第16話 バスケは命だ 人生だ(1)

コートの中央、審判がボールを宙に投げる。

遂に試合開始!

七郷中と東郷中の運命の試合が始まった。

2階のそれぞれの応援団が、一斉に前のめりになってコートを見ている。


出だし。落ちたボールを東郷が取り、落ち着いた様子でボールをまわす。スッ、スッとパスをまわし、ゴールに近い大きな男に渡ると、その男が軽く投げてシュートを決めた。王者の貫禄を感じるプレーだ。


負けじと七郷も、ガード木崎が早いドリブルで一気に中央まで行くと、シュッと岩田にパスする。岩田は村山にパスするフリをして、お得意のくるりと回りシュートを放つ。ボールはリングに吸い込まれる。場内が湧く。


東郷、今度はエンドラインからパッーっとボールを投げ、キャッチした男があっと言う間に走り込んで、リングにボールを落とす。


七郷、木崎がまたも早いドリブルで持ってきて、柴山にパスをする。柴山は、よし、任せろ!と言わんばかりにドリブルを始め、東郷のディフェンスに突っ込んで行く。手をあげた岩田に絶妙なパスをし、またも岩田が決める。

七郷応援団が湧く。


東郷、早いパスを数回まわしたと思ったら、あっという間に、また大きい男に渡り、軽く入れられた。

岩田「なるほど、この大きい男を中心に入れてくる戦法か」


七郷、早くも真っ赤な顔の木崎から、菅田、柴山に渡り、柴山は岩田にパスするフリをして村山に出し、村山が見事に決める。

唯一2年の村山は、180cmの長身で、パワーフォワードとして期待されている。

「おー!!」

七郷ベンチと応援団が、お、行けるかもと期待で、歓声が湧く。


東郷、今度はゆっくりと運んでパスもゆっくり回し、またも大きい男にパスを!その時岩田が、阻止するように手を出す。ピー!

相手に触れたのかファール。スローイングから結局また大きい男にまわり、またもゴール。


七郷、今度は木崎からもらった柴山が、いきなりスリーを打って決める。

七郷9-8東郷

柴山はどうだ?とばかりに、ガッツポーズを見せる。

七郷応援団「うぉー!!」「ナイス!シバケン!」わんわん盛り上がる。


ピー! 東郷タイムアウト



村田「よし、いいぞその調子だ!どんどん攻めてけ!デカイのにはボール回させるな。」

5人「はいっ。よし!行くぞー!」


再び、両チームがコートに戻る。


東郷、またゆっくりパスを回す。次はまた大きい男に来ると予想し岩田が入ると、違う小さめのヤツに回し、そいつが素早いドライブで決められた。

岩田「くそっ、今度はあいつか。」


七郷、気を取り直して、木崎から菅田、柴山、岩田に渡ると、すかさずジャンプシュートを放とうとしたが、大きい男にブロックされた。

岩田「う、そう簡単には行かないか。でも燃えて来たぜ!」


東郷、今度は大きい男に渡ると、そいつからさっきの小さいヤツに回して、またもドライブで決められた。

七郷9-12東郷

ピー! 七郷タイムアウト


村田「ここで焦るな。やっぱり相手は、いくつもの攻撃がありそうだが、落ち着いて行こう。」

岩田「大丈夫です。なんとかなりそうな相手です。」

「行くぞー!」


(さすが東郷は、王者だけあって確かに強いが、まだ始まったばかりだ。)

「大丈夫!まだ始まったばかり!」雅也はベンチで声をあげた。


七郷、木崎から菅田、今度は木崎に戻す。木崎は、ジグザグと東郷のディフェンスを抜き去りゴールを決める。

木崎は小さい体を利用して、ディフェンスを抜くのが得意だ。岩田と同じスクールに通っていたのもあって、細かなプレーも上手い。


木崎「みんな気持ちで負けんなよ!」と声をあげた。



東郷のゆっくりだったり早かったりのパス回しからの攻撃に、テンポが合わず苦戦していた七郷だったが、徐々にパターンが読めてきて、止められるようになってきた。

岩田がブロック、スチールで必死に食らいつく。しかし、岩田のファールが既に2つ取られていたのが気をつけたいところ。


ブー 

1p終了 七郷25-28東郷


2p開始

東郷は安定した攻めで次々点を加算していく。七郷は果敢に攻め、何とか東郷に食らいついていた。


2p 終了七郷47-51東郷 



雅也(でも、すごい。東郷相手に付いていけてる。イワケンくんが後半調子良ければ行けるかも!もし勝ったら、、東郷に勝ったら、優勝?3位内はイケるでしょ。)

