの狙いも知らない…いや、織原は知っているな。確か純粋な探求とかだったか。

だが、ここまでの強硬手段を初手で使うような奴らの狙いの方がよっぽどヤバイ。

「知らん」

「…は?」

「あんた『ら』というのは間違っている。我は我の目的のために動いている。ここに来たのも上の命令と我の目的がある程度一致したからだ」

「じゃあ、あんたとその上の奴らの目的をそれぞれ言えよ」

距離15m。会話をするには適さない間。

しかしその中間地点で熱気と冷気が相殺し続ける。

相手側の木々は凍結し氷柱つららを堕とし続けている。

俺の方の木々は燃え盛り爆炎を上げ続けている。

「上の奴らの真なる目的は知らん。だが今までの行動からして『属性』に関するものと言えよう」

「んなことは分かってる。…あんたは?」

「我の目的は…『属性者』と戦うことだ」

「…その理由は?」

「我は軍人であり戦場に身を置いていた」

「今の時代にそんなのあるんだな」

「その中で死ぬことで冷えていく同胞を見てきた。そして我は彼らを守ることが出来なかった事を悔やんだ。次第に人のモノとは思えぬ能力ちからを得た。だがそれでも守り切れるものではなかった」

「…」

「我は一人で多くの仲間を守るだけの能力が必要だ。それ故に同じ『属性者』と戦い我自身の向上を目指している」

「…なるほどな」

「理解したか?ならば戦おうではないか」

…俺は彼女と戦う必要があるのか?

