第10話 夢
『この家を支えてくれ』
物心ついた時には、この命は捧げるためにあると信じていた。
『この家から出ていけ、バケモノめ』
けれど、あの日、すべてがひっくり返った。
『名を捨て、身を隠して生きていくのです。それがあなたの生きる道です』
信頼するものに見捨てられ、あてどもなく歩き続け、力尽きた。朽ちた坑道でこのまま果てるのだろうとうずくまっていた。
『ああ、なんて可愛らしい』
頭上から声をかけられ顔をあげる。
そこにいたのは――人型の機蟲だった。
黄色のドクロは俺を見下ろし、手を伸ばした。
手が届く寸前、立ち上がり逃げる。闇雲に走り続けていると周囲をスズメバチ型の機蟲が低い音をたてながら通り過ぎていく。彼らはその先にいた人々を襲って肉を噛みちぎるとせっせと肉団子を作り始めた。
足元には、人の腕と同じ太さの白い芋虫が地べたを這いずり回っており、避けきれずに踏んでしまうと、ぶちゅりと不快な音を立て足に粘液が粘りついた。思わず足を止めれば、頭に影がさす。頭上にはいつの間にか何メートルもの大きな巣があり、円筒の筒の中を幼虫や蛹たちが蠢いている。成虫たちは人の肉でできた団子をせっせと幼虫に与え甲斐甲斐しく世話をしていた。
おぞましい光景だった。なのに――この命の営みを当たり前だと感じている自分がいた。
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