第8話 出会いの合コン④

 自分と同じ『代理』で来たという彼女――。

 談笑もそこそこにカラオケが始まり、わいわいと皆が盛り上がる中、一人、隅っこで飲み物を手にちょこんと座っていた。

 艶やかな長い黒髪が印象的で。長袖の白いブラウスに花柄のロングスカートを着、メイクも控えめ。着飾る感じはなく、おっとりとして淑やかで。『透明感』という言葉がここまでしっくりくる人は他にはいないだろう、と眞彦は思った。

 彼女のいるそこだけ、まるで図書館のようにさえ思えて。なんで彼女はここにいるんだろう? と思ってしまうくらいだった。


 どういう経緯で?

 なぜ?

 もしかして、自分と同じように、半ば無理やり押し付けられた、とか……?


 いろんな思惑が脳裏をよぎった。彼女の話を聞いてみたい、と思った。でも、眞彦に声をかける勇気はなくて……。

 だから、無遠慮に見つめることしかできなかった。

 当然、それだけ熱心に見つめていれば、彼女もそんな視線にすぐに気付くというもので。何かを感じたように、ふいに彼女はこちらに目を向け、


「……!」


 バチリと視線が交わった瞬間、彼女は「しまった」と言わんばかりに血相を変え、あからさまに目を逸らしてしまった。

 その反応に眞彦はギョッとして、つられたように目を逸らす。

 

 え、なんだ、今の反応――?


 そりゃあ、見つめすぎていた自覚はあれど。それにしても……その彼女の反応はに思えた。ただ、目があってびっくり――なんて生優しいものでなく。なんらかの……他意を感じた。


「い〜なみさーん」


 大野が熱唱する声が壁を震わす勢いで部屋中に木霊していた。そんな中、とろんと甘えるような猫撫で声がして、


「お隣、いいですかー?」


 ハッとして見やれば、茶髪のボブヘアがよく似合う、小柄な女性がドリンク片手に隣に座ってきて、


「お酒、飲んでます〜?」


 ギクリとする。

 いきなり、嫌な質問だ――。


「あ、いや、まだ飲めない……じゃなくて、その……お酒とかは、苦手で……」

「えー、苦手なんですか? なんか意外……」


 心底意外そうに目をぱちくりとさせられ、眞彦の心臓は一気に激しく駆け始める。


「じゃあ、普段はあまり飲みに行ったりとかしないんですか?」

「さ……さあ……」

「『さあ』?」

「あ、その……忙しい、ていうか……!  勉強で、そんな時間ない……ので……」

「へえ……」と相槌打つ彼女の声は、一気に低くなっていた。「なんか真面目……なんですね」


 それは感心したようでもなく、驚くようでもなく。なんの感情もこもっていないような声色で。

 ほんの二言三言、言葉を交わしただけで、彼女がしたのが手に取るように分かってしまった。

 かあっと胸の奥が焼けるように熱くなって、嫌な汗が全身から噴き出すようだった。

 いてもたってもいられなくて、眞彦は立ち上がっていた。


「どう……しました?」


 そう訊ねる彼女の顔も見ることもできず、眞彦は「あの……トイレ」とだけ言って、逃げるように部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る