別にここを最初に襲撃してきた奴らはただの使いっ走り。それでも上の奴らの目的が平和的とは思えん。

それでも彼女の目的は悪いものではない。生きてきた環境が違う俺が何か言えるわけではないが、彼女を殺したくはない。

だが…

「貴様、名は」

「…功次だ」

「名は普通か…我はバルド・ダンガ」

名前を聞かれ答えるとバルドも教えてきた。

するとバルドは腕を拡げた。

「では行くぞ!」

「っ!」

彼女は背後にある氷柱を俺の方に向け飛ばしてくる。

くっそ…あっちは殺る気全開のようだな。

「『炎球・8連』!」

「貴様も『属性』を具現化が可能か。相手にとって不足なし!」

「俺は戦いたくはないぞ!」

氷柱を『炎球』で粉砕してその場を凌ぐ。

俺はどうしても明確な敵しか攻撃をしたくない。

少なからず彼女は俺からすると殺していい人じゃない。

「まだまだ行くぞ!」

「ん?…おい、マジかよ!?」

彼女が強く地面を踏み込むと地面が凍っていく。

そして俺は足を取られ身動きが出来なくなる。

「ったく、『バースト』!」

「ほう」

足元を爆発させ無理矢理脱出する。

「さぁ、攻めてこい!防ぐだけでは死ぬぞ!」

「…あぁ、そうかい。俺も死にたくはない。それでもあんたに対して攻撃する気にはなれねぇ」

「なんだ?我の目的からそう思うならば御門違いだな」

「なんだと?」

「我はそのような甘い世界で生きてはいない。例え攻撃をしてこなかろうと、我が道にいるならば凍らすだけだ」

「…あぁ、そうかよ。俺は生憎とそう言う甘い世界で生きてるんでな」

そうだ。彼女と俺では生まれ育った環境が違う。

戦場と日本。感性も考え方も違う。

説得やら価値観の押し付けは通用しない。

「しゃあ!切り替え大事!」

俺は両頬を叩き、悩みを消し飛ばす。

俺は俺で死ぬわけには行かないからな。

「攻勢転換。次は俺から。『生成:ハンドガン』!」

「ふむ…」

俺は腰から生成したモノを引き抜いてバルドに向ける。

「俺は甘い。殺さない程度に殺す」

「…そうでなくては面白くない」

少しの静寂。

木々が燃え凍る音は聞こえなくなる程、バルドと相対する。

命のやり取りなんかはただの高校生で経験するとは思わんかった。

これが戦場で聞く、死の匂い。

一瞬たりとも気を抜くことが許されない空間。

「…」

「…」

「…凍えろ!」

「…消し飛べ!」

そうして『属性』の戦いが始まった。


…時は少し遡り1ヶ月前。

功次が謎の力を持っていると世に広まりつつある頃、妹・愁那は同じ血を持つとして忌避されていた。

「…いい加減鬱陶しい」

学校内の何処にいようと聞こえてくる陰の言葉。

その程度で心をやられる程柔い精神を持ち合わせていないとは言え、無視しきれるものではない。

「愁那ちゃん、大丈夫?」

「ん。私は大丈夫。こんなんで凹んでたら兄さんに馬鹿にされちゃうし」

「そ、そう」

こんな状況でも一切距離を取らない友人もいる。

少しの信頼をおける人がいるだけで愁那は大丈夫だった。

教師の中には功次と関係のある人もいる。

そう言う人たちは功次の人柄から現状の愁那に対してもサポートを行っていた。

自宅に帰った後もマスコミの追い払い仕事。そろそろうんざりしてくる。

世の有名人たちは毎度面倒ごとを起こすたびにこんな状況に晒されるのかと思うと同情する。

「はいはい、うちの兄は家にいませんよー。そこら辺で寝てると思うんで適当に探してくださいねー」

雑に追い返し強くドアを閉める。

こんな状況を引き起こした兄に対して思うところが無いわけではない。

それでも恨みはしない。周囲のように人間ではないとは一切思わないから。

あの動画を何度見ても兄が悪い事は一切していない。むしろ良い事をした筈だ。

それでも世の人間は兄を悪く見る。

そいつらの方こそが真に化け物だと思う。

「時間が経てば事は収まる。だからもう少しだけ耐えて」

両親からのその言葉に

「分かってるから大丈夫」

と、ぶっきらぼうに返す。

「少し外に出てくる」

ふと夜風に当たりたくなった愁那は外に出る。

冬も終わりかけ、それでも冷気が身を包む。

何故こんな時期に外に出たいと思ったのか不思議に思う。

「ん?」

近くの公園のブランコに座り、少しの間ボーっとしていると突然空気が温かくなる。

温度は春から夏の気温に。急激に変化した環境に体が恐怖し鳥肌が立つ。

「何が起こってるの?」

そして突然風が止む。

疑問に感じ上空を見た時、遠くの空で大きな爆発が起きた。

「っ!?」

強烈な閃光から目を守るために目を覆う。

そして軽い衝撃波と風が体を襲う。

危険な状況なのかと思いすぐさま家に逃げる。

「今外でとんでもない爆発がっ…」

「爆発…だから揺れたのか」

「揺れた?」

