第21話 神殿

雅也「あなたは誰ですか?」

目の前に白い着物を着た白髪を束ね白い髭を生やした人が立っている。

「私は神殿だ」右手には先が渦巻きの形をした杖を持っている。

雅也「ん?神殿?いや、どっかで見たことあるぞこの人。あ!アホ殿の人じゃん!」

「アホ殿じゃない。それはオレが下の世にいたときの名だしー。この世に来て神殿になったのだしー。」

雅也「え?アホ殿から神殿?これコントですか?」

神殿「何言ってるんだ?貴方ふざけてる場合じゃないですよ。貴方今死にそう、いや失礼言葉が悪かった、この世に来そうになってますよー。」

雅也「は?死にそう?この世ってあの世のこと?」

神殿「そうです。見てくださいねー。ほら」

神殿と言う男は前にあるモニターを指さして言った。

雅也はふと神殿が指差す方を見てみると、そのモニターに、雅也が道路で倒れている画像が映し出されていた。

雅也「えー!ちょっと待ってちょっと待って、これオレですか?」

神殿「そう。覚えてないですかねー?」

雅也「はい。確か仕事終わって家に帰ったと思いますが。。」

神殿「いや、その家に帰る途中で倒れたんだねー。」

雅也「なんか嬉しそうに言いますね?そうだったんですか。」

神殿「そう。で、"この世前確認"で呼ばれたんだよねー」

雅也「この世前確認?てなんですか?搭乗前確認みたいな」

神殿「そう!それと同じ!この世行きの前に悔いが残ってることがないか確認してるんだよねー。」

雅也「悔いですか??」

神殿「そう。悔いが残ってると、下の世に怨念が残ってしまい、この世に来たとき幸せになれないんだねー。」

雅也「悔いが残ってること??無くはないが、だいたい全くこの状況の意味が分からないんですけど。」

神殿「そりゃ、分からくて当たり前だ。では説明しようねー。じゃそこ座って。」

と雅也を座らせると、神殿と名乗る男もその前に座り、渦巻き型の杖を置いた。

「オホンオホン」と咳払いをした後、神殿は話し出した。

「貴方は何か頭の病気が起きていて、この世行きの仮チケットが発行されたよー。仮チケットは、この世に行く可能性が出たときに発行されるんだねー。」

雅也(まだ話し出したばかりで何のことか分からないが、、この語尾を伸ばす話し方がさっきから気になるんだけど。)

神殿「仮チケットが発行されたから、本チケットが発行される前に、先にこの世前確認をしておこうと思ってさー。最近下の世で、何とかウイルスってのが流行ってるみたいで忙しいんだよねー。なんで本チケット発行の前に、この世確認をしておかないと間に合わないんだよねー。」

雅也「なるほど。だんだんわかってきたような。確かに今新型コロナで大変になっている。でも待てよ、じゃ、オレはあの世に行く?仮チケットが発行されたってことは?」

神殿「そうだ、やっとわかったかねー?今貴方は下の世とこの世の間をさまよってる状態だねー。」

雅也「随分明るく言うなぁ。そうなのか。うそ??死にたくない。」

神殿「死ぬか死なないか、失礼、下の世に留まるかこの世に行くかの最終確認は、私の上司の神様が決めるのよー」

雅也「神様が決める?じゃまだ大丈夫か。神殿の上司が神様?神にも組織があるの?」

神殿「そうだよー。実は私もついこないだこの世に来たばかり、下の世にいたときの功績で、最短出世で神殿になったのだよー」

雅也「そうですね、功績は確かに。貴方が亡くなられたときは、すごい騒ぎになり皆悲しみましたよ。」

神殿「そうでしたか。それは嬉しい限りですなー」

雅也「で、これからオレはどうすれば?」

神殿「失礼。では本題に移ります。貴方がこの世に行く前に、悔いが残っているものを摘出しなければなりません。どんなことでも大丈夫です。ございますかねー?」

雅也「いや、特に大きなものはないですけど、、あ、あります。」

雅也はファーストキスの失敗を思い出して言った。

神殿「では直ぐ準備しますのでお待ちくださいねー。ちなみにそれはいつくらいですか?」

雅也「えーっと、そう!40年前だから、1981年ですかね。」

神殿「1981年ですか?ちょうどよかった!おひとり同じ1981年に行きたい方がいるんでねー、いっしょのKTに乗ってもらっていいですかねー?」

雅也「KT?CTみたいなのですか?」

神殿「いや、悔い摘出号(くいてきしゅつごう)と言って、KTと呼んでますねー」

雅也「悔い摘出号?でKT?英語じゃないんだ?DAIGOかよ!」

神殿「KTに乗ってその時代に行って悔いを摘出してきてもらいますよー」

雅也「乗って?自分で?」

神殿「はい、ご自身で。頑張ってくださいねー!」

雅也「なんかバックトゥーザフューチャーみたいですね。」

神殿「あ、そう。映画でしょ?博士はいないけど、そんな感じですよー。ではこちらに」

と言うと神殿はテーブルの上のボタンを押すと奥の扉が開いた。

開いた扉の奥を見ると、ジェットコースターの一両だけのような乗り物が置いてある。これが、KTか??扉をくぐりその乗り物に近づくと、乗客らしき人が1人向こうを向いて座っていた。

神殿「これがKTです。これに乗って悔い摘出に行ってもらいます。貴方は右側に座ってください。」

雅也「はい。」(よくわからないが、この状況はもう行くしかないな)

雅也は、神殿に言われた通りKTの右側の席に座った。

雅也はふと左側に座っている人にお辞儀をして目をやると、髪は白髪混じりでボサボサ、顔には皺が沢山あり、すごく老けて疲れ切ってるようなおじさんだった。

雅也「こんにちは。おじさんも1981年に?」

おじさん「いや、ちょっと、まぁ、そうだ。」

と掠れ声で言った。

雅也「そうですか。オレも1981年です。よろしくお願いします。」

雅也「亡くなられたんですか?」

おじさん「いや、仮チケットだそうだ。」

雅也「失礼しました。オレと同じですね。悔いを摘出って?よくわからないんだけど、悔いがあったことを修正できるんですかね?」

神殿「できますよー。というかしてきてもらわないと困りますよー。KTの燃料費はバカにならないんでねー。無駄にされたら困るんですよー」

雅也「だから相乗りなんだ?」

神殿「よくお判りで。同じ年に行きたい人が見つかってラッキーですよー。節約になりましたー」

神殿はそう言うと、何やら、KTの下を除きこんで、出発の準備をしてるようだった。

神殿「じゃ、出発しますから、シートベルトを締めて、そこにあるヘルメットを被ってくださいねー」

雅也「はい。」(なんか緊張してきたな。)と神殿に言われた通りにシートベルトを締める。

神殿「では、出発しますよー。お二人の健闘を祈りますよー」

神殿はそう言って人差し指を出してきて、オレらにも人差し指を出せと顔で合図をする。

雅也「ETかよ!」

しょうがなくおじさんとオレは神殿とETのように人差し指の指先でタッチをして、ヘルメットを被った。


神殿がカウントダウンをする。


「10、 9、 8、 7、 6、 5、 4、


3秒前 2、 1、 発車ー!」


目の前に丸い穴が見えて水しぶきが飛んでくる。穴は暗くて、遠くの方に小さい赤い光りが見えている。

(ディズニーランドの乗り物でこんなのなかったっけ?)と思っていたら、シュイーン!

と大きな音とともに出発した。




(ところでさっきからこれは何なんだ?きっと夢だよな。)

雅也は、変な夢を見てると思った。





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