第19話 手紙
(失敗だな。)もうひとりの雅也が、ほれ見たかのように語りかけてくる。
雅也「違うんだよ。あー違う。違う。違うんだよ、美佐。オレは美佐の不安を無くしたかっただけ。安心させたかっただけなんだよー。」
「例えるならお好み焼きみたいなもんだ。お好み焼きはひっくり返さないと焦げるだろ?焦げる前にひっくり返さなきゃいけないんだよ。このままひっくり返さないで焦げるより、一回返してみる。もしそれが失敗して、うまくいかなくても、整えれば問題ないでしょ?そういうこと。
このままだと二人はダメになるから、ひっくり返したかった。まずキスしてそこを超えたかった。
もうひとりの雅也が言う。(なんだそれ?わかんない。だいたいお好み焼き?恋とお好み焼きを一緒にするな!美佐ちゃんはなんだ?お好み焼き?卵か?キャベツか?肉か?桜えびか?)
雅也「違う!違う!」「もういいや。」
雅也は否定したものの、失敗したことは間違いないので、認めてしゅんとした。
雅也(あー、何でこんなことになっちゃったんだろ。。オレが悪かったのか。悪かったんだろな。)
もうひとりの雅也(あんなにキスのこと慎重に考えてたのにな?)
雅也(そうだった。オレのキス論は、決して肉体思考ではなく、心と心でするような愛情を確認するようなキス。だった!
ゆっくり、いつかそのタイミングが来たときに、チュッと、映画のように、ドラマのように、写真のように、絵のように、フランス人のように、素敵にする筈だった!のになぁ。)
「あー!」雅也は今頃、自分を責める。早とちりしたことを後悔、反省する。しかし、悔やんでも、反省しても、時は戻らない。”時間よ止まれ”も使えない。
美佐が帰った頃に電話して謝ろうか、手紙を書いて誤った方がいいか、それとも美佐の家に行って下から大声出して謝った方がいいか?考えた。
でも結局何も出来ず、ただ夜を迎え、母ちゃんに感づかれないように夜ご飯を食べ、銭湯でおじさんの背中を流し、ぼーっとテレビを見て、普段通りの生活をしてやり過ごそうとしたが、やり過ごせるわけがない。
布団の中に潜り込んで、カブト虫の幼虫のように丸まった。
結局何もできない。勇気が出ない。。
「はー。」溜息が止まらない。胸が重い。
雅也の心の中にあった"美佐”の場所に、”切なさ”が重く入れ替わっていた。
それから雅也は何もできないまま何日経ったのだろうか?
部活は3年生が引退し、気持ち新たに次の大会に向け練習が始まっていた。
雅也はすっかり、岩田たちが引退したのと、美佐とのことで、バスケどこではなく、完全に意欲が無くなっていた。
クラスでも、もうどうでもいいみたいな態度で憂鬱な顔で皆に当て付けたりして、きっと嫌なヤツと思われているだろう。
美佐とは学校でも会うことはなかった。オレの行動ルートをわかっているからか、避けていると断定できるほど、出くわすことはなかった。
そんな日々が続き、1学期最終日を迎えた。
雅也は、予想通りの成績表を受け取り、本来嬉しいはずのこれから始まる夏休みが、絶望感しかなかった。
(もしこのまま美佐がオレの中から居なくなってしまったら、)
雅也は嫌な予感がして、悪いことばかり考えていた。
帰ろうと下駄箱で、靴を履こうとしていたら、矢川さんが走って来た。
「雅也ー、これ。渡してって、美佐から」
矢川は美佐から預かった手紙を雅也に渡した。雅也は、美佐からの突然の手紙にびっくりして、手を震わせながら受け取った。
雅也は、靴を履いて学校を出た。美佐からの突然の手紙を、早く帰って家で読もうと急いだ。
しかし、家まで我慢することが出来なくなり、途中の公園で読むことにした。
雅也は公園に入って空いているベンチを探し急いで座ると、手紙を出した。
手紙は、美佐の好きな水色の封筒だった。封筒の上には"雅也くんへ"と書いてある。
雅也はその封筒を手で触りながら、何か大きな話しが書かれているような予感がした。
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雅也くんへ
ずっと考えてた。ずっと考えて、手紙を 書くことにしました。ほんとは会って口で言いたかったけど、ごめんね。
雅也くん、もう会えない。
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雅也は手紙の冒頭を読んだところで、天を見上げた。(やっぱりか••)
一気に悲しみの涙が湧き上がってきたが、
手紙に目を戻し続きを読み出した。
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雅也くん、もう会えない。
実はね、お父さんが仕事でイギリスに行くことになって、家族全員向こうで住むことになったの。私とお姉ちゃんと妹のこと考えて、急だけど夏休み中に引っ越すことになったの。それで、行ったらもうしばらく何年も帰って来れないらしいんだ。
そう2週間くらい前に言われたんだけど、最初聞いたときは受け入れられなくて、お父さんやお母さんに行きたくないとごねてた。でも私だけこっち残ることもできないしね。行くことに決めました。
なので、雅也くん、もう会えなくなっちゃう。別れることになっちゃう。寂しいけど、悲しいけど、つらいけど。仕方ないから。
こないだ麻衣子のこと、
麻衣子は雅也くんとこれからも一緒に居れていいなぁって、ちょっとヤキモチ焼いちゃったの。ごめん。
あと、あの日曜日のことは責めてないよ。あまり良いかたちではなかったけど、ファーストキスしてくれた。後から考えたら、何で怒っちゃったんだろうって後悔しちゃった。ごめんね雅也くん、嬉しかったよ。
私は小学校から雅也くんのこと好きで、付き合うことになって、すごーく嬉しかった。
それから約3ヶ月付き合って、短くてあっという間だったけと、本当楽しかった。
こんなことになっちゃって、ごめんなさい。
本当にごめんなさい。
今までありがとう。こんな私と付き合ってくれて。
雅也くんとの思い出は、一生大事にします。
雅也くんと話したこと、笑ったこと、ファーストキスも忘れない。
雅也くんの寂しがる顔を見るとつらいから、このままお別れします。ごめんね。
さようなら雅也くん、元気でね
本当に楽しかったよ
本当に本当にありがとう
美佐
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雅也の頬に、涙が溢れた。
別れ話だけじゃなく、予想外の話しに雅也は硬直した。
(イギリスに行く??ホントに?信じられない。嘘だろう?そんなの。嘘だ。
あ、話しってこの話しだったんだな。。
聞いてあげられなくてごめん、美佐。
聞いてあげたかった。辛かったろうな美佐。
キスのこと、、優しいな美佐。
本当は嫌だったのに、オレが傷つかないように言ってくれてるんだろう。
なんて美佐は、、なんて美佐は、、自分が一番辛いだろうに。。
イギリス行っちゃうのか。。もう会えないんだな。もう会えない••)
美佐?
美佐と
もう会えない
もう会えないの?
会えないなんて
嫌だ
嫌だよ 美佐
会えなくなるのなんて
顔も、
もう見れない
なんて••
雅也は、目から大粒の涙が流れ出した。
声を出して泣がずにはいられなかった。
公園の蝉の声が、掻き消してくれるように鳴り響いていた。
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