九、パーティー結成「フォレストガーディアン」

 俺達の受付の番がやって来た。俺達が並んでいたのは昨日と同じミラーさんの列で他の受付の列に比べて少し時間がかかった。それでも昨日来た時、何でもサポートしてくれると言われたのでそのお言葉に甘えることにした。


「おはようございますミラーさん」


「おはようマイルさん。それと~」


 ミラーさんは俺の隣にいるアリスへと視線を移す。そういえば昨日の夕方来た時はミラーさんは受付にいなかったからアリスの事を見ていなかったのか。


「もしかしてマイルさんの彼女さんとかですか?」


「ふぁい!」


 ミラーさんの言葉に顔を真っ赤にして慌てふためいているアリス。


「ミラーさん、違いますよ。この子はアリス=マーベリック、Fランクの冒険者です。今日はアリスとの冒険者パーティーを組むための登録とこの依頼を受けに来ました」


「マイルさんがアリスさんとパーティーをですか!? ですがAランク冒険者であるマイルさんがFランクのアリスさんとパーティーを組まれると言うことは、マイルさんも一時的にFランクへとランクを落とすことになるのですよ。本当によろしいのですか?」


「そのことは承知の上です。アリスは俺が失いかけていた仲間を一緒に冒険したいと言う気持ちを思い出させてくれました。だからこそ、アリスとなら本当のパーティーを組めると思ったんです」


「そうだったのですね。分かりました。ではこちらの用紙に必要事項をご記入下さい」


 たぶん、ミラーさんでなければこのパーティー登録は通らなかったように思う。冒険者パーティーは組む者同士、お互いに利がないと成立しない。あまり例えに出したくはないが、赤い流星は言うことを何でも聞く荷物持ちが欲しかった俺以外のメンバーと、自分では何もできない俺が冒険者するためと言う理由があり、お互いに利害の一致があった。だが、今回の俺とアリスのパーティーは、傍から見ると俺に利がないように見えるだろう。さっき話した理由を言っても通してもらえなかったと思う。それに関しては、利害以外に、ギルドとしての理由が絡むことになってくるのだが。


 ミラーさんから一枚の紙を受け取る。ここには俺達それぞれの名前、年齢、それぞれの冒険者ランクを記入していく。ここまでは問題なく書けたのだが、最後の項目、ここが一番の問題だ。一度決めると変えられない、それに有名になった時はこの名前が広がってしまう。冒険者パーティーの名前はそれ程に大事なのである。


「アリス、何かいい名前はないか?」


「私ですか? そ~ですね~? 私は、マイルさんの決めた名前なら何でもいいと思いますよ」


 可愛い顔で言われてもな。正直こういうネーミングは苦手なんだよな~。俺は必至で頭を悩ませてやっとの思いで一つ名前を思いついた。


「フォレストガーディアンってどうだ?」


「フォレストガーディアンで、す、か?」


「ああ、エルフって森人って言うだろう。そんなアリスの事を俺が守る。つまり守護するってことだ」


 その言葉にアリスが顔を真っ赤にしながら、


「いいです。これでいいです」


 下を向きながら小さな声で答えてくれた。


「ミラーさんこれでお願いします」


 俺はパーティー名の所にフォレストガーディアンの名前を書いてミラーさんに渡した。すると、ミラーさんは俺とアリスの会話を聞いていたのか、何やらニヤニヤした顔で俺達の方を見ている。


「別に二人は付き合ってないんだよね?」


「どうしてそこ疑問形なんですか! 俺とアリスは昨日知り合ったばかりなんですよ。そんなはずないじゃないですか!」


 その言葉に、アリスが少し落ち込んでいる。うん? 何故落ち込むんだとその理由が分からない。


「マイルさんも罪な人ですね」


「何の話ですか?」


「は~、アリスさんも苦労するわね」


「ふぁい!?」


 また噛んだ。その姿も可愛いなと思う。


 そんなこんなで手続きは無事終了、これで俺とアリスは正式に冒険者パーティーを結成することとなった。

 

 それと、先程一緒に提出しておいたEランクの討伐依頼も無事に承認が下りたようだ。


「二人なら問題ないと思うけど、相手がゴブリンだからって絶対に油断だけはしないように。それで痛い目にあって来た冒険者が数多くいますからね」


「はい!」


 アリスは少し緊張している様子。俺も油断はする気はないが、問題はないだろう。それに、今回の依頼はアリスの成長のための物、でいる限り俺は手を出さないつもりだ。


「それじゃ行こうかアリス」


「はい! マイルさん」


 アリスは俺の手を握って来た。やわらかであったかい手、否応なしに緊張する。


「どうして急に手をつなぐんだ?」


「私がそうしたいからです。ダメでしたか?」


「いや、そういうわけではないんだが~……」


 ただ、周りの冒険者の視線がより一層険しくなった気がした。俺いつかこいつらに殺されるんじゃないかと思うくらいに。


「どうされましたか?」


「何でもないよ。それよりも、早く行こうか。今日は少し長くなるぞ」


「分かりました」


 俺とアリスは昨日と同じ町の南にある森へと向かうのだった。

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