第3話 能力の研究と鍛錬

「色々聞いてもいいか?」

科学者たちの車に乗り込んで、研究所に向かっている最中に俺は隣に座る女科学者に話しかける。

「どうしたの?何か忘れ物でも?」

「いや、これからあんたらと時間を過ごすことになるだろ?名前くらいは知っておきたいと思って」

実際俺はこいつらのことを全くと言っていいほど知らない。そんな奴らについていくなんて我ながらどうかとは思うが…。

「そうね。それくらいは知らないと困るか…。私は織原おりはらよ。よろしくね」

「俺は世垓功次だ。改めてよろしく」

自己紹介も済んだので俺はいくつか聞くことにする。

「あんたらはいったい何者なんだ?」

「私たちは君のように超能力を操れる人間を調査しているの」

「その目的は何だ?研究か?実験か?もしくは…戦争か?」

着いていく前に提示した条件に悪用するなとは言っておいたが、定かではない。

だから話が通じそうな織原に聞いてみる。

「少なからず戦争なんかには使う気はないわ。私は純粋に君の力に興味があるだけ」

「ならいいが…」

「まぁ…他は知らないけどね」

「…なんだと?」

「私はあくまで好奇心で研究をしているけど他は…いろいろと事情がある人が多いから。私たちは同じ研究をしているから集まっているだけで目的も動機もまるで違う。全員下手に関わることはないから、私も彼らが何を以てこの研究をしているかまでは分からない」

織原は俺に危害を加えることはなさそうだ。

しかし他に関しては不安だな。

俺の中では特にあの威圧的な目をする男に注意を向けておきたい。


車に揺られて5時間。

完全に夜になってしまった。

「おい、これはどこまで行くんだよ?」

家からかなり離れ、既に山奥に来てしまった。完全に人がいない。

…途中で気づいて逃げ出した方が良かったか?

「そろそろ着くわ」

また少し進むと、大きな門が出現した。

門が開くと、車は進んでいく。光の入らない暗い道。今は進んでいるのかさえ、分からない。

息を飲んで、到着を待っているといきなり光が目に飛んできた。

「うわっ…」

俺は反射的に目を覆う。

少しして目が慣れ、開くと真っ白で無機質な広い空間に辿り着いた。

「…マジか」

「驚愕している場合ではないぞ。時間が惜しい。早く降りろ」

俺が窓から見える、知らない景色に声が出ないでいるとあの警戒すべき男に指示された。

「わ、分かったよ」

これ以上何か言われるのも何なので、すぐ降りる。

床はタイルではない。しかしツルツルな感触だ。だが滑る訳ではない。

そして、あの長い時間を移動し、山も通ったタイヤは汚れている。それなのに、そのタイヤで通ったはずの床は一切汚れていなかった。

一体どんな材質なんだよ。…パッと見、大理石っぽいな。


「君にはここで過ごしてもらう」

「…ほぅ」

連れてこられた部屋は、家の自室と全く同じ個室だった。

ベッドも机も本棚もその中身も完全に同じだ。しかし、壁は完全な透明になっている。

一体どうなってんだ?

