第2話 変化する周囲
「功次ー!朝だよー!」
「…ん」
母さんの声で目を覚ます。まどろむ視界のままスマホをつけ時間を確認する。
家を出る30分前。いつも通りの学校がある日の朝だ。
「ごはん置いとくから食べなよ」
「…うい」
ロフトベッドから顔を出し下のある机に朝食を置いて出ていく母さんを見る。
そこはいつもと変わらぬ日常だ。
ただそこで違うものは…
「やはり夢ではないか」
ロフトベッドから降り、自分の指に意識を向けてみる。そこに蠟燭の火のような小さな火が灯る。
もしかしたら俺の夢でだったかもしれないと思ったがそんなことはなかった。
改めて見ると変な感じだ。この現実において魔法のような、超能力のようなものはまず存在しない。どんなマジックにもタネはある。だがこれにはタネも仕掛けもない。誰も証明できぬ事象が目の前には起きている。
「あいつらに言った方が良いかな…」
高校生活においてずっと共にいる以上真式と結朔には言っておくべきかと考える。
いろいろ考えながらも朝食を食べ終わると
「兄さん、ちょっと来て」
「ん?」
リビングの方から愁那の声が聞こえる。何かあったのだろうか。
「どした?」
「テレビ見て」
言われた通りテレビの方へ目を向ける。そこに映っているものを見て驚愕した。
「これ…は…」
いつもであれば面白いものがあまりやっていないので見ることはないニュース番組。しかし今回は違った。
「昨日の兄さんだね、これ」
そこには愁那が昨日見せてくれた俺の戦闘が映っていた。
その映像を見た出演者は驚いている者、編集では?と意見を言う者と様々だった。しかし実際にその現場では爆発が起き、地面が抉れている以上否定しきれないようだった。
「テレビデビューだね」
楽観視しているように愁那は言うが、俺の中は大災害だった。
ニュースで出た以上、SNSを見ないような人も見ていることだろう。
あの時が私服であれば俺の知り合いしか気づかなかったかもしれないが、学校帰りだ。もちろん制服だし、俺のリュックが映ってしまっている。俺のリュックは誰も使っていない登山用のリュックだ。このリュックを見ただけで俺だと判別できてしまう。
「ま、気を付けてね」
すぐにテレビから意識を変え、手に持つ食パンに意識を向ける愁那。
こいつ…他人事だからって…。
しかしここであーだこーだ言ってる暇はない。着替えて用意したら家を出なければならない。
とりあえず着替えてたりで支度を済ませて家を出る。
駐輪場に自転車を止め、バスに乗る。ここまではいつも通りだった。
だがバスに乗った瞬間視線を感じる。きっとニュースやSNSを見たやつらだろう。リュック、髪型、制服。これらの条件が揃えば間違いがないだろう。
ただここでどうこう言うような輩はいない。多分だがここで俺に何か言い、本人だった場合殺されるとでも思っているのだろう。
変に気にしすぎてもよくないので、いつも通りスマホでゲームをしようと考える。
そこであることに気が付いた。とてつもない量のRINEのメッセージが来ていた。
それは真式、結朔、中学時代の友達、高校のクラスグループからだった。
今まで3桁の通知なんか来たことないのでギョッとする。
全てに反応していたらきりがないし、面倒なので真式と結朔のだけ対応する。二人とも同じ内容で「あれは功次か」というものだった。
否定しても意味ないのでただ一言「うむ」とだけ言った。細かいことは直接言った方が良いだろう。
あっちもそれを汲み取ってか「分かった」とだけ返ってきた。
周囲の視線を無視しながらイヤホンをつけ、スマホでゲームをする。
40分ほど乗り、降りるバス停に着く。
いつも通りの動きで降りようとしているのに、大量の視線が注がれる。気づいていないとでも思っているのだろうか。
「…疲れるわ」
そこまで気にすることはないが、流石に疲れる。確かにこうも注目され続けると皆殺しにした方が楽かもな。
そこで自分の変化に気づく。この特殊な状況による精神の変化か能力の影響か分からんが、若干殺伐とした思考になっている。そういえば能力が覚醒した時も「皆殺しだ」と言った記憶がある。
