第26話(最終話) 最後のデート

大会準決勝と決勝に向けて、七郷バスケ部は気合いが入っていた。ただ三年生は、東郷に勝ったこと、引退が今週まで伸びたことを喜び、皆生き生き練習に励んでいる。とても雰囲気がいい。


雅也も勿論、七郷バスケ部悲願の優勝を望んでいるが、それどころではない大事な仕事があるためそっちのことで頭が一杯だった。

雅也「んー、待ち遠しい。終業式の日が待ち遠しい。それまでに作戦をつめておかないとな。失敗は許されないから。」

頭の中はこのことばかり、自問自答を繰り返す。

「キスはベンチでいいよな?何か乗り物に乗ってるときの方がいいかなぁ?それともお化け屋敷の中とか?いや、やっぱりベンチがいいな。暗くなって人が減ったときに。仕方はどうしよっかな?宮田の作戦は参考にならんし、シバケンくんの戦法も悪くはないけど、、」など、どれが素敵なキスになるかを考えながら、ちょっとニヤついたりして。

村田「こらっ!藤堂ボサッとしてんな!」

雅也「あ、はい、すいません!」


ひとまず部活の練習〜試合が週末まで続くので、これらが終わった後、キス計画の実行となる。



4日後 日曜の夜


あと2日



美佐「えー!?勝ったの?すごーい!じゃ優勝?」

雅也「うん!やったよ!優勝!!」

美佐「すごーい。よかったね!」

雅也「イワケンくんとか先輩達カッコ良かった!東郷戦からチームワークが良くなって全員バスケって感じで強かった!」

美佐「岩田先輩よかったね。」

雅也「やっぱりオレの憧れの人はイワケンくんだな。」

雅也と美佐はしばらくバスケ部と岩田の話しで盛り上がり、


雅也「じゃ、明日ね。大丈夫?」

美佐「うん、大丈夫。だけど、、」

美佐の声のトーンが下がる。

雅也「ん?大丈夫だけど?」

美佐「ううん。なんか最後なんだなぁと思って。。淋しい。」

雅也「そうか、最後だね。でもまだあるじゃん!」

美佐「そうだね!明日、何着て行こうかなー。雅也くん変な格好して来ないでね。」

雅也「わははは。変な格好してる?やっぱり?」

美佐「ときどきね。ウソだよー」

雅也と美佐は笑った。今日はなんだかちょっとしたことでもおかしくて、腹の底から笑った。二人は繰り返し笑った。

あともう少しだから、いっぱい笑いたくて。同じ気持ちだった。



あと1日  終業式そして計画の日


「では皆さん、規則正しい生活としっかり勉強することを忘れずに、良い夏休みを過ごしてください。 さようなら。」


1学期最後のホームルームが終わり、皆一斉にドタバタと帰って行く。

雅也も急いで帰り支度をして、最後に机の中を覗いていたとき、

宮田が「まーちゃん!帰りゲームセンター行かない?」と誘ってきたが、勿論断って家路に急ぐ。


「はー、はー、はー」

雅也は急いで家に帰って来て、支度を始める。

雅也「まず洋服は、、」

美佐に指摘されないような、無難な白いボタンダウンにして、ちょっと髪を直す。親父が残したバルカンオードトワレを少し首の辺りにつけた。

そして、肝心のチケットをと、藤谷美和子の下敷きから出してと、ん?

今日何日だ??


チケットは、


後楽園ゆうえんち

夏休み招待券

期間7/21〜8/31


ん?え!?

明日からじゃん!

うぇー、嘘だろう•••


入れ墨のおっさんから貰って、日付けよく見ないで仕舞ったからだ。


うっそー!?がーん!!


どうしよう?



