第25話 小さな恋のメロディ

あと9日


雅也は部活が休みだったので、美佐の部活が終わった後少し話そうということになった。雅也は夕方、美佐の家の近くのいつもの角のところで待っていた。


美佐「ごめん、待った?」

雅也「ううん。来たばっかり。ごめんね、疲れてんのに。ちょっと顔見て話したくなって。」

美佐「あ、うん。」

雅也「びっくりした、イギリス。」

美佐「うん。」

雅也「なんて言ったらいいか、、」

雅也はしゃがんでブロック塀に寄り掛かった。

美佐は自分のスポーツバッグを置いてその上に座り、ゆっくり話し出した。


「私のお父さんは、前に話したけど、大学関係の仕事してるんだけど、イギリスが好きで、いつかイギリスで仕事したいとがんばってきた人なの。なので、うちの家庭は、何かと英国風で、置いてある家具とか食器とかも。本とか音楽もね。だから私達子供達も小さい頃からイギリスに親しみがあった。お姉ちゃんも私も物心ついた頃から、いつかイギリスに行くと教えられてたの。」

といつになく真剣な顔で美佐は話し続けた。


「だから私も小さい頃から、イギリスに行きたい!とか、大人になったらイギリスで通訳の仕事する!とか言ってたの。」


雅也「すごいね。全然ウチと話す内容違うんだけどー。」

美佐「でも小さい頃から英語の塾行かされてたりして、嫌なときもあったよ。」

雅也「そっか。うーん、イギリスってオレあんまりわかんないけど、ビートルズとか?小さな恋のメロディとか?くらいしかわからないなー。」

美佐「えー!?雅也くん、小さな恋のメロディ知ってるのー??」

雅也「前にテレビで観た。」

美佐「うそ!うそ!うそ!どうだった?私大好きなのー!」

美佐は急にテンションが上がった。

雅也「うん、主役の2人が可愛かった。あとイギリスってこういうとこなんだーって。」

美佐「私の憧れなの!中学校行ったらあんな風になりたいと思ってた。だって私、、」

美佐が少し照れた顔をして続ける。

美佐「雅也くんを好きになったの、なんとなくダニエルとメロディみたいになれそうって感じたからだもん。ちょっと違うけど、雅也くんとなら素敵な2人になれそうな気がして。」

雅也「うそー!それは嬉しい。でもオレあんな可愛くないけどね。笑」

美佐「でも雅也くんは、きっと心が素敵な人だと思ったの。当たってたよ。」

雅也「ホント??サンキュ」

雅也は照れて美佐の頭をつつく。


雅也「そっか。美佐と離れ離れになるのは死ぬほど辛いけど。美佐にとっては良かったんじゃん?」

美佐「んー、、でも淋しい。行ったらもう日本に帰って来ないと思うから。。」


その日は時間も遅くなったので、話しはこの辺にして別れたが、話しが出来たことはよかった。美佐のイギリス行きを応援しなくてはと思うが、正直な気持ちはやっぱり離れたくない。

美佐とずっと一緒にいたい。。



あと8日


夜、いつも通りに銭湯に行く。

しあわせの占い師は、いなかった。言ってたように、たまたま昨日だけ来ていただけだったようだ。

「おー!お兄ちゃん、久しぶりだなー。」

(入れ墨のおっさんだ。やだな。)

「いつもありがとな、また背中頼むわ!」と入れ墨のおっさんは、いつも通りにと、雅也に背中を流すよう頼む。

入れ墨のおっさんは、雅也と銭湯で会うと毎回背中流しを頼んでくる。雅也はそれを本当は嫌がっているが、恐くて断れないでいる。

雅也「ほいよ。」

雅也は今日も気持ちを見せずに、明るく返事をして、タオルに石鹸を擦り付ける。

入れ墨のおっさん「お兄ちゃんホントいい体してるなー。オレと一緒にボクシングやらねぇか?」

(始まった。)雅也が嫌がるもう一つの理由が、入れ墨のおっさんは、毎回会うたんびに、ボクシングの誘いをしてくるのだ。丹下段平か?のように。

そして雅也は毎回「バスケットやってますから。」と断っている。


風呂を出て着替えていると、ふたたび入れ墨のおっさんが来て、話しかけてきた。

「お兄ちゃん遊園地行く?」

雅也「遊園地?」

入れ墨のおっさん「後楽園ゆうえんち!2枚あるからあげるよ。彼女と行ってくればいいじゃん!夏休みの無料券だから。」

雅也「え?行きます。どうしたんですか?」

(彼女いるなんて言ったことないぞ。)

入れ墨のおっさん「あ、オレ新聞屋だからさぁ、配る券が余ったんだよ。」

雅也「そうなんですか。じゃいただきます。」

雅也はひらめいた!(そうだ、最後のデートで美佐と行こう!そこで素敵なキス、ファーストキスだ!よし!やった!)

(入れ墨のおっさん、いつも嫌だったけど、背中流しといてよかったな。)

「よし、計画決定!!」



雅也は家に帰って、さっき入れ墨のおっさんからもらった遊園地のチケットを出して、「このチケットを、無くさないようにと、、んー、ここに仕舞っとこ。」と藤谷美和子の下敷きに挟んだ。


(キスするなら暗くなってからの方がいいよな。じゃあ、終業式の日、二人とも部活無いから、学校終わって遊園地に行く。乗り物を乗ったり楽しんだ後、暗くなる頃、遊園地のネオンの光の中、ベンチでチュッだ。これなら素敵だよな? 完璧だ!)

雅也はキス作戦を妄想して、ほぼ成功したつもりでいる。



あと7日


「もしもし美佐!」

雅也は嬉しそうに美佐に電話をした。

美佐「どうしたの?雅也くん?なんか嬉しそうだね。」

雅也「美佐、最後に遊園地行かない?無料券もらったから、終業式の日、学校終わってから。」

美佐「えー、遊園地??いいよ。」

雅也「土日は部活だから、その日にしたんだ。じゃ約束ね。」

美佐「わかった!楽しみにしてる。」



その後美佐は、雅也の電話の話しを振り返る。。(最後に遊園地行かない?)

(最後か•••)

(最後のデートなんだ••)



一方雅也は、(やっぱり考えたけど、最後に自分勝手な気持ちを押し付けるのはやめよう。占い師の条件にもあったように、美佐を応援して、元気づけてあげよう。)

雅也は、占い師の条件のひとつの、話しを聞いて応援することを忠実に実行することにした。


(ところで、応援して、キスもうまくいったら、美佐は行かなくなるのか?)

(占い師が言った通りに、何か運命を変える方法を使って、イギリス行きを中止にしてくれるのか??)


(そうなったら、もちろんオレは嬉しいけど、果たしてそれでいいのだろうか?)


(美佐はイギリス行きが中止になってもいいのだろうか?)



(美佐は喜ぶのだろうか??)


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