第9話 ベゴニア
「貴方〜お昼ごはん出来たわよぉ〜」
…あいつが…強欲の魔女?美人さんで…作った料理がとても美味しそう。…理想のお嫁さんみたいな感じ。…あの二人がカップルかどうかはまだ分からないけど…。
「あぁ、デジール。ありがとう。やっぱりデジールが作った料理は最高だ」
…デジール…あの魔女の名前。ということはやっぱり…あの女性は強欲の魔女になる前の…人間…なのか。…両者の薬指に指輪がはめていないということはやっぱり結婚していないのか?…その時はまだ理想のお嫁さんのような性格…なのか?まだ一言しか聞いていないけど…。…結婚していない…けどラブラブカップルのような感じで羨ましいなぁ。僕の両親も昔はあんな感じだったのだろうか。
「そうぉ?私、とっても練習したのよぉ。満足してもらうためにぃ」
「最近は料理とか洗濯とか…家事を頑張って勉強しているんだよな?近所さんから聞いた。偉いなぁ、デジールは」
「やったぁ!」
…元気で健気…なんであんなやつになったんだ?内面を知るために人間の価値観を捨てたやつになったんだ…どうして。
「これから頑張るわぁ!貴方に満足してもらうためにぃ!」
あいつの満面の笑みは嬉しいという感情が伝わってくる。あれは狂気が滲んだ笑顔じゃない…純粋で綺麗な笑顔だ。…この頃はまるで頑張っていて誰かを満足させるためなら努力することが出来る人間…まるで…僕の理想の人だった。輝いて見える…。…落ち着け、あいつは…僕の人生を奪った存在なんだ。見入るな…。
「じゃあ、次はぁ…洗濯の方法を少し改良しようかしらぁ!」
そう言ってるんるんと…恐らく洗濯機の方にスキップしながら行った。…可愛い仕草だな。可愛い…だから見入るな…。…でも美人さんではあるし…本当…こんな健気で可愛い人間がどうしてあんな魔女に…。…魔女になるには悪魔と契約しないといけないんだろうなぁ…方法は教えてくれないけど…悪魔にすがるしかない、契約を破棄しないといけないという発言から…悪魔契約を結んだという事だよな…?どうして…悪魔の契約にすがるようになったんだ?見た感じ…とても幸せそうな家庭環境なのに。男の人もちゃんとデジールを愛して…。
|人間は表面だけの態度だけでは心を…内面を知ることなど出来ない|
…え?
今…何か…?…あいつの…強欲の魔女の声…?表面だけでは内面がわからない…?それって一体…どういうことなんだ?幸せそうなのに…。
|表面だけでは人間を知ることなど出来ない|
…。
「デジール、仕事の方はどうなんだ?」
「心理学者だけどぉ?普通に何とかなっているわよぉ」
…心理学者だったのか。人間の時の職業か…。…確かに魔女のときも人の内面…心を知りたそうにしていたから人間の時の名残なのか?魔女でも人間の頃の名残はきちんと残されているものなんだな…。…心理学者…心を追求する学者だということ?…女性なのに…学者さんってすごいなぁ…。
「学者、頑張れよ」
「頑張って儲かってぇ…貴方に安定した生活を送らせてあげるぅ」
…彼女が男性のことを好きなのは偽りのない意志であることは分かった…。男性も…彼女が好きなのは間違いないと思う。…幸せなのに…幸せなのに…なんで悪魔に…。…強欲の悪魔は…確か…マモンだったっけ?アカデミーの授業で聞いたことがある…。…意外とアカデミーのどうでもいい授業…覚えていたんだな。
|違う、研究だけでは心を…人間の奥深い心を知る事は出来ない|
…え?…研究だけでは…だからあんな事を?好奇心を…満たすためだけに悪魔の契約に手を出したのか?…それだと救う手段なんてあるわけがない。だって何も起きていない…ただその頃の彼女で悪魔の契約に手を出していたのか…?
|あの頃に理解することが出来た|
…あの頃?あの頃って言ったのか…?でもそれっていつのこと…?
ー痛い!ー
っ!?