少なからず俺にも変化が起きているのかもな…。
「…とりま行くか」
バスを降りてもなお、町の人の視線を感じながらも学校へ向かった。
「おい、功次!あれは一体どういうことだ!?」
「世垓くん!あの力は何!?」
案の定学校に着き教室に入るとえげつない量の質問攻めにあった。日頃こんなに俺の周りに人が集まることはないので対応に困る。
「お…おう…」
バス内のやつらとは異なり、こいつらは俺の性格をある程度知っているからガンガン聞いてくる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ…」
俺が対応に困っていると
「お前ら!離れた方が良いぞ」
後ろから聞きなれた声が飛んでくる。これは真式か。
「真式に結朔じゃないか。なんでだよ?」
クラスメイトの一人がそう言う。
「功次はな、詰め寄られてストレスが溜まると何をしでかすか分からんぞ。今は皆が見た通り特殊な力を持っている。それ即ち下手に刺激を与えるとここにいる全員死にかねないというわけだ」
つらつらと述べる結朔。高校で共にいる二人の言うことだから、みんなも黙ってしまった。
そんなことはしないが…結果的に一旦解放されて助かった。
「サンキューな」
「まぁ皆の気持ちもわかるがな」
そんなこんなしていると担任が来て教卓に着く。それを見て皆、席に着く。
「おはようございます。きっと皆なにか思うところがあるかもしれないけど、授業は真面目に受けましょうね」
そう言うと俺の方を向き
「世垓くん。この後ついて来てもらえる?」
「あ、はい」
まぁそうなるだろうな。流石に知らないわけない。怒られないといいがな…。
「じゃあ、一時間目の用意をして待っていてください」
その言葉で皆準備を始める。俺は先生のもとに行くと
「ちょっとついて来て」
先生に連れられ向かった先は生徒指導室だった。
マジか。怒られる系か、これ?
「先生って指導の担当じゃないですよね」
「そうね、私は生徒指導部ではないわ。でもその生徒指導部の先生はもう中にいるわ」
そう言って扉を開けると、高校の先生が勢揃いだった。
校長、教頭、生徒指導、担任と豪勢なこった。
「とりあえず座れ」
生徒指導が隣に空いた席を指差す。他の先生も黙っているので空気が重い。まるで犯罪を犯して尋問されているみたいだ。事実4人消したことに変わりはないが…。
「単刀直入に聞こう。これは功次、お前か?」
大人しく座るとスマホで動画を見せてくる生徒指導。それはネットやニュースで流れていたものと同じであった。
ここで否定しても意味がない気がする。どうせいつかはバレる。もし真実を言って、警察引き渡しとか退学とかいう面倒なことになりそうだったら、最悪…脅す。
「それは俺です。実際に力も使えます」
指から小さく火を出す。実際に見た先生たちは驚いた顔をしている。
家族は驚くことがなかったので、改めてあの人たちがおかしいことを自覚する。
「分かった。じゃあこの騒動の発端を教えてくれ」
細かい内容は知らないのか。偽りなく伝えて責め立てられたりすると面倒だが、素直に言おう。
「分かりました。昨日…」
俺は昨日の出来事の全容を話した。真式と結朔と遊んでいたこと。帰りに女学生が襲われていたこと。それを助けようとしたこと。そこで力を使えるようになったこと。
「…なるほどな。何が起きていたかはよく分かった」
静かに聞いていた生徒指導の先生は俺が話し終わるとそう口を開いた。そこに負の感情の空気は見受けられなかった。
「…俺はこれからどうなりますか?」
現状不安なことを聞いてみる。能力どうこう以前に普通の生活を送れるかが俺にとっては重要だ。
「それは校長先生から」
生徒指導は俺から校長に視線移すと、校長は頷く。
「…功次君。君が意図してこの状況を作ったとは私達は思っていない。日頃からいろんな教師の手伝いをしているという話は聞いていた」
「はぁ」
