第136話 もしものお話・無双幼女呂布と奸雄少女曹操のぶらり天下統一の旅

※コメント発症、もとい発祥の適当すぎるお話です。色々と酷いし長いので、皆さまもご無理なさらずに適当な所で離脱してくださいませ。



呂布りょふが降服してきたというので、皆で鄄城けんじょうのとある門に急いだ。

救急看護練習中だったので、医者と助手の衣装を着替えることなく駆けつけたのだ。


そこには、小さな身体を中心にまん丸になるほど大量の縄で縛られた幼女と、豊満な肢体を亀の甲羅の文様に縛り上げ、湿っぽい吐息を漏らしている女がいた。


「呂布などおらんではないかっ」

女助手の格好をした少女は小怒りすると踵を返す。


「おまちくだちい。朝起きたらこの姿だったが、俺が呂布にゃ。降伏するのだ」

幼女がときどき回らぬ舌で愛らしく宣言した。

「うっふ~ん。そしてできればこちらに、再就職、させてくださいましぃ?」


……なんだこの二人、縛られ方が職人技だ。うう、負けた……。

包帯で雑にぐるぐる巻きにされた患者役である夏侯惇元譲かこうとんげんじょうはがっくりしたが、となりの清流派美少女兗州牧せいりゅうはびしょうじょえんしゅうぼくである曹操孟徳そうそうもうとくはとくに気にする事なく、幼女に近づいた。


「ほう。まさか呂布殿、いや、呂布クン。

キミまで私と同じ、朝起きたら女の子になっていた病、を患うとは可哀想に」


「あは~ん。では、あなたのところに、再就職させていただけますぅ?」

「奥さんは黙っとれ」

「おい。縄がキツイから、ちょっとゆるめろ」


たしかに糸巻のように荒縄を巻かれた姿は苦しそうである。

だが女助手の衣装を着た王必おうひつという曹操の部下がズザーッと二人の間に滑り込んできたので、太ももが露わになり純白のふんどしがチラリと見えた。


「曹操殿っ!縄をゆるめてはいけませんぞっ。呂布は虎のように危険なのです!」

「……だそうだ。私は、ゆるめてもいいと思ったのだが」

「ふえーっ」

涙目になった幼女を少女は見下げていたが、ふと屈むと、その小さな顎を指ですくって視線を合わせた。


「とはいえ、ちょっとした一言があれば、キミを自由にして、ついでにうちに来てもらってもいいかもしれん。まずは試験的にだが」


はっとして、幼女と亀の甲羅縛りの女は見合った。

「ほら奉先ほうせんさま。こういう時って、なんて言うんでしたっけ?」

「うーっ。兗州えんしゅうを盗んで、ごめんなしゃい、でした……」

「おや。心まで純朴になったのかな。素直に謝ってくれるのなら私も、いいよ」


こうして兗州は曹操の元へと戻り、呂布は試験的に騎馬隊を担当する事となった。

後から聞いた話によると、孟徳殿は呂布の武芸を大変評価しており、無下に処刑するのは忍びなかったらしい。


秋。平和な兗州に実りの季節が訪れた。

「当然ではありますが、戦争がないと驚くほど収穫が増えますね。

青州兵とその家族は元農民ですから、彼らも素晴らしい働きをしてくれました」


報告をする荀彧じゅんいくに笑みが絶えないのは、心から嬉しいからだろうか。


「誠に結構な話じゃ。私の方は、呂布クンと多少、仲良くなれたように思う。

戦いは、乱世を終わらせるためにするものだと、我らの考えも理解してくれておる」

そしておもむろに小さなため息をついた。

「では、気乗りしないが、途中にしていた仕事を再開しよう。ぐずぐずして、こちらが攻められても面倒だからね。人中の呂布殿の活躍に期待する」


人馬一体とはよく言ったもので、呂布の愛馬である赤兎も仔牝馬に転化していた。

だが双方ともその強さは変わらず驚異的であり、呂布軍の騎馬隊長たちもそれに続けと勇んだ。

ちなみに呂布の兜の特徴的な長い羽飾りも主に合わせて短くなっており、今は兎耳のようにフサフサとした、とても愛らしい被り物になっている。



徐州じょしゅうを、まず手始めに攻めた。

寝込んでいた徐州牧の陶謙とうけんは床の上から罠を仕掛けたが、呂布軍の騎馬隊に力押しでなぎ倒され、さらには曹操軍の歩兵部隊に圧倒されて、最後には生け捕りにされてしまった。