「これは?」

「君の部屋を再現した。こちら側からは中が見えるようになっているが、中からこちら側は見れない」

「なんでわざわざ俺の部屋を再現したんだ?普通に独房みたいなところにでも入れられるんじゃないかとも考えていたんだが」

もしそんなことされたらうまく使えるか分からないが、この力を使って文句でも言ってやるところだったが。

「そのところは一度座ってから落ち着いて話そう。ついてこい」

「お、おぉ。分かった」

そして連れてこられたのは、今度こそ研究室のような部屋だった。

別に人間の体があるとかのマッドサイエンティストみたいな感じではなく、普通に機械が沢山あるだけだ。

端の方に机と椅子があるので、そこに向かう。

「座れ」

言われた通りに座る。俺の前にこの男が座り、横には織原が座った。あとの二人は立っている。

「率直に聞こう。君は我々の研究に協力をする、間違いないな?」

「あぁ。ここまで来ちまったしな。ここで帰るなんてことは言えない」

「それでいい。では…まずはいくつか聞きたいことがある」

「答えられる範囲なら答えよう」

「君はその力をどういった経緯で手にした」

「んー…簡単に言うと死にかけた」

「ほう。どのようにしてだ?」

「まぁ…ガラが悪い奴らから人を助けようとした。そんで返り討ちに遭ったって感じだ」

「なるほど。世に出回っている情報に嘘はないようだな」

「ただ、この力を手に入れたのはそん時だから他に要因があるってんなら知らんぞ」

「分かった。では次だ。君はその者どもを力を使って殺した…合ってるか?」

「…合ってる。俺は…確かに消し飛ばした」

「では聞こう。人を殺したにもかかわらず、何も感じないのか?」

「…あぁ」

確かによくよく考えたらなんで俺は今の今まで人を殺したというのに、一切それについて気にしていなかったのか。

普通に考えたら多少なりとも罪悪感などはあるはずだ。

あれか?こちらが殺されかけたから俺は悪くないという心理があるのだろうか。

そう、自身のおかしな点について考えていると、隣で静かに聞いていた織原が口を開いた。

「これは、今までの『属性者』と共通する点ね」

「そうだな。私にも当てはまる」

二人のその発言に俺はあることに気付く。

「お、おい!ちょっと待て」

「なんだ」

「その…俺のこの力…他にも持っている奴らがいるのか?っていうかあんたも…」

「そうだ。この力、我々が『属性』と呼んでいる物に関しては君だけではない。我々が確認できているだけでも、既にに何人か存在している。もちろん私もそのうちの一人だ」

男は後ろの方に手を向ける。するとその方向の床から部屋を構成するのと同じ材質の柱が出現した。

「なっ!?」

「それが君の『属性』を見た世の一般人の反応だ」

「…俺だけの力って言う訳じゃないのか」

「この世にたった一人しか持たない能力なぞほぼ存在しない。そんなものは真にこの世界に選ばれた者くらいだ」

「そ、そうか…」

「…しかし、この力には少なからず差異がある」

「それは?」

「『属性』を扱える範囲だ」

「…結局分からないんだけど」

「ふむ。研究に協力すれば後に分かる。…話を戻すがこの『属性』を発現したした人間にはある共通点がある」

「共通点?」

今パッと見た感じこの男と俺に共通点はなさそうなんだけど…何が共通しているんだろうか。

「それは、『理性の欠落』だ」

「…どういうことだ?」

「簡単に言えば自身の感情制御能力が衰える」

「…やっぱりわからない」

そんな難しいことを言われてもただの高校生の俺には何のことかさっぱりだ。

「君自身も何か違和感があるんじゃないか?人を殺したという自覚はある。それなのにそこに何も感じない」

「…っ、た、確かにな」

「それが君の『理性の欠落』だ」

今のところ何が何なのか分からず困惑している。どこに注目すればいいのかも何を理解すればいいのかもわからない。

「では、例を出そう」

「え?」

「私にも『属性』が備わっていることは分かったな?」

「あ、あぁ」

「私は自身の属性を『石』と呼称している。君も気になったであろうこの研究所全体の大半は私の力で生み出したものだ」

「なっ!?」

「器具などは他の研究機関から譲り受けたりしたものがあるがな」

やっぱりそうだったのか…って違う。そこには納得はするしかないのかもしれないが、パッと見た感じかなり広い空間だ。

…それ全体をこの男一人で?

「そして『理性の欠落』。これに関して、私の場合は未知のモノに対する探究が当てはまるな」

「…どういうことだよ?」

「研究のためであればどんな手段をも用いる。そこには何も感じない。自身の思うがままに行動をするようになった、といったところか」

「…?」

「まぁ、いい。じきに理解するだろう」

そう男は言うと、立ち上がり俺にも立ち上がるように指示した。

「今度はどこに行くんだよ」

「…まだ、聞きたいことはあるがそれは後々聞いていく。今はついてこい」

「お、おぅ」

話が行ったり来たりしているな…大丈夫か、こいつ?