「私達は君をこの学校から追い出すようなことはしない。その力で本校の生徒に危害を加えたり、国などから法的処置がとられるようであるならばこちらもそれなりの対応をするが、現状は退学などはしないよ」
「マジっすか」
その言葉を聞いて安心した。俺もこの力を実力行使には使いたくない。特に俺に敵意がない人たちには。
「先生達が君に嫌な対応をする事はない。相談などがあれば気兼ねなく言ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺は立ち上がり深々と頭を下げる。この学校の対応は本来、世間的に見れば不正解だろう。しかしこの対応をしてくれたということに感謝しかない。
「もう授業は始まっているだろうから早めに戻りなさい」
「はい。ありがとうございます」
改めて礼を言って生徒指導室を出た。
「校長先生。あれでよかったんですか」
功次が去ったあと先生達は再度考えていた。
「あの映像を見て、今日の朝にしっかり会議をしたでしょう。ここで彼の言葉と様子を見て判断をしたんです」
「我々も彼には助けられたことは多くあります。ですがこの判断をしたということは後に世間からの批判を買うこととなりますよ」
心配そうに教頭は言う。実際この対応は間違っているだろう。それは功次でもわかっていた。
「…確かにそうでしょう。しかしどのみち彼にはすぐに沢山の苦難が押し寄せてくると思います。事実ほんの10時間ほど前にもかかわらず既に世には広まってしまっている。功次君を知る生徒達はあれで功次君と判断出来た。今の世の中ではすぐさま特定されてしまいます」
「だから言っているのです。本校の生徒だと分かれば何故いまだにここに滞在させているのかと…」
教頭の言葉を遮り校長が口を開く。
「だからこそです。生徒が楽しく元気に過ごせる環境を提供するのが我々教師のやること。それは彼も例外ではありません。これで私が酷評されようと、この一瞬だけでも彼が平穏を感じられるのであればそれは私の本望です」
力強い校長の言葉に教師たちは何も言えなかった。
「よう」
何事もなかったかのように教室に戻ってくる。俺をクラスの奴らからの視線は朝と変わらぬがそこに敵意や恐怖などの負の感情は全く感じない。
「功次、どうだった?」
自分の席に座ると小さな声で隣の結朔が聞いてくる。教科担任が俺の方をちょこちょこ見てることに気付いてないんかな。
「今のところ退学にはならないそうだ」
「そりゃよかった。他にはなんて?」
「俺がここで力で問題を起こしたり、国が動いたりしない限りは大丈夫だそうだ」
「なるほどな。まぁお前なら大丈夫か」
俺ら小さな声で話していると
「二人ともーちゃんと授業受けろー。課題増やすぞー」
教科担任に気づかれた。おとなしく授業を受けることにした。
「つっかれたー…」
「お疲れさん」
今日の授業が終わり机に伸びる俺の肩を真式がポンポンと叩く。
一日中クラスのやつとか去年のクラスの友達とか野次馬とかの質問攻めに遭い続けた。自分のことじゃないからそんなに聞かなくてもいいのに…。
「なんか尋常じゃなく今日が長く感じた」
「そりゃそうだろうな。特に今までお前がこんなに注目を浴びることないもんな」
「否定できない俺の陰キャ度…」
いつもと変わらず話せる二人に安心する。この二人には周りよりも詳しく俺の状態を伝えてある。こいつらが変に変わってたら流石に堪える。
「そろそろ帰るか…」
今日は疲れたので家でぐっすり寝たいな…。
「じゃあ行くか」
席から立ち上がり教室を出て校門に向かう。ここまではいつも通りだったのだ…
「な、なんだ…あれ…」
結朔が指差す方は校門だ。しかしおかしいのは滅茶苦茶人が集まっているという事。
明らかに学生ではないスーツや普通の服を着た人、マイクを持った人、カメラを持った人がいた。もしかして…あれって…
「…あれマスコミか?」
「…だろうな」
真式の言葉であの人たちの正体が確信に変わる。
早くも俺の平穏は失われるようだ…。
「まさかこんなにも特定が早いとはな…」
「これだからSNSは嫌いだ」
「まぁ、あそこまで堂々と世に広まっちゃえばなぁ」