「そう。家が軽く揺れた。強い光と音だったから雷でも落ちたのかと思った」

両親は落ち着いた声で話しているが、表情は引きつっているところから多少の焦りは見える。

すぐにスマホやテレビで情報を仕入れようとする。

ネットでは外国からのミサイル攻撃なのではないかという話が広まっていた。

でもそれは違うとはっきり言える。

一瞬しか見えなかったが地上で爆発したのではなく上空での爆発。

花火のような…兵器で例えるなら核の爆発。

キノコ雲などではないが強大な威力。攻撃と思ってもおかしくない。

世とネットは騒然とし、国のお偉いさんは緊急の会議やらでわたわたしているようだ。

そして翌日。

いつも通り学校に行くと、昨夜の出来事で持ちきりだった。

日頃くだらない話をしている馬鹿な連中もそれどころではないと言った様子だ。

そのまま放課後になった時、それは起こった。

いつも一緒に帰っている友人が同級生に連れられているところを目撃した。

その様子はただの呼び出しなどではなく、ただならぬ雰囲気があった。

その為バレないように陰からついていった。

そして人目につかないところに着くと友人が囲まれていた。

「何を…」

すると友人が同級生たちに叩かれたのを見て、居てもたってもいられずそこに走った。

「何をしている!」

「うーわ、化け物の妹じゃん」

同級生たちは私に対して特に良くない当たり方をする男女のグループだった。

何が気に食わないのかは分からないが、よく突っかかってきていた。

「私たちは化け物の仲間を撃退してるだけだしー」

「誰が化け物の仲間だって…?」

「お前に決まってるだろ。人殺しの妹」

「兄さんは正当防衛で攻撃しただけ。それで批判される筋合いはない!」

自分が嫌いな人種に兄を酷く言われ強く反抗する。

「黙れよ!」

「いたっ…」

「愁那ちゃん!」

男に頬を殴られ吹き飛ぶ。痛みで声が出ない。

友人の心配する声。

「ほーら、人間だともっと痛がるもんね。本当に化け物なんじゃん」

男女は愁那を見て笑う。

悔しいがどうすることも出来ない。

怒りで身が震える。

思いたくないが…殺したい。

どうして、自分が。どうして功次が。どうして友人が。

別に間違ったことをしていないのに、こんな扱いをされないといけないのか。

ネタにする世間、過剰に反応する周囲。

…全てを流してしまいたい。

「正義が化け物を潰しまーす」

笑いながら男が立てない愁那を蹴る。

「うっぐぅ…」

痛みでどうしようもなくなる。

痛みに耐える中、意識が沈んでいく。

…深い深い海に溶け込むように。

「これでトドメだ」

憎たらしい笑い声と共に顔の上に男の足が上がる。

顔を踏まれる…その瞬間…。

「『ウォーターショック』」

男の頭上に水の球を作り出し、落とす。

「うぐ…なん…」

男の頭が水に覆われ呼吸が不可能になる。

「死ね」

愁那は鋭い目で男を睨み、冷たく突き放す。

呼吸が出来ず力が全身に入らなくなった男は次第に倒れ息絶えた。

「ひっ…」

残った男女は恐怖に顔を染め後ずさる。

「愁那…ちゃん?」

同じく恐怖の目で愁那を見る友人。

「全員、殺す」

あまりにも冷ややかな声に男女は悲鳴を上げ逃げ出す。

「『ウォーターショック』」

しかし逃げ出した全員の男女の頭部に水の球を出現させる。

呼吸が出来なくなりドミノのように静かに倒れる。

全員の息の根が止まったのを確認すると『ウォーターショック』を解除する。

「大丈夫?」

座り込む友人の方に向き直り手を貸す。

「愁那ちゃん…それ…」

「…あー」

友人の震える声を聞いて冷静になる。

自身の状況が兄の功次と同じという事を。

「私も…なっちゃった」

「そう…だね…」

そして起こる静寂。

お互い何を言えばいいのか分からない空気感。

下手な事を言えば相手を怖がらせ苦しませることが目に見えて分かる。

「…とりあえず帰ろう」

「…そうだね」

愁那の一言で二人はその場を離れることにした。

窒息した死体には見向きもすることなく。


場面戻り、功次VSバルド。

熱気と冷気がぶつかり合い環境は崩壊していた。

「くっ!」

「まだまだ!」

バルドのエネルギーは無尽蔵かよ…。

地面のそこらじゅうが凍り、そこを踏むと足を取られる。

すぐさま足から凍っていくの厄介なこった。

「『生成:ショットガン』!」

「お?ポンプアクション式は使いづらいぞ!」

「生憎と『属性』製だから関係ないね!」

武器を造ってその通りの性質は持つが、取り回しが悪いところは良いようにしている。

こんなことを気にしている場合ではないが、ミリオタには悪いもんだ。

「撃て!」

「相殺!」

俺の撃った炎の散弾が空気中に出現した雪の結晶とぶつかり消える。

「『生成:ソード』!からの『ブースト』!」