雅也は期待を膨らませていた。

「よし!後半も応援、声出してくぞ!」


2階の七郷応援席も、前半ここまで戦えてることで、いける!いける!と、皆、顔が綻んでいる。雅也と同じように、後半やってくれるだろうと期待していたのだった。


3p開始

後半戦も七郷が果敢に攻め続けるが、東郷のディフェンスが強力さを増し苦戦する。東郷は攻撃の力も徐々に上げ、やや東郷有利で時間が流れていった。


またも東郷、大きい男が、ゴール下で狙う。そして手を伸ばしたとき、たまらず岩田がブロックしに飛ぶ!が、ピー!ファール

しかも、ボールはリングの中に。

バスケットカウント!

東郷側の応援が湧く。

大きい男は、フリースローをきちっと決め、七郷47-54東郷

岩田はファール3つ目だ。七郷タイムアウト!



村田「もっとディフェンスを固めろ!」

5人「はいっ」

岩田「皆、この後は、オレに集めてくれ」

柴山「あんまり一人でやらない方がいいんじゃないか?ファールも嵩んでるし。」

岩田「いや、大丈夫。任せてくれ。」負けず嫌いの岩田は完全に燃えたぎっていた。



試合再開

七郷から、木崎から受けた岩田が、宣言通り、勢いよくドリブルし、ディフェンスを交わして、斜めになりながらジャンプシュートを打ち、決める!

七郷49-東郷54

場内「うおー!!」


岩田「木崎、どんどん来い。」


東郷、負けじと小さいヤツがドリブルで突っ込んでくる。が、菅田が、必死のしつこいディフェンスをみせる。菅田はチームイチ練習を頑張る男で、それが認められレギュラーを勝ち取った男で、ディフェンスに定評がある。菅田は相手がバランスを崩した瞬間に手を出しボールを弾いた。それを木崎が取り岩田にパス。岩田は一気に走り抜け、東郷のディフェンスを振り切って飛ぶようにレイアップで、決めたー!



3p 七郷51-54東郷


七郷応援団「おー!!イワケンナイシュー!!」


七郷ベンチ「うおー!!」

皆でハイタッチをする。

雅也(いやー、イワケンくんきれいだ!カモシカのようにというのか、しなやかだ。)


イワケンのプレイを、久我山学院のコーチ達も乗り出して目を光らせている。



東郷コーチ「4番を止めろー!」



東郷、一度落ち着いてと言わんばかりに、冷静なプレイで攻める。七郷の根性ディフェンスをあしらうように交わして、またも大きい男に。シュートを打つも、岩田が手を上げて飛んで邪魔したことで、辛うじてリングの外に落ちた。そのボールを岩田はジャンプしてボールを掴む。と、走り出し、東郷ディフェンスを見事に掻い潜り、一気にゴールへ突進すると、スリーポイントの線の手前であえて止まり、豪快にシュートを放つ!岩田のボールはきれいなアーチを描きリングに吸い込まれていく。決めたー!!


同点!! 遂に追いついた!

3p 七郷 54-54東郷 



七郷応援団「おー!!イワケーン!!」

麻衣子も飛び上がって喜んでいる。


「うぇー!!よし!よし!よし!!」

七郷ベンチも全員ハイタッチで盛り上がる


雅也「イワケンくんすごい、凄すぎる!」

岩田は何かがとりついたような、もう止められない勢いで、体のまわりに炎が見えるようだ。

岩田はもうポジションも何もなく、もはや一人で戦っている狼のようだった!



「七郷!七郷!」七郷応援団の声が、場内に響きわたる。


岩田「よし!勝つぞ。」


岩田は何かこの接戦を楽しむかのように、プレイをしていた。そう、そして、バスケットが大好きなのだ。


"オレにとって、バスケは命、人生だ"


雅也は岩田が前に言っていた言葉を思い出しながら、荒い息の岩田を眺めていた。

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