どうする。あそこを出なければ俺はバスに向かえない。
「……」
自分の手を見て力を考える。
確かにこれは驚異的な力だ。簡単に人を殺めることが出来る。しかし俺はそう使いたくない。必要であれば使うかもしれんが、それは俺や身の回りの人間に危害が加わるときだけだ。
「…脅すか」
『え?』
ふと口にしたことに二人が疑問の声を出す。
「別に実力行使をするわけじゃない」
「じゃあどうするってんだよ」
「まぁ任せとけ」
そう言い校門に歩を進める。後ろから心配そうに少し離れながら二人がついてくる。
少し離れててくれて助かった。俺がやりたいことがスムーズに出来そうだ。
焦らず冷静に前に進む。下手に心が暴れると、能力が何を仕出かすか分からない。
「おい、あれだ!」
一人の記者が俺に気づくと声を出す。それに合わせて周りの奴らも俺を見る。
なんで気付いたんだ?あの映像で俺の顔は正確に映っていなかったはずだが…
少し考えると一つ思いつき俺の背を見る。
そうか。このリュックか。
学校に登山用リュックで来る奴は少ないだろうしな。映像と同じ形状、色であれば判別は簡単か。
「あの力に関しては…」
「意図して使うことが…」
「その力の目的に関しては…」
校門の前にいた記者たちは高校の敷地に入り、質問の数々を投げかけながら俺に詰め寄る。
許可なく学校の敷地に入ることは禁止されているのでなかったか?
「ふぅぅぅ」
腕を前に出し息を大きく吸い、叫ぶ。
「待ぁぁぁてぇぇぇっっっ!!!」
俺の声は大量の質問をかき消し、周囲に木霊した。それに怯み記者は黙り立ち止まる。
よし、効果てきめん。
「よーく聞け、人のプライバシーを気にしない愚か者よ」
俺の出方を窺っているのか全員声を発することはない。
「お前らは知っている通り俺には力がある。この場にいる全員を簡単に消せる力がな」
「…それが…どうしたんです」
一人が重い口を開ける。度胸があるやつもいるな。
「今から関わろうとしているのはこの力と相対する覚悟があるということだな」
『…え?』
その場にいた全員が唖然とした声を出す。
それと同時に俺は自分の家の方向に背に向け、手を斜め下の方向に向ける。
「『バースト』!」
俺の声で手の先から爆発が起こる。それは昨日と同じ力の使い方だ。しかし昨日よりも強く爆発を起こす。
この火力を見れば、十分の脅しになると踏んだ。
「この力を喰らえるほどの覚悟を持ってから俺と接するんだな!」
吹き飛びながら記者たちにそう言う。後ろにいた二人は俺の行動を笑っていた。
「まさか、ここまで広まっているとはな…」
『バースト』で吹き飛んで上空まで飛んできて地上を見る。学校の敷地内からだと見えなかった光景が映る。
高校を取り囲むように車が並んでいた。きっとあのマスコミのものだろう。
「こうなってくるといつもの生活は送れなさそうだな…」
ここからは修羅の道となりえることを理解する。
どこに行ったのだろうか…俺の平凡な日常は…。
「…っと、あぶねぇ。『ブースト』!」
体が吹き飛ぶ力を失い重力に従い地上に向かいかけるとき、『ブースト』を発動し落ちないようにする。昨日よりも出力を上げれば落ちることはなく滞空することが出来る。そのまま自宅の方へ帰ることにした。
「なんだ?あれ」
自宅の上空まで着くと家の前に知らない車が二台止まっていた。
警察だったらパトカーだろうし、学校前にいたマスコミとも違う。ただ明らかに一般車では見かけないような変な車がある。
「どうなってんだ?」
気になり、親に聞いてみようとスマホを開くと、大量の通知が来ていた。マナーモードにしてて気づかんかった。
「何が起こってる?」
親に電話をして現状を聞いてみる。あちら側からかけてこれるということはこちら側からかけても問題ないということだ。
『功次、無事!?』
切羽詰まった声で母さんの声が飛んでくる。
「俺は大丈夫だけど…家の前に変な車が止まってる。ありゃなんだ?」
通常であったらそこまで気にするようなことではなかった。『何か変わった車が停まっているなぁ』で終わったはずだ。
