第133話 兗州・曹操の帰還

巨鳥の啼き声のような甲高い金属音を響かせて、鄄城けんじょうの正門が開かれた。


まず、先陣を切っていた曹洪そんこう軍がなだれ込んでくる。

さらに楽進がくしん夏侯淵かこうえん于禁うきん曹仁そうじん、そしてなぜか、袁紹えんしょう軍から援軍として参加していた一隊も入城する。青洲せいしゅう兵は人数が多く、一部は中庭へ誘導された。


程昱ていいく荀彧じゅんいくは出迎えの列に混じって、帰還する兵士たちに労いの言葉をかけていた。

やがて、兗州牧えんしゅうぼく旗を見つけると、兵士たちの波を縫って近づいた。


「よくぞご無事で戻られました!」

その声に、護衛兵に囲まれた軍服の少女は、馬上でゆっくりと振り返った。


「やあ、君たち、ごきげんよう……。君たちは幻かな、それとも本物かい?」

少女のまぶたはすでに半分ほど閉じている。

「幻ではありませんよっ」

荀彧がそばに寄って馬のくつわを取って微笑むと、ハッと少女は身を起こし、急いで下馬した。

着地した時よろめくと、皆一斉に手を差し伸べたので、少女は少し笑った。


そして乗馬用の革手袋を脱いで拱手し、鄄城と他の二城を守りきった二人を尊敬の眼差しで見上げた。


「あなた方の力がなければ、私たちは帰る場所を失っていた。あなた達には感謝してもしきれません」


さらに、程昱の手を握ると、優しく微笑んだ。


はん東阿とうあでの働きは聞きました。

この二県を守れなかったら、この鄄城も私たちも滅んでいたかもしれない。

……そして、すべては私の至らなさのせいなのだから、君はどうか、気に病まないでほしい」


手を握られたまま、両ひざをついて少女を見上げていた程昱だったが、最後の言葉を聞くと、深々と一礼をした。

少女は彼を立ち上がらせると、兵士が通り過ぎていく砂ぼこりの中を見渡した。


「しまったな。誘導をしてくれた元譲げんじょう殿も、幻覚じゃなかったのか。

あとでちゃんと感謝しておくよ……」


夏侯かこう軍のおかげで、この大軍を臨時駐屯地へ順調に案内できています。

彼らはつらい仕事も、地味な仕事も、嫌な顔せずに勤めてくれるので驚きました」


「ふふ、それは良かった……」

そう言うと、欠伸をしかけて慌てて口を閉じた。


「うむ、今日はもうだめだ、眠すぎる。悪いが、また明日、会おう。

これが本当に夢でなく、君たちが、消えなければね。

疲れのせいで、何度も君たちの幻覚を見たからね。疑い深いのは許しておくれ……」


つづく

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