空中から剣を作り出し『ブースト』で接近する。

「現れろ!」

バルドも氷で剣を生み出し俺の振りを防ぐ。

「『気系属性』でそれだけ物体を作り出すエネルギー、我以上だな」

「何のことだよ!」

腕に力を入れ、バルドを弾き飛ばす。

「貴様のような者が一人でも軍にいれば戦況は一瞬でひっくり返るだろう」

「俺は戦場に行かねぇ!」

再度接近してバルドに剣を振る。

バルドもそれと打ち合う。

「やぁぁぁっ!」

「ふんっ!」

並の人間だったら目で追う事が出来ない筈の攻撃を見て避けている。

『属性』のおかげか、はたまた異常な状況に体が覚醒しているか。

殺すつもりはないとはいえ、殺す勢いで戦わないと怯ませることすら難しい。

それだけ経験に差がある。

「おうらぁっ!」

「なっ!?」

より気合を入れ振るとバルドの剣が溶けた。

「せいやっ!」

「うぐっ!」

俺は隙が出来たバルドの腹を蹴っ飛ばし距離を取る。

「『属性』の相性不利とはいえ我が打ち負かされるとは…」

「油断したか?」

「いや…貴様、気づいているのか?」

「…何がだ?」

「『属性』の出力が戦闘中に上昇し続けているのを…だ」

「…?」

「…まぁいい。まだまだイ…」

バルドがまた構えようとすると動きを止めた。

なんだ?何をしようとしている?

「何用だ、こちらは交戦中だ。邪魔するな」

バルドは誰かと会話する。何の話だ…誰と話しているんだ。

電話などはない。俺の知るものではない連絡手段か?

「何?帰投だと?」

「は?」

「…了解した」

バルドは構えを解き、俺の目を見る。

「邪魔が入った。また会おう」

「な、おい!?」

俺がバルドの元へ走り出そうとすると、謎の円が空気中に出現しバルドは入る。

そしてバルドの姿が消えると円も消失した。

「…なんなんだよ」

取り残された俺は『属性』を解き、先に逃げた織原達の元に向かうことにした。


「無事か?」

「えぇ、助かったわ」

「君の方こそよく生きていたな」

離れた二人を『熱源探知』で見つけて合流する。

疲れているようだがとりあえず無事みたいだ。

「どんな戦いをしていたの?ここまで戦闘の音が聞こえていたけど」

「…かなりのやり手だ。正直あっちは『氷』こっちは『火』。相性が良かっただけで、まともに戦えば負けていた」

「…君は本当に高校生だったのか?」

男が急にそんなことを聞く。

「そうだけど…なんか変か?」

「それはそうだろう。まずもって通常の学生がこのような異様な状況下に晒されてなお正気を保ち続けている事がむしろ不気味だ」

「…」

言われてみればそうなのかもしれないが、最早そうも言っていられるような体ではない。

「まぁ、いいや。で、これからどうするんだ?」

元々拠点としていたあの研究所は襲撃と戦闘で見るに耐えない状況になっている。

こいつの『属性』で修復するにもかなりの時間がいるだろう。

「しばらく研究は出来ないだろう。私もかなりの体力を消耗した。完全に回復するまでにもしばらくはかかる。自身を晒さない程度の簡易結界をすぐさま生成したら適当な場所で身を潜めるとしよう」

「そうか…織原はどうするんだ?」

「私は普通に家あるから大丈夫よ」

とりあえず行く当て無しという状況ではないようで良かった。

別に恩などは大してないが、それでも自分だけでは分からなかった『属性』というものを少なからず理解できた。

それに多少なりとも関わりがある以上、雑に死なれるのは寝覚めが悪い。

「で、こんな状況になっちまったんだ。俺はこのまま共に行動することは難しいだろ?」

「そうだな…まだ調べたいことはあるが、仕方ない」

少なからず残念そうに男は言う。

「そういえば」

「ん?」

「あんたの目的は何だったんだ?織原のは聞いたけどあんたのは結局聞けずじまいだったからな」

最初に俺の力を悪用しないようにという条件でついて来たからそんな事はないかもしれないが、さっきの組織は明らかに『属性』を悪用…詳しくは知らんが軍人やら兵器を手中に収めているのは分かった。多分軍事的な利用とかだろう。

「…話すべきか」

「折角協力したんだ。本来の行く先を知る権利くらいはある」

「ならば話そう…私は君には望みを叶えて貰いたかった」

「望み?」

こいつの望み?

一体どんなものなんだろうか。少なからず一般には知られていない『属性』の研究に対してこのグループの中では先頭を切っているあたり、まともであるとは思えない。

それに過去話していたのは、こいつの『属性』で出来た壁はミサイル程度は耐えるという事を言っていた。

そこから考えると、なんでそんなことが分かるのかという事だ。

経験しないとそんなことは分からないはずだ。

実験をするにしても、ミサイルとかいうガチガチの兵器を持つ程の財力はある訳無い。

実際に防いだことがある…?

