第7話 怪異に巻き込まれやすい体質ってなんだよ!③
帰宅して風呂から上がった桂華はニャルラトホテプに髪を乾かされていた。そのまま寝てやろうと思っていたのに捕まったのだ。
脱ぎ散らかしていた服は綺麗に洗濯されていたし、掃除もされていた。綺麗に整頓されている部屋というのに最初は慣れなかったのだが、今はもう慣れというか諦めに近い心境だ。
よくよく考えると化け物とはいえ、男性に洗濯物を洗わせて仕舞わせると言うのはどうなのだろうか。恥ずかしくないか、自分。考えるだけで胃が痛くなってきて桂華はうげぇとテーブルに突っ伏す。
「こら、顔を上げる」
「おのれ、ダメ人間製造機め……」
「キミが干物をやめればいいだけだろう」
ニャルラトホテプに「ボクがしなければ、キミはぎりぎりまでやらないじゃないか」と言われては何も言い返せない。何もかも余計なお世話なのだ。
いいじゃないか干物でも。パジャマでごろごろ一日中過ごしていいじゃないか。肌の手入れがなんだ、化粧なんて会社と出かける時ぐらいでいいだろう。
うおおんと唸る桂華にニャルラトホテプはくすくすと笑う。こいつ、ほんと性格が悪いと思った。
「なんだっけ、あの化け物」
「
「あんなの霊園にいるの?」
「霊園の奥に林があるだろう、あそこには地下道へ繋がる場所がある。あいつらはそこに住んでいる」
どうやらその地下道で彼らは暮らしているらしい。普段は動物の腐肉を漁っているのだが、踏切事故などでバラバラになった人間の破片も食べるのだという。
電車への飛び込みというのは見つからない部位が出てくるのはよくあるらしく、
「あの踏切周辺というのは人間の心理をつくような作りになっている。だから死人がよく出る」
どういったものが原因かは分からないけれど、細かいものが重なり合って空間が歪んでいるのだという。夜になるとさらにそれが活発になるため自殺が絶えないのだ。死にたいと思っている人間はその誘惑に敵わないらしい。
「魔術的な? どうにかできないの」
「あれは人間が行動しないと解決しない部分が多すぎるから無理だね」
例え、魔術をかけたところで他の部分を解決していないのでは意味をなさない。魔術はそれほど便利なものではないし、人間のために力を貸す神などそうはいないのだとニャルラトホテプは話す。
そういえば、邪神だものなと桂華はニャルラトホテプの話を聞いて思った。彼が手を差し伸べるというのはそうないのだろうと。
「てか、怪異に巻き込まれる体質って何さ!」
「そのままの意味だが?」
「どうしてそうなったのよ!」
桂華はニャルラトホテプに出会うまでは、こういった神話生物なる化け物に遭遇したことなどなかった。それに彼が「ボクと会ったからだろうね」と返される。
「怪異というのは一度、出会うとそれから引き合うものなんだよ」
「要はお前のせいってことかー!」
「まぁ、そうかな」
ニャルラトホテプは「これからもどんどん怪異を引き寄せるだろうね」と、それはそれは愉快げな笑みを浮かべる。桂華は「ふざけんな!」と彼の肩を思いっきり叩いた。
あんな化け物にまた会うのか、それとも何かしらの恐怖を味わうのかと思うと不安だ。それを感じ取ってか、ニャルラトホテプは「ボクが助けてあげるさ」と言う。
「ちゃんと慈悲を与えてあげるよ」
「それはお前が苦しんで怖がっている私の姿を楽しみたいからでしょ!」
「そうだが? キミが恐怖し、苦しみ、狂う様を眺めていたのだからそう簡単に死なれたら困るだろう?」
そう簡単に壊れてしまっては困る。せっかく見つけた
「もちろん、キミを愛しているのは本当だ。キミを手放したくはないし、傍に置いておきたい。死んだとしてもその死体を愛でよう」
「……歪んでる」
こいつは歪んでいると桂華は思った。彼はそれを愛というが、人間からしたら理解し難い。愛が重いと言うべきか、歪みすぎていると言うか、なんとも受け入れ難い想いだ。
桂華が渋面を見せていれば、ニャルラトホテプはその反応もまた楽しいようだった。
「にしても、キミは幸運だね。少しは怖がると思ったのだけれど」
「多少は怖いと思ったよ」
「ほう」
「あんたより怖くなかっただけ」
ニャルラトホテプと比べれば
「キミが心の内でボクを怖がっているのを感じると愉快だよ」
それは愉快そうに言うニャルラトホテプに桂華は背筋をぞっとさせた。あぁ、本当にこの化け物は恐ろしい。桂華の精神はじんわりと蝕まれていく。
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