第28話 洛陽・宦官みな殺し~嫉妬してないし、モタモタもしてないのだ~
「夏侯惇(かこうとん)あざなは元譲(げんじょう)と申します。
名家である袁司隷校尉にお会いできて恐悦至極です。
こちらこそよろしくお願いいたします」
礼儀正しく、型通りの挨拶を述べ、深く頭を下げる。
「では行きましょう」
早速、少女が歩き出したが
「ん?あれ?おい、ちょっと待てよ」
と、袁紹は急に大きな声で止めた。
「え?なんなんですか?急いでる時に、一体どうしたのです?」
出鼻をくじかれた少女はつい露骨に不機嫌な表情で相手を見た。
自分がせっかちのせいなのか、袁紹の時々見せる呑気ぶりにはうっかり本気でむかつく時があった。
袁紹も、先ほどまでの晴れやか表情から打って変わり、やけに鋭い目つきになっている。
「お前以前、自分には結婚の約束をした人間がいるとか言ってたよな。
まさかそれは、もしかして、こいつか?」
まるで年頃の娘に父親がするような質問に、少女は目をパチクリとしたて、答えた。
「一瞬、何の話かと思いましたよ。
私には大事な妻が五人に子供も多くおりますからね。
ですが、この容姿になってからの話なら、袁司隷校尉のお察しの通りですよ。
問題は解決しましたか?
早く探しに行きましょう」
「よしわかった、行こう」とはならずに、袁紹はその場から動かず、やたらと冷ややかな視線で二人を見下しただけだった。
「ふーん……ま、栄養失調の猫みたいなお前と、野良狼犬みたいな相手で、なかなか似合いではあるね」
「それはどうも……」
「ありがとうございます」
二人がちょっと息の合った返答をしたので、袁紹はキッと眉を寄せた。
「こいつは一緒に連れてけない。絶対にだっ」
小奇麗な顔立ちのせいか真剣な顔になると妙な説得力が出るが、言っている事は滅茶苦茶だった。
「えっ?ついさっき袁司隷校尉は、こいつは馬に乗れるし助かるわ、みたいな事言ってたのに?なんで突然嫌がるのですか?」
少女の問いに、袁紹は即答した。
「なんで?って、当たり前だろっ。
なんで私がお前らの仲良しな所をいちいち見なきゃならんのだっ。最高にムカつくわ。しかもそれは私だけでなく、ここにいる全員の総意じゃっ。
だいだい今の時点でも若干、いや、かなりムカついとる」
「仲良しの何が悪いのです?内輪もめしてるよりマシでしょう。
それに年頃の学生でもないのに、そんな事にいちいちイライラするのはやめてもらえませんかね?」
「何を言ってるんだっ。いくつになっても、ムカつくもんはムカつくんだよ。
というか、そもそもなんで私が、お前などの要望など聞かねばならんのだ?
私は司隷校尉なんだぞ曹典軍校尉。
ド忘れするな、私は、お前の上司なのだっ。
私の命令に従えないのは、軍令違反になるんだぞっ」
そう言われると確かにそうなので、ぐうの音も出ない。
「わかりました。こいつは置いて行きます」
「いつもこうだ。お前が分をわきまえないから話がややこしくなる」
「すみませんでした」
「まあいい。とにかくお前は私と一緒に、帝を捜索するのだ。
で、夏侯殿はここで門番の責任者として居残りだ」
「御意」
「ほう。夏侯殿はなかなか素直な男だな。ムカつくが嫌いではない。
それにしてもお前のせいで馬を待たせてしまったではないか。さっさと行くぞ」
こうして少女は袁紹に腕を掴まれ連れられて行った。
その表情は、すでに疲労の色に染まっていた。
つづく
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