まさかこいつもバルドと同じように戦場などを知っているのか?

「…私は世界を正すことを望んでいる」

「正す、とは?」

「私は以前中東にて家族と生活をしていた。決して平和な環境などではなかったがそれでも家族で時間は悪くなかった」

「あんた日本人じゃないのか?」

「両親は日本人。育ちは中東だ。…1973年10月6日、この日を知っているか」

1973年10月6日?何か災害でも起きたか?

ん-、だけど中東のそんな話知らないしなぁ…。

俺は少し考えても分からないという状態になっていると、織原が口を開いた。

「…もしかして…第四次中東戦争」

「何?」

確かによくよく考えるとあれが起こったのはそれくらいの時期だった気が…。

という事はこいつはあの戦争に巻き込まれたってことか?

「10月6日、開戦の日だ。あの日、基地に向けた空襲の流れ弾から両親は私を守るため庇ったことで命を落とした」

「…」

「私の服は両親の血で赤く染まった。少し前まで幸せったはずの世界は一瞬にして灰色と化した。幼き私は理不尽な世界に対して恨みを抱くには十分だった。危険な状況にただ一人。本能的に岩陰に隠れ攻撃から逃げることで何とか命を残したが、他に残されたものは何もない。銃声・悲鳴から耳を防ぎながら心身ともに疲弊した私は岩陰で意識を失った」

…何もいう事が出来ない。こいつは俺なんかよりよっぽど地獄のような世界を経験している。

「目が開き気づいた時、私はこの力を手にしていた。するとどうだ。自然と岩陰から体が動き出した。未だ攻撃はやまない中、私は力によって出来た壁が守ってくれると無意識に理解し行動していた。

…聞こえてくる戦闘機の音。ミサイルが投下される。私が立っている場所は攻撃範囲に含まれていた。その時の私は恐怖という感情はとうに失っていた。私は腕を上げ、石壁を展開する。

…そこからは朧気だ。気付いた時は日本に、学生に、研究者に。ただ唯一覚えていたのは…両親の死」

重い…。こいつが変だとかそういう話ではない。

こんな過去からすると逆にまともな方なのか。

「ここから私は世界に問いたかった。真に平和というのを目指す気はあるのかと」

「…」

「考えてみろ。第二次世界大戦後、世界は国際平和のため国際連合を結成したではないか。それが結局どうなった。絶えぬ紛争。未だに過去を引きづり続ける国家。今も国家間戦争は平気で起こるではないか。これが平和だというのなら…私は愚かだと断言しよう」

少しわかる。第一次世界大戦後、国際連盟にはあまり力が無かった結果新たな戦争が起きた。

結局のところ問題を起こしたのが大国となれば下手に動けないというのは間違ってはいない。

だが、それだったら国際平和というのを守ること自体最初から不可能だ。

どこもルールを守るんだったら平和を維持出来るのは当たり前だ。

「私は…この『属性』という異常な力に希望を見た」

「希望?」

「そうだ。『属性』は既存の兵器では効果のない究極の戦力と言える。これを使い、世界を統制しようと…最初は考えた」

「じゃあ、今は違うのか?」

「あぁ。世界は『属性』について認知をしていない。そこから切り出せると思ったが…今日のように少なからず『属性』というのを狙う者達もいる事を道半ばで知った。そこから『属性』をより理解することだ必要だと気付いたのだ。私一人では限度があるので、似たような超常的な事に興味を持つものを呼んでな」

だから今のように織原とかを集めて調べていたのか。

「そして研究途中で気づいたのは、何かしらの要因によって『属性』というのが世間に出ないよう情報統制がなされているという事だ。その存在は把握していない、故に目的も方法も未知だ」

