四十五、少女の話 1

 クリスの口から語られたのは俺が予想していた通りの事だった。友達だと思っていた仲間に裏切られた。そして死にかけた、これはなかなかしんどいと思う。俺の時のような関係でもなかっただろうしな。


「クリスはこれからどうしたい」


「これからですか?」


 俺の言葉について考えている。正直もう冒険者をやめたいと言う気持ちになっても仕方がない。クリスがそれを求めるのであれば俺は止めない。


「私は冒険者を続けようと思います。ですが、もう彼らと一緒に冒険者は出来ない。したくありません」


 強い言葉で言ってくる。それほど辛く、そして怒っているのだろう。


「私をあんな所に置いて行ったことを後悔させてやります」


 少し怖いとも思うが、これが裏切られた側の気持ちであろうと俺は思う。この魔眼の能力がなければ俺も、クリスさんと同じようにケイル達の事を恨んでいたかもしれない。


「なら俺達のパーティーに入らないか?」


 これは、クリスさんが寝ていた二時間の間に、アリスと相談して決めていた。俺自身もケイル達に裏切られた。そのためクリスの気持ちはよくわかる。それにアリスも、ソロの冒険者としてやっていた頃に、ゴブリンに殺されかけたことがある。だからクリスの気持ちは分かるのだろう。アリスも大賛成のようであった。


「ですが私は」


 クリスが少し考え込むよなしぐさをすると、


「私、クリスさんと一緒に冒険者したいです」


 無邪気な笑顔でアリスが言う。


「私も少し前にモンスターに襲われて死にかけたことがありました。その時、マイルさんに助けてもらったんですよ」


「そうなんですか?」


「ああ、あの時のアリスは、クリスよりも弱くてモンスターを倒したことがなかったんだよ」


「そうですね。でもそのおかげで私達は今、一緒に冒険者をやっているんですよね」


「そうだな」


 俺達はクリスに心配を与えないように明るく話す。


「それに俺も仲間に裏切られたことがあるんだ」


「え! マイルさんがですか!?」


「そんなに驚かないでくれよ。それに俺の場合は、裏切られてすぐにアリスに出会うことが出来た。そのおかげで、また仲間を信じたいと思えたんだ。そんな俺だからクリスが仲間を信じられなくなるのは嫌なんだよ」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて仲間に入らせていただきます」


 クリスは俺の誘いを受けてくれた。だがそこで一つ問題が出てくる。


「だが、前のパーティーの連中がもしクリスをパーティーから脱退させていなかったら、パーティーが組めないな」


「そうですね。ですがもし、私がダンジョンで死んだ扱いにされていたら大丈夫ではありませんか?」


「確かにそうだな。そのことについてはミラーさんに聞いてみよう」


 クリスはベットにいてもらい、アリスにはクリスの看病をお願いいして、俺はミラーさんを呼びにいった。


「ミラーさん少しいいですか?」


 時間的に少し忙しい時間になりかけていたが、まだ人も少ないため何とかミラーさんを呼ぶことが出来た。


「どうしたんですか?」


「ミラーさんに少し聞きたいのですが、クリスと言うDランク冒険者をご存じですか?」


「クリスさん?」


 ミラーさんが少し考え込む動作をする。流石にこの町でも一番多いDランク冒険者を全てはミラーさんでも覚えていないかと思っていたが、


「そう言えばマイルさん達が戻ってくる少し前に、仲間がダンジョンでモンスターに殺されたと報告しているのを聞いたわね。確かその死んだ冒険者がクリスって名前だった気がするわ」


 これは願ってもいない状況に。ただ、自分達がモンスターの囮にクリスを使っておいて、モンスターに殺されたと人ごとみたいに報告するかと、俺はほとほとクリスの元パーティーメンバーにあきれ果てた。


「ですがどうして、マイルさんがクリスさんの事をご存じなのですか?」


「俺達が先ほど連れてきた少女がそのクリスなのです」


 そのことにミラーさんはかなり驚いていた。


 そして、


「もしよければ私もクリスさんに合わせてもらえませんか?」


 まさかミラーさんからこの提案をしてくれるとは思ってもいなかった。


 そのため、


「ぜひお願いいたします」


 俺とミラーさんは一緒に休憩室に一緒に戻る。


「二人とも戻ったぞ」


 俺が扉を開けると、楽しそうに話しているアリスとクリスがいた。早速二人が仲良くなってくれてよかったと思う。


「ミラーさんを連れてきたぞ」


 その言葉に二人の視線がミラーさんに向く。それを感じ取ったのか、


「私はここで受付をしていますミラーと申します。クリスさん今後ともよろしくお願いいたしますね」


 自己紹介をする。


「あなたがあのミラーさんなのですね」


 流石はミラーさん、有名人だな。


「悪いがクリス、ミラーさんに俺達に話してくれたことと同じことを、もう一度話してもらえないか?」


「分かりました」


 クリスは少し辛そうな顔をしていたが、


「大丈夫ですよ」


 ミラーさんの優しい言葉を聞いてクリスは、ダンジョンで起きたことを説明するのだった。

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