第3話 ウシノシタグサ

 「…僕を…消しに…来た…!?」

 衝撃的な言葉に僕は驚きを隠せない。そしてその言葉を聞いて僕はその人から後退りで逃げようとした。明らかに「殺しに来ている」…消しに来たという言葉はそれを物語っている。だけど少しだけ不思議で仕方のない事実が2つ…あった。

 でも考えるよりもこの人から逃げることが一番優先度が僕の中では高かった。恐怖が襲ってきて優しそうに見えた彼の顔はとても怖そうに見えた。

 「うん。僕は君を消しに来た。…それだけだよ」

 「ひっ…!」

 淡々と彼はその言葉を紡いだ。…逃げないと、殺すつもりだ。そう思って僕は溢れ出てくる恐怖を抑えて逃げ出した。彼が追ってこられないように遠く…遠くに行こうとした。魔法で探知されるかもしれないけど…それでも殺されたくはなかった。…追ってくる気配というより足音は聞こえなかった。彼はあそこに立っているのだろうか。なぜ追ってこないのかはわからない。でもそんな事を考えている暇なんて僕にはない。命の危険にさらされた時の人間は冷静な判断なんて出来ない。常人であるならば。死にたいのなら反応は違うかもしれないけど。僕はなぜか生きたいと無意識で思っているらしい。だから逃げているんだろう。


 「…逃げちゃった」

 「いいかた、わるい」

 「だけどあれが事実だろう?僕達がここに来た理由なんだから」

 「…なにもいえない」

 「でしょ?というかあの…えっと…まぁ、これでいいや。彼は君が言っていた彼で合っているの?」

 「あってる。みため、おなじだった」

 「判断基準が見た目…まぁ、ここにいるって時点で「人間ではない」というのは確定だろうけどね。…僕の仕事…というより使命という名の自己満足を始めようか」

 「…うん。がんばって」

 「サポートよろしくね。僕はただの凡人だから」

 「わかった。わたしもがんばる」

 

 …後ろを見ると彼はいなかった。息を切らして少し草むらに座り込む。さっきまでキレイな色彩あふれる場所に見えた廃墟はいつの間にか元の怖く不気味な廃墟に見えた。…僕のことを殺そうとしてくる人物がいると分かって不気味さが増したせいなのだろう。ここは木々で太陽が少しだけ遮られていた。それも要因だろう。

 「…この森から出よう。ここにいると殺されるかもしれない」

 僕は森の出口を目指した。殺人鬼から逃れるためにはこの広大な森から出る必要がある。それが一番ラクな方法だろうけど…出口がどこにあるかわからない。…地理を掌握する魔法…使えるかな。

 「…ん…使えた」

 でもだいぶ体が疲労しているというか…力が抜けたような気がする。座り込んでいたけど倒れ込んで休まないと疲労しすぎて死ぬ可能性だってある。…もしかしたら空腹によるものかもしれないけど僕自身…今お腹は空いていない。なんだか呼吸困難を起こしている…というかまぶたが重くなっているような…眠くなっている…?疲れて眠くなっているのかな…。でもここで眠くなったら…。


 僕が悪かったんだ。

 僕が利用されてしまったから。

 僕もきっと加害者の一人であり、被害者の一人でもあるんだ。

 僕達が欲望を持っているから…

 人間が欲望を持って、それを叶えたいといると思っているから。

 願いを叶えてあげる…その言葉を聞いて人間は醜くそれにすがる。

 疑っても…きっとどこかでその方法を惹かれている。

 そしてその方法を提示した当事者を恨む。

 叶わなかったり、叶ったけど報われない運命、未来が待っていたら。

 あぁ、だから僕は…ここにいるんだ。

 ただの「*****」のためにここにいるんだ。

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …死ね。


 「はっ!?」

 夢?殺人鬼がいるのにのんきに寝ている自分が嫌い。…というか夢の最後…なんだか不穏な言葉が聞こえたような気がする。…思い出せない。夢の内容が思い出せない。なんでだろう?いや、そこまで難しい理由ではない。夢というのは毎日見てはいるが朝起きたときには完全に忘れているということらしい。時々、夢の内容を覚えていることもあるけど、曖昧で物凄く正確に覚えていることは稀らしい。…これも夢の現象と似たような事例なだけだ。

 「とりあえず森から出ないと…地理は把握している。えっと…確か北東と南西に知らないけどとある町へ道が…あった。…ここは南西だから南西にある道に行けばなんとかなるかもしれない」

 僕はかなり疲労している体を無理して動かして南西にある町へ続く道まで走った。疲れているけど命の危機が迫ってそれどころではないのかもしれない。

 「…ここだ…」

 息切れを起こして体を動かすのもしんどい。…喉は別に大丈夫。水分もとらなくてもいいって…どういう体の構造をしているのかな?…そんなことはどうでもいい。それは外に出てじっくり考えればいい。僕は森を出ようとした。

 …だけど出られなかった。

 「…なんで?」

 結界でも貼られているかのようにはじかれてしまった。なんでここから出られないの?…彼のせい?彼のせいでここから出られないの?この森から…誰にも会えずに…死んでいくの?僕は…。僕は…誰かに会いたいよ。誰かに…。

 「…寂しい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る