「…確かに」

以前聞いた通り、『属性』を持つ人は俺以外にもすでに何人かいるらしい。

そいつらにも問題を起こした奴らがいるというのもだ。

だが、それだったら少なからず知られているはずなんだ。

「それにだ。今まで見てきた『属性者』でも世界を統制する程の力は持たない」

「…そうなのか?」

こいつの『属性』も充分使えると思うんだが…特にさっき戦ったバルドとかだ。

まぁ、あいつはそういうのに興味はないだろうから関係ないか…。

「確かに強力なものであることに違いはない。だが、『属性』を使うにはエネルギーを使う。君も感じたことがあるだろう。何とも言えない疲労感を」

「あぁ」

「研究の中で『属性』にも限界はあるという事が分かった。

…どれだけ強力な武将であろうとも1万の兵を一人で捌くことは叶わない。それと同じで私のような『属性』では限界が来ることを自覚した。

…だが、その限界というのを消し飛ばす存在が現れた」

「…まさか」

「それは君だ」

「俺か…」

話の雰囲気的にそうだろうとは思ったが、何故俺が限界を無くす存在なんだ?

今までの感覚だと俺にも限界はあると思うが…。

「君が覚醒待機中、関わりのある他の『属性者』たちの研究も進めていた。その間発覚したのは君の『属性』のエネルギー値が現状の装置では計測しきれないことだ」

「…は?」

「少なからず君は今まで計測できた最大数値の10倍であることは把握した」

「ちょ、ちょっと待って。じゃあなんだ?俺の『属性』はあんたより断然強いって言うのか?」

「その通りだ。これが計測できたのは3か月前、私の『属性』によって造られた石柱を破壊した際に分かったものだ。覚醒後の今ではより高いだろう」

…マジかよ。

そういえばバルドも戦っているときに、俺の出力どうのこうの言っていたような…。

よくよく考えると、軍人であり既に『属性者』と何度か戦っているだろうバルドと今までただの高校生だった俺が真っ向から戦ってよく生きていたな。

もしかしたらそれの理由が俺の『属性』が異常に強いから…ってことなのか?

「でも、俺の『属性』が強いからって世界を正すのと関係があるようには思えないんだが」

「…先も言った通り、『属性』というのは既存の兵器に対しては圧倒的な力を有している。だが、どんな力にも限界は存在し、『属性者』も元はと言えば人間。既存の兵器すら防ぐエネルギーも底をついた時、そこにはただ無力な人一人。しかし今、我々を助ける間において君は疲労感はあったか?」

少し思い返して、俺は顔を振り否定する。

言われてみれば前よりも連続で、威力も上げて使っているのに一切の疲れは感じていない。

…これも、バルドやこいつの言う覚醒っていうやつか?

「君が『属性』を発現したあの時の規模から覚醒をしたときには類を見ないほどになることを確信した。だから私は君を研究への協力と称して呼んだのだ」

「…そうかい。で、なんだ?俺はあんたの言う、世界を正すって言うのに協力しろと?」

「そうだ」

「…それの方法は?」

今までの話の流れからして答えは予想できる。

もしそれだとしたら、こいつは協力する前に提示した条件を破ったことになる。

「…武力行使だ」

「おまっ…」

予想通りか。…なら俺も言うことがある。

「言ったよな。俺の力を悪用するなって」

俺は睨みながら言う。

答えようによっては、一発殴るつもりだ。

「だが、それはお前の価値観だ」

「…何?」

「お前は自身の目的の遂行をするための武力行使に対して悪い考えを持っているようだな」

「…まぁな」

「では、聞こう。人類がまともに話し合って解決する種族であるならば戦争も、差別も、格差も、犯罪もない。法律だって圧倒的な強制力があるわけではない。あくまで国を運営するのに必要な要素の一つだ。それは国際法も同じ。同族を殺してはいけない。そんなもの産まれたての猿であろうとも理解している。そしてお前も、先程まで自身の目的のためにその『属性』という武力を使っているではないか」

「…っ」

何も言えない。

確かに一般的な人間の考え方として武力による行動はダメだという意識づけがされている。

これでは現実を見ていない無理な綺麗事を言う憲法九条論者と同じではないか。

「そのような攻撃的な『属性』を手に入れ、既に何十人と殺したんだ。『理性の欠落』が原因ではあるが、まともな人間であれば平然としている訳がない。いい加減、世の間抜けどもと同じ綺麗事を言うことは諦めた方が良い」

