三十四、反撃

 俺は頭を下げるのを途中で止める。


「どうした! こいつがどうなってもいいのか!?」


「いや、そろそろ大人しくしておく必要もないかと思ってな」


「はあ?」


「そうですね。弁明の余地もあるかと思いましたが、どうしようもない人達のようですしね」


 アリスは俺の言葉を聞きニヤリとする。正直俺は限界に来ていた。たぶんアリスもだろう。だが、ここでもしこいつらに反省の色が見えたら不問にして、手打ちにする気でいた。だが、俺達の言葉も通じない、反省もしないのであれば仕方がない。


「自由に戦っていいぞ。もしもの時は俺がサポートする」


「分かりました」


 アリスは身体強化のスキルを発動、基礎能力を底上げして、ケイルのつま先を踏みつけて少し距離を取る。


「このガキが、何しやがる!」


「ただ足を踏みつけただけですよ? それほど力も入れていないはずなのですが、そんなに痛かったのですか?」


 アリスにつま先を踏まれたケイルは、痛そうにつま先を抑えて目に涙を浮かべている。その姿を見てアリスは凄くいい笑顔をしている。


「私は今色々と怒っているんですよね。あなた方が私の大好きな人をバカにしてきたこと、前回あった時もバカにしてきたこと、マイルさんをパーティーから追い出して傷つけたこと、マイルさんが宴の時、他の冒険者の人とかご馳走とかに目を奪われて私にかまってくれなかったこととか」


 何故か最後の事だけ、俺への怒りではなかったか?


「最後のは関係ないんじゃないか?」


「マイルさんは静かにしていてください!」


「はい」


 アリスさんが凄く怖い。こういう時のアリスには口答えをしてはいけないと俺の本能が訴えている。今は静かにしておこう。


「ガキが偉そうに言いやがって! そこのクズが大好きな人とか、お前も頭がおかしいんじゃないか?」


 ブチ!


「そうね。もっと人を見る目を養った方が良いんじゃないかしら」


 ブチブチ!


「かっこいいのはケイル、最強はケイル、惚れるならケイルがいい」


 プッチーン!


 あれ、何かが切れる音が近くで聞こえてきた気がするが気のせいだろうか?


 俺は先ほどの音が何の音かと思い周囲を軽く見渡して見ると、


「もう限界です。私をバカにするならいいですが、大好きな人をバカにするのは許せません」


 隣にいるアリスが物凄く怒っている。本来であれば俺が怒っているはずなのに。


「さっきは油断したが、さっきみたいにうまくは行かねえぞ!」


 ケイルは剣を構える。俺達を殺す気満々のようである。隣ではキリエが杖をライラが弓を構えている。


「これで俺達の正当防衛成立かな?」


「そうですね。向こうから攻撃を仕掛けてくれば完璧かと」


 アリスがとても悪そうな顔をしている。その顔を見て、アリスをとんでもない子に育ててしまったと思う。

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