第93話 兗州・道を知る者
「今さら、戦い以外の接触を計ろうとは……遅すぎるのじゃっ!
もっと早ければ、
そして竹簡を乱暴に机に置き、諸将にも読むように、鋭くなった視線で促す。
すぐに、ハッとする。
青洲黄巾賊の長、
それは癖のある、雑なような優しいような、丸っこい文字で書かれていた。
「以前、あなたが済南国の相を勤めた際、淫祠、邪教を禁じ、神壇さえも恐れず、破壊されました。
それは我々と同じ考えで、あなたは道をご存じの方なのだと、思っておりました。
しかし今のあなたは混乱されているようです。
すでに漢王室の機能は停止し、いずれ、黄の者が代わる事となります。
これは天命なのです。
いくらあなたが今さら漢王室を助けようとしても、もはや不可能です」
この書簡の内容で、
……黄巾賊は、曹操の過去の履歴と仕事ぶりを完璧に把握している。
粗暴なだけの集団だと思っていたが、今、完全に見る目が変わった。
彼らはその気になれば、気になる人物の過去を正しく詳細に調査できる情報網を持つ組織なのだ……。
全員がしばし黙っていたが、荀彧が口火を切った。
「返信は、どうなさるのですか?」
少女は鮑信を思い出していたのか、涙を溜めた赤い瞳で彼を見た。
「それが、したくても、返信の方法がわからんのだ。それも腹が立つ。
この竹簡は降伏する者が持っていたそうだ。
だが、彼らは知らない子供から、手渡されたという。
そして相変わらず、自分たちの長である父老の存在を知らん。
内容もだが、通信方法も、今は一方通行という事だ。
だから、返信はできない。
一体、どうしたらいいのやら……」
「そう、でしたか……」
荀彧は思う。
……まるでこちらがどう対応するのか、試験でもされているようだな。
文書で通信しないなら私が直接、交渉人として敵地へ乗り込むのはどうだろう?
戦いではなく、話し合いをしようと、堂々と伝えてみたら、もしかして相手も……。
青年は意を決して口を開きかけた時、少女が「あっ!」と素っ頓狂な声を上げた。
当然、全員が驚き、注視する。
……なにか、良い案でも思いついたのだろうか?
皆の期待と緊張に満ちた視線の中、少女はさっきまでの仏頂面とは別人のごとく、悪童が悪戯でも思いついたような笑顔で、ちょっとした思い付きを話し出した。
つづく
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