第5話 出会いの合コン①
「稲見眞彦です……よろしくお願いします」
自信無げながらにペコリと頭を下げて自己紹介すると、
「いや――誰だよ!?」
夜陰の訪れと共に賑わいだした駅前に、野太い声が響き渡る。
おずおずと顔を上げれば、茶色い長めの髪に、どこか野心を伺わせるギラついた眼をした大柄な男が。遊び人……とまではいかないが、ブランドものの小物をチラつかせ、なかなか派手な格好をしている。机に向かって夜な夜な勉強している姿は、とてもじゃないが想像つかない。こんな彼も帝南大学医学部とは――と改めて意外に思いながら見上げていると、
「だから、恭也の従兄弟だ、て」とガシッと隣から肩を掴まれ、「恭也の代理で来たんだよね?」
人懐っこいその声に振り返れば、綺麗に並んだ白い歯をニッと覗かせ微笑む青年がいた。さっぱりとした短髪に、猫っぽい顔立ち。物腰も柔らかく、全体的にスマートな印象で、モテそうだな、と会うなり分かった。
「代理ってなんだよ、代理って? 俺、全然聞いてねぇんだけど!?」
「大丈夫、大丈夫」
「いや、何が『大丈夫』なんだよ、
「いいじゃん。この際、眞彦くんが恭也、てことで」
「何がいいんだ!? ダメに決まってんだろ!?」
人混みの中、周囲の好奇の視線も構わず、わあわあと揉め出した二人の傍らで、眞彦はなんとも言えない肩身の狭い思いで縮こまっていた。
まさか……まさか、
最後の最後まで合コンに行くことを渋っていた眞彦だったが……直前になって、恭也から待ち合わせの場所と時間を送りつけられ、挙句、『まーくんが行かなかったら、人数合わなくて中止かな』とほぼ脅しの一言を添えられ、折れた。
そう言われてしまえば、行かざるを得ない。自分のせいで大学生の合コンが中止になる……なんて、およそ眞彦に耐えられる重圧ではなかった。
そうして、仕方なくやってきてみれば、これだ。
てっきり、他の参加者にも了承を得ているものと思っていたのに。
待ち合わせ場所に着くや、津ケ谷が眞彦に気づき、にこやかに出迎えてくれて……そこまでは良かった。しかし、少し遅れてやってきた大野は、眞彦を見てもキョトン顔。その様子にニヤニヤとする津ケ谷の笑みに、嫌な予感がした――。
おそらく……だが。わざとなのだろう、と思った。
うっかり、言い忘れた――とかではなく、恭也は明らかな他意をもって、眞彦が来ることを大野に隠していたに違いない。
その理由も、二人の言い合いを聞いていれば、なんとなく予想がつく。
「どうすんだよ〜? カノジョにも恭也が来ること言ってあんだぞ!? 向こうの女の子たちにもきっと伝わってる、て……」
「別に顔は知られてないんだろ?」
「カノジョには……前、チラッと写真見せた気がする」
「ああ、まあ、それなら――」
津ケ谷はへらりと笑って、自分のジャケットの胸ポケットから黒縁メガネを取ると、「ほら、これかけて。大丈夫、伊達だから」と眞彦にかけさせた。
え? え? と眞彦が戸惑っているうちに、津ケ谷はクシャクシャと眞彦の髪を慣れた手つきで崩し、
「うん」と眞彦を真正面から眺めて満足げに頷いた。「ぱっと見、恭也だね」
「ぱっと見な!? 雰囲気だけだろ!」
そして、再び、やんややんやと揉めだす二人。
眞彦はもはや苦笑を零すしかなく……やはり、来るんではなかった、と後悔した。そして、確信を得ていた。恭也が大野に自分が代理で来ることを言わなかった理由……。
「すみません」とたまらず言って、眞彦は俯いた。「僕じゃ……困りますよね。恭也くんの代理なんて務まるはずない。皆さんをがっかりさせちゃいますよね」
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