第106話 青州・袁紹と曹操vs劉備 戦いの始まり
遥か地平まで伸びる農地は耕起され、湿った黒土は春の種を待っている。
通り過ぎる城塞はすべて堅牢優美で、
夕暮れには、一際大きな城塞に案内され、末端の兵士まで大歓待を受けた。
さらに、先の戦いで失った以上の武器、兵士、食料まで贈られて、袁紹の上機嫌と経済力に甘えきった、その二日後。
冀州と
ここに布陣しているのは、
誰も知らない名前だった。
「いや、この名前、どこかで聞いた気がするんだけどな?」
副将の
「やあ!これは絶景ですねっ」
軍師の
「袁紹軍の騎兵と、我らの騎兵が並ぶなんて夢のようですっ。
まるで、
少女は両手を口に添えて、物見の下から大きな声で応えた。
「
そして
きっとこの国でもっとも強くて、もっとも速い騎兵隊が揃っているのだ。
そりゃあ、壮観だろうねっ」
……あっ、放浪中の呂布の騎馬隊も、強くて速いらしいな。噂でしか知らないけど。
ま、ここは、自画自賛を通しておこう。
「両軍総勢、約四万の大軍勢だ。
さらに予備として、精鋭の
対して、敵の
しかも主人の
借物の兵士は、思うように動かせないだろう。
彼にとっては、今にも逃げ出したい戦いになるだろうね」
「公孫瓚も助けにくる様子はないようです。絶望的ですよ。
もしも私が劉備殿の立場だったら、転職を考えますね……」
「ところで、話は変わりますが」
気持ちも変わったのか、すでに微笑まで浮かんでいる。
「今回の袁紹軍との軍議は揉めずに終わり、ホッといたしました。
前回、私たちに噛みついてきた
そう、前回は袁紹の思い付きで揉め、さらにこの田豊の口出しで脱線して揉め、この荀彧まで怒ったのである。
だから彼らとの会合を不安に思っていたのは、よくわかる。
「田豊殿は、私の提案も頷いていました。
無理に文句をつけるような、度量の狭い人ではなかったのですね」
「ふむ。袁紹の重臣になる男だからな。クセは強いが優秀なのは間違いない。
それにしても、君の提案のおかげで袁紹軍の一部とならず、独立して戦えるようになった。ありがたいことだ」
「もったいないお言葉です。
兵士を混ぜると言い出されたら、混乱は必至です。また、揉めかねません。
先手を打ったのです。
隣同士で陣を並べるのが、無難でしょう。
……今回は殲滅戦ですから、簡単な提案や話し合いで済んで良かったです」
「ふむ、この兵力の大差なら、小細工は無用だからね。
袁冀州の理想でもあるらしい、圧倒的な戦いをすればいい」
そしてふと、真顔になる。
「袁紹の目的は、今、目の前にいる劉備軍を潰すだけではないのだろう。
彼の背後にいる、
そのために衝撃的な、全滅、という結果が欲しいのさ」
「それに劉備殿は公孫瓚の直属の配下。彼を潰せば公孫瓚の戦力を削ぐも同じです。一石三鳥を狙っているわけですね。
……彼らの闘争は長く、憎悪は深い。
きっとどちらかが消滅するまで二人は戦い続けるのでしょうね」
「それでいい。気が済むまで殺し合って弱体化するか、消えればいい。
問題は、その後さ。
彼らの決着がつけば、今度は私たちが、そのどちらかと戦う事になる。
我々は、誰にも支配される気などないのだからね。
私たちは平和を護るために戦いに備え、そして戦い続けていくというわけだ。
酷い話だ。私たちはこの悪循環から抜け出せる日が来るのだろうかね」
「すみませんっ、ひとつ質問してもいいですかっ?」
軍師、
「
そうしなければ、数で圧倒されて負ける。これは子供でもわかる事です。
ですが報告によると、劉備軍は伏兵等の罠を仕掛けていないようなのです。
実際、それらしい場所を見回りましたが、その気配はありませんでした。
まさか、彼らは何の対処もせず、真正面から戦うつもりなのでしょうか?
それとも、こちらが思いつかない秘策があるのか……。どう思われますか?」
つづく
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