ひとまず美佐と待ち合わせした約束の七郷の駅に向かう。


「雅也くーん!」

美佐が楽しみ全開の笑顔で、手を振ってやって来た。


「美佐、、美佐ごめん。」

雅也は死んだように謝る。

美佐「どうしたの?雅也くん?」

雅也「遊園地、チケットが、、招待券の期間が、、明日からだった。ごめーん。」

美佐「そうなんだ?」

雅也「どうしよう。。」

美佐「遊園地じゃなくても私は全然いいよ。じゃ別のどっか行こうよ。」

雅也「わーん、ごめーん」

雅也は足から崩れそうになったところを、美佐が雅也の腕を掴み、

「大丈夫、大丈夫!」と子どもをあやすように宥める。

雅也「わーん」(計画がぁ••)

依然泣いている子どものような雅也に、

「あ、公園いこうよ!」と美佐は雅也の腕をとって駅から歩き出した。


公園に着いた頃に、ようやく子ども雅也はいつもの雅也に戻った。

雅也(この公園、宮田がキス作戦失敗した所だから、あんまり縁起良くないんだけどな。)

美佐が公園に入るなり、楽しそうに走ってくのを見て、美佐が嬉しいなら良いかと思った。

そこでようやく今日の美佐の服装に気付いたんだけど、BoatHouseのTシャツにショートパンツと、あたかも今日のデートが公園になることを読んでいたような格好をしていた。

美佐「ねー、ブランコ乗ろう」

二人はまずブランコに乗った。

美佐「こうやってブランコ乗るの初めてだね?」

雅也「そういえばそうだね。」

美佐「私こうやってブランコ乗りながら、話したかったんだよねぇ。。なんかさ、恋人っぽいじゃない?相談とかして、彼氏が元気出せよ!みたいに言って。」

美佐が楽しそうに話す。

雅也はまた新しい美佐を見たようだった。

(本当はまだまだ美佐の知らないところあるんだろうなぁ。)


それから美佐が靴飛ばしをやろうと言うので、どちらが飛ばせるか競争した。

美佐「小さい頃に、皆やってたの見て、やりたかったんだけど、ウチはダメって言われてやれなかったんだぁ。」

予想以上に靴を飛ばす美佐に見事に負けた後、すべり台、雲梯と、美佐は次々と遊び回った。飛んだり転んだり、ショートパンツのお尻は汚れてしまっている。

美佐は楽しそうだ。

オレも負けじとわざと転んだりして、美佐を笑わせた。


汗だくになった二人はやっとベンチに座った。

美佐「楽しいね。公園で思いっきり遊びたかったんだぁ。」

雅也「遊びすぎ。中学生とは思えない 笑」

美佐「ハハハ。。あっ、雅也くん!」

雅也「ん?」

美佐「学校行かない?そうだ!学校行くよ!ほら早く!」

突然、何を思いついたのか、美佐はオレの腕を掴んで引っ張り上げた。

雅也「学校?これから?」

美佐「そう!」

雅也「入れる?」

美佐「忍び込む。行こ!」

雅也「えー?本気?」

美佐「本気!本気!」

(なんだか今日の美佐は行動的だなぁ。)と思いながら、引っ張られ付いて行く。


少し薄暗くなってきた夕暮れ。校庭と校舎の上に見える空が赤く広がっていた。

美佐「裏門から入ろう。」

美佐の言うとおりに二人は裏門にまわる。

雅也「やっぱり閉まってるね。」

美佐「さてと。」美佐は何か怪しげな笑みを浮かべ、オレを呼ぶ。

美佐「私が先行くから、ちょっとこの柵強く掴んで立ってて。」

美佐は雅也の体を伝い、裏門の柵を登って、向こう側に飛び降りた。

雅也「早っ!」

美佐「雅也くん早く!」

雅也は慌てて登って、柵を乗り越える。

美佐は「行こ!」と雅也の手を握り、二人は音を立てないように走っていく。

校舎に入り、キョロキョロと人気がないか確認し、階段を駆け上がる。。

二人は1年の教室がある3階まで上がり、廊下を走る。雅也はこのスリルにびびり顔になっていた。

美佐の教室の戸を静かにカラカラと開け、中に誰かいないか美佐が確認する。

「大丈夫!」二人は腰を下げ、教室に入って後ろの棚のところにひとまず腰を下ろす。

美佐「はー、はー、はははは」

美佐は呼吸を整えた後、笑い出した。

雅也「うわー、もろスリル!」

「ハハハハハ。」二人は、声を抑えながら笑った。

美佐「映画みたいだね!ダニエルとメロディみたい!」

雅也「ホントだ!」


美佐「こうやってと」

美佐が机を二つ並べ出して、「座ろう」と手招きした。

言われた通り雅也も座る。

美佐「私、雅也くんと同じクラスになりたかった!3年間のうちになれますように。と祈ってたんだ。それでこうやって、隣同志になって、イチャイチャするの。授業中に教科書立てて隠して二人の世界作ったり。それで先生に怒られて二人廊下に立たされたりさ。」

