第4話 エリカ
森から出られないことが分かって、あの殺人鬼と永遠に逃げないといけないのかと思って…絶望する。僕に安息の時間なんてないって分かって…こんな生活をすぐにでも終わらせたい。…だけど僕は殺人鬼に勝つ事ができない。魔力量があちらのほうが断然多い…。戦っても返り討ちにあう。…魔法を少し使うだけで眠くなるぐらい魔力量が少ない僕で勝てるわけがない。
少し前、南西方角…出口を目指しているときに少し考えていた。冷静になって考えてみると眠くなったのは僕の魔力が空っぽになったからであり、あのまま起きることも出来ていたが尋常じゃない体調不良に襲われる。最悪、意識を失う程度の。…あれは眠たかったからではない。魔力切れを起こして、回復に専念するために意識を失っていた。魔法使い特有の自己防衛本能。…本能なんだから抗うことなんて出来ない。
…空間掌握魔法は少し中級者向けの魔法。その魔法を行使しただけで魔力切れを起こすくらいの魔力量である僕が殺人鬼に勝てるはずがない。…相手は最低でも最上級魔法を使えるくらい魔力量が多い。…これじゃあ…もう…どうしようもない。
…自決…いや…いつまでも逃亡生活が続くというのなら…死にたい…。…けど一人で死んでいくのは寂しい。…誰かと一緒にいたい。ただの僕と一緒にいてくれる…誰かがほしい。…殺人鬼から逃れることが出来て、ただ幸せに生活出来る。
…何も縛られずに…。
「…とりあえず、出られる方法か…自殺出来るものを探そうかな」
出来ればこの森から出られればいいんだけど。…最終手段として僕は僕の首を切ろう。…そして死んで…新しい人生の幸せを願えばいいのかな。
神様。
殺人鬼が離れているという読みでさっきのあの場所まで戻ってみた。というより僕を追っているのならあの場所を離れてどこかを探しているという予想を立ててみた。だけど探知魔法なんて使われたら一瞬でバレそうなんだけど。…でも何かあるかもしれないし…行く事に損はないと思う。確証はないんだけどね。
「…だいぶ古びているなぁ…いつ頃に建てられたものなんだろう」
草木が建物を覆い、人がいる気配などまったくない。だけど人工物であることは確定でかつてここに人がいた…それは建造物を見た瞬間から分かっていた事だけど。
…これも誰かの家なのかなと思ったけど、そうでもないみたい。白い粉のようなものが散乱している場所があった。そして白い…棒のようなもの。…多分これはチョーク…だとしたらここは元々学校…というのはまだ早いか。だけど何かしらの教養関連の施設だったのかもしれない。
…こんな森林で一人寂しくここにいるなんて何だか可愛そう。誰にも知られることなくひっそりと崩壊していくなんて悲しいし…何より寂しい。誰も寄り添ってくれない未来なんて予知してしまった瞬間、絶望するしかない。
未来というのは分からないから怖い。だけどいざ、知ってしまうと何の面白みもないし、時には知らない怖さよりも怖く感じることもある。自分が数分後に死ぬという未来が存在したとしよう。…それは知らないほうが怖いと思う?そんなわけない。知っている方が怖いに決まっている。知らなければ自分は最後まで幸せに暮らせる。生きている時間が無駄ではないと感じることが出来る。だけど自分が数分後に死ぬと理解できていたら?…虚無になり、残された時間すらも無駄と感じるのかもしれない。それか、その未来を回避するために様々な行動を起こすかもしれない。…それか…残された時間をただ幸せに生きるか。この3パターンに分かれる。…自分はどんな行動をするのだろう。実際にこんなことがあったのなら。
「…教科書に…折れた鉛筆…やっぱりここは教養施設であることは間違いないみたい。教科書があるってことは学校かな。教科書の中身は水に長い時間浸かっていたのか文字がふにゃふにゃで読めないけど」
…だけどなんだろう。この中身…少し見覚えのある色合いだった。絵も、文字も読めないくらいにふにゃふにゃなのに…どうして見覚えがあるんだろう。…頭が…何か訴えている…?
「政治員になりたい?でも君はそんな才能なんてないよ。努力で何となる世界ではないんだ。現実はね」
…うっ…。なんだろう…とても苛つく。さっきの言葉が僕を苛つかせている。あぁ、頭が痛い…。ストレスによる頭痛…なのかな。ちょっと…ストレス発散しないと…。…あぁ…そうか。
…僕は今一人だった。だったらストレスを打ち明けられる人間なんて、ストレスを解消してくれる人間なんているはずがない。
僕は今…孤独なんだから。
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