火属性を手に入れたら世界を敵に回したんだが

クロノパーカー

第1話 火属性の入手

誰しも一度は思ったことはあるのではないか。

漫画やアニメ、ゲームにある魔法や超能力を使えるようになってみたいと。

だが実際にこの世界で使えるようになってしまうとどうなるのか…。


「おはようさん」

俺は高校に着き教室に入って友達の伊波真式いなみましきに挨拶をする。

「おー功次こうじ、おはようー」

「今日も寒いなー」

そう言って手で摩擦熱を起こす。今年の冬は本当に寒い。

「本当になー特にお前、極度の寒がりだもんな」

「ホントそれ。これのせいで冬場は動きたくないんだよ」

俺と真式がそんな話をしていると

世垓せがい君。これ手伝ってもらえる?」

そんな俺の名を呼ぶ声が聞こえてきた。担任だった。

「功次呼ばれているぞ」

「えー、だりー」

「お前ってよく先生たちに頼み事されるよな」

「なんでだろうなー」

「頼んでも断られんからじゃね?」

「それだっ!」

俺の疑問を解決してくれた真式とそんな話をしていると

「早く来てもらえる?」

先生にそう急かされてしまった。

「はーい、すんませーん」

そうして俺は先生の手伝いをし始めた。教材を職員室に持っていくのを手伝えというシンプルな内容であった。しかしなぜ俺なんだか…。

「先生、なんで俺ばっかに頼み事するんすか?委員長とかでもいいんじゃ…」

「うーん、断られないから。多分他の先生も同じ理由だと思う」

「あ…そっすか…」

真式が予想した理由が合っていた。今度から断ろうかな…でも下手に断って印象やら評価が下がるのは困るな。若干自由勝手にやったり融通が利かなくなる可能性があるのか。

そんなことを考えていると職員室に着いていた。

「ありがとうね世垓君。戻ってもいいよ」

「うす」

先生からの頼みも終わったことで教室に戻った。

「ただいまー」

「おーお疲れー」

教室に帰って来ると真式がそう返した。その時真式といたのは友達の輝朝結朔てるあさけっさくだった。

「なんか話してたか?」

「いや普通に寒いなーっていうのだけだ」

「そうか」

「あっそうだ」

何か思いついたように結朔が声を発した。

「どうした?結朔」

「お前ってさ手暖かいよな?」

「うむ、まぁ普通よりは暖かいか」

「手を触らしてください」

そんな名案みたいに言う結朔に対して

「嫌だよ。お前は暖かいかもしれないけど俺はお前の冷たい手に体温奪われるだけなんだが…」

俺はそう返した。すると真式は

「結朔の次は俺な」

と言って、結朔の提案に乗り気だった。見捨てられた!?

「そんな般若みたいなこっちを見るなよ…」

「怖いよ…」

「そんな顔にするような提案をしたのはどいつだよ」

「そんなに嫌か?」

結朔の疑問に対して俺は

「そうだよ、俺は冷たいのが嫌なんだよ」

と返した。冬場にアイスを食っている奴の気が知れない。

「そうか、でも一度だけ…頼む!」

そう言って結朔は土下座をした。そこまでしてなのか?

「ま、まぁそこまで言うなら…」

そうして俺はずっと摩擦熱で温め続けた右手を結朔に差し出す。

「サンキュー!」

俺が受け入れると結朔は俺の手を握る。冷たっ!

