第52話 酸棗・曹操の献策~反董卓連合という名の飲み会~
「宴の最中に失礼いたしますっ」
いつもは酔っ払い相手にツンと澄ました女中長が血相を変えて飛び込んできた。
城の奥深く、幾人もの見張りが置かれた宴会場は静まり返った。
皆、彼女の言葉を、固唾をのんで待つ。
「曹奮武将軍がお見えなのですが、お通ししてもよろしいですか?」
とたん、張り詰めた空気が溶ける。
酒を一口飲み、某将軍は思った。
……ふぅ、驚いた。董卓軍が急襲してきたのかと思って肝を冷やしたぞ。
まあ、その時は逃げ、いや、故郷に一旦、仕方なく避難するだけだがな。
赤い顏をした太守が、場の空気を戻そうと大きな声で言った。
「おや、曹将軍がやっと来てくれたのかい。ぜひ私の隣に座っていただきたいな」
その言葉に、皆、空笑いをしている最中であった。
「失礼いたします」
女中長の横をすり抜け、軍服の少女が一人現れた。
その姿は袖なしの長い外套をつけた、いわいる戦場での大将の恰好だった。
宴会場の空気に沿わない格好に苦笑する者や、嫌悪感を見せる者など、反応はそれぞれだった。
少女は気にせず、拱手し、発言した。
「私たちは董卓を討つという正義の下に集まったはずです。
あなた達は目を見張るような大軍を擁しているというのに、なぜ進撃しようとなさらないのでしょうか?」
いきなり最高速度で踏み込んでくるような内容だったが、その声は淡々としていた。
「董卓が、長安に遷都したのはなぜか?理由がわかりますか。
彼は私たちと戦う事を決め、ここ
ここにはもうすぐ董卓軍が攻めてくるでしょう。
防御を固め、戦う準備をしないと、簡単に侵入されてしまいますよ」
宴会場の空気がざわついた。
少女は続ける。
「董卓の隙をうかがっていたというのなら、今がその時です。
あちらは遷都したばかりで、まだすべてが不安定です。
しかも、重要な要害も放置するほどあわてている。
こちらから先に攻撃すれば、混乱は極まるでしょう。
そこに董卓を討つ絶好の機会ができるはずです。
ここ酸棗の軍勢だけで、兵士は十万人を越えているのです。
袁紹や袁術を含む全軍勢を足し、協力し合えば、董卓軍を圧倒できる兵力です。
長安を包囲する事だって可能です。
この一戦ですべてを終わらせるのです」
少女は皆の反応をうかがったが、相変わらず無言だったので、さらに続けた。
「せめて、今すぐやるべき事があります。
ここから近い要塞を、奪われる前に私たちが先に確保するのです。
もしも要塞都市を拠点にされたら、無駄な戦いと犠牲が増える事になります。
そんな事態は、防がねばなりません」
そう言って、全員を見渡したが、顔も上げない者がほとんどだった。
少女は小さな重いため息をついた。
「わかりました。
では、私だけでも、要塞を一つとるために出撃いたします。
たのしい宴の最中に、大変、失礼をいたしました」
少女は一礼し、部屋から立ち去った。
つづく
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