雅也「わははは。」

雅也は”女子の方がませてる節”が再燃していた。

美佐「でも最後に今日出来てよかった。」

雅也「そうか。最後にか、、よかった。」

美佐「うん。」

雅也「美佐さぁ、、イギリス行って、英語いっぱい勉強して、通訳する人になってよ。せっかくいい環境なんだからさ。素直に喜んでイギリスでがんばってほしいな。」

美佐「・・・ありがとう。雅也くん。。」

雅也「うん。」

美佐「ねー、最後にイチャイチャごっこしようよー!」

美佐は雅也を突っつき始めた。雅也は、廊下側の窓を気にしながら、突っつき返した。しまいに美佐は脇の下とかくすぐり出して、こらえきれず大きい声で笑ってしまった。

「よーし」と雅也がくすぐり返して美佐も笑ったかと思ったら、急に美佐は真顔になった。


「雅也くん、キスして。」

ズキューン!

雅也は、心臓をブラックホークで撃ち抜かれたように息が止まった。

「うん。」


スローモーションで流れるフィルムのように、二人は近づき、ゆっくりと顔が近づいていく。

美佐が目を閉じる。

そして、チュッと、二人の口と口が触れた。

校庭側の窓から差し込む夕日が二人を照らし、教室の床にキスしてる二人の影が長く伸びている。。

遂に!そう、遂に!雅也と美佐はキスをした。

心と心を確認するように。愛溢れる、映画のような、ドラマのような、夢のような、雅也の理想通りの素敵なファーストキスだ。


学校を出て、美佐を送って行った。

美佐「ところで、遊園地の券いつから使えたの?」

雅也「明日から。」

美佐「え??じゃ、明日行こうよ!」

雅也「え??だって明日行っちゃうんでしょ?」

美佐「出発、明後日だよ。」

雅也「えー!?うそー!?」


雅也は美佐の出発の日を1日間違えていた。

改めて明日遊園地に行くことになり明日の約束をして別れた。


そして翌日は、一日中、ジェットコースターやらほぼ全部の乗り物を思い存分に乗って、楽しんだ。

そして、本当に最後の日を締め括った。


家に帰った雅也は、思い出したように何かを探している。

「あれー?どこ置いたっけなぁ?」

いつも銭湯に行くときの手提げ袋の中から、探してた物を見つけた。

「あった!」雅也はそれを取り出し考えている。

「えーっと、”しあわせ占い”これか?」


プルルー・・


「もしもし」

雅也「あ、占い師さんですか?」

占い師「はいはい。雅也くんですね?」

雅也(名前言ったっけなぁ?)「はい、そうです。」

占い師「どうですか?うまくいきましたか?」

雅也「はい!ちょっと危なかったですけど、うまくいきました!」

占い師「本当ですか!?それはよかった!」

雅也「ただ、、占い師さん、ちょっと訊いていいですか?」

占い師「どうしました?」

雅也「美佐の苦しんでる話しを聞いて、応援しました。キスも、キスも素敵なキスをしました。」

占い師「なら成功ですね。」

雅也「占い師さん、そうなると、美佐はイギリスに行かなくなっちゃうんですか?遠くに行くのが阻止されるんですか?」

雅也はちょっと涙声になりながら占い師に尋ねた。そしてお願いした。

雅也「遠くに行くの阻止しなくていいです。」

占い師「いいんですか?そのためにがんばったんじゃないんですか?」

雅也「いや、そのためじゃないです!オレ、そのためじゃなく、美佐とそうしたくてしただけです。だから美佐はそのままイギリスに行かせてあげてください。」

占い師「そうですか。わかりました。それで悔いはありませんか?」

雅也「ありません。」

占い師「では、阻止せずそのままにします。」

雅也「よかったー。ありがとうございます!」

雅也は喜んだ。


占い師「ごめんなさい。。」

雅也「もしもし?どうしました?」

占い師「騙してました。」

雅也「え??」

占い師「実は貴方の悔いを取り除くためにやりました。騙してごめんなさい。」

雅也「え??騙された?悔い?」

占い師「貴方に、悔いが残らないような素敵なキスををするように、お膳立てをさせていただきました。美佐さんが遠くに行くことは運命なので元々変えられません。」

