四十六、少女の話 2

「そんなことがあったのですね」


 クリスの話を聞いて考え込むミラーさん。流石のミラーさんでも今回ばかりはどうにもならないかと思っていると、


「クリスさんは冒険者を続けたいのですよね?」


「はい」


「そして、マイルさん達のパーティーに入りたいと」


「そうです」


「なら入ればいいじゃないですか」


「え?」


 ミラーさんはそんなこと簡単だと言う風に言った。


「だって既にクリスさんは死んだ扱いになっていますよね。つまり、元のパーティーを自動的に脱退した扱いになっています。なので今クリスさんは、ソロのDランク冒険者扱いになっています」


「そうなのですか?」


 あっけにとられた状態になっているクリス。そんなクリスを置いて話すミラーさん。


「そうなんです。もし、元パーティーメンバーの人達に出会っても心配いりません。もう脱退しているのですから」


「ですが、それで何か言われたどうしたらいですか?」


「その時は私を頼ってください」


「分かりました」


 何故かと聞かれると分からないが、ミラーさんの言葉には説得力がある。知らない人でも信じさせてしまうほどの。


「頼りにしてます」


「はい、任せてください」


 ミラーさんは俺とアリスに優しく微笑んでくれる。その微笑みが少し怖くも感じる。


「これで、クリスは俺達のパーティーに正式加入だな」


「そうですね。これからよろしくお願いしますねクリスさん」


「は、はい! どうぞよろしくお願いいたします」


 クリスは俺達に向かって頭を下げてくる。本当に礼儀正しいと言うか、律儀な人だな。


「これでクリスさんの件は一件落着となりましたので、次にマイルさん達への大切なご報告があります」


 う~ん? 一体何の話だ。どうしてミラーさんから俺達に報告があるんだ?


 俺は全く理解できなく考え込む。隣にいるアリスも同じようで、腕を組み頭を捻っている。


「一週間前のモンスターの大群討伐戦でマイルさんは多大なる功績を残され、晴れてSランク冒険者となりました」


「そうですね。ギルドマスターからそう聞きました」


 確かにSランクにはなったが、それから変化はない。いつも通り冒険者の仕事をこなしているだけだしな。


「え、え~~! マイルさんってSランク冒険者だったんですかー! しかも、あの戦いの英雄様だったなんてーー!」


 あ、やっぱり気づいてなかったんだね。


「そう言えば、クリスには俺の冒険者ランクを伝えてなかったね」


「まさか、この町を救った英雄様だったとは思いませんでした!」


 でも、確か殆どの冒険者が宴の会場にいたはず何にどうしてクリスは知らなかったんだろうか?


「ねえクリスさん、どうしてマイルさんのこと知らなかったんですか?」


 俺が心の中でも不思議に思っていたことをアリスが聞いてくれた。ナイスアリスと心の中で褒めておく。


「一週間前のその時は私達のパーティーは護衛依頼を受けて違う村に行っていて、町にはいなかったのです。町に戻ってきたのも、その事件があった日から三日が経っていて、噂でそんなことがあったと聞いたのです」


 なるほどな、この町にいなかったのなら仕方がないか。


「ですが、まさかそんな方と知り合いになれた上に、パーティーに誘ってもらえるなんて夢みたいです」


 クリスは俺を拝むように手を合わせて言ってくる。


「クリス、これから同じパーティーの仲間になるんだから、よそよそしいのはなしにしてくれ。それに俺達同い年だろ」


「そうですね、分かりました」


 俺達三人が仲良く話していると、


「ごっほん!」


 ミラーさんが咳ばらいをした。


「そろそろ話を戻してもいいですか?」


 そう言えば、ミラーさんから報告を聞いている途中だった。そして、顔が少し怒っている。


「申し訳ありません」


 俺とアリス、それにクリスもミラーさんに頭を下げる。


「はぁ~、それで続きですが、マイルさんはSランク冒険者に専任の受付が一人つくことはご存じですか?」


「いえ、初めて聞きました」


 俺が知っている事と言えば、冒険者のランクのトップであり、国でも数少ない冒険者であるということぐらいだ。


「まあ、そうですよね。本来であれば一週間前、ギルドマスターがマイルさんにSランク冒険者への昇格を告げたときに話すことだったのですが、あの日は色々あり、お伝えができておりませんでした」


 ミラーさんが頭を下げてくれた。正直、こんなことでミラーさんに頭を下げられても困る。


「ミラーさん、別に伝えるのが遅れたことは何も気にしてませんので頭を上げてください」


 俺の言葉で頭を上げてくれたミラーさん。


「それで、専任の受付嬢は誰になるのですか?」


 たぶんミラーさんからの報告はそのことだろう。


「今後マイルさんの専任になるのは私です」


「え? ミラーさんもう一度いいですか」


 俺は何か聞き間違いをしたのではないだろうか。このギルドで一番できるミラーさんが俺なんかの専任の受付になるはずがないからな。


「はい、私がマイルさん、それと冒険者パーティーフォレストガーディアンの専任の受付になります。ですので、受付嬢の列に今後お並びいただく必要もなくなります」


「どうしてミラーさんが」


「マイルさんはこのミールの町初めてのSランク冒険者です。それに、アリスさんも今後そうなる可能性がございます。そんな方々の専任を中途半端な受付嬢に任せることができないと言うのが、私とギルドマスターの共通見解です。ですので、私がマイルさんの専任の受付嬢になることになりました」


 凄くありがたい話ではある。俺がケイルのパーティーを追い出された後、色々と面倒を見てもらったし、少しの無茶は通してもらっていた。そんな人に専任になってもらえれば、今後も仕事がやりやすい。


 だが、今後他の冒険者からの視線が怖いな。


「ですので、今後はマイルさん達と一緒に行動させてもらいますのでよろしくお願いいたしますね」


「え、え~~~~~~~~~!」


 俺は思わずを大声を出してしまった。

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