第76話 河内郡・何度目だ乱世・山賊退治の依頼

乱世っぽいな?と、近ごろ、少女は思いつつある。

そう思いたくなかったが、そろそろ認めなければいけない気がする。


もしかしたら董卓とうたくに日常を破壊された時点で、すでに乱世になっていたのかもしれない。

だがその時はまだ、董卓がいなくなれば、また以前の日々に戻るだろうという、日常範囲内の乱世だと思っていたのだ。


しかし最近は董卓を倒しても、もう二度と以前の日々は戻らないような気がする。

世界はすでに一線を越え、知らない場所へ突き進んでいる、そんな気がしている。


秋の出来事である。


袁紹えんしょうは仲良しだった韓馥かんふくから冀州きしゅうを騙し取り、彼の地位と軍事力と資産を、まるっと手に入れてしまったのだ。


そのやり方は、以下である。


袁紹はひそかに公孫瓚こうそんさんという将軍に、韓馥の管轄地である冀州を攻めるように見せかけてほしいと連絡し、実際に進軍させた。

当然、韓馥は突然の出来事に慌てふためき、混乱した。

……冀州が狙われている!だが、公孫瓚と戦うのは恐ろしい!

そして、恐慌状態の韓馥は危機迫る冀州を袁紹に譲ったのである。



じつは、袁紹は反董卓連合盟主はんとうたくぐんめいしゅという名誉ある立場だったが、その官位は渤海太守ぼっかいたいしゅで牧(知事のような立場)より低かった。

渤海という土地も狭く、食料調達さえ危うかった。


その彼を助けていたのが冀州牧である韓馥だったのだ。

冀州は恵まれた土地で、土地はよく肥えて穀物の収穫量も多かった。

韓馥には、袁紹陣営全体を助けるほどの十分な余裕があったのだ。


この二人の関係が悪くなったのは、劉虞りゅうぐという人物を新帝として擁立しようと画策したが、それが失敗に終わってしまった時からである。

疎遠になり始めると、食料の補給が滞りはじめた。

単純だが、この重大な出来事は、袁紹とその仲間たちを恐怖させた。

……韓馥の心ひとつで、自分たちはいつ干上がるかわからない!


そのうち誰ともなく、言い出した。

……ならば韓馥を排除し、冀州を奪ってしまえばいいのではないか……?


かくして袁紹陣営は皆で知恵と力を合わせ、味方である韓馥の土地と地位を奪い取る事に成功したのだ。


「国盗りや謀略だなんて、戦国や春秋しゅんじゅん時代に還ったようだ。

認めたくないけど、乱世っぽいなぁ……」

誰もいない部屋で、少女は陰鬱に呟いた。 



「おいお前、山賊退治をしてこいっ」

ある日、袁紹からそう言われた少女は目をぱちくりとさせた。


最近の彼はこのような具合で、荒い。

冀州牧きしゅうぼくとなり、食料不足の不安は消え、軍事的にも金銭的にも余裕ができたはずなのに、なぜか酷く苛々いらいらとしているのだ。


突然手に入れた広すぎる領地は、管理が大変なのだという。

それに加えて、近頃、仲が悪くなってしまった弟の袁術えんじゅつと、使い走りにした公孫瓚こうそんさんとも、何やら揉めているという。


そして何より、自分がしたように誰かが自分の領土を策略で奪うのではないかと、常に周囲の人を疑い警戒しては気が休まらず、苛立っているのかもしれない……。


つづく

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