最終話 クレマチス

 「…ふぅ…はぁ…」

 |えれく、へいき?|

 「…ギリギリ平気」

 「わぁ!なんで死なないのかしらぁ!すごいすごいぃ!」

 |いつまで…こうかがでているの?もうそろそろめざめないと…|

 「デジール!」

 「…んぅ?」

 |…ようやく来た!|

 …何とか耐えてくれてくれていたみたいだ。…本当…交渉するために色々…してくれていたんだ。…お前も消えたのなら僕も消える。…未練がなくなる。

 「…言いたい事がたくさんある。僕はお前に人生を奪われた…だから僕はお前を許さない。…それは変わらない。僕がここに存在している限り、お前の恨みは変わりない」

 僕の未練はお前に対する恨み…僕が消えていないということはそれは変わっていない。僕の人生を奪った存在というのは変わっていない。

 …だけど言いたい事を言うことくらい…未練に反してもいいよな?

 「…お前いつまでそんな事をやるつもりだ?」

 「えぇ?いきなり何かしらぁ?…好奇心が完全に満たされるまでよぉ」

 「好奇心…心を知りたいという欲求か。…お前の過去はさっき知った。…心理学者としての名残なのだろう?その一面は」

 「…あははぁ…まさか誰かから知られるなんてねぇ」

 …何もかもさっきの魔法でお前のことを…いや違う。お前のことを知り尽くしているというわけじゃない。そもそも一人の人間のすべてを知ることなんて不可能に決まっている。お前の全てを知っているなんて言う人間や登場人物がいたらそれは嘘だ。どう考えても無理に決まっている。真の意味で知ることなど出来ない。…だからこそこいつの欲求は…好奇心は絶対に完全に満たされることなどない。だからこいつはそれを隠して悪魔契約を破棄していないんだ。

 「…ガッツリ言う。僕の本心で。…お前の好奇心は恐らくいつまで経っても満たされることはない」

 「…どういうことかしらぁ?それはそれでいいじゃなぁい」

 「人を趣味感覚で殺すことが…か?」

 「それは貴方達が殺したからぁ、私は関係ないわよぉ」

 …自分が殺したことに目をそらしている。人間としての一面がまだ残っていると理解した以上…ただお前は自己防衛本能で現実から目をそらしているだけなんだ。…一部の人間は都合の悪い事実に対して、いつも逃げて向き合わない。そういう傾向が存在する。…僕がそうだったから。政府員になれないという現実から目をそらして、向き合っていない…お前という方法に逃げた。…僕が人間の一面を知っている…体験しているのだから…これは断言することが出来る。

 「違う。それらは僕達が殺した。…お前も含めて」

 すべての責任をこいつになすりつけるわけじゃない。悪いのは僕達もだ。僕達が逃げて、向き合わなかったから…お前という方法に縋ってしまった。それに対して僕達にも非があり、そして責任…罪が存在する。…だけど、だからと言ってお前が悪くないという結論にはならない。お前が満たされぬ欲求のために僕達を利用したのも事実だ。それで何人の人が死に、何人の人が不幸になったと思っている。…責任を負うというのならお互い様だ。

 「…私もぉ?何を言っているのかしらぁ…?」

 「僕達がお前に縋ってしまったのは紛れもない事実。…認めるしかない。だけど…お前にだって責任、罪が存在する」

 「殺したのは貴方達でしょうぉ?」

 「その方法を提示したのはお前だ」

 「…どういうことかしらぁ?」

 「いわゆる、お前は「黒幕」ポジションだ。僕達はその黒幕の仲間と言う立場だ。黒幕だというのなら罪はある。そして…仲間である僕達にも罪が存在する。同じ罪が…」

 理解できないか?魔女という人外だから理解することが出来ないか?だって魔女は人間ではないのだから。命が尊いものなのか理解することが出来ないか?

 「…人間は面白いのよぉ」

 「面白いからって殺すな。殺そうとするな。…信じてもらえないかもしれない。殺してみないとわからないかもしれない。…だけど僕は言う。恨みを持っている僕が言うのはおかしいかもしれない。疑ってもいい。だけど聞いてほしい」

 ー…ごめんなー

 「…はぁ…?」

 お前の困惑した顔を初めて見た。予想外の行動で…理解することが出来ないか?心をかなり知っているお前でも…すべてを知っているわけじゃないから予想外の行動は存在する。…どう思うか?この言葉を…。疑うのは理解している。恨みが存在していて、お前に消えてほしいと願っている人物なのも自分自身…理解している。だけどこれは僕の心からの意志だ。

 「僕はさっきまで…今まで全てお前が悪いと思っていた。僕自身も悪いという事実を認めるのが怖くて逃げただけだ。目をそらしたんだ。…だからお前に全ての罪を…僕の罪をなすりつけていた。そのまま僕は僕の罪を自覚することなく…お前を消そうとしていたことも…謝る」

