三十一、宴
俺達が冒険者ギルドに戻ると、
「よし、戦闘に参加していない冒険者とギルド職員は宴の準備に取り掛かれ! 戦闘に参加していた皆は、ギルドの二階にある休憩室を開放するので、そこで休憩してくれ」
ギルドの二階には休憩室が用意されている。ここは、負傷者の介抱をするために用意されており普段は立ち入りが禁止されている。そして、ギルドに負傷者の手当が出来る医師に看護師が常時待機している。
俺も休憩室に入るのは初めてのため少しワクワクしている。
ギルドマスターが俺達を休憩室へと案内してくれる。中はかなり広く、白いベットがかなりの数並べられている。あまり大きくない町のギルドにこれだけの設備をそろえているの少し宝の持ち腐れ感がある。
だが、ギルドマスター曰く、もしもの時に小さな町も大きな街も関係ない。その時に何もできないようなギルドでは意味がないと言うことでこのような立派な休憩室が用意されているのだとか。この町で冒険者をやっている者達は恵まれているんだと俺は思っている。
「ここでゆっくりと疲れを取ってくれ。それと今回の報酬もしっかりと準備しているからな。期待してくれよ」
ギルドマスターのその言葉に、
『おー!』
冒険者達から声があがった。
それから俺達は、普段あまり話すことも少ないこともあり、皆で様々なことを話した。どんなところに依頼で行っただとか、こんな街で仕事をしたことがあるだとか。大体の高ランク冒険者となるといろいろな街を転々として仕事をしている人も多く、色々な面白い話を聞くことが出来た。その中には、国王様からの指名依頼を受けた事がある冒険者もいたりと、こんな小さな町なのに凄い人たちが集まっているなと思った。そんな人達にどうしてこの町に来たのかと聞くと、皆口をそろえて『ギルドマスターがいたから』と言われた。
それだけの信頼を得ているギルドマスター、数年前までは現役の冒険者をしていたこともあり、その引退の際に一緒についてきたのだろう。
そんな中、
「マイルはどうして冒険者に、なんか理由があるんだろう?」
一人の冒険者から質問が飛んできた。それほど大した理由もないため答えるか少し迷ったが、
「自分はただ、街や国のピンチを救う冒険者に憧れてですね」
少し照れながら言うと、
「いいじゃないか、俺もそうだったぜ」
「俺もだ!」
「私も」
などと、俺の言葉を聞いて、他にも同じ気持ちで冒険者になった人たちがいて少し嬉しかった。
それから、いろいろな話に花を咲かせていた。三人を除いては。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして時間が経ち、宴の準備が完了したとギルド職員が俺達を呼びに来た。休憩室で寝られたわけではなかったが、中々話せない高ランク冒険者の人達と色々な話を出来たことは凄くいい経験だったと思う。
「来たな」
ギルドマスターが俺達の方を見てニヤリとして笑った。
「今日の主役たちの登場だー!」
ギルドマスターの掛声と共に、
「おー!」
周りから声が上がる。
そこからは俺達を称える称賛の声が低ランク冒険者から上がる。そんな歓迎を受けながら一階に降りると、豪華な料理が用意されていた。
「どうですかマイルさん」
「凄いですね。驚きました」
田舎出身で普段から安い食事処で済ましているためにこれ程豪華なご馳走を食べる事などできないために既に口からよだれが垂れていた。それを手で拭きとる。
「そうでしょ、なんせ我々ギルド職員の女性メンバーで腕を振るいましたからね」
ミラーさんが自慢げに言ってくる。
それから俺達は、ギルド職員の人達からグラスを受け取る。
「それではまず今回の一番功労者であるマイル前来てくれるかな」
ギルドマスターに呼ばれたので前に行き、ギルドマスターの隣に並んで立つ。
そこからギルドマスターからの言葉が始まった。
「今日は皆ご苦労であった。大量のモンスターの大群の襲撃に古龍の出現、普通なら大きな街一つが滅んでいてもおかしくない事件だった。だが今回、冒険者の皆が協力してくれたおかげでモンスター達を退けられた。その戦闘に皆の士気を上げるために一人でモンスターの大群へと向かって行った上に、最悪とも言えるSランクモンスターである古龍の討伐、とんでもない偉業を成し遂げたマイル、本当にありがとう。マイルに、冒険者の皆がいなければこの町は壊滅していただろう。今日はその労をねぎらう宴だ! 盛大に食べてくれ、カンパーイ!」
『カンパーイ!』
カーン!
その場に集まった者達同士でグラスを少しぶつける音がある。俺もギルドマスターとグラスを合わせた。
そこから皆盛大に盛り上がり、食事を楽しむ者、話を楽しむ者など様々であった。俺はと言うと、普段は食べれない物に目を奪われて、食事に集中していた。そんな時、ギルドマスターがケイル達三人を呼びだしている姿が目に入った。何を話しているのかは大体予想がついていたがもう俺には関係ないことだと思い、食事へと戻った。
その間、アリスが少し機嫌を悪そうにしていたのは言うまでもない。これは後でご機嫌を取っておかないといけないなと俺は思うのであった。
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