十一、初めての戦闘
アリスに俺のスキルを付与できたことで準備が完了した。スキルの効果を使い基礎能力を上げると同時に、成長加速でアリスのレベルとスキルの熟練度を通常より早く上げていく。予定では今日一日でレベルだけな五は上がるんではないかと思っている。
そんなことを考えながら俺は、周囲を探る鑑定を使いながら、今回の討伐目標であるゴブリンを探す。出来れば一体でいるのが良いんだがと考えながら探っていると、打って付けのゴブリンがいた。単独行動していて周囲に他のモンスターがいない。
「アリス、見つけたぞ」
「本当ですか!」
アリスの声が少しこわばっているように感じる。少し緊張しているのだろう。
「肩の力を抜け。隣には俺がいるんだ。もしもの時は加勢するから心配するな」
「分かりました」
「よし! 対象のモンスターはここから四十メートル先にゴブリンが一体いる。その周囲には他のモンスターはいないからじっくりと戦える」
「凄いです! マイルさんはそんな先の情報まで分かるのですね」
「昨日も話しただろう。俺の右目にある鑑定の魔眼の能力を。本気を出せばもっと先まで探ることも可能だぞ」
「やっぱり凄いです。私もい……」
最後の方が小声でよく聞き取れなかった。
「最後なんて言ったんだ?」
「いえ、何でもないです。それよりも早くゴブリンの元へ向かわないとですね」
「ああ、そうだな。それじゃアリス、身体強化のスキルを使おうか」
そこでアリスが首をひねる。
「どうした?」
「え~と、先程マイルさんにスキルを付与してもらいましたが、私どうやってそのスキルを使ったらいいのか分からないのです」
あちゃ~、そういえば全く説明していなかった。これは失敗だった。
「そうだな、アリスは自分の中にある魔力を感じることは出来るか!?」
「はい、魔法を使う時にいつも」
「それなら大丈夫だろう。今回使う身体強化は自身の体全体を強化するスキルだが、これは何もない所から強化されるわけではない。魔力によって強化しているんだ。だから、このスキルを使う時は、体全体に魔力を行き届かせるイメージをすることで発動するんだ」
「分かりました」
アリスは目を閉じて自分の中にある魔力を感じているようだ。そして、体を覆うオーラのような物が出てきた。成功だ。身体強化のスキルを使う前にアリスと比べると、基礎能力が上がっているのが感じ取れる。
「これでいいのですか?」
「ああ、成功だ! よし、行こうか」
「はい!」
俺の後ろを付いてくるアリス。まだ少し慣れていないのか、少し戸惑っているように思う。
俺は今回アリスの育成以外にもう一つ目的を持っていた。鑑定魔眼の最後の能力であるスキル付与が成功したらやってみたかったこと、それが付与した相手がスキルを使い続けたらそのスキルを取得できるのかと言う物である。実際に使っているためにスキルに体が慣れてくる。それにより、教えて覚えさせるのと同じ効果が得られるのではないかと考えたのだ。
そしてもう一つ、俺自身のスキルはどうなるのかと言う物。実際にアリスが今使っているスキルは俺のスキルである。それなら、アリスが使っても俺のスキルの熟練度が上がるのではないかと考えた。この二つが成功したら、かなりの戦力アップに繋がる。俺はそう考えていた。
「マイルさん!」
アリスが俺に声を掛けてくる。
「ゴブリンがいます」
確かにいる。俺が先ほど周囲を探る鑑定で見つけていたゴブリンだ。身体強化のスキルで視力も強化されているため少し遠くにいるゴブリンの姿を捉える事が出来たのだろう。
「アリス、少し茂みから様子を見るぞ」
「分かりました」
俺達はすぐ近くにある茂みに姿を隠してゴブリンの様子を伺う。
「アリスの目にゴブリンはどう見える」
「強そうなモンスターです。私が一対一で戦っても勝てるかどうかという相手ですので」
「確かに今のアリスで互角くらいだろうな。でも今は、俺のスキルを付与している。その分身体能力は十分に向上している。だから、負けることは無いよ」
「本当ですか?」
「ああ、アリスがゴブリンを舐めずに全力で向かっていければ大丈夫だよ。もしもってときは俺が倒すから、緊張せずに戦いな」
「分かりました」
「それと、今回の戦い、腰に下げている短剣でなく、魔法を使ってみな」
「魔法ですか?」
「ああ、普段よりも強力な魔法が発動するはずだよ」
「分かりました。やってみます」
アリスは茂みから出てゴブリンへと向かって行く。茂みから出てすぐ、音で気づいたのだろう、ゴブリンがアリスの方を向き、お互いに向き合う形となった。
俺は身体強化のスキルを耳と目だけに集中して戦闘を見守る態勢に。
「大丈夫、マイルさんが近くにいてみてくれてるんだ。それに私なら出来ると言ってくれた。その言葉を信じるんだ」
小声で呟きながらゴブリンへと魔法を放つために魔力を集めていく。
そして、
「ウインドカッター!」
風の刃がゴブリンへと向かって行く。ただ、いつもより魔力が込められていて、威力が上がっているのだろう。アリスが少し驚いている。
ゴブリンはアリスの放ったウインドカッターに対して、手に持つ棍棒で迎え撃とうとしている。
それでは防げないだろうなと俺が考えているとその通りになった。アリスの放ったウインドカッターはゴブリンの持っている棍棒をあっさりと斬りそのままゴブリンまで切り刻んでしまったのだ。
「ウソ!?」
その光景にアリスはポカーンとしている。俺は、茂みから出て、
「アリス凄いじゃないか!」
声を掛けるが反応が返ってこない。
あれ? どうしたんだと思っていると、
「マイルさん何かしましたか?」
「俺は何もしてないよ。これは全てアリスが一人でやったことだよ」
「ウソです。私の魔法で武器を切るなんて出来るはずありません」
「そのことか、アリスは今俺のスキルを付与されているだろう。その中に魔力操作のスキルも付与していたんだ。このスキルを持っていると魔法を使う時に、そこへ注がれる魔力の量を増やしたり減らしたりすることが出来るようになるんだよ。さっきアリスは無意識のうちに魔法へと込める魔力の量を増やしていたんだね」
「……凄すぎです。私はてっきり身体強化のスキルだけかと思っていたのに、それ以外のスキルもなんて、マイルさんは最高の冒険者さんです!」
「何を言っているんだ。俺はただ、アリスがゴブリンを倒せるように手助けしただけ、アリス自身が自分の力でゴブリンを倒したんだぞ」
「ですが……」
俺はアリスの唇に指を当ててそれ以上言わせないようにする。
その瞬間アリスの顔が真っ赤になってしまった。
「マイルさんはズルいです」
「何がだ?」
「何でもありません。それよりも次のモンスターを探さないとです」
アリスは俺から目を逸らして先を行き始める。
一体どうしてしまったんだろうか?
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