「暖かいな~」

「いいなー結朔。左手空いてるし俺も握っていいか?」

真式が物欲しそうな顔で俺の左手を見てくる。

「はぁ~、いいよ」

俺は諦めて真式に空いていた左手を差し出す。

「助かるぜ~。いや~暖かいな~功次の手は」

真式の手もとても冷たかった。それよりも何故俺は男二人と手を繋いでいなければならないのか。

そんなこんなでいつもの平凡な一日がスタートした。


「ふぃー今日も学校乗り切ったー」

今日最後の授業が終わって俺はそう言葉をこぼす。別に学校は嫌いではないが面倒くさいと思うのはどの学生もそうだと思う。

「よーす、お疲れー」

真式はそう言いながら結朔と一緒に俺の方へと来る。

「今日どっか遊びに行かね?」

結朔が提案してくる。今日は何の用事もないはずだ。

「いいぜ」

俺が返事をすると真式は

「よーしどこ行くよ?」

と聞いてきた。そこで俺は常々誰かと行きたいと思っていた場所を提案する。

「近場の都会とかどーよ?」


「じゃあさっそく行くぞ!」

『おけーい!』

学校を出た俺らは都会に来ていた。やはり都会はいろんなものがある。

「ここに来たはいいけどお前らはどこに行くんだ?」

「そうだなー俺はスポーツ用品を見たいな」

「俺はアニメグッズ買いたい」

結朔の質問に真式と俺は別々のところを希望する。

「そう言うお前はどこ行きたいんだ?」

俺が意見を言っていない結朔に聞くと

「俺はスポーツ用品を見るか、アニメグッズ見るかで悩んでいたから、両方行くならついていくぜ」

俺らは全員アニメも好きだし運動も好きだからこう言うことがよくある。俺はアニメ寄りで真式は運動寄りだが。

「分かった。まぁ時間もあるしのんびり行くか」

「どっちから行くよ?」

真式の質問に少し悩む。スポーツ用品を見るよりアニメグッズを見て回る方が時間かかりそうだな。

「まずはスポーツ用品を見ていこう。俺がアニメグッズ見る方が時間かかりそうだ」

『おけーい!』


都会ってすげーなーと見渡しながら歩いていく。ここまで高い建物郡をどうやって作るのだろうか。

そんなこんなしているとスポーツ用品店に着きいろんなものを見て回った。

「このバットどうよ」

「なにそれ、だっさ!」

面白そうな物。使いやすい物。いろいろ置いてある中、俺は一つの物に目が留まった。

「なんだ?これ」

俺が手に取ったのは登山用品の赤い手袋であった。

元々親と登山に行くこともあるのでここを見ていたが、何故か気になった。

「うーん」

このどこに俺が惹かれたか分からないが、ここまで気になるということは何かあるのだろうと買ってみることにした。


「お前らは何か買ったのか?」

店の外に出てお互いが買ったものを確認する。

「俺らは何も買ってないぞ」

「そういうお前はなんだそれ?手袋?」

俺の袋の中を覗き込んだ結朔が聞いてくる。

「なんか気になったから買ってみた」

「寒かったからじゃね?俺も買っておけばよかったな」

「あー」

この時の俺は本当に寒かったからだと思っていた。


「じゃあ俺らはこっちの方を見ているよ。お前も買い終わったらこっちに戻ってこい」

「あい」

アニメショップ内で二人と離れ、俺はフィギュアの方へ来た。

好きなアニメのキャラを買いたいのだが…

「あれ?」

いろいろ見回りながら、目的のフィギュアを見つけたが俺が欲しいと思ったのは隣に置いてあった同じ作品のイメージカラーが赤色のキャラだった。

「んー」

別にこのキャラも嫌いではないのだが…日頃と異なる自分の感性に違和感を持ちながらも、そのフィギュアを手に取りレジに向かう。

「どうもー」

そこそこの値段がしたが、その時の俺が欲しいと思ったのなら後悔はしないだろう。

買ったフィギュアを持ち、真式たちのところに戻る。

「戻ったぞ。お前らは何か買ったか?」

「買ったよ。今読んでる漫画の新巻」

「ほえー」

二人の袋を見て俺が知ってるやつだーとか思っていると

「お前が買ったのはあのキャラじゃないのか?黒色の」

俺の袋を見た結朔は少し驚いている。そりゃそうだろう。元々そのキャラを買いに来ているのに他のキャラを買っているのだから。

「無かったのか?」

「いや…あったんだが何故かこれが気になってな」

「お前が赤色の物買っているのも珍しいな。さっきの手袋もそうだが…心入れ替えたか?」

二人から疑問が飛んでくるが、俺もわからないのでどう返せばわからない。

「まぁ気分だろうな。そう気にすることでもない」

「そうだな。じゃあ帰るか」

「おう」

そうして俺らは店を後にした。


「じゃあ俺らはこっちだから」

「あいよー。また明日な」

二人は電車で帰るため別々になる。別れを言い俺もバス停の方へ向かっていると

「しつこいです。離れてください」

「ん?」

突然そんな声が聞こえその方を見てみると若い男三人が一人の女学生に言い寄っていた。あの制服はここらでも有名なお嬢様学校のやつだ。

あれか?ナンパっていうやつか?