俺が怪訝な目でスタスタ歩いていく男の背を見ていると織原が声をかけてきた。

「あれが彼の『理性の欠落』よ」

「…何?」

「彼は常時何かを考えている。そして何かを知りたがる」

「はぁ…」

「だけど、それは彼の中でコロコロと変わる。その場その場で興味を持ったことが変わってしまう。だからあんな風に話が一貫していないの。あまり気にしないで上げて」

「…分かった。あんまし分かってはいないけど」

「今はそれでいいわ。でも『理性の欠落』については少し理解しておいた方が良い」

「…でも、さっきの話じゃ分かんなかったぞ?」

「『属性』を持たない私なりに言うとすれば…『属性』を手に入れた時に一番強く望んだ自分の思いを『属性』を使って優先する…っていう感じかな」

「…なる、ほど?」

「でも、これは『属性』を持っている人によって全然違うみたい。私たちが今まで見てきた『属性者』は彼みたいに自分の知識欲に従って行動する人もいれば、食欲に従って『属性』を使って人から食べ物を奪う人、『属性』という超人的な力を背景に異性を襲って性欲を満たすものと様々だわ」

「うわぁ…」

正直それを聞いてゾッとした。

もしかしたら俺もそうやって人に対して害するような存在になってしまうのかもしれないと思うと。

しかし、今の説明で少しわかった。こいつらの言う『理性の欠落』というのは、『属性』を使って自身の欲求を満たそうとすることを言うんだろう。

…じゃあ俺はどうなんだ?

俺は男についていきながら指から『火』を出す。そして黙って見てみる。

この力を…俺は何に使おうとするんだ?そしてこれを手にした時、俺は何を望んだ?

「ここだ」

「…ここは?」

またしばらく歩いてついた場所は、今まで見た中で一番広い空間だ。

そして何やら的のようなものや、瓦礫が積まれている。

「今から君には『属性』を使って、あれらを攻撃してもらう」

「…なるほど」

俺的には難しい質問攻めよりかはこっちの方が楽だな。

しかし少し悩むことがある。それは、まだいまいち力の使い方が分かっていないということだ。

まだ俺は『バースト』『ブースト』しかまともに使えない。

最初に何か他の使い方をしてあいつらを消したはずだがそれが思い出せない。

「どうした?出来ないのか?」

「…そう言う訳じゃないんだが」

「なら、早くすればいい。私の興味が移らん内にな」

「お、おぅ」

正直急かされても、という感じだ。

『バースト』は手元や足元に爆発を起こすから、こうも離れていては使えない。それにまだ威力調整も慣れていない。

『ブースト』もただの移動用の促進力でしかない。攻撃には使えない。

どうする?

