第10話 お祭り

「今度の土曜日お祭りでしょ?一緒に行こ♡」

またもや美佐からとなったお誘いがあった。

そう、七郷の神社のお祭りが土曜に開催される。この祭りは毎年6月に行われ、町内はお神輿が繰り出され、神社は沢山の出店が立ち並ぶ。祭り好きのこの地元の人達は、この年に一度のお祭りを楽しみにしている。

オレらの中学では、付き合ってる二人でお祭りに行くのが憧れ的なイベントとなっている。彼女のいない男共は、それまでに彼女を作りたいみたいな、いわばクリスマスまでに彼女を作る!の6月編みたいのになっている。


祭りの日程が決まると町内に開催案内が貼り出される。それを皆心待ちにしていて、それから一気にお祭りモードになっていく。


オレはいつもボサーっと歩いているので、全く貼り紙に気付いていなかったが、美佐は貼り紙に気付いたのか、家族から聞いたのか日程を知ったようだ。また美佐はお姉さんがいるので、お祭りにカップルが連れ添っていくことも聞いていたのだろう。


「うん、行こう行こう!」

やっぱりか?女の子はませてる説を、また考えながら雅也は返事をした。



6月6日土曜日

お祭りの日が来て、夕方雅也はそわそわと支度を始めた。

美佐と待ち合わせは6時だ。

そのために、今日は早々と5時に銭湯に入ってきて、急いで帰ってきたところだ。

冷蔵庫に入ってる麦茶を飲んで、着ていく服を考える。

と言っても雅也は洒落た服は全く持っていないので悩んだが、エドウィンのTシャツとカーペンターを履いていくことにした。履物は祭りなのでとビーチサンダルにした。


七郷神社入り口の少し手前の角のたばこ屋の前で待ち合わすことにした。

雅也は美佐を迎えに行こうと思っていたが、美佐は隣りの家に住んでる矢川さん(矢川洋子)と神社まで一緒に行くとのことなので、雅也は先にたばこ屋に行って待つことにした。


「雅也くーん!」

美佐と矢川さんだ。

「洋子ー!」

矢川さんは反対側からの浴衣軍団から声が掛かり笑顔で群れに入っていった。


「ごめん、待った?」

美佐は白地に水色のシャボン玉のような丸い絵柄の浴衣で登場した。

「う、可愛い」

雅也は、美佐の浴衣姿に見惚れて、顔が赤らんだ。そして、オレの彼女はやっぱりサイコーに可愛い!と自慢顔になって「行こうか」と言った。並んで歩き出すと雅也の服のセンスの無さが目立つ。


神社の入り口は、待ち合わせの大人達から子ども達まで大勢いて賑わっている。

いかにも祭り男のような短髪の男達、髪をピンでビシっと留めてる女性達、いわゆるヤンキーと呼ばれている方々等が、法被姿で神社のガードマンのように陣取っている。他にも子ども連れの親子、お爺ちゃんお婆ちゃんが楽しそうに笑っている。