「いいじゃん。気にすることないって。俺らのおごりでいいからさ」

「いいです。興味ないので」

すたすたと男達を後に歩こうとすると

「この女、なめてんじゃねーぞ」

一人が女学生の腕を掴み、引き寄せる。

「痛いです。離してください」

女は冷静に腕を振り払おうとするが振りほどけない。

「抵抗すんじゃねぇ。こっち来い!」

「いやっ」

女学生が乱暴に連れていかれそうになる。周りの人は気づいているが無視をしているのか誰も助けようとしない。

あー、どうしようか。

「離しな。馬鹿者」

俺は女学生の腕を掴む男の腕を掴み引き留める。あー、やっちゃったな。

「んだよガキ。喧嘩売ってんのか」

男たちが俺を睨む。別に…怖くはないな。

「喧嘩は売っていない。だがこの人嫌がってるぞ。無理やりっていうのはカッコ悪いぞ」

「陰キャが勇者気取ってんじゃねーよ!」

目の前の男は拳を構え俺に向けてくる。真っ直ぐに飛んでくる拳は避けやすかった。

「こんのっ!」

「死ねっ!」

他の二人も殴り掛かってくるがまだ避けやすかった。しかし注意がそちらに向いているため俺は気が付かなかった。

「うぐっ」

俺の背後に衝撃が走り、倒れる。な、何が…。

「お前らまだかよ。良さそうな女を連れて来いって言ったよな」

そこにいたのは俺らより一回り大きい体格の男がいた。

「すみません!このガキに邪魔されて…」

一人がその現れた男に頭を下げる。この三人は手下でこの大男がボスか。先程の攻撃の威力からして素人ではない。これは…本格的にまずいぞ。

「こんなガキ一人に手こずってんじゃねぇよ」

倒れている俺の腹を蹴る。

「うっがぁ…」

「おら!おら!」

「ぐっ、がっ…」

二度三度と俺の腹が蹴られる。かなりの重さに呻き声をあげるしか出来なかった。

面倒事に首を突っ込んだからこうなったのか。正直無事に帰れる気がしない。

「お前らが後はやっておけ。俺はこの女と楽しんでくる」

「分かりました!」

男が手下三人に指示すると、三人は倒れている俺を踏んだり蹴り始めた。体力があれば抵抗できたが今はそうはいかない。既に体が激痛に耐えかねていた。

「おら、行くぞ」

「いやっ!」

女学生は抵抗しようとしているが効果がない。俺も意識が薄れてきた。

まずい…な…これ。死ぬ…か…も。

………………あ?

意識が消えゆく中、着けていた手袋が熱くなっていくように感じる。それと連動し、体の奥底からとてつもないエネルギーが湧き上がってくる。

これは…!?

