第20話 初恋の終わり

生まれて初めてくらい泣いた。


美佐はこのままお別れと書いてあったが、電話してしまった。

雅也「もしもし」「もしもし」

美佐が出た。

雅也「えっと、、このままと書いてあったけど電話しちゃった。ごめん。」

美佐「ううん。雅也くん••」

雅也「いいよ。仕方ないこと。でもびっくりした。」

美佐「うん。。」

雅也「行くのいつ?」

美佐「水曜日。」

雅也「え、明後日かー。わかった。」


バスケ部の合宿が、なんと明後日から出発なのだった。

(明日しかない。)

雅也は翌日、便箋と封筒を買ってきて、美佐への手紙を書き出したのだった。

雅也は文を書くのが苦手だが、もうこの残り少ない時間の中では手紙が一番想いを伝えられると考えたのだ。


(んー、、)雅也は頭から心からはみ出している想いがありすぎて、文章にまとめることが出来ない。(よし。)と書き出すも、好きだ。離れたくない。などの自分勝手な感情ばかりの文字が並んでしまい、これでは返って美佐を困らせてしまうことになる文章になってしまい、(ダメだ、ダメだ)と何回も書いては失敗して破き、書いては破き、を繰り返した。

(ダメだ、ちょっと落ち着いて考えよう)

要点として、

1.美佐と付き合えてよかったということと感謝の気持ち

2.美佐を元気づける言葉

3.ファーストキスの失敗を謝ること

これを伝えたい。


その後、何度も書いては失敗を繰り返した。最後は、素直な思いを綴ろうと思って書いて、なんとか完成した。要点が伝わるかなと何回も読み直した。


会えなくなる寂しさは書いたが、美佐の旅立ちを応援する言葉にして元気づける内容にした。最後に感謝の気持ちを繰り返し書いた。ファーストキスのことは、あんなかたちになってしまったこと後悔してると、書いて謝った。


なんとか夜に間に合い、美佐の家に届けに行く。

途中の公衆電話に寄って、電話した。

雅也「もしもし」

美佐「もしもし」

雅也は、美佐の声を聞くだけで、涙が出そうになっている。

雅也「今、近くなんだけど、これから手紙を美佐の家のポストに入れておくから読んで。」

美佐「手紙?ありがとう。わかった。」

電話を切って美佐の家に向かう。美佐と最後の会話。雅也はもう大泣きだ。


美佐の家が見えて、一旦止まり深呼吸して涙を止める。

そして、静かに美佐の家の玄関に近づいて、ポストを確認する。

雅也はポケットから手紙を出す。また涙が溢れ出す。

ポストに(さようなら美佐!)と心でつぶやいて、静かに入れた。

「トントン」上の方から音がして、ふと上を見上げると、2階の出窓から美佐が手を振っていた。部屋の中からの明るい蛍光灯が逆反射して、美佐の顔は見えないが、手を振っている影だけが見えた。

(美佐、元気で。ありがとう!さようなら美佐!)

雅也は大きく手を振った。

美佐の影も大きく手を振り返した。



さようなら。美佐。


さようなら 


さようなら


何回も繰り返し繰り返しつぶやいた。


何回も通った、美佐の家から帰るこの道もこれが最後だ。


雅也は泣いて泣いて、ようやく涙も出きってたとき


終わった。

終わったんだと実感した。


本当は、最後に会って抱きしめたかったが、美佐を余計辛くさせてしまうかと、あえてこういう別れ方にした。

もうひとりの雅也が(本当に最後会わなくてよかったのか?)と確認するように聞いてきたが、雅也は(うん。これでよかったんだ。)とかっこつけて言った。



美佐と付き合った季節が終わった。そして美佐はイギリスへ旅立った。



あっという間に夏休みが終わり、久しぶりの学校の教室。やけに、日焼けしてるヤツや、背が伸びたヤツとか、雰囲気が変わった女の子とかで、皆やいやい、所々で話している。雅也といえば、ひとりポツンと席に座り、周りの声をぼーっと聞いている。

美佐と付き合った季節は夢だったのか?と思うように、すごく昔のような、頭の遠くの方に行ってしまったような感じがしていた。


矢沢永吉の"ウイスキーコーク"が響く。

"短い映画のようなあの季節はもう帰らない"


これは運命で、美佐の人生はこうなることが決まっていたんだ。オレの人生も同じくこうなることは決まっていたのだと思う。きっと神様が決めたこと。逆らえない。変えられない。仕方がないこと。美佐、美佐のこと忘れたくない。

だけど、美佐、忘れないとオレ前に進めないんだ。



それからの中学生活は、淡々と進み、あっという間に中2になった。バスケは少しづつだが、上手くなって試合に多く出れるようにはなった。都大会進出に向けて頑張ってる。

勉強は相変わらずで、依然やる気がない。クラスでは遊んでばかりいる、勉強嫌いのふざけ専門の人というキャラになった。

彼女はその後しばらくいなかったが、宮田の薦めで、バドミントン部の子と付き合い出した。キスのことがトラウマになっていたのか、今度の彼女とは、付き合った早々に、"あっち向いてホイ作戦"で直ぐに済ませた。

美佐からは、イギリスに着いたばかりに一度手紙が来たが、それ以降は来ていない。きっと、もう来ないと思う。でもそれでいい。美佐もそのつもりだと思う。





というわけで、長くなったが、これがオレの中学生時代の初恋の話しだ。

その後美佐とは一度も会っていない。同窓会で矢川さんに会ったときに聞いたが、美佐はあのままイギリスにずっと住んでいるようだ。向こうの人と結婚して幸せに暮らしているようだ。オレもその後は、普通に数人とお付き合いして何度も恋をした。就職して30代の頃に最愛の人と出会い所帯を持った。

美佐はファーストキスのことどうしてるだろう?とたまに思い出すことがある。きっとそんなことはとっくに忘れているか、どうでも良いことになっているだろうか。オレは苦い思い出として今でも引きずっている。ファーストキスを聞かれたときは、”覚えてない”とか、”普通にした”とか言って交わしている。


もし、ファーストキスが素敵に出来てたらと今でもときどき思うときがある。

あのときはお好み焼き論で、失敗しても後から整える、やり直せばいいと思っていたが、ファーストキスは特別なのである。やり直しは出来ない。だから慎重にしなければならない。肉体思考や衝動的にしてはいけない。お互いが素敵な思い出になるような、ファーストキスをしなくてはいけない。ファーストキスは人生で一回だけなのだから。


もしも、もしもだが、やり直しが出来るのならば、今度は、心と心の愛情溢れる、素敵な思い出になるような、ファーストキスをしたい。












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