その脇をすり抜けるように神社に入っていく。

「わー、いっぱいお店出てるね。」と美佐が嬉しそうに言う。

雅也(美佐はお祭り好きなんだなぁ。)「何のお店行きたい?」

美佐「ヨーヨー欲しい」


二人は人の群れをかき分けるように奥へ進んでいった。

途中、知っている友達と会うと「おー!」と言って、手を振ったり、タッチしたりした。あまり仲の良くない子は微笑んでオレたちを見ている。


自慢だった。可愛い彼女、美佐がホントに自慢だ。

「みんな、羨ましいと思うが、すまん、美佐はオレの彼女です!」

と雅也は、一人芝居のようなことを心に巡らせ、「はい、幸せでーす!」とばかりな顔で歩いていた。


美佐「あったヨーヨー」

雅也「すいません、おじさん、二人分」

とお金を払い、ヨーヨー釣りを始めた。

美佐は、水色が好きなようで、ヨーヨーも水色のを狙っていた。

ひとつは釣れるしくみなのか、美佐は見事に水色のヨーヨーを釣り上げた。

オレも!と一つ目黄緑色のを釣り上げ、一気に二つ目にトライしたが、あっという間にちぎれて終わった。

二つ目は難しいかと思ったと同時に「やった!」と

横で美佐が二つ目を釣り上げた。

オレはびっくりした顔で美佐を見た。おじさんは笑っている。


美佐は両手に水色とピンクのヨーヨーを誇らしげに持ってポンポンと弾いた。

右手の水色のヨーヨーをオレの肩にポンと当てて笑った。

オレもポンと美佐の肩に反撃をした。

雅也(なんか本当幸せな時間だー)


美佐「あんず飴たべたーい」

雅也「うん、水飴ね。オッケー」

水飴屋さんを探しながら、途中、射的でオレが全く大外れ連発で美佐に大笑いされたり、金魚すくいでまたオレより美佐の方が取れて、つっつかれたりしたりなど、楽しい時間は過ぎていった。


雅也「あ、水飴あった。買ってくるよ。」

オレは、水飴はあまり好きではないので、美佐の分だけあんず飴を買った。

美佐「雅也くん食べないの?」

雅也「うん、あんまり好きじゃないんだ。」

美佐「そうなんだぁ」と言って、ペロっと舐める。

美佐「美味しい!食べる?」

と美佐は一口舐めた後、雅也に水飴の櫛を差し出した。

雅也「・・」

雅也は一瞬固まってしまい、絶好のチャンスを逃した。

雅也(あーしまった。関節キスだったのに。でも水飴好きじゃないと言っておいて食べたら変かと、余計なこと考えちったー。)

雅也は「あ、ヨーヨーと金魚持つよ」と食べにくそうにしてる美佐を助けながら、

(あー!!失敗したー!)と悔やむのだった。


そうこうしてるうちに、矢川さんが来て「美佐ー、もう8時だから帰るよー」

とやって来た。

帰りも一緒に帰ってくるように、おそらく美佐と矢川さんのお母さんに言われているのだと思う。

美佐「もう?うん、わかった。」


美佐は矢川さんと帰って、オレは後から追って美佐の家の近くのいつもの角に行く約束をして、ひとまず別れた。


「お待たせ」約束の角に雅也が着いたときは、美佐は両手でヨーヨーを弾いていた。

美佐「ひとつは妹にあげるんだー」

雅也(優しいなぁ)


美佐「雅也くん金魚救い下手すぎー、射的も笑」

雅也「おかしーなー、今日は調子悪かったー」


美佐「雅也くん••今日楽しかったー」

雅也「オレもー」


美佐「雅也くん••」

美佐は雅也に近づいて、雅也の腕の辺りを触れる。

「美佐••」雅也は思わず美佐の腰あたりに手をまわし抱き寄せる。


今いるこの角の時間が止まった。


美佐の浴衣ごしの柔らかい体を感じる。


美佐「雅也くん、私と付き合ってくれてありがとう。」


雅也「ん?なに今更?」


美佐「うん、今日改めて思ったの。雅也くんのこと好きだって。」


雅也「オレも。••」(ん?これは?•••)



ガチャっ!


美佐の家からあ母さんみたいな人が出てきたような!


二人は素早く角のブロック塀に隠れて身を潜める。

美佐のお母さんだ。ゴミを捨てに来たのか玄関から出てきたが、また玄関を開けて家に戻って行った。


美佐「ごめんね雅也くん帰るね。」

雅也「うん、じゃあね。今日楽しかった」

美佐「気をつけて。おやすみ。」

雅也「おやすみ。」




雅也「あー、惜しかったなー。間違いなくキスの場面だったなー」「あー、マジ、マジ」


雅也は、映画の撮り直しのように、さっきの場面に戻ってキスを交わすカットを編集した。


(でも今日は本当楽しかったし、美佐と少し軽くだけど、抱き合えたし、二人の関係が進んだよな。やったー!!)

また今日も半スキップ歩きで夜道を帰っていった雅也だった。











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