それに気づいたとき俺は重い腕を持ち上げ言葉を発していた。

「『バーストッ』!」

「うっ…」

手のひらから強烈な爆発が起こり、それに巻き込まれた一人の手下の片足は消し飛んでいた。

「ぎゃぁぁぁっ!」「うわぁぁぁっ!」

男たちの悲鳴と絶叫が響く。

なんだ…これ。今は冬だ。本来は寒い。それなのに全身がとてつもなく温かい。

体に赤い炎の筋が浮き出る。

「さっきはよくもボコスカと殴って蹴ってをしてくれたな」

「ひっ…」

男たちは委縮し固まる。

「皆殺しだ。誰も逃がさねぇ」

俺がそう言うと周囲で見ていた野次馬やらが悲鳴を上げ逃げ出す。

「逃げろ!」

男たちも声を荒げ走り出す。

「見捨てるなぁぁぁっ!」

俺の初撃に片足を消し飛ばされた男も先に逃げようとする仲間に叫ぶ。

「誰も逃がさないといっただろう。『炎陣』」

地面に手を付け体にあるエネルギーを注ぎ込む。そうすると俺を中心に赤い線が円を描いて広がっていった。

「なっ!?」

その円が逃げる男たちを内に捕らえると線から赤い炎が起き炎に包まれたステージが出来上がった。

「これで逃げられないな」

「くそがっ!」

男たちは逃げられないことを知ると抵抗する姿勢を見せた。

「あんたに危害を加えるわけにはいかないな」

「え?」

俺は男たちから視線を外し女学生の方に近づく。こいつは俺の敵ではない。

「…何を…するの?」

怯えた様子で俺の顔を見る。そりゃあ怖いだろうな。

「あんたには何もしない。強いて言うなら目を瞑り耳を塞ぎな」

「は、はい」

素直に従う女学生。変にあーだこーだされんでよかった。

「何をするつもりだ!」

男たちが威勢よく声を荒げるが、その腕と足は震えていた」。

「すぐに消してやる。自覚する前にな。『炎拳』」

「何をする気だ!?」

俺は炎を拳に纏う。

「セイッ!」

その拳をコンクリートを砕き地面に勢いよく埋め込む。

拳に纏わせた炎が地面の下に広がる。その瞬間『炎陣』内の俺と女学生がいるところ以外の地面が燃え上がった。

「あ、あっつい!あついーっ!」

男たちが絶叫する。あんなにボコられたんだ。これくらい苦しめてもいいだろう。

「吹き飛べっ!『イラプション』!」

俺がそう叫ぶと燃え上がる地面が強烈に爆発した。

爆炎が消えた時には『炎陣』内の俺らがいた地面以外は抉り取られたように無くなっていた。

「解除」

『炎陣』を消す。それと同時に体の内側から溢れていた熱いエネルギーも消えた。

「寒っ」

体には先程まで感じなかった冬の寒さが襲ってくる。いったい何が起こってんだ…?