彼女が…デジールが暗い部屋で蹴られて殴られていた。いきなり空間の雰囲気が変わった。…どうして…さっきまで明るかったのに…。…二人の薬指に…指輪が…?結婚した?結婚したのに…結婚したのならもっと愛し合えば…。
|あぁ、これで理解できた|
…これで?
|表面だけでは人間の心を知ることなど出来ない。もっと…本質を知らなければ…心を知ることなど…出来ない|
…男性の好きという表面上の気持ちが嘘だと分かったから?嘘だって…分かったから…心理学者であるお前は…本質を知りたいと思ってしまった。本当の気持ち…本当の心を知ろうとしていた。
「あっはははははは!」
男性の笑い声が聞こえる。
「あいつがいるから…俺が無能だと思われるんだ…あいつがいるから…!だけどあいつは上司だ!殴ろうにも殴れねぇ…!」
そう言いながら彼女を殴る。…あぁ…本当に偽りだったのだ。あの気持ちは偽りだったのだ。物理的な痛みで、裏切られた精神的な痛みで…彼女はおかしくなった。心理学者としての禁忌の好奇心が芽生え、研究だけでは心など本当に知ることができない。だからこそ…狂気の好奇心を満たすために悪魔の契約を…この時に…?
|あぁ、捨てられた。彼は私のことなど好きでもなければ人間としても見てくれなかった。あぁ、心というのは表面だけでは分からないのだ。捨てられる痛みというのはこういうものなんだ|
…。
|みんなにも捨てられて…そしてようやく…人間の心を本当に知りたいという欲求が加速した…|
みんなにも…?
暗転した空間になって、外になった。村の人が真ん中の炎と十字架を囲んでいる…。…十字架の近くに…だれか…い…る?
「…ぁ…あ…」
デジール…!?
「あいつが魔女だったんだ!」
「魔女は即刻火あぶりの刑に処すべき!」
「魔力を持って、絶世の美女だ!魔女であるのは間違いない!」
…魔女…?でも前みたいな絶大な魔力を感じない…まだ…悪魔と契約する前ということか?
「私…魔女じゃ…ないぃ…」
本当だ…あいつは今…魔女じゃない…!魔力量も違うし…死にかけている…魔女は不老不死の存在だから…死にかけるのはおかしい…。…魔女じゃないのに火炙りにしているのか…!?なんで…!
|捨てられた。きっとみんな心の変化というものをしたのだ。これだと心を研究で追求などしたところで心など知ることが出来ない|
…。
「あぁ…みんな…心…違う…あはは…」
「…助けてほしいか?」
…誰だ…?もしかして…マモン…?
「助けて…何になるのぉ…?ねぇ…」
「お前の真に芽生えた好奇心を満たせる。そのような力を授ける」
…悪魔が囁いた。それであいつが…おかしくなった彼女がそんな力を授けるなんて言ったら…すがる。…あぁ…才能があるだけで…魔法の才能があって絶世の美女ってだけで魔女と勘違いされた。…僕も…魔人だと勘違いされていたのだろうか?才能があれば…みんなよく見てくれるわけじゃない。みんな認めてくれるわけではない。…才能を求めていた僕は間違い…だったのか?
「…お願いぃ…私ぃ…知りたいのぉ…」
そういった瞬間、あいつの体に魔力が満たされていく。そして瞬時に…彼女は村の人達を殺害した。そして殺害された村人たちの体は…本になった。これが…初めてのときなのだ。それで好奇心が満たされるのを実感して…底しれぬ好奇心を悠久…永遠終わらない時間を使って満たして、満たして…永遠に続いていくんだ。
あいつがこんなことで人生を狂わされたのだ。…魔力を持って、絶世の美女だったから…そして偽りの心を知っていただけだという事を知って…心理学者であった彼女は心を追求するという職業を全うするため…悪魔の契約という道を選んだ。…分かった。あいつが被害者であることも…辛い過去を持ち合わせていることも。僕が知らなかった事実だ。僕はお前の本当の心を知ることが出来た。まるでお前のように。
…だけど一つだけ言えることがある。どんなにつらい過去を持っていたとしても人を…ただ自分のために…自分の生命活動でもなんでもない欲求のために殺すな。生命活動だったら少しは理解できる。だけど趣味感覚で人の命を殺そうとするな。それは…人間の価値観では極悪人なんだ。
魔女だから…今は魔女だから人間の価値観なんて理解することが出来ないかもしれない。だけどまだ心理学者の職業を全うする覚悟がまだ存在しているということから…人間の頃の一面はまだ残っているということだろ?
…だから少しだけでも人間の価値観というものは残っているだろ。…だから僕は…ある意味…。
お前と同じことをする。
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