雅也「あ、もしかしてあなた、よく出てくるもうひとりのオレ?」

占い師「あ、まぁ、そんなもんです。」

雅也「わかりました。でもいいです。じゃ美佐はイギリスに行けるんですね?」

占い師「はい。」

雅也「ならよかったです。ホントですね?間違いないですね?」

占い師「はい、間違いなく。」

雅也「よかったー。ありがとうございます!あと、お膳立ていただいたなら、それもありがとうございました!」

占い師「ならよかった。悪かったね。」

雅也「いえ、おかげで素敵な思い出が出来ましたので。 では、さよなら。」

占い師「あ、ちょっと待って。。貴方、今は悲しいと思いますけど、この先に最愛の人を見つけて幸せになりますから、焦らないで生きていってください。」

雅也「そうですか。。わかりました。それでは。」



大人雅也「神殿、神殿、こちらKT藤堂です。悔い摘出、無事成功しましたので、これから戻ります。」




ピッピッピッ

モニターが心拍数を表示している。

「藤堂さーん、手術うまくいきましたよー」

(ん?ここは?)

(そうか、倒れて病院に運ばれたんだよな。また眠ってしまったのか。。)

雅也「手術終わったんですか?」

看護士「はい。成功したので、もう大丈夫です。」

雅也(本チケットは発行されずに済んだのか。それともあれはやっぱり夢だったか。)




数日後、無事に退院になった。

妻、息子、娘が迎えに来てくれた。

愛してるオレの家族だ。

久しぶりに我が家に帰って来てほっとした。

いつものテーブルで、いつもの椅子に座り、いつもの大好きなコーヒーを飲む。

(死ななくてよかったな。)と改めて思う。

スマホのニュースを見ると、相変わらず新型ウイルスの話題ばかりだ。

とふとスポーツ欄に目を移すと嬉しい記事が目に飛び込んできた。


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Bリーグ 大田サンズ

新ヘッドコーチに岩田研一氏就任


B1所属の東京大田サンズの新ヘッドコーチに、元日本代表、現明成大学ヘッドコーチの岩田研一氏が就任することが決定した。岩田氏はチームバスケの先駆者で、これまでも低迷チームを全員バスケ戦術で上位にのしあげている。

       経歴

1966年6月15日生まれ

1981年 七郷中学校 東京都ベスト8

1984年 久我山学院 東京都優勝

1987年 筑波体育大学 インカレ優勝

1989年 バスケットボール日本代表選手

2003年 筑波体育大学ヘッドコーチ

2011年 明成大学ヘッドコーチ

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これまで読んでいただいた方、誠にありがとうございます。

”ファーストキスの仕方”はもちろんフィクションですが、私の実体験も少々入っています。母ちゃんは亡くなった母をモデルにしました。この小説で母が生き返ったようで、嬉しかったです。


皆さんも悔いが残っていることが、ひとつやふたつはあることと思います。

もし、それをやり直しできたら。

嫌な思い出を消し去り、新たに作り直せるなら。

普段から良い生活を送り、頑張っていれば、

神殿がKTに乗って来てくれるかもしれません。

信じない人は、悔いの残らないように今から生きていきましょう。


ファーストキスの仕方は自由です。自由ですが、一回だけです。

やり直しはきかない、たった1回だけの大切な行為です。

これからの人は、なんとしてでも、素敵なキスを、愛情を持った素敵なキスを、

一生の思い出になるような素敵なファーストキスをしてください。松 宏幸








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ファーストキスの仕方 松 宏幸 @hiro66matc

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