「あの…もう大丈夫ですか?」

「ん?あぁ、もう大丈夫だ」

隣で目を瞑り耳を塞いでいた女学生が聞いてきた。

「怪我はないか?」

「私はなんともないですけど…これは…」

自分の周囲をみて驚く女学生。そりゃそうだ。目を開けたら全く違う情景が広がっているのだから。

「気にすんな。無事で何よりだ」

「彼らは…どうなったんですか?」

「彼ら…あぁ、チンピラ共か」

「はい…姿が見えませんが」

女学生は心配をしていると言うよりかは不思議な状況に困惑しているようだった。

「あいつらなら…消したさ。細胞一つ残さずな」

「えっ…」

「相手の力も見極められない愚か者だった。ただそれだけだ。あんたが気負う必要はない」

「…そう…ですよね」

少し会話しているとスマホが鳴った。そこには「いつ頃に帰ってくる?」という親からの連絡だった。俺はそろそろ帰るともうちょいしたら帰ると返事を打つ。

「そろそろ帰らなきゃな」

俺が駆け出そうとすると

「待って!」

「ん?」

女学生に呼び止められた。

「名前を教えていただけないでしょうか」

「名前?なんで?」

「また出会えた時に今日のお礼をします。なので名前だけでいいので教えてください」

こうも願われると拒否しづらいな。別に教えても問題はないだろう。また会えた時と言ってもそう起こりえないからな。

「分かった。俺は世垓功次。また会ったときはよろしくな」

後々この時に名を教えたことで人生が大きく変わることをまだ知らない。

「分かりました。お気をつけて」

「あんたもな。じゃ」

俺はそこから近くの公園へと向かった。


5分ほど走り近くの公園に来た。そこそこいい時間なので人はいない。

ここに来た理由はこの突然発現した能力を使えるか確認するためだ。

先程は自然と力の使い方が分かったが今はいまいち分からない。

さっきは『炎陣』って言ったら炎のフィールドが出来たが…

「『炎陣』」

技名を言ってみるが何も起こらない。

なんでだ?少し考えてみるとあの時ただ言っただけでなく、地面に手を付け体にあるエネルギーを注ぎ込んだ。

それを思い出したので同じように地面に手を付ける。あとはエネルギーを注ぎ込むだけだが…どうやろう。

さっきは自然と出来たがエネルギーを流すって訳が分からん。

少しの間考えた結果、ある方法を思いついた。

それは自分の好きなゲームで血液を燃やす能力がいた。それと同じようにしてみよう。

そう考えた俺は鞄からノートの紙を出す。紙は薄く圧力が高い。それで指を切ってみるのだ。

「…いつっ」

軽い痛みが起こり指から血が流れ出る。痛みにより意識が指と手に向く。

このまま地面に手を当てもう一度言う。

「『炎陣』」

すると先程見たように赤い線が円を描き広がる。俺を中心に5m広がると線から炎が起きた。

おぉ出来た。これが出来ると人を寄せ付けなくなるな。

「解除」

一旦消す。他に何かあっただろうか…。

そういえば最初に出したのは『バースト』だったな。手から爆発が起きていたが…。

「『バースト』」

紙で切った方の手を出し言う。すると爆発が起きた。その火力と衝撃波に体が吹き飛ぶ。これ…諸刃の剣だな。相手も吹き飛ぶが使いどころが悪いと俺もやられかねん。

先程は吹き飛ばなかった。何か方法はあるだろう。

とりあえず全力で体幹を張り、少し前のめりになる。

もう一度発動してみると何とか吹き飛ばなかった。それでもかなりバランスを崩す。

いろいろ能力について研究してみると1時間ほど経っていた。

流石に帰ろう。しかし次のバスまで30分ほどあった。そこから30分乗るのでかなりかかる。

うーん…。少し悩むとあることを思いつく。

それは『バースト』の衝撃波で飛ぶというものだ。これが出来るのであれば交通費が浮く。

スマホでマップを開き自分の家の方角を確認する。そちらの方に背を向け足元に構える。

「いっちょやってみっか。『バースト』!」

叫ぶと先程よりも強力な爆発が起こり俺の体は宙に飛ばされる。強い風圧が背に当たる。一番の高度まで来ると住宅街が下に見える。先程の騒動が起きた場所には数台のパトカーが見えた。誰かが通報したんだろう。普段見ない光景に驚いていると体が重力によって地面に引き寄せられる。

「マズっ…『バースト』!」

今度は斜め上方向に飛ぶように発動し体を浮かせる。これを続ければ家に帰れそうだな。そこから俺は宙を吹き飛ばされながら自宅の方へ向かった。


「…どうしよう」

自宅まで吹き飛んできたがあることに気づく。

…どうやって降りよう。見た感じ今いる高さは地上20m程。いくら能力があろうとも体はいつも通り。この高さから地面に叩きつけられれば生きてはいられないだろう。

「どうしたもんかな…」

何度も『バースト』を発動して落ちないように滞空し考える。

『バースト』が瞬間的な推進力になるなら、火力を弱くして維持力があるように出来んかな。

そう…例えばロケット噴射みたいな感じで。ここまで何度も能力を使ってると血液を意識せず力が使えるようになってきた。エネルギーは何となく体のどこに意識を向けるかで使えることに気づいた。

ならば意識を向けるのを弱めればどうだろう。痛みによって強い意識が手に向かったからバーストになりその感覚を続けていたと考えるとできない気もしない。

そう…例えば『ブースト』とか。技名なんかどうでもいいかもしれんが、この能力は意識が大事だ。

「やってみるか。『ブースト』!」

手に対する意識を弱め、叫ぶ。するとロケット噴射のように両手から炎が吹き出る。出力が弱いからか上昇はしない。

だが急激な落下もしない。ゆっくりと地上に近づいていく。

途中で力が途切れるということはなく無事に地に足をつけた。

何とかなるもんだな…。この能力、かなり汎用性があるな。

「早く入るか」

家に入る。暖かい空気に包められ安心する。

「ただいまー」

「おーおかえりー。遅かったねー。兄さん」

玄関を上がりリビングの扉を開けると、テレビを見てくつろいでいた妹・愁那しゅうながいた。

「ちょっと高校の奴と遊んでた。夜飯には間に合ってるだろ?」

「まぁねー。今日は魚の煮付けだってさ」

「おけー。母さんは?」

晩御飯の用意の途中のようだが母さんの姿が見当たらない。

「厠だよー。もうちょいでできるだろうし待ってればー」

「トイレって言えや。まぁ分かった」

俺は自室に戻りスマホを見る。時間はバスで帰るよりはるかに速い。バスを待ち30分、そこから30分、計1時間はかかるところがまさかの5分。これを使えば学校に遅刻しそうになっても何とかなりそうだな。

