二十一、調査報告

 三十分程して俺達の番がやって来た。


「マイルさんおはようございます」


「おはようミラーさん、今日はダンジョン調査依頼に行きたくて、手続きをお願い出来ますか?」


 ミラーさんは俺の言葉を聞くや、


「やっとですね」


「はい」


 アリスを置き去りにして俺とミラーさんだけが分かる会話をしている。


「いつ来るのかと思っていましたよ」


「俺達にも準備がありますから。で、ミラーさんはいつからいけると思っていたんですか?」


「アリスさんのランクを上げた三日後ぐらいですかね」


「それは少し早すぎませんか、俺は一週間前くらいから考えていたのに」


「ですが、それくらいからダンジョンの一層では戦えると思っていましたよ」


 確かにミラーさんの言うことにも一理ある。Dランクの依頼に行き始めてから俺だけでなくアリスのレベルは一気に上がっていった。実際に一階層に出てくるダンジョンのモンスターとなら互角にやり合えるくらいには成長していたようにも思う。そのことに鑑定のスキルもないのに気づくこの人は本当に凄いと思う。


「流石ですね」


「いえいえ、初心者冒険者をたった数日でそこまで育て上げたマイルさんの方が凄いですよ」


 笑いながら言ってくるミラーさん。この人は俺の事もどこまで分かっているのかと少し怖くなってくる。


「え~とつまり、私達はダンジョンの調査依頼に行けると言うことですか?」


 蚊帳の外にされていたアリスが話に入ってくる。


「そうですよ。アリスさんとマイルさんなら問題ありません」


 と言うことで俺とアリスがダンジョン調査の依頼に挑むことが許可されたのだが、


「マイルさん達に少しお話がございます。少しだけお時間をいただけませんか?」


「アリスは良いか?」


「はい私は良いですよ」


「ありがとうございます。二週間前にマイルさんから聞いていた空気中に含まれる魔力量が増えていたことに関しての報告にございます」


「分かりました」


 俺達は場所を変えてギルドの奥にある来客用の部屋へと通された。その間、ミラーさんの代わりに別のひとが受付をすることに。後ろに並んでいた冒険者達は少しがっかりとしていた。


「それで報告とは」


 ミラーさんは俺の前に数枚の報告書を出してきた。そこにはこの二週間の調査結果が書かれている。


「結果から言わせてもらいますと、確かに魔力量が増える事が度々起こっているようです」


「度々ですか」


「はい」


 俺達が行っていたのは初心者の用の南の森。あそこに行くのはEランク、Fランクの冒険者達だ。その冒険者がもし、俺達が遭遇したような出来事に遭遇していたら最悪命を落としている可能性もある。


「ですが、その全てが夜の人が近づかない時間帯に起こっているようで、他の冒険者に被害は出ていないのが不幸中の幸いです」


「そうですか。それは良かった。ですが、そのようなことが度々起こっているとしたら自然に起こっているとは少し考えにくいですね」


「そうですね。私もマイルさんと同じ考えです。ギルドマスターも同じ見解のようで、今日の夜、一部の冒険者を集めて調査に行くようです」


「そのチームにケイル達は」


「居ます」


 この二週間ケイル達赤い流星の噂が度々耳に入って来た。だがその噂全てが良い物ではなく、全て悪い物ばかり。新たな仲間を入れては抜けられを毎日のように繰り返しているとか、自分達の実力に見合わない依頼ばかりを受けて失敗しているとかなどである。そして、ランクダウンの通告も受けているとも聞いている。


「そんな奴をそんな重要な調査に連れて行っていいんですか?」


「私もそう思ったんだけど、ギルドマスターが最後のチャンスだと」


「最後のチャンスですか」


「そうです。もしこの調査でも失敗を犯すようであればBランクへとダウンさせると言っていました」


「そうですか」


 しょうがないことだが、俺にもその責任がなくはない。自分の力に過信してあの時使いまくっていた。それにより、自分達が強いと思い込んでしまい今のようになってしまった。もう少し力を使わずに自身の実力を磨かせてやればよかったのではないかと、俺は少し後悔していた。


「マイルさんの責任ではないですよ。私はそう思います。だって私はあの人達みたいになってないんですから」


 横にいるアリスが俺の不安そうな表情から何かを感じ取ったように声を掛けてくれる。ただ、俺はまだアリスに左目の事を話していない。まあ、女神様からも話すなと言われているために話せないんだけど、もしも話した時、アリスのこの考えが変わるかもしれない。そう考えると少し怖くなる。


「そうだなアリス。ありがとう」


 俺はアリスの頭を撫でてやる。アリスは顔を赤くしながらも嬉しそうにしていた。


「微笑ましいね~」


 ミラーさんが俺達の事を生暖かい目で見ている。


「何ですか!」


「何でもないですよ」


 本当に何を考えているのかよく分からない人だ。


「これで報告は終了よ。ダンジョン調査頑張ってね」


「はい」


「頑張ってきます」


 俺達が来客用の部屋を出ようとした瞬間、


「ミラーさん大変です! この町へモンスターの大群が押し寄せてきています」


 とんでもない報告が届くのであった。

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