豫州刺史よしゅうししであった劉備りゅうびは急変に驚き逃げてしまったので、ついでにそこも管轄地とした。


揚州ようしゅうは豫州の下にある。

温暖な南国の地でぬくぬくと日焼けをしていた袁術えんじゅつは、唐突な曹操の勢力範囲拡大に恐怖を抱いた。

やはり頼れるのは肉親だと気づいたのか、国を二分する壮大な兄弟喧嘩をしていた事など忘れたように、兄の袁紹えんしょうを頼り冀州きしゅうへと大移動した。


突然の曹操軍の脅威に二人はすっかり意気投合し、今こそ力を合わせて新時代である袁王室を作るのだ、と意見が一致し仲直りしたらしい。


そんなわけで、空いた揚州も連鎖的に手に入れた。



「やった!短期間で、素晴らしい成果じゃっ。なんでも褒美をやるぞっ」

少女は満面の笑みでしゃがみ込み、幼女に言った。

「えっ今、なんでもって?じゃあ一緒に湯浴みをしましょうっ」

「は?」

少女は真顔になったが、しかし頬を赤く染めると、上目遣いで相手を見つめた。

「うん……。恥ずかしいけど、いいよ?」


……今は幼女とはいえ、俺は雄々しい武人である。

熟れた奥方もいいが、時には嗜好を変えて、美少女と戯れるのも活力が出る。

そんなわけで幼女は湯浴み場の戸を開け、湯気の中の影に抱き着いたのだ。

「ああッ!」

小さな悲鳴が上がり、幻想的な湯気が消し飛んだ。

幼女と、ぽろり全裸の王必はしばし目をパチクリとさせて見合ったが、今度は二人同時に絶叫して湯浴み場から廊下に飛び出し、周囲の者を驚かせた。

呂布は全裸の王必に驚き、王必は呂布を警戒していたので、まるで風呂場に虎が侵入したように仰天したのである。


「一緒にとは聞いた。だが誰と一緒に湯浴みするかその指定はされていなかった」

少女は中間管理職のような言い訳をしたので、幼女の心はざわついた。



さて、天下統一の旅は続く。

揚州を流れる揚子江ようすこうを船でのんびり進むと、赤壁せきへきという岸壁に出る。

ちなみにここは荊州けいしゅうである。


荊州の管理人は劉表りゅうひょうという人物で、袁紹推しだった。

だが彼の息子がしれっと曹操に荊州を譲ってしまい、無血開城となる。

後日この降伏は、この州で有名な予言をする娘の歌に感化されてだとか、そうじゃないとか……摩訶不思議な噂が街に流れたが、その真意は不明のままである。


益州えきしゅうは、荊州の隣にある。

ここには漢中かんちゅうという漢王室かんおうしつが興った重要な場所があった。

とはいえ、その昔は島流しの流刑地であり、蜀道しょくどうけんと呼ばれる絶壁に張り付いて通るような危険な狭い桟橋や山道を使い、やっとそこに辿り着ける秘境の地でもある。


現在の漢中は「五斗米道ごとべいとう」という宗教、道教の本拠地となっている。

「五斗米道」は、黄巾の乱の元となった「太平道たいへいどう」と似ており、信者である貧民同士が食料や医療などを助け合うための集団でもあった。


漢中を目指し、人一人やっと通れる危険な桟橋を進むうちに、少女は愚痴った。

「はあっ、田舎すぎるっ。まるで化け物の国じゃ。わしゃもう帰りたいっ」

「あら、大都会からのお客様、いらっしゃい。うちになんのご用かしら」


見上げると、絶壁に絶世の美少女が張り付いている。

釘を崖に打ち込み、それに紐を通して器用に移動しているのだが、空でも飛ぶようにふわりと降りた様子は、まるで天女のようだった。


「しゅごいです~」

幼女は被り物の耳をピコピコさせて相手を誉めた。

「うふっありがとう。ここに住んでいれば、誰でもできる事なのよ」

……誰でもという事は、兵士たちも、という事か。もしもそんな山岳部隊に先制攻撃されていたら……。

と、話を聞いていた夏侯惇は身震いをする。


聞けば彼女は、五斗米道教祖、張魯ちょうろの母親、なのだという。

……まてまて、張魯は、たしか二~三十代だし、しかも兄がいたはずだが……?

しかし彼女はどう見ても十代の容姿であり、白い肌、黒い髪、朱い唇が荒んだ山道の中で場違いに艶めいている。


「曹操殿!お気を付けて下さいっ。張魯の母親は鬼道きどうの達人ですぞっ。

ヘンな術をかけられないように警戒なさってくださいっ」


王必はどこにいるかわからないが、その声はやまびこになり何重にもなって届いた。


「まあ、あなたが曹操様?私、以前からあなたにお会いしたいと思っていました。

なんせ、あの狂暴な「太平道」の残党を手懐けたというじゃありませんか」

……青州兵せいしゅうへいのことだろう。

「ねえ、どうでしょう?私たちも、囲ってもらえませんか?」


こうしてあっけなく漢中を手に入れたのであった。

その後、益州牧えきしゅうぼくである劉焉りゅうえんがぽっくりと亡くなり、益州全域も併呑した。……この死は多分、偶然だろう。


残るは袁兄弟えんきょうだいのいる冀州きしゅうと、すでに彼らが平らげた北部の州が残っている。


天下はわかりやすく上下で二分されたのだ。

懐かしの地である兗州と冀州の境で、曹操と袁紹の決戦の幕は上がった。


……袁紹と戦うなんて、過去の自分たちには想像もできなかった。思えば二人は長い付き合いだ。乱世となる前から清流派の仲間として(以下省略)


