第6話 クロユリ

 別の場所にいて、僕は殺人鬼から少しだけ離れる。消す…僕は幽霊だから…もう死んでいるけど…幽霊にだって肉体は存在しないけど痛みなどは存在する。…痛い思いをさせるつもりなら離れて逃げないといけない。

 「…いみしん…ちがう、あっているけど…いいかたまちがえたせいで、おびえてる」

 「…だってあれが僕達の目的を一番手短に教えているから…でもいくらなんでも手短過ぎたかな」

 「…お前たちは…どういう…」

 「あぁ、彼女のこと?彼女は…」

 「じこしょうかいなら、じぶんでもできる」

 …まるで二重人格みたいに性格や雰囲気が変わる。もしかして二重人格…なのかな。…女の子の人格と青年…エレクの人格が存在しているのかな。

 「わたしのなまえ…コハク。もともと、たいだのまじょだった」

 「た…怠惰の魔女!?」

 やっぱりこいつも元々は魔女だったのか…!しかも七つの大罪魔女…!?聞いたことがある…魔女の中でも別格な強さ…そして…危険度を誇るという…決して近づいてはいけない魔女のこと…。…さっき聞こえたが…ライは…いやデジールは強欲の魔女だった。…僕は知らず知らずに…魔女に近づいていたのか…。…そんなことより…なんで…怠惰の魔女も立派な七つの大罪魔女のはずだ。危険度は一番七つの大罪魔女の中で低いが…それでも危険であることには変わりない!それなのに…なんでここに…しかもエレクという男はそんな魔女を…。

 いや、コハクの別人格がエレクということか?でも体は明らかに男の子のものだ。声と喋り方的にコハクは幼い女の子のはず…体と声が…合っていない。じゃあ…こいつらは一体…?

 「いまはせーれー。…えれくに…やどってるせーれー」

 「…精霊?…あ」

 そういえば気が動転していて忘れていたけど精霊って言っていたっけ…あの強欲の魔女が…。…精霊になっているなんて…つまり魔女から精霊になったというのは間違いなさそうだ。

 「わたしたち、ごーよくのまじょと…あなたをけしにきた。…ほかのいいかたをすると…」

 消しに来た…それは…僕を殺す…いや僕はもう死んでいる…それなら…え、もしかしてまさか…?

 「…君を成仏させにきた。君には未練という現世に留まる呪いがあるから」

 「…最初からそうやって言えよ」

 「それは無理かな。君は自分が死んでいることを忘れていそうだったし、あのままだと自分が死んでいるということを受け入れられずに発狂していただろうから」

 …あのときの僕は記憶を失っていた。何も覚えていない状態でいきなり僕を成仏させにきたとか言われても…確かに受け入れられないなぁ…。…逆に今は死んでいることを受け入れて全てを思い出したから…普通に受け入れられるというわけか。

 「ということはお前らは味方ってことでいいのか?」

 「…くち、わるい」

 「まぁまぁ、コハク」

 「悪いな。…魔女への怒りを抑えられていないから口が悪くなって」

 「…」

 魔女は僕の人生を破滅させ、僕の故郷をも滅ぼした存在。みんなをバラバラにさせてこの場所を人間が寄り付かない忌み嫌われた土地にした。…僕の家族ももしかしたら死んでいるかもしれないと思うと…それ以上に怒りが湧く…。

 「…味方ではあるけど、君の想像するような味方ではないというのは理解してほしい」

 「…どういうことだよ」

 「まじょをけす…それはふかのう。ぶつりでは」

 「…あんまりよくわからない」

 「魔女を消すためには…魔女が自ら悪魔との契約を破棄させなくてはいけない。もちろん、魔女本人の意志で」

 はぁ!?それって…消すのは不可能じゃないか…!だって魔女自ら…契約を破棄することを望まないといけないんだろう!?あいつは恐らく悪魔と契約した際にもらった力を気に入っている!その力で恐らく様々な人を…!…その力を気に入って…それが自分の好奇心を満たしてくれるって認識しているんだから…こんなの消すの不可能じゃないか…。他の魔女も…あれそれなら…。

 「ふかのう…かもしれない。でもぜんれーあるから…0ではない」

 「前例って…もしかしてお前か?」

 「おまえじゃない。コハク」

 「…コハクのことか?」

 「そうだね。コハクは悪魔との契約を破棄した初めての七つの大罪魔女。…だから強欲の魔女も例外ではないと思う。…だから教えてくれないかな?強欲の魔女がどういう存在なのか」

 …こいつらと一緒にいて魔女が消えるというのなら…あいつが悪魔との契約を破棄してくれるなら…僕は…償いとしても…そして八つ当たりとしても…これに協力しないといけない。…僕が殺してしまった人たちが報われるためにも…そしてあいつを恨んでいる人が…地獄の底でもう恨まずに済むように…。

 「…分かった。教える。…僕が体験した全ての出来事を」

 僕の努力が水の泡となった、出来事のことを。

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