離れたところに攻撃として使えるとしたら…銃か。

そう考えた俺は頭の中で銃をイメージする。

今まで色んなゲームやアニメ、映画で見てきた知識を使って詳細に思い描く。

「お?何をしようとする?」

「下手に怪我しないように離れておいた方が良い」

警告すると研究者たちは離れて部屋の隅の方に行った。

それを横目に手に意識を集中し銃の形を創造していく。

「…でき、た?」

手に何か握る感覚がし、目を開けるとそこには炎で作られて銃があった。イメージした通りのハンドガンだ。

「マジか…」

こんなことが出来るのか…正直のところ出来たらいいなというくらいだった。

この力、割と使い勝手がいいのかもしれない。

「…でも、これ撃てるのか?」

イメージしたのは言っても見た目の雰囲気だ。

銃の内部構造は調べたことあっても忘れた。

というか弾とかもない。

「とりあえずトリガーを引いてみるしかないか」

適当に的の方に銃口を向ける。撃てたら撃てたで面白いくらいに思っておこう。

「はぁぁぁ」

深呼吸をして狙いを定める。自身の手でこんなの撃った経験なんかない。

「撃て!」

気合を入れトリガーを引く。その瞬間、音を立てずに炎の銃弾が的めがけて飛んで行った。

そして的の中心に直撃すると、的は燃えた。

「あえっ?撃、てた?」

反動もなければ音もない。そのせいで撃った感覚がない。それでも狙っていた的は確かに燃えている。

「す、すごい…」

「『属性』をあのように使うとは…今までに無い」

後ろの方からは研究者達から驚きの声が聞こえる。

「まだ…出来そうだな」

何となく使い方が分かった。やっぱり最初に思ったとおりこの力はイメージが大事みたいだ。

イメージさえ出来てしまえば、かなりの使いようがある。

「お前ら、まだ近づくんじゃないぞ」

俺は後ろの研究者達に向かって指示をする。

まだやってみたいことがあるからだ。

「確かあの時は…」

初めて『属性』を使ったときのことを少し思い出した。原因は分からない。

でも、生成した銃を撃ったときに何か変な感じがした。今までの自分ではなくなるような感覚。

もしかして『属性』の影響か?

…まぁ、いい。とりあえずこの力でどんなことが出来るか気になる。

「『炎拳』」

手に炎を纏わせるようなイメージをしてそう言うと、あの時のように手を炎が覆う。

「お、おぉ…」

別に熱くはない。むしろちょうどいいくらいだ。

これで殴れば強そうだ。

「こんなのも出来そうだな…『ロケットパンチ』!」

右手を瓦礫の山に向けて、そう叫ぶと炎の拳が飛んでいく。

着弾すると大きな音を立てて爆発し瓦礫を粉々にした。

「おぉ…これは強い」

驚きと感動で語彙力が低下してしまった。

こんな感じで何かから派生したりも出来るのか…本当に使い勝手がいいのかもしれない。

「こんな感じだが…どうした?」

後ろの方にいた研究者たちに向かって声をかけると全員呆気にとられたような顔をしていた。

「…『属性』ってあそこまで使い勝手がいいものかしら?」

「…いや、私が使えるのはせいぜい鉱物を生成する程度だ。あれほどまでに応用はしたくても出来ない」

何やらブツブツ言っているが離れているので聞こえない。

まぁいいや。謎の疲労感があるから少し休みたい。

「なぁ、とりあえずさっきの部屋に戻っていいか?」

「あぁ。いいぞ。起きてきたらまた聞きたいことがある」

「ん、分かった。あと、ここって飯出るよな?」

「もちろんだ」

俺は確認だけ取って一人で戻った。


「彼についてどう思う?」

研究対象が離れた後、共同研究者の織原から質問が投げられた。

「予想以上とでも言っておこう」

「でしょうね」

「彼が『属性』を完璧に使いこなせるようになれば、私の望みも果たされるかもしれん」

「…?」

「あぁ」

私が感じた『属性』の限界。それを彼なら打ち破るはず。

いずれ彼も感じるだろう。『属性』を持つ者の世界の見方を。


「…まじで俺の部屋そっくりだな」

本物の部屋をくり抜いてそのまま持ってきたんじゃないかと思えるくらい、同じだ。

部屋にあったテレビやゲームと同じ機種で揃えているあたり、本当に似せに来たんだな。…このPS2いまだに売ってたのか。

でも読みまくって少しぼろくなったラノベまでは一緒ではない。ここにあるのは新品だ。…もし帰るとなったら貰っちゃダメかな。

「…あいつら、一体どれだけ金を持っているんだよ」

正直これまで見たよくわかんない機械や、ここまで忠実に再現してくるようなよくわかんない奴らについてきたのを少し後悔する。

しかし、それと同時にこの力があるなら絶対大丈夫だという謎の自身もある。

「やっぱり力を行使しているとするといつもと調子が違う気がする」

よくよく考えると初めて使ったときもそうだったんじゃないか?

