第14話 試験勉強
「制服着替えてすぐ行くね。」
オレが勉強わからないと試験に狼狽えてたのを見て、美佐が勉強を教えてくれることになった。
そう今日は、学校終わってから、雅也の家で、2人で試験勉強だ。
美佐は一回家に帰って、着替えて雅也の家に行く。
雅也は先に家に帰り、部屋の掃除をして美佐を待つ。
(テーブルの位置はこっちがいいか?オレがこっち座って、、美佐はこっちでいいか。)
雅也は、四角いちゃぶ台を右左動かして、二人の勉強場所の位置決めに悩んでいた。
「よし。そろそろかなぁ?」
雅也は、そわそわして、美佐を待っていた。
実は雅也は、勉強なんてどうでもよく、試験がどうなっても心配していなかったが、美佐が心配そうに「教えてあげようかぁ?」と言ってくれたので、喜んでお願いした次第だ。
(どうせキス狙いでしょ?)もうひとりの雅也が訊いてきたが、「違う!」と全面的に否定したいが、少し期待を持ってるのは誤魔化せない。
オレ最近わかったんだけど、こないだの帰り(土手歩いたとき)もそうだったけど、キスしなくても充分満足なんだ。二人でいるだけでオレは満足なのだ。ただただ美佐と歩いているだけで、話してるだけで、試験勉強するだけでも。同じ場所で同じ空気を吸うだけで幸せ、満足なんだ。
(本当にそうなんか?負け惜しみじゃないのか?)雅也は、もうひとりの雅也と話していた。
トン、トン、
玄関のドアを叩く音が聞こえた。
雅也(あ、美佐来たか?)「はいよー!」
玄関を開けると、制服から着替えた美佐が、手提げを肩に掛けて立っていた。
雅也「どうぞ。」
雅也は美佐を部屋に招き入れると、座布団をひいて、ここに座ってと誘導した。
美佐は赤い布製の手提げをおろし、長いサマースカートを手で押さえながら座った。
雅也「ウチ、狭くてボロくてごめんね。」
美佐「ううん。」
雅也が言う通り、雅也の家は畳2部屋と台所だけの狭いアパートで、窓も壊れそうなボロ家住まいだ。雅也は本当は自分の家を見られるのが嫌で恥ずかしかったが、美佐が「雅也くん家行ってみたい。」としつこくねだるので、願念してよぶことになった。
雅也は、台所から麦茶をふたつコップについで、運んだ。コップは小さいイチゴの絵がついている。「はいどうぞ。」
「ありがと」美佐は、雅也がただ麦茶を持ってきただけだったが、なんだか新鮮で嬉しかった。
雅也は、ステレオラックを開けて、一枚レコードを取り、クリーナーで丁寧に拭いて針を落とす。
雅也は矢沢永吉が好きで、今日かけることを決めていた。
ぷつぷつといった後、矢沢永吉の曲が流れ出す。
美佐は、誰?のような顔をしていたが、
手提げから教科書とノートをバサっと出してちゃぶ台に並べ、勉強の準備を始めた。
美佐「さっ、始めよっか。」
雅也も慌てて、準備をする。美佐の置いた教科書が英語だったのを確認し、英語の教科書を広げた。
そうだ、雅也は、特に英語が解らないと美佐に話していた。
美佐「じゃまずここからやってみて。」
美佐はパラパラと教科書のページを捲り、妥当な箇所を選んだ。
雅也「んー、これ"S"付くっけ?」
美佐「これは付けなくていいよ。」
雅也「んじゃこれは?付く?」
美佐「うん。これは付く。」
雅也はどうも"S"が付くのと付かないのがわかっていなかった。
ある程度終わった後、「じゃ見せて」と美佐が丸つけをしてくれる。なんだか家庭教師の先生みたいだ。
雅也は甘えて、次々と質問をした。美佐は本当に先生のように雅也の質問に的確に説明して答えた。
雅也は(美佐、頭いいんだなぁ。。)と美佐を横で見ながら、(美佐の考えてる顔もいいな。)と見惚れてしまっていた。
雅也「なんか美佐、先生みたいだな」
美佐「やだ、やめてよ」と少し赤くなって言ったが、少し「エヘン!」と言っているようにも見える。
それからどれくらい勉強したか。。完全に2人で試験勉強というより、雅也が一方的に教わっているだけとなっていた。