だが今回は違う。こんな能力を持っており既に世に知れ渡ってしまっている。学校でもマスコミが聞きつけて来ていた。
こんなことが重なればあの車も偶然ではない。絶対に俺に関係することだろう。偶然も連続すれば必然となると同じことだ。
『なんか功次を出せって言ってるんだよね。なんかその火を操れる能力を研究したいって…』
「なーる。まぁ予想できた範囲だな」
この能力で俺に生活に与える影響は何があるか少し考えたが、その中の一つに『能力の研究』があった。
明らかに通常人間が出せるような力ではない。必ずそういった研究機関俺をどーのこーのすると言ってくると予想出来ていた。
『…どうするの?まだ帰ってきてないから帰れと言ったけど…帰って来るまで待つって言われちゃったんだけど』
「そうだなー…」
やろうと思えばこの上空から車を破壊することは可能だろう。
しかし故意的に人を殺すようなことは出来る限りしたくない。
「とりあえず裏口を開けといてくれ。そこからこっそり入るよ」
『…分かった』
家には狭いが裏口が一応存在する。そこを開けてもらえれば気づかれずに入る事は出来る。
ただどうやって地上に降りたもんか…真正面から降りることは出来ん。
普通に悪いことだが自宅の後ろの人の家の柵越えて裏口に入るしかないか…。
「…すんませーん」
音をたてないように後ろの家の敷地に降りてバレないように柵を越え、自宅の敷地から裏口に入る。
「何とかなったんだね」
「あぁ、何とかな」
この力、隠密には向いてないな。
まぁ爆発とかの派手な使い方しか思いついてない俺も俺なんだが…。
「…で、これからどうするの?」
母さんの質問にどう答えるか悩む。
俺的には出来る限りは家族に迷惑はかけたくはないんだが…この力を持っている限りそうはいかんだろうな。
…ん?待てよ?この力が無くなれば俺は今まで通りの日常を送れるんじゃないか?
そう考えたら俺を研究してもらうのも悪くないか?
最悪危険に遭いそうであれば惜しみなく力を使って逃げればいいだろう。
「ちょっと思いついたんだけどさ…」
「どうしたの?何か思いついた?」
俺は思いついたことを母さんに話す。
別に何か確証を持って言っている訳ではないが、やらないよりかはマシだろう。
どのみち俺が出るまであぁいう研究者タイプは帰らないと思う。
変に断り続けて家族に手は出されたくはない。
「まぁ功次が決めたんなら別にそれでもいいけど…普通の研究機関ではないと思うよ?功次の能力を研究するということは功次を研究するのと同じ、すなわち人体実験に近いかもしれないんだよ」
心配した顔で母さんは言うが
「大丈夫だ。何とかなる」
「本当に大丈夫?」
念を押されて一瞬不安になるが、ここで折れてはならん。
「大丈夫だ、絶対に帰ってこれる。信じてよ」
俺が強く押すと流石の母さんも退いてくれた。
「功次がそこまで言うなら、もう何も言わない」
「そりゃどうも」
「でもこれだけ守って」
「ん?」
「…絶対に生きて帰ってきて」
「…あぁ」
父さんと愁那には何も言っていないが、母さんなら何とか言ってくれるだろう。
「…じゃあ行ってくるか」
「……気を付けてね」
玄関の方へ向かい、その変な奴らに会いに行く。
後ろから母さんもついてくるが少し離れてもらう。
もし俺を殺して連れて行くとか言う時は何を持ってくるか分かったもんじゃない。
いくら力があろうとも肉体はあくまで人間だ。銃なんか当たれば大ダメージだ。
その防御力を補える使い方も考えないとな…。
防御と言えば鎧だよな…こう、炎を鎧みたいに着れないかな。
でも炎は固体じゃないから着るというよりかは纏うってのが正しいんかな。
しかも固体じゃないってことは銃弾も貫通してしまうな。まぁ後々考えるか。
「じゃあ行ってくるよ」
「改めて聞くけど大丈夫?」
「あぁ、あっちから俺を求めてきたんだ。いろいろ条件を付けてやる。充分俺の安全が得られるようにな」
そう言って玄関の扉を開け車に歩を進める。俺に気づいたのか車の扉が開き白衣を着たいかにも科学者ですみたいな男が3人、女が1人、それの護衛か4人の屈強な男がそれぞれの車から出てきた。