…もしかして、これがあいつらの言っていた『理性の欠落』なのか?


それから早2か月。

起きたらすぐに呼び出され朝飯などを食べた直後に質問攻め。

どんな暮らしをしていたか、交友関係・家族構成はどんなものなのか、『属性』無しの頃の素の能力など。

意図は分からないが必要なようだ。

そしてその代わりと言っては何だが、俺は『属性』について既に持っている情報を教えてもらった。

今発見されている『属性』は『石』『電気』『草』『風』『氷』そして俺の『火』らしい。

そいつらは一部はこいつらの管理下で俺と同じように『属性』の研究に協力しているらしいが、残りは敵対していたり、危険すぎる存在は『属性者』達で殺したりしたようだ。…物騒な。

それを聞いたときは『電気』や『風』は分かるが『草』はどんなことが出来るのか想像できなかった。どうやら植物を生み出したり、操ることが出来る様だ。

そして『属性』を使う時に俺のように技名を言うのは今までいなかったらしい。

…言った方がかっこいいと思うんだが、そんな感じではないみたいだ。

そして『属性』を使った後はその規模によって疲労感が伴うようだ。

確かに今まで『属性』を使った後は疲労感があった。

次に、昨日と同じように俺の『属性』を見る様だ。

…なんかあいつらが変な機械を持っていたが気にしないことにしよう。

「くれぐれも、我々に向けて『属性』を使うな」

「分かってる」

研究者たちは離れたところから観察する様だ。…なんかむず痒いが…いいか。

今日は…どうしようか。初日から武器を作ることが出来た。

あれ以来武器を生成することはかなり練習してきた。

今は最初のハンドガンに加え、ショットガン・アロー・ソード・スナイパーライフル・アサルトライフル・ランチャーを使えるようになった。

疲労感を感じる順だとソード<アロー<ハンドガン<スナイパーライフル<アサルトライフル<ショットガン<ランチャーだ。

ミリオタには悪いが、反動やら銃声がない。ああいう兵器の良さを奪ってはいるが使えるならそれでいい。

今度はもっと直接的に『属性』を使ってみたい。

…『炎拳』みたいに体の一部に纏うことが出来るなら、ほかの場所にもできそうだ。

例えば…脚とか?

そう考えた俺はイメージをする。脚の方に意識を向けつつ、纏うように力を表面に。

イメージが固まったので俺は言う。

「『炎脚』」

そう言うと脚全体に炎を纏う。…やっぱり熱くはないんだな。

この状態だと何が出来るんだろうか。『炎拳』のように飛ばすのも何だしなぁ。

…『属性』って身体強化は出来ないのかな。

その予想を実証するために軽く走ってみる。

「おぅわっ!?」

すると想像以上に早く走ることが出来、思わず驚く。焦ってこけないようにすぐ止まる。

元々50m7秒くらいだったけど、体感今の速度は全力でチャリをこいだときと同じくらいだ。

…本当に『属性』は出来ることが多いようだな。

武器を生成して、普通に攻撃して、身体強化まで出来る。なんでもありだ。

「なぁ」

「どうした。まだ君の『属性』の力を見せて貰いたい。中断は出来んぞ」

「分かってるよ。ちょっとさ…あんたの『属性』に俺のをぶつけてみて良いか?」

「…何?」

「なんとなくだけど…『属性』で作られたこの空間は本来の鉱物よりも強度が増している気がするんだ。だからあんな弱い瓦礫や的じゃなくてもっと堅いものを壊してみたいんだ」

まだ『属性』の威力調整はうまく出来ないけど、普通に火を扱うのとは訳が違う威力を出しているのは理解できる。

だけど昨日今日とこの空間は傷ひとつ、焼け跡一つ付く気配がない。

そしてそれはこいつの『属性』。他の『属性』に俺の『属性』をぶつけれるようになってみたらもっと気づけることがあるはずだ。

「…いいだろう」

男は少し考えたのち頷くと俺の方に手を向けた。

すると俺を囲むように石柱が床から連続して生えてきた。

まずい、このままじゃ!