雅也「あー、休憩〜」
雅也は、ひと息つこうかと、麦茶のおかわりに立った。
美佐「もう休憩!?」とちょっとスパルタ風に答えたが、「よくやりましたー」ともはや本当に先生のように雅也を褒めた。
「難しかった〜」と雅也はふすまに寄り掛かる。美佐はまだ何やらノートに書いている。
もうレコードは4枚目をかけていた。雅也の好きな”時間よ止まれ”が流れている。「あ、これ知ってる!」と、美佐は反応した。
雅也は思い切って、美佐の腕をこちらに引っ張った。
美佐は、慌てて麦茶を置いて、雅也の胸のあたりに倒れ込んだ。
美佐「ん??」
「美佐、、」雅也は美佐の体制を直してあげながら肩に手をまわした。
美佐は、雅也の肩に頭を任せた。
(美佐の香りがいい匂い)しつこ過ぎない、ほんのり甘い、森のような、オイルのような、しっとりした落ち着く香りだ。
美佐は緊張した感じで下を向いている。
雅也と美佐は、とうとうやってきた?"このとき"を感じ、少しずつそれに向かって行く。
下を向いていた美佐の顔がだんだん横へ雅也のほうへゆっくりと向いていく。
雅也は唾を飲み込む音を美佐に聞こえないように顔を近づけて行く。
まさしく"時間よ止まれ"だ。
と、その時!!
ガチャガチャっと
玄関の方で音がした。
「ただいまー!」
雅也「ん・・・・あっ、母ちゃん!?」
(おかしいな、母ちゃん帰ってくるのはまだ1時間以上早いし)
雅也は慌てて立ち上がって、玄関を覗く。
母「ただいま。なんだマサいたのか?」
雅也(わーやっぱ母ちゃんだ!!)「どうしたの??早くない?」
母「今日残業なかったから。機械の点検があるとかで。」
雅也「うそー。。」
美佐「こんにちは。はじめまして。おじゃましてます。」
美佐は母ちゃんに、丁寧に挨拶した。
母「なんだ?彼女来てたのか?こんにちは。」母ちゃんは、びっくりもせず普通に対応した。
「ごめんね。」一方雅也は、ばつが悪い様子で、この状況をどうしようかとウロウロ部屋を動き回った。
母「じゃ、急いでカレー作るから、彼女も一緒に食べてきな。」
(それだけはやめてくれ。)雅也は、母の誘いを遮るように、勉強道具を片付け、
小声で「行こう」と美佐に伝える。
そんな、美佐と母ちゃんとカレーを食べるシチュエーションなんて有り得ない。想定したことがない状況に雅也は拒否するしかなかった。まして自由が丘お手伝いさん出身の母ちゃんが作るマズいカレーは、ホントに超一流にマズいのだ。というわけで、母ちゃんは気を利かしてのことだったと思うが、せっかくだが、断らせていただく。
雅也「もう、美佐、帰る時間だからさ。カレーいいよ(要らない。)」
母「あ、そう?わかった。美佐ちゃんて言うんだ?」
美佐「はい。すいません。おじゃましました。」
雅也と美佐は、雅也の家を出た。
雅也「あー、びっくりしたー!ホントごめんねー」
美佐「ううん。大丈夫だよ。雅也くんのお母さん、面白そうだね。」
雅也は母ちゃんを美佐に見られてしまって恥ずかしと思いながら「天然なんだよね。」と、田舎から逃げてきたこととか、自由が丘のお手伝いさんをやってた話しを付け加えながら、母ちゃんを説明した。
美佐の方も今まであまり聞いたことがなかったご両親の話しをしてくれた。
お母さんは専業主婦で、お父さんは、大学?大学病院?か何かの教授とかで凄く偉い人みたいだ。
雅也も父がいなくなった話しを隠さず話した。
またキスはおあずけになった。
しかし、お互い付き合ってる実感がまた一歩増したような気がした。
追伸:それからというもの、母ちゃんは「彼女と一緒に行けば?」「美佐ちゃんにあげれば?」など、いちいち”彼女”とか”美佐ちゃん”の言葉をやたら入れて話してくるようになった。笑
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