こちらが呂布軍を出せば、袁紹は涼州りょうしゅう一族の騎馬隊で対抗し、山猫のような青州兵を出せば、イナゴ攻撃で有名な公孫瓚こうそんさんが反撃をしてくる、袁紹が陰湿な悪口攻撃を名文家の陳琳ちんりんに書かせて送ると、曹操はあまりに上質な罵りに感心して、頭痛が治った。


そんな一進一退が続く中、呂布はひそかに、敵である袁術から蜂蜜の甘いオマケつきの手紙を受け取った。

そして敵同士の将軍二人は真夜中の戦場でひそかに落ち合う……。


「おれになんの用だ」

「ふふふ。率直に言います。曹操を裏切って、うちに来ませんか?」


雲が流れ月を隠し、幼女の表情はわからなくなった。


「私たちが曹操に勝てば、人々を苦しめ続けた漢王室かんおうしつを終わらせます。そして、袁王室えんおうしつという新しい時代が始まるのです。

あなたにも、ぜひその名誉ある一員になってほしいのです。


私の息子はいずれ、帝になるでしょう。

ぜひ、あなたのお嬢様を、私の息子に嫁がせてほしいのです」


「えっ!つまり、うちの子は、将来はお姫様に?!」

「ええ、その通りです」


幼女は沈黙していたが、やがて苦悩のまま口を開いた。

「はうう。わからんっ。だが、断りゅのだ……」

「ほええ。なんですと」


「おれにもこれが正しい判断なのかわからん。

だが今のおれは、なんだかいままで積み上げてきたものを壊すのが怖いのだ。


今では多くの人が平和に暮らしている。

なのに、お前に味方すると、また争いが長引くような気がするのだ……。

それに、そんなことで娘がお姫様になっても、娘が嬉しいのかどうかも、おれにはわからないのだ。


……だから、おれと君たちとは、敵のままでいいにょ」


「ちぃっ。幼女だが、老いたな、呂布よ」

「人間は、老いるのが自然ら」

袁術は袖なし外套をひるがえすと、振り向かずに去って行った。


そして彼と再会したのは、ほんの数日後のしかも曹操軍の本陣だったので幼女は大いにドキリとした。

しかし密会をバラしにきたとか、そういう離間の計のたぐいではなく、どうやらまた兄弟喧嘩をしたそうで、弟は兄を裏切りここへ来たらしい。


本初ほんしょ(袁紹のあざな)は妾の子のくせに、嫡子の私を差し置いて、自分が帝になろうとたくらみ、まったく引かんのだ。

改めて、心底図々しい卑しい奴だとわかったよ。

高貴な生まれの私とは、根本的に違うのだ。

それならいっそ、やつをギャフンと云わせてやろうと思い、ここに来たのだ」


「ええ、ええ。袁紹がムカつくその気持ち、よーくわかりますよ」

すると男は、相手の白い小さな手をぎゅうっと握った。

「やはり、本初を殺すのは、君だ。孟徳殿。

さあ、欲しい情報を全部あげよう。

本陣、兵糧庫、武器庫、兵隊の数から、備蓄の残量まで……」


こうして弟の裏切りで、兄は幼女に連れられて、少女の前に現れた。

「いい気味じゃ。跪くがいい」

「いや。立ったままでよいのです」

袁術は不満気に横目で見てきたが気にせず、少女は袁紹に近づいた。


「自害されず、本当に良かったですよ。

今は気分が優れないでしょうが、元気になられたら、また一緒に漢王室と世の平和のために働きましょう」


魂が抜けたような無表情をだったが、ふと、拗ねた猫のように半眼になると、相手を見下げた。


「ふん。……悔しいが、しかし、往生際が悪いのも恥ずかしいものだ。

まあ、仕方がない。お前の言う通りにしてやってもいいさ」


二人が拱手しあうと、ついに訪れた乱世の終わりと平和の予感に周囲の者は拍手と喜びの声を上げた。

すると部屋の奥から、冕冠べんかんのたまだれの音も涼しくまだうら若き献帝が現れたので、皆は等しく漢帝国の配下として跪いたのであった。


宴が始まる前に、少女は幼女に視線を合わせ、その小さな手を両手で優しく握った。

「この平和は間違いなく、キミのおかげだ。ありがとうっ」

「……う、うにゃあ」

なぜか恥ずかしいような気がして、小さくうなずく。

そして、今回は裏切らなくて本当に良かったと、幼女は過去の自分に感謝を送ったのであった。


(もしものお話はこれで)おわりです。


※もっと短くしたかったのですが、絶対にいらない王必さんのお風呂シーンとかまったく削らなくてすみませんでした…。

殺伐した本編は続きますので、また気が向いた時にでも読んでいただけると嬉しいですっ。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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