「ちょっ、待て待て待て!」

俺の叫びは聞き入れてもらえずドーム状になった石柱に閉じ込められてしまった。

「おい!どういうことだ!ここから出せ!」

「問題ない。これはあくまで研究だ」

「…はぁ?」

「君はその『属性』を使いその空間から脱出するのだ。空気に関しては問題ない。多少の穴は開いている」

「そ、そういう問題じゃない!もし俺が出られなかったらどうするんだよ!」

「反応が確認出来なくなれば石柱は取り払う。君が自滅でもしない限り死ぬようなことはない」

「…そうかよ」

そっちがそう来るなら俺は好き勝手させてもらおう。

俺は普通に『属性』で生み出された物質を的にしたいとかそういう意味だったんだがなぁ。

「んー…うわ、堅いな」

とりあえず素手で叩いてみる。とても堅い。本当に壊せるのか、これ?

しかしやらない事にはどうしようもない。やれるだけやってみよう。

囲まれているのもあって周りのことは気にしなくてよさそうだしな。

「よしっ、『炎拳』!」

炎を手に纏わせる。『炎脚』で分かったのは『属性』を纏わせると身体強化が出来ること。ならば『炎拳』にも同じようなことがあるかもしれない。

「おらぁっ!」

全力で殴ってみるがびくともしない。

「いったぁ…マジかよ」

…どうしたものか。今出来ることを全てぶつけてみよう。それでも無理なら他の方法を考えるまでだ。

「『炎脚』!どっせい!」

全力で蹴ってみるが効果は無し。足に振動が伝わって痛いくらいだ。

「次!『バースト』!」

壁に手をかざし『バースト』を発動する。

確か最初はこれを移動手段ではなく攻撃手段として使った記憶がある。

しかし、少しだけ揺れヒビが入るものの効果はあまり見えない。

「まだまだ!『生成:ハンドガン』!」

俺は昨日と同じようにハンドガンを生み出す。これは生成したときに込めた自身のエネルギー量で総弾数が決まるようだ。

今は12発分のエネルギーで生成した。

「壊れろ!」

俺は同じ箇所に12発命中させる。しかし傷が付いただけだった。役割を終えたハンドガンは霧散する。

「だったらこれだ!『生成:ランチャー』!」

ゲームや映画でよく見る最強の兵器。これが今出来る最高火力だ。

「ファイア!」

肩で構え、気合を入れ撃つと巨大な炎弾が発射される。

石柱に着弾すると強い衝撃を起こし爆発する。

「うっ…」

衝撃波に反射的に腕で目を覆う。

「…やったか?」

腕を外すと今までで一番ヒビが入った。

「ちくしょう…もっと入れよ」

現状やれることはやった。ここからは新たに手段を考えなければ。同じく『ランチャー』を撃ちたいところだが、あれはかなり疲れる。

もっと手軽に『火属性』を打ち出せんかな。適当に投げたりとか…よし。

「『炎球』」

ハンドボール程の炎の球を手に作り出す。

「おぅらっ!」

壁に投げつけ、当たると『バースト』よりは弱い爆発を起こした。

今まで使ってきた技よりもエネルギー消費が少ない…気がする。

あまり感じないが『属性』を使った直後は少しだけの疲労感がある。

ただ『炎球』はそれが一番小さい。

