三十五、圧倒
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
ケイルが剣を振り上げて向かってくる。だが、かなり遅い。
「マイルさん、あれ本気ではないですよね?」
思わずアリスが質問してきた。だが、この速度、二週間前と何も変わっていない。
「あれがケイルの本気だよ」
「え!」
アリスは驚いている。それもそのはずだ。ケイル達は腐っても元Aランク冒険者、本来はかなりの実力がないと上がれないランクであり、Cランクのアリスが到底かなうはずがないのだ。だが、ケイルの動きはアリスでも見えている。つまりそういう事である。
「あれが実力だ」
「そうなのですね。それほどマイルさんに頼ってきたわけですか」
「そう言うことだ。まあ、俺も黙っていたわけだけどな」
俺達が身体強化を使い強化された耳を使って小声で話していると、
「何をコソコソ話してやがる! キリエとライラはこのガキをやれ! 俺がマイルを始末する」
俺達の何を話しているか理解していないケイルは、より怒りを強めてキリエとライラに指示を出す。
「分かったわ」
「任せて」
ケイルの指示に従う二人。
「マイルさんの元へと行かせると思いますか」
アリスがケイルの前に出て短剣を振るう。
その攻撃をケイルは剣でしのぎながらアリスを蹴ろうとしたが、
「そんな見え見えの攻撃が当たるわけありませんよ」
ケイルの蹴りが当たる瞬間、後方へとジャンプして躱す。そして、息つく暇を与えないようにすぐに正面から向かって行った。
「好きにはさせない、ファイアーボール!」
キリエがアリスの動きを止めようとファイアーボールを放つが、
「ウォータースラッシュ!」
水の刃をファイアーボール目がけて放ち打ち消しつつキリエに攻撃を加えた。
そして動きを止めずにケイルへと向かって行く。それに対してケイルは、
「ファイアーバード」
追尾型の火魔法、ファイアーバードは鳥の形を象った火を対象に向かって放つ魔法。スピードに威力もそこそこありかなり実践で使われている魔法である。自動で追尾してくれることもあり、近接戦を得意としている者達が好んで使っている魔法である。これが、かなりの使い手になると、自動でなく自身で操って使う者もいる。
だが、ケイルの放ったファイアーバードは自動追尾、その上魔力がそれほど籠っていないこともあり、スピードはかなり遅い、当たってもたいしたダメージも受けないだろう。
「終わりだ!」
ファイアーバードがアリスに命中しようとした時、ケイルはそんなことを口走った。よほど自信があるのだろう。だが、
「この程度の魔法、私には効きませんよ」
平然とした顔でいるアリス。それも当然、アリスは魔法耐性のスキルを持っている。熟練度は五とそれほど高いわけではないが、ケイル程度の魔法ではまともにダメージを受けることはないだろう。
「何故、そんなに平然とした顔をしているんだ!」
「あなたに話す必要のないことです」
アリスは短剣をケイルの首目掛けて振るう。その攻撃をギリギリで躱すケイル。
「今」
後方で矢を射る準備をしていたライラが、ケイルが後ろに下がると同時に、アリス目がけて矢を放つ。その攻撃を軽く短剣ではじき返すアリス。
アリスの戦いを見物していた俺であったが、
「流石に何もしないで見ているだけもダメだよな」
アリスの戦いを見て冷静に状況を判断する。
「アリス、後ろに居るキリエとライラの二人の相手を頼めるか!」
「マイルさんも戦われるのですか?」
「ああ、流石に女の子一人を戦わせて、男が何もしないのはダメだろう。それにこれは俺の過去にケジメを付ける戦いでもあるわけだしな」
「分かりました」
アリスは短剣をしまい、一度俺の隣へと戻ってくる。
必死でアリスを倒そうとしていたケイル達。何事もなかったかのように会話をしている俺とアリスを睨みつけてきている。アリスを倒せないことでよほど頭にきているのだろう。
「でも、あの人達凄く弱いですね。さっきのファイアーボールにしたってそうですけど、まさか最低限の魔力で放ったウォータースラッシュに負けた上に自身もダメージを受けるなんて思いませんでしたよ。精々、相打ちに出来ればいいなくらいでしたのに」
アリスはあえて大きな声でそんなことを言った。当然、キリエの耳にも届いているだろう。
「アリス、挑発はそれくらいにしておけ、どんなに弱い雑魚でも油断をしていたら足元をすくわれるぞ」
「そうですね。冒険者たるものどんな時でも全力で油断せずですね」
「その通りだ」
アリスはこの二週間で俺が教えたことをしっかりと理解している。本当に素直でいい子だ。
そんな俺達の様子に痺れを切らしたように口を開くケイル。
「低ランクの冒険者とスキルを持たない出来損ないが調子に乗るなよ」
ケイル達が、俺達に言ってくる。
「調子に乗るなか。本当に俺達が調子に乗っているかどうかお前達で試して見ろよ」
「そうだな。ここでお前達を悪事を暴いて、Aランクに戻ってやる!」
何故か俺達が悪役のようになっているが、まあそのあたりはどうでもいい。こいつらにはしっかり夢から覚めてもらって、自分の実力としっかり向き合ってもらわないとなと、俺は剣を構えながら思うのであった。
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