「んなこと言ったってなぁ」

「…既に君の行動で封じ込められていた情報は世に認知された。いずれ『属性』により、綺麗事は言えなくなる。覚悟はしておけ」

少なからずこいつは嘘をつくようなやつではない。

きっとそうなるんだろう。

危機意識が低い日本人、些細な情報も即伝達のネット社会、モラルのないマスコミ。

これだけの条件が揃えば俺の事を知らないなんて事があるわけない。

実際に『属性』を手にした翌日のバスは針の筵のようだった。

…『属性』は最近話題の多様性に含まれないのか?

「納得がいかないのならそれで良い。ここに居続ける訳にもいかない。再度の増援が来ても面倒だ」

話を締めようとすると、こいつは手を挙げた。

すると奥から木々を倒しながら、装甲車が姿を現した。

「これだけ話せば私の目的は把握出来たであろう。再度お前と出会うことがあるかは分からないが、再会を果たした時には考えを改めていることを願っていよう」

そう言いながら近づきながら懐に手を入れたので少し警戒をすると、その手にはかなりの紙が挟まれているファイルがあった。

「これは?」

「私が研究してきた『属性』についてをまとめた資料だ。お前の協力によって新たな『属性』の可能性を開くことが出来た。それについては感謝をしている。その礼だ」

「だからって…大事なもんじゃ?」

「問題ない。データはこちらにもある。そのような強大な力を有して、世に知られてお前にはこれから多大な困難が待ち受けることは容易に予測出来る。それに対して有効に使うと良い」