「これなら連続で使ってもよさそうだな『炎球:10連』!」

そう叫んで『炎球』を投げて生成、投げて生成を10回する。

するとずっと攻撃を食らい続けた石柱は大きくヒビが入っていた。

よし、この調子ならいける。

「なっ!?」

…そう思った直後、石柱のヒビは直っていく。

きっとあいつがヒビの部分に新たに『属性』で修復したのだろう。

「マジかよ…」

ということは一撃の瞬間火力で破壊しないとここからは出られないってことかよ。

そうなるとキツイな。今のところ一番火力があるのは『ランチャー』、それに次いで『バースト』だ。

それでもヒビがある程度入るくらい。

それにあれを連発すると…どうなるかは分からないがよくない気がする。

「どうしたもんかなぁ…」

今以上の火力を出せる技を考えなければ…。

そういえば…初めて『属性』を使ったとき、『炎拳』から派生して何かを発動した記憶が朧気ながらある。

もしかしたら…それならこの状況を何とかできるかもしれない。

思い出せ…あの時俺はどうした?

初めて『属性』を行使した時の体の奥から出てくる熱い感覚。

あれを再現できれば…。

「やってみるか…『炎拳』!」

ドームの中心に立ち俺は叫ぶ。

さっきよりも『炎拳』に対してかけるエネルギーを増やす。

あの時みたいになり振り構わない、敵を消し飛ばすことをイメージして。

「…来たっ!『炎陣』!」

なんとなく思い出し、同じように行動をする。

『炎陣』を発動すると俺を中心に炎の円が広がっていく。

そしてその円がドームの端まで到達した時、次に何をしたかを思い出す。

「確か…『炎拳』を埋め込んだよな…セイッ!」

俺は先程以上に溜めた『炎拳』で足元に拳を入れる。

すると床を抉り、『炎拳』状態の腕はめり込む。

その瞬間、徐々に『炎陣』内を炎が埋め尽くしていく。

…まるで地獄絵図だな。まぁいい。この次は…。

「爆ぜろ!『イラプション』!」

俺が叫ぶと、床全体が眩い光を発する。そして轟音を立て、巨大な爆発を起こした。

『バースト』や『炎球』『ランチャー』では比べ物にならない巨大な爆発。

まるで火山の噴火だ。

爆発が止み、辺りを見ると先程まで俺を閉じ込めていた巨大なドームは粉砕されていた。

「お、出来た」

何とも言えない声が出てしまった。

『属性』を行使しすぎたせいか、どこか頭がふわふわしている。

疲労感を通り過ぎて、気分が良い。

「どうだ!出れたぞ!」

俺は研究者たちの方を向く。やってやったぜという気持ちで見てみると、男以外は茫然とした顔をしていた。

「…どうした?」

「い、今の爆発は何!?」

織原が勢い良く駆けてきて、俺の両肩を掴む。

す、すごい気迫だな…。

「ん?普通に『属性』を使っただけだが?」

「それは分かっている!どうやってあんな威力の爆発を起こす事が出来たって聞いているのよ!?」

「『属性』の上手い使い方を思いついたから、何とかしただけだ」

俺は別におかしなことではないという感じで答えていると、研究者たちは黙ってしまった。

…何か変な事を言ったのか、俺?