部屋着のパーカーに着替えリビングに戻る。すると愁那が手招きをしてスマホを見せてきた。

「どした?新作アニメの情報か?」

何気なしに俺はスマホをのぞき込むとそこには学生がチンピラと口論している映像が映っていた。

「これ、兄さんじゃない?大丈夫だった?」

「…これ…どこで?」

それは紛れもなく俺だった。右下に映っている時間も日付も俺が先程と同じ時間。しかも消し飛ばしたチンピラと同じ人物。女学生も。

「なんかトイッターにあげられていたよ。既に他のSNSにも広がってるっぽい」

トイッターは世の人が良く使うSNSだ。あまり意識しなかったがガヤがいたな。その中の誰かが撮っていたのであろう。

これだからSNSは嫌いなんだ。すぐに拡散して、こんなんじゃプライバシーもあったもんじゃない。

「…え?」

その映像を自分の目に移した愁那が驚きの声を出す。

…待てよ。さっきの映像でガヤがいなくなったのは 俺が能力を使い始めた時。ということは…。

「兄さん…これ…何が…起こってるの?」

愕然とした顔で俺を見る愁那。

「あーそれは…」

映像編集だと言おうかと考えた。本当のことを言って化け物だと思われたらどうしようと。

「…それは本当のことだ。死にかけた結果、この能力が覚醒した」

俺は本当のことを話しながら人差し指から小さく火を出した。ろうそくの火のように小さい火だが本来人間に出来るものではないので十分証明になるだろう。

「…」

「別にこの力があるからと言って何も変わらんよな?」

「…」

返事がなく不安が募る。

「…あのさ」

少しの沈黙を破り愁那が口を開く。

「もう一回それ見せてくんない?」

「お、おう」

言われた通りろうそく程度の火を出す。かなり調節できるようになったな。

「ありがとう。消していいよ」

今まであまり感じたことない兄妹の壁。ここまで重い空気に押しつぶされかける。

「…俺は…」

「どこまで使えるの、それ」

「え?」

何か取り繕うと言葉を出した瞬間、愁那が予想していない言葉を切り出した。

「さっきの映像にあったのは兄さんが『炎陣』を使ったところまで。そこで撮影者は逃げた」

「…はぁ」

「だからどこまでの出力が出せるの?」

ここまで聞かれてうその付き方がわからないので正直に話す。

「あのあとに地面を爆破した。隕石が落ちたように抉れてた。これ以上はまだわからない」

「…そう」

何故こんなことを聞いてくるんだ。この妹は。恐怖はしていないようだが…。

「すごいじゃんこれ!」

「え?」

「人間でこんなことが出来るのはいないんだよ!これを芸にすれば金稼ぎ放題じゃない!?」

「そ、そうか…」

危険な奴だと思われていないだけ良かったが…この妹、やばい奴だな。

「なに騒いでるの?」

トイレから出てきた母さん。俺のこれ、言った方がよいだろうか…。

「見てお母さん。兄さん、すごい力手に入れたんだって!」

躊躇いなくスマホの俺を見せる愁那。愁那は大丈夫でも母さんはなんていうかなぁ。

「へーすごいね。これで料理の時のガス代が節約できるかも」

「あ、そっすか…」

この家族が変で助かった。本来であれば人を容易に殺しえる力を持っていたらどうこう思うところだが…この家族に対して不安に思っちゃいかんな。

「とりあえず晩御飯にするよ」

『あーい』

そこからは普通に夜飯を食べ、風呂に入るといういつもの行動で一日が終わった。

自分の火の強さを確認するため風呂場で桶に水を溜め、蒸発出来るか試した。結果で言うとどんなに小さな火でも水を蒸発することが分かった。少なからず100度を超えていることは分かった。強いな…これ…。

水中で火を出したら流石に消えると思ったが、火は消えることなく水を瞬時に蒸発させた。

「ん-…」

自室に戻りベッドに横になった俺はこの能力について考える。

死にかけたことで力に目覚めたのか、もともと備わっていたが知らなくて無意識に使ったのかわからない。

そしてこの力は下手な使い方をすればいくらでも人を傷つけることが出来るということだ。今日はどこか自分じゃない状態で戦い、結果的に四人消した。

そこに後悔も罪悪感もない。やられたからやった。ただそれだけだ。

しかし今日戦闘に力を使ったときは謎の高揚感で周りがあまり見えていなかった。何とかあの女学生を巻き込まなかったが…もし気付かなかったらと思うとかなり危険だった。

それが自分の友達や家族だった場合を考えると恐ろしい。

「使いどころは考えなくちゃな…」

指から小さな火を出しそれを見る。明るく眩く揺れるその火はどれだけ小さかろうとも恐ろしい力を持っていることを改めて確認した。

「明日…面倒だなぁ…」

愁那がネットであれを見つけてきたということは既に広まっているだろう。

あいつも普段そこまでSNSを見ない。そんなあいつが知っているのだ。

きっと学校の奴らは知っているだろう。質問攻めだったり、呼び出しがありそうで面倒だ。

「いくら考えても仕方ないか…」

そう考えた俺は電気を消して寝ることにした。

明日からの地獄を知らないまま…。

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