無駄に親切だな。

まぁ、これはありがたく貰っておくことにしよう。

他にもよく分からん組織・機関がいることは今回ので分かった。そしてそいつらが友好的でないことも。

こちらの存在を知られている以上情報戦は不利から始まっているという事だ。

今回はバルドを乗り切れたが、どう考えてもスタートラインの位置が違いすぎる。

こいつらと別れるとなると、一度家に帰るつもりだが俺を狙い家族に危害が及ぶ可能性も高い。

その時に俺に知識があるとないでは話が違う。

「そういうのなら分かった。ありがとう」

「感謝は良い。ではな」

「あぁ」

そうして装甲車に乗り込んだ。

「彼も言った通り、功次君には『属性』で面倒な事に巻き込まれることはあると思う。それでも絶対に人間であるという事だけは忘れないことね」

「分かってるさ。俺はあくまでも人間だ。化け物なんかじゃない」

「その資料は役に立つと思うから熟読しておくこと。じゃあまたね」

「ありがとうな。ここに来た時の雰囲気にのまれたけど、織原のおかげで気分的に助かった」

「それなら良かったわ」

そうして織原も装甲車に乗りこむ。

そうだ、結局あれについて聞いていない。

「おい!」

「…なんだ」

窓からあいつが顔を出す。

「まだお前の名前を聞いていない」

結局こいつと関わり始めてからずっと名前を知らないままだった。

「名乗るほどの名はない。…出せ」

すると窓を閉めて装甲車は進み始めてしまった。

「あ、おい!」

俺が制止をかけるが止まる気配はない。

…まぁ、いいか。

これから関わることはないと思うしな。

にしてもこの資料かなり分厚いな。

読み切るのは時間がかかりそうだ。

「…ん?」

ファイルの右下に小さく文字が書いてある。

目を細めてみてみるとそこには、中ノ村東砂なかのむらとうさと書いてあった。

「んだよ。変わった名前だけどちゃんと名乗る名はあるじゃないか」

変な奴に見えて、ちゃんと人間味のある所を見れて『属性』によって完全に人間性を失うわけではなさそうというのに気づいて安心する。

「じゃあ、帰りますか。『バースト』!」

俺は『バースト』で自身の体を吹き飛ばして空中に飛ぶ。

「からの『ブースト』!」

足から炎を噴射し空中で浮遊する。

「…今更だけどここはどこなんだ?」

家に帰ると言っても方向が分からないならどうしようもない。

こういう時に便利な道具のスマホがあって助かった。

それで自宅にナビをして帰ることにする。

…家族に何か起きていないことを願おう。


「お父様…何を急いでおられるのですか?」

伊久いくか…今は構っている余裕はないんだ」

「そうですか…」

厳しい学校から帰ってきた伊久と呼ばれる少女は寂しげに返答をし、慌ただしく去る父の背を見る。

ここ最近父は忙しない。

いや、昔からそうではあったが最近は特に顕著だ。

話によると国際連合傘下の一部門にて日本の代表として働いていることによるものと言う。

しかし実際に何をしているかは把握していない。

それより今はある日会った謎の少年の事が気になっている。

伊久は鞄からスマホを取り出し、隠れて閲覧しているネットからある映像を開く。

『吹き飛べっ!『イラプション』!』

…『怪我はないか?』

……『あいつらなら…消したさ。細胞一つ残さずな』

………『分かった。俺は世垓功次。また会ったときはよろしくな』

世垓功次様…あの恐ろしくも美しい力。

助けていただいた以上、必ずお礼を…。

と、考えるが…あの時に私を助けたことがきっかけで世の中からはいろんな声が上がっている。

化け物説・宇宙人説・突然変異説・人造人間説・兵器説・マジック説などなど

ただし少なからずいい声は聞こえてくることはない。

伊久の学校においても、噂に振り回されることが禁止されているが、それでも異例な事象に抑えきれるものではなかった。

するとお父様から連絡が。

『今すぐその映像を見るのをやめなさい』

そのメッセージに対して一人ため息をつく。

こうして関わりは年々薄くなっていく中、こちらの自由は一向に許されない。

どんな状況下においても監視に置かれている。

そのくせ、あの時のような危険な時の助けは遅い。

「お疲れ様です。伊久お嬢様。荷物を」

「ありがとう。お父様は何をあそこまで急いでいるの?」

「我々には何とも…」

「…そう」

使用人たちはよそよそしく答える。

その様子から伊久は彼らが何か知っているのではないかという事は予想する。

…自室に戻った後もすることはなく、ただノートにペンを走らせるだけ。

もしまた世垓功次様に会えた時に話したい事をメモとして連ねていく。

彼女にとって延々と勉強をし続ける日常にはもう飽きた。

その原因は世垓功次の異常な力を目の当たりにした非日常を経験したに他ならない。

つまらない普通の生活から抜け出したいというのが今の伊久という少女にとっての望み。


15人の会合。

緋瀬ひせの娘である伊久さんが発見した彼は未だ見つからないのですか?」

「うむ。伊久によって彼の名が『世垓功次』ということが分かった。それによって捜索の手間が一つ省けたはずだが…」

「何か問題が?」

「彼の一族は彼についての情報を全て黙秘をしている」

「ダッタラ、ドンナ手ヲ使オウトモ情報ヲ吐カセルベキダ」

「生憎とあなた方の国とは違い、日本にそれは出来ないため諦めてくだされ」

「それだけではない筈ネ。たかだかそれだけで捜索不能とすれば貴様が無能という事ネ」

「…彼のエネルギー流の検知が出来ない。きっと他の組織・機関の介入が考えられる」

「そうだとしたら異常な行動速度。その手際が行えるのは小規模の組織と予測可能」

「それらの介入ありやと、あてらみたいな大きいな所は動き辛いやろなぁ」

「以上の事から今しばらく待ってもらいたい」

「…OKOK。ヒーの事情は全員アンダースタンド?」

その場の人間全てが頷く。

「…キヒヒッ…にしてもぉ…今までの『属性』とはパターンが違うねぇ」

「…それは」

「キヒッ、君が任され探している彼は元はと言えば何の変哲もないただの一般人なんだろぉ?その環境で『属性』を宿し、類を『ほとんど』見ないエネルギーを出せるとはぁ…なんともおもしろいねぇ」

「だが、伊久ちゃんの話だと奴は一度死にかけた。それは『属性』を手にする条件のうち、最も多くのパターンだ。エネルギーはともかく、そこまでおかしいか?」

「僕が言うのはねぇ。本当にそれが発現のトリガーだったのかってことだねぇ、キヒヒッ」

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