すると男が口を開いた。

「君が破壊した私の『属性』によって生成された石柱は通常兵器でも破壊されることはまずない。並の戦車、軍艦の砲撃ですら防ぐ」

「へぇー…で?」

男の発言にそれだけしか反応できなかった。

冷静に考えると兵器の砲撃を防げるのはとんでもない硬度をしているはず。

それでもなんでか反応が薄くなってしまった。自然と驚きがない。

「で、しか反応が無いの?」

「んーまぁ…なんか気分が変なんだ。多分『属性』の使いすぎだと思うんだ。なんか聞きたいことがあったら、ちょっと休憩してからでもいいか?」

「え、えぇ。良いわよね?」

「…構わない」

織原らの許可も取れたから俺は自室(仮)に戻る。

無意識的に人から離れようとする行動をしている。

しかし気付く事はない。いや気付けない。

これがいつも通りの自分だと考えているからだ。


あの破壊力…かなり使いこなして来たな。私の石柱を破壊した奴は彼が初だ。

「ふっふっふ…その調子だ」

「あなたが笑っているの、初めて見たわ」

「…そうか。私は笑っていたのか」

「自覚無かったの?」

織原が変な目で見てくるがどうでもいい。

最初から予想は出来ていたが、彼の『属性』は今までとは比べ物にならないほどの力を持っている。

どうしたらあれほどの出力を出す事が出来るんだ。

私は手元の装置が示す値を見ながらそう思う。

これは『属性』の出力エネルギーを検出するものだ。

今までの研究で最も高かった値の8倍以上の値が出ている。

…しかしこれだけ『属性』を行使したならば、あれが来るだろう。


「はぁ…はぁ…」

自室(仮)に戻り、ベッドに横になる。

気が抜けたせいか急に疲労感と息苦しさが来た。

「な…んだよ…これ」

死ぬんじゃないかという気持ちが精神を蝕んでいく。視界も薄れていく。

…怖い…死にたくない。

『属性』を手に入れた時と同じような死神に迫られるような感覚。これを手に入れたからもう感じることなんてないと思っていた、この感覚。まさかその『属性』で再度味わうことになるなんて…。

「ほ…んとに…い…きが…」

まずい…全身から力が抜けていく。なんとかしないと。

そうは思うが体は動かず、目も見えない。

こんなことで…死にたくない。『生きたい』…。


「彼を放置しておいて大丈夫?」

「問題ない。私も使い始めてすぐのころに同じ状況を経験している」

「いやそれは知ってるけど…あれは…貴方よりも酷くない?」

「やもしれんな。しばらくは続くだろう。あの姿に苦しむのなら離れておくといい」

部屋に設置されたカメラを見ながら彼を心配するように織原が言うが、あの程度でくたばってもらっては困る。

私の望みを彼に託すならばまだ『属性』の限界を広げてもらわねば。

それでも彼の症状が私よりも酷いというのは確かだ。

しかしそれはすでに彼の『属性』の規模は私を抜いていることを示している。

それならばここは乗り切ってもらわねば。

『あ…っがぁ…』

なんとかして力を振り絞ろうとする彼には諦めが見られない。

これまでにないほどの苦しみが襲っているにもかかわらず負けず戦う姿勢、流石だ。

…彼には伝えていない『属性』に関するものはいくつかある。

これが『属性』の行使による副作用。

『理性の欠落』が進行していたからというのもあるかもしれないが、根本的に彼は考えないのだろうか。

あれほどの破壊力を持つ『属性』の出所を。


「まだ…死ねない」

俺は普通に『生きたい』んだ。

元はと言えば俺は悪い事をしていない。ただクソッタレな奴らから人を助けようとしただけ。

それなのに今の情報社会に追われ、マスコミに迫られ、今や訳の分からない状況で苦しんでいる。

「そんな…世界なんて…」

―――ぶち壊してやる―――

「アッガァァァッッッ!!!」

入らなかったはずの力が一瞬でみなぎり、腕を伸ばす。

「消えろ!」

そう叫んだ直後、体中に復活した力の全てが腕に集中し発射される。

『火属性』の塊は部屋の天井を、施設の天井も貫通し、そのまま山の岩石・土を焼失しながら突き進んだ。

ベッドから綺麗な直線の穴が山に開くと月が見えた。

…今は…夜なのか。

ここに戻ってきたのは4時だった。…一体何時間苦しんでいたんだ。

そう思うと先程までの苦しみがなくなった。

なんでだ?さっき打った『火属性』の塊のおかげか?

…まぁいいや。とりあえず楽になったから、一旦部屋から出るか。

「…そうだ、今何時だ?」

枕元に置いてあったスマホを開き確認する。

「11時か…は?」

俺は驚いた。スマホに書いてあった時間ではない。

日付だ。そこにはあの時から3か月後の日になっていた。

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