第82話 東郡・陳宮、天下平定の夢を持つ男
山賊はすっかり大人しくなり、
東郡の役人たちは引き続き勤めている者が多い。
ただ一つ彼が他の役人と違ったのは、初めて会った時に「この動乱を治めるには、天下を平定するしかない」という大きすぎる目標を臆せず話した事である。
……天下を平定する?誰が?キミが?私が?
まるで雷にでも打たれたような衝撃だった。
夢のような話だと思ったにもかかわらず、しかし、逆に目が覚めたような気もした。
近頃は、迫りくる現実を乗り切るのに精一杯だった。
広がり切った動乱を治める具体案など、考える余裕もなかった。
あるいは、考えたとしても夢想の一つに過ぎないと受け流していた。
しかし陳宮は違う。
理想の未来を想い、それが途方のない夢だとしても、実現させるためには何が必要なのかを考え、実行しようとしているのだ。
彼の言葉は
その
そして
「野に下っていた
「もちろん、本当ですよ」
陳宮は喜びで緩んでいるのか、人懐っこい笑顔でうなずいた。
「
しかし突如そこを辞め、このまま隠居するのかと思いきや。
ぜひ
多くの名士たちとも、深い親交のある一族です。
もしも彼が勤めてくれたなら、きっとそこから人が集まってくるでしょう。
その上、
そのお二人が組まれる事になれば、早くにこの動乱を鎮められるかもしれません。
そうなれば再び、漢王朝が安定し、民が平穏に暮らせる日がまた戻ってくるのです。
ぜひ、荀彧殿を無事にお迎えしたいものですね」
喜色で頷いたが、少女の心はざわついた。
陳宮がさらりと言った言葉は、はっきりいって不穏だった。
……荀彧殿は「王を補佐する才能」曹太守は「天下を安んじる者」
それに触発されたのか、思い出したのは
彼は
まるで彼と会う前から、覚悟を問われているような気がした。
つづく
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