 罪を自覚しないということは1番の悪だ。もう悪者である僕えも罪を重ねるのは嫌だ。きっと罪を重ねたらそれ以上に許されない存在になるから。…今の状態でもきっと地獄に落ちるのは確定している。…これは天国に行くための償いじゃない。きちんと消滅したら地獄へ向かうさ。…これは…懺悔だ。僕はお前に対して懺悔しないといけない。

 「…馬鹿なぁ!…私は…お前を破滅させた魔女なのにぃ…」

 「よそうがいの、こうどうするのがにんげん」

 「っ!?コハク…?」

 「わたしも、えれくのこと…りかいできなかった。へんなひとだったから。…だけどそれが…にんげんのふつう。わたしたちにとって…にんげんというのは…へんないきもの」

 …変な生き物…かぁ。確かにどこまでも傲慢で強欲で…怠惰であり、時に矛盾…支離滅裂な行動する生き物…これは変な生き物と呼ばれても…違和感がないなぁ。

 「というか破滅させたって…結局自覚はあったのか」

 「…」

 「別にお前を責めるつもりなんてない。それだと僕は罪をまた自覚していない人間になる。それは罪を重ねる行為だから…そんな愚かなことはもうしない」

 「…そう…なの…ねぇ…」

 …こういう声をかけるのは…こういう言葉を彼女に言うのは間違っているのかもしれない。疑いが強くなるかもしれない。…だけど僕は…支離滅裂な人間なのだから。これが本当の心だって…馬鹿らしくなる…なぁ。

 「…一緒に地獄に落ちてやるよ」

 「え?」

 そりゃあ困惑するよな。恨みを持っているやつがどうして一緒に死後の世界にいってやるという言葉を放つのか…理解できないよな。…きっと僕がお前の立場でも理解することなんて出来ない。お前と同じ反応する。そして疑う…また偽りなのかってな。

 「誰からも偽りの心で接しられて…知ったように言うなとか言われそうだが…孤独だったんだろ?」

 「っ!?」

 「じゃあ、不満だと思うが僕が一緒に地獄に落ちてやるよ」

 どうせ僕も地獄に落ちるんだ。人を数人…殺してきた殺人犯なのだから。

 「…なんでそこまでするのぉ?」

 「…さぁな。お前に消えてほしいから…という意志で動いているのかもしれないが」

 「…。…ふふ…そうなのねぇ。…貴方みたいな人に人間の頃出会えていたらなぁ」

 「どういうことだ?」

 「…なんでもないわよぉ。…それじゃ…!」

 彼女の体が光りに包まれていく…まさか…。

 「…けいやくはき…いずれきえる」

 「…そう…か」

 「…地獄の門で待っているわよぉ。…ねぇ、貴方ぁ?」

 綺麗な笑顔を見せて彼女は消滅していった。…きっとこれで未練なく…次の人生に歩んでいけるのだろう。…罰が必要だけど…それ僕と一緒に受けるのだから。相手は不満だと思うけど。

 「…なるほど、君の未練は…それだったんだね」

 「どういうことだ?」

 あ、体が…消えていく…。最後に…僕の未練は…一体なんだ?

 「君の未練は確かに「彼女を消滅させたい」という未練だった。…でもそれは…決して恨みから来るものではなかった」

 「…え」

 「それは謝罪の念から来ていたものだった。君は確かに少しは殺意を覚えていたのかもしれない。だけど君がここにいる未練というのは罪悪感から来ているものだったんだ」

 …あぁ、だからか。だから僕はあの時…「八つ当たり」のためにここにいると表現したのか。罪悪感が存在するから復讐なんて言葉を心のなかで…言わなかったんだ。なんだ、僕も最初から…気づいていたんだ。…本当…人間って…支離滅裂だなぁ…。

 消える瞬間、僕はエレクたちの笑顔を見て消えていった。…死後の世界だから全てが終わる…なんてことはない。…約束があるんだ。…会いに行かないと。

・・・・・

 「…」

 彼は本当に来るのかしらぁ…。偽りに騙されて…私は一人…地獄へ行くのかしらぁ。…偽りに騙されるのは…もう…。

 「デジール」

 …後ろから彼の声がしたぁ。…ちゃんと来てくれたぁ。あれは偽りじゃない…本当の心で言ってくれていたぁ。…あぁ…嬉しい…嬉しいよぉ…。

 「ちょっと遅くなってすまないな。不満はあると思うが僕で勘弁してくれよ?」

 「…何も不満はないわよぉ」

 「え?本当?」

 「…あぁ…なんで…死後の世界で芽生えてしまうのかしらぁ。…来世で…貴方に会えるかどうかなんてぇ…無理なのにぃ…」

 「…ん?話がよく見えないのだが…」

 「…ふふ…私ねぇ」

 ー貴方のことが好きなのよぉー

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