第129話 兗州・兗州奪還の第一歩~夏侯惇の場合~
「降伏します」と言う、そんな
それを知った兵士たちは動揺したが、副将の
犯人は「財宝を出せ」と要求したが、韓浩は応じる事なく、号泣しながら「犯人と一緒に、人質の夏侯惇も斬る」という決断をする。
あわてたのは犯人たちで、土下座、言い訳、命乞いをするも許されず成敗されて、幸運にも夏侯将軍は救出されたのであった。
後日「犯人と一緒に人質も斬る」という韓浩の勇断を、
さて、鄄城の
やがて夕暮れの中に一行を見つけると、二人は声を上げて喜び合った。
出会うなり、到着の遅れを謝罪する夏侯将軍と韓浩に驚きつつ、困難の中を駆けつけてくれた事に感謝し、気落ちしている彼らを
やがて彼らも気持ちが切り替わってきたのか、表情と声に張りが戻ってきた。
「ところで、話は変わるのですが、気になっている事があります」
とはいえ、まだ控えめに、夏侯将軍は切り出した。
「
「もちろんです。曹兗州牧のご家族は、我らがすでに厳重に保護しています」
そう答える荀彧は微笑んだままだが、その瞳には緊張の光が差した。
「今は、私と程昱殿のご家族と一緒に過ごしています。
着物や冠も似た物にして、一見、誰が
そして、万が一の時は、身を挺して助けるようにと言い含めてあります……」
夏侯将軍は安堵するどころか、逆に深刻な面持ちになった。
「それは、ご心配でしょう……。
早く、この危険な状況を脱しなけれなりませんね」
程昱はうなずくと、話し出した。
「ええ。そのために、ぜひ、あなたにお願いしたい事があるのです」
「おお、一体どのような事でしょうか?」
将軍は少し前のめりになって尋ねた。
「敵の使者である
「なるほどっ。私たちが捕らえて、処刑いたしましょう」
思いがけない察しの良さと判断の速さに驚き、つい相手を見つめてしまった。
……遠慮して言い淀んでしまったが、まさにそれが肝心な頼み事だった。
さすが、ただの粗忽者ではないな……。
「では、到着されたばかりで心苦しいのですが、遠慮なくお願いいたします。
私たちだけでは、敵に抵抗されますと不安で、動けなかったのです。
万が一、我らが殺されますとその時点で、鄄城は落城いたしますから……」
「慎重な行動、何よりでした。
荒事は、軍人である私たちがやりますから、どうぞご安心を」
荀彧と程昱は拱手して感謝を伝えたのち、袂から一枚の布を取り出した。
「これが協力者の名前です」
覚え書きの布には、私兵を持つであろう豪族や、上級役職者までいた。
夏侯惇は驚き、そしてため息をついた。
「鈍い私にも、やっと今の兗州の状況を、実感できたような気がします。
つい最近まで一緒に働いていた者たちが裏切り、凶事を企んでいたとは、恐ろしく、悲しい事です……。
さて、私兵を呼び出される前に、一網打尽にしなければ。
数も多いですし、今すぐやるとしましょう」
夏侯将軍はそう言うと一礼し、韓浩と共にふたたび自軍の中へ引き返して行った。
この突然の取り締まりは、功を奏した。
なぜバレたのかと、困惑する裏切り者への尋問は荀彧と程昱も参加した。
謀反に同意したと判明すると、次々に牢に閉じ込めていく。
新たな協力者の名が出れば、すぐに夏侯将軍へ使者を出した。
こうして最終的に、敵の協力者は数十人に及び、その夜のうちに全員が処断された。
まさに電光石火の一晩となった。
翌朝、少し仮眠し、身なりを整えた四名は、再び集合している。
「鄄城は、これで良いでしょう。
あとは、まだ敵の手に落ちていない
朝とはいえ、幾分肌寒く感じるのは、暑い季節が終わろうとしているからなのか、兗州で孤立しているせいなのか、誰にもわからなかった。
机に地図を広げ、話し合っている最中である。
突然、扉が叩かれ、四人は一斉に振り返った。
大ごとがなければ、この部屋の前の廊下も通ってはならないと、監視に言いつけていたのである。
皆、緊張した面持ちで扉を見つめる中、夏侯惇がわずかに開き、用を尋ねた。
「緊急事態ですっ。
使者が先に到着し、伝言を受けました。
郭貢殿がぜひ、荀彧殿と直接、話をしたいと、おっしゃられているそうです……」
……豫州刺史(刺史は、現在でいう知事のような地位)は、のちに陶謙によって劉備が推されている。
だがもともとは、袁術の部下と思われる郭貢が、その地位に就いていたのだ。
よって、豫州は一時期、郭貢(袁術派)と劉備(陶謙派)の二人の刺史が存在するという、いかにも混乱した州となるのである……。
話を戻す。
扉の隙間は僅かにもかかわらず、報告はやけに部屋中に響き渡った。
郭貢に指名された荀彧は、片手で顎に触れると、考えるように視線を下げた。
「まさか、会見を受けるわけではないでしょうね?
罠に決まっていますっ。行ってはいけませんよ」
夏侯惇が一早く、熱っぽく訴えた。韓浩も大きく頷きながら、思う。
……さすが、人質に取られた人が言うと、説得力が違う。
荀彧殿は慎重だ。こんな危険な会見は上手く断わり、応じないだろう……。
つづく
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