「君が噂に聞く超能力者か?」
一人の男科学者が前に出て聞いてくる。若干威圧的な声だ。
警戒しているのか俺が怯むようになのか…はたまた素なのか…。
こういう時に冷静でいられるメンタルを持ってて良かった。
「超能力かどうかは分からんが、多分俺んことだろう」
下手に挑発をするのは良くないかもしれないが、負けないように強気の姿勢を取る。
「…一度力を見せてもらっても構わないかしら?」
唯一の女科学者はそう言う。先程の男みたいな威圧的なものは感じられない。
この提案も俺が本物であるかどうかを確かめるために言ってきているのであろう。
いつも力を持っていることを見せるときは指から蝋燭のような小さな火を出すが今回は威嚇がてら腕を上にあげ大きな炎を出す。
「…これがっ」
「…とても人間とは思えんな」
各々が驚いた表情をしているがあの女は表情一つ変えなかった。
「ありがとう。消してもらって構わないわ」
言われた通り消す。この女、他とは少し違う感じがするな。
「で、この場に来たということは我らに協力するということでよろしいな?」
「あぁ」
「では、早速ついてきてもらう」
振り向き、車に乗り込もうとする男に俺は
「待て」
と、制止をかけた。
「…なんだ」
また威圧的な目で俺を見てくるが臆せずに俺は口を開いた。
「俺があんたらについていくのは構わないが、それには条件を付けさせてもらう」
「…何?」
予想していなかったという顔をしている。ここまで突っかかってくるとは思わなかったんだろう。
「問題ないだろう?俺はあんたらのことを全くと言っていいほど知らない。そんなのについていくのに条件を付けない方が馬鹿ではないか?」
「…なるほど。こういった人間にこそ、力は宿るんだな」
顔に手を当て空を見て笑う男。太陽は雲一つない空の西側で俺を見ていた。
「何か面白いことでも言ったか?」
「…いや、気にするな。条件を付けると言ったな」
「あぁ。のんでもらえなかったらついていく気はないぞ」
「分かった。どんな条件だ?」
俺の考えた条件をいくつか言っていく。
一つ目は俺の体の安全を保障すること。
二つ目は家族に手を出さないこと。
三つ目は俺の了承なしに情報を出さないこと。
四つ目は俺の力を悪用しないこと。
五つ目は緊急時は惜しみなくこの力を使わせてもらうこと。
これらを言うと少し科学者たちは話し合ってもう一度俺の方へ向く。
「…分かった。条件をのもう」
かなり安全を考慮した条件を押し付けたが、意外と受け入れた。
「よし。のんでもらっちゃ行くしかない。…俺はどっちに乗ればいい?」
「君はこっちの車に乗ってもらう。しばらくは帰ってこれんかもしれんが問題ないな?」
今主体で話している男ではなく、女が下りてきた方の車を指定された。
しばらく帰ってこれんくなるのは予想出来ていたからな。多少準備はしていくか。
「一旦親に伝えてくる。少し待っててくれ」
「分かった」
扉を開けて母さんと顔を合わせる。
「どう?大丈夫そう?」
「あぁ。いろいろ条件つけてとりあえずは大丈夫そう」
「功次はどうするの?」
「あいつらについて行って、この力をどうにか出来んかやってくるよ」
俺の言葉を聞いた母さんは少し悩んだ顔をしたが、すぐにこう言った。
「分かった。お父さんと愁那には私が話をつけておく。気を付けてね」と。
その言葉を聞いて了承を得られたので、母さんに手を振り科学者の方へ向かう。
本来親としては止めた方が良いのかもしれんが、俺の家族は自分で決めたことに反対はしない。
俺もいろいろ言われるのは好きじゃないからな。家族のこの対応は俺に合ってる。
「では、行こうか」
「あぁ」
男の言葉に頷くと
「…そうだ」
と、言う。
「どうした?まだ何かあるか?」
「…そっちにアンドロイドの充電器ある?」
そんなしょうもない質問に男は
「…ある」
と、返すしかできなかった。
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