三十三、襲撃
俺達が歩く速度を落としたことで尾行してきていた三人が行動を起こした。俺はその瞬間、
「アリス、何もするなよ」
「はい分かっています」
小声で話した。後ろの三人には聞こえていないだろう。尾行していた三人は俺ではなくアリスへと手を伸ばした。
「捕まえたぜ!」
その声に聞き覚えがあった。いや違うな、二週間前までは毎日のように聞いていた声、そうケイルであった。
「少し有名になったからって油断したなマイル」
ケイルにキリエ、ライラの三人はアリスの首に短剣を突きつけてドヤ顔をしていた。こいつらは一体何をやっているのか? 俺は三人の姿を見てため息をつきたくなった。
「お前らは一体何をしているんだ?」
「何をだ! 見て分からないのか!」
「少女の首に剣を突きつけているただの犯罪者にしか見えないが」
その言葉に対してケイルの顔が歪む。
「お前がそんなことを言っていられるのも後少しだぜ! もうすぐお前の秘密が明かされる。そうなれば、お前が今までやって来たインチキも全て明かされるわけだ」
「お前は一体何を言っているんだ? 俺がインチキなんかするわけないだろう」
まあ、こいつらは俺がスキルを持っていることを知らないしそう思っても仕方がないのかも知れない。だけど、まさかそんなことでこんなバカな真似をするとは思わなかった。
「よくもまあ~、そんな白々しい嘘を堂々とつける物だな。スキルも持たず、ロクに戦えないお前が、今回の戦闘の一番の功労者で、古龍を討伐だ、そんなことできるわけないだろうが! どうせ、全て自作自演、お前が仕組んだことだったんだろう?」
おいおい、どうやったらそんな考えに至れるんだ? 正直、もう少し頭のいい奴かと思っていたが、まさかここまで残念な思考しかできないとは思っていなかった。
「どうやったらそんなことが出来るんだ? お前達が言うようなことをスキルを持たない俺が出来ると思うか? 出来るわけないよな。それに、もしスキルを持っていたとしてもそんなスキルを聞いたことがないよな」
この世界に存在しているスキルの殆どは判明している。極稀に俺のような魔眼のように知られていない能力も有ったりするが、そう言う物を除いてその全てが分かっている。その中には召喚魔法のスキルが存在する。だが、このスキルは契約している精霊を召喚して戦うと言う物で、モンスターなどを使役したり強化したりすることが出来ない。
つまり、あんなことが出来る人間は理論上存在しないことになる。
「そんなこと卑怯なお前ならどうにかしたんだろうよ」
ほどほど、あきれ果てた。正直こいつらが自分の実力を見誤っていたのは俺にも少し責任があると思っていた。そのことに対して反省もしたし、今後は同じ失敗をしないようにしようと行動している。
ランクダウンが辛いのも良く分かる。だが、それでもしっかり反省して、自分の能力と向き合い、初心に戻ってやり直してくれる物だと考えていたのだが、まさかこのような行動をとるなんて。
俺はケイル達を説得しようかと思ったのだが、
「マイルさんは卑怯な人ではありません!」
アリスが語り出した。その言葉には怒りと悲しみが込められていた。
「私は、元々ソロの冒険者でモンスターとも戦ったことがありませんでした。いつも採取系の依頼ばかり、モンスターに襲われては逃げてを繰り返していました」
「それがどうした! お前が弱いだけじゃないか!」
「そうですね。私は凄く弱いです。ですがそんな私に優しく手を差し伸べて下さったのがマイルさんです。ゴブリン五体に囲まれてピンチだった私を助けてくださいました。見ず知らずの私をです。あなた方にそんなことが出来ますか!」
「ああ、ゴブリンなら余裕で倒せるからな」
「そうね。私達なら余裕だね」
「マイルに出来て私達に出来ないことはない」
ケイルにキリエ、ライラがアリスの言葉に対して自分達も同じことが出来ると言う。だが、その言葉に対して、
「では古龍が相手ならどうですか?」
「そ、それは」
アリスの質問に対して三人は何も答えることが出来ない。
「マイルさんなら迷わずに助けて下さると思います」
「そんなもん、口でなら何ともでも言えるだろう!」
「そうでしょうか?マイルさんなら本物の古龍が目の前にいても同じことを言ってくれると思います。実際にこの国の危機に一人古龍に立ち向かっていかれました」
アリスの言葉に反論が出来ずにいるケイル達。
「もういいだろう。ここで手を引いてくれるなら俺達は今回の事は不問にする。だから、アリスから手を放してくれないか」
何とか今回の事を穏便に済ませようと試みるも、
「ファイアーボール」
キリエの魔法が俺の足元へ命中する。地面からは小さな煙が上がっている。
「そこを動かないでくれるかしら! 今あなたは私達に逆らえない状況なの分かっているの?」
キリエは新たな魔法を既に用意している。
「ここで、やろうって言うのか?」
「そんなわけないでしょ。ただ一言、今回の事件は全て自分がやりましたって言ってくれたらいいのよ」
「そんなこと言うわけがないだろうが!」
「あっそ、なら仕方ないわね」
ケイルの持っている短剣がアリスの首に少し当たる。
「待ってくれ! 分かった」
「そう、素直になればいいのよ」
俺は地面に手を付く。その姿を見て、俺が指示に従うと思いケイル達は満足そうな顔をするのだった。
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