第78話 兗州・山賊を退治するのだっ ~質問~

山賊たちは、黒山賊こくざんぞくと呼ばれている。

張燕ちょうえんという人物を頭目に、于毒うどく、白じょう、眭固すいこらが率いる荒くれ者が集まり、総勢十万もの大軍となっている。

彼らは兗州えんしゅうの東郡の山々を占領して生息しているのだ。


ちなみにこの兗州えんしゅうを管理するぼく劉岱りゅうたいは反董卓連合の一員で、ずっと宴会に明け暮れていた人物でもある。


さらに、黒山賊こくざんぞくが住み着く東郡とうぐん太守とうぐんたいしゅは、以前は橋瑁きょうぼうであったが、酸棗さんそう劉岱りゅうたいと喧嘩して殺され、王肱おうこうという人物に変更されている。

あいかわらず、ややこしい。


 とにもかくにも、この新しい東郡太守とうぐんたいしゅは膨れ上がった黒山を討伐、防御しきれなかったのだ……。



「よって、我々が代わりに、退治する事になったわけだ」


簡素な幕舎の中で、軍服姿の少女は机の上の地図を前にして、将校たちに話をしている。


「兵力差は、敵は黒山総勢十万だが、今から攻める相手は三万ほどだ。

私たちは一万。

そのうち半分は袁紹から借りている兵士だ。それはできれば無傷で返すつもりだ。


よって、私たちは五千と考えるのだ」


 山賊の数はこちらの三倍以上、という大差に、とくに反応する者はいなかった。


前回に戦った相手が戦争経験豊富な董卓軍で、さらに自軍の倍の兵力を持っていたのだ。

結局、壊滅させられるほどの大敗になったが、その経験があるせいか、皆、恐怖や動揺を浮かべるどころか、落ち着いている。


「なにか質問は?」

楽進がくしん君が勢いよく挙手したので、隣でぼーっとしていた曹洪そうこうはドキッとした。


 楽進がくしんあざなは文謙ぶんけんは、元々は記録係の青年だった。

しかし兵士不足の中、彼は地元に戻り、千人ほど集めてきてくれたのである。

この事を評価され、ついに念願の軍人になれたのだ。


「黒山の頭目は、張燕ちょうえんですよね。


彼は反董卓連合に参加しており、いわば、私たちの同士です。

なのに、彼は無反応です。

これは一体どういう事なのか、気になっています。


もしや、張燕以外の黒山賊は董卓側に着こうとしてる、など裏があるのでしょうか。


あと、我々の同士だという事は、もしや、今回は容赦して戦うのですか?」


「さすが元文官は、細かいですな」

曹洪が軽口で感心した。


少女は、ふっと柔らかく笑むと、答えた。


「私も、頭目の張燕とここで暴れている山賊の関係は、さっぱりわからんね。


彼の部下ではあるのだろうが、その命令に従うという、主従関係ではないのかもしれない。

少なくとも、山賊の組織形態は、私たち軍隊とは違うようだ。


そして、黒山が独自に、董卓軍に味方しようとしている、という線はないだろう。


もしもここの黒山が董卓と組むなら、すでに官軍に降伏し、吸収されて一兵卒になっているはずだ。


だが、そもそも、山賊は官軍に降伏はしないだろうね。

彼らは、元黄巾賊も多い。朝廷に不満を感じている者が集まっているのだ。


自分たちを苦しめた組織の味方になろうとは、考えにくい。


 単純に、ここの山賊は、暴れすぎているというだけだろう。

彼らは、食料、物資、女が足りなくなったら略奪で補給するのが仕事だ。

それが生業だとしても、人数が増えすぎ、度を越している。

だから、私たちが討伐する。

 

あと、悪党に容赦は無用だ。

というか、まだまだ戦争初心者の私たちに容赦する余裕なんて、ないでしょ」


「わかりました、ありがとうございます」


拱手して軽く頭を下げた楽進に、少女はうなずき、あとは皆を見ながら付け加えた。


「さきにも言ったが、黒山賊は、元黄巾賊や、食うに困った農民たちだ。

いわば、ごく平凡な国民、農民たちだった。


しかし、漢王室に刃向かい、武器を持ち、まじめに暮らす人々を暴力で脅かす存在になった時点で、罪人になったのだ。

冷たいようだが、そう割り切って、徹底的にやる。


集団で強気になり、勘違いの果てに世を乱す事に躊躇ちゅうちょがなくなった無法者どもが、どれほど悲惨な末路を迎えるのか。

それを私たちが、教えてやるのだ」


「御意」

皆、一斉に拱手し、少女に頭を下げた。


つづく

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