第12話 催し事


『虚霊祭』が近付くと、国全体が浮き足立つものだから、軍部の者達の間には緊張が走る。

 それは、彼らが催事に乗じた犯罪等から国民を守護する為であり、幼児から老人まで殆どの制限無く様々な場所へ移動する為である。

 特に、学業機関等が同時に一般開放等を行うこの時期は人さらいや盗難の犯罪が起こりやすい。


「……」


 城内にある仕事部屋から魔術師の男は外を見た。控えめの飾り付けをされている事以外、普段と変わらない。

 宮廷の者共は、軍部の者と違い民を直接守護する事はないのであまり忙しくなかった。どちらかと言えば、法務や刑事に携わる者がやや慌ただしくなる程度だ。

 それは、王族や高位貴族には無縁の催事の為だからだ。しかし、それ以外の時期には多少の国絡みの催事や儀式がある為に凄く暇という訳ではない。

 以前、どこかの貴族が『虚霊祭も国の行事として派手にしよう』と提案していたが、却下された。


「(国事化した面倒をこうむるのは軍人と城勤此方側なのだから勘弁して頂きたいものだ)」


 魔術師の男は嘆息する。

 しかし、その意見が通りかけていたのも事実である。


 そして、魔術師の男が視察の為に来訪している魔術アカデミーも例外無く、学芸祭を催すようだ。

 それには一般公開に乗じて、一般参加者に紛れて対象の監視をしようと考えていた。なので、えてその期間が外れるように初めから来訪の日付を調整し、『この日に魔術師の男は居ない』と印象付けようとしていた。


「(……学生側から誘われるとは)」


 婚約者の薬術の魔女から渡された、学芸祭の冊子に視線を落とす。

 彼女から直接は言われていないものの、要約すれば『学芸祭に来ませんか』という誘いがあった事に、少なからず動揺した。

 それは仕事の関係上、あまり関わりを持たないよう、関わり過ぎないようにそれとなく距離を保っていた為だ。

 おまけに手紙も贈り物もしていないし受け取ってもいないものだから、誘うわけがないのだと思い込んでいた。


「……(恐らく、彼女も友人に押されたか、義務感でしょうね)」


 しかし。その事に対し、少しこころよく感じたのは紛れもない事実だった。


×


そして。


「……本当に、難解な者ですね。自称『勇者』の男は」


 呟いて、卓に置いた『果たし状』と筆で書かれた手紙を手に取る。

 薬術の魔女に誘われた直後、決闘の申し込みをされた。

 あの者は休日に鉢合わせて以来、体力づくりや勉学、魔術操作等の修練を始めたのは魔術師の男は知っている。

 そして、授業の最中に魔術師の男以外の視察の魔術師に勝負を挑み、それ等を打ち負かしている事も。


「(見ている限り、魔術師共彼奴等は『軽く手合わせをするだけだ』と甘く見、打ち合いを始めた頃にやや梃子摺てこずり始め、其れに焦燥している間に負かされておりましたか)」


 最近では初手から本気の魔術師とも見事に渡り合える様子で、むしろ余裕で勝てる程に見えた。


「(……まさか、わたくしに挑む為に行っていた訳ではありますまいな)」


 貪欲に強さを求める事は阿漕あこぎな事ではない。むしろ、『魔術師を目指すならば如何に素晴らしい才能だろうか』と思っていた。

 もし、自身を実力を上げていたのならば。


「(本当に、愚かしい)」


 いや、考え過ぎか。と、思い直そうとしたが、『決闘』だと告げた事、自身が敗北した際の条件が『薬術の魔女に二度と近付かない事』であるので、あながち間違いではないのかもしれない。


「(『薬術の魔女婚約者に近付くな』……ですか)」


 面倒だと、魔術師の男は手紙から視線を外した。


「(決闘など、挑まれた直後は莫迦莫迦しいと、恥など如何どうでも良く、拾わず鼻で笑おうかと考えておりましたが)」


何かが、忌諱ききに触れた。

 だから、その決闘を受ける為に手袋を拾ったのだ。


 しかし、


「(決闘の作法を知っていたのはまあ宜しいが、恐らく学校で習うような、ほんの少しの知識しか知らぬのでしょうね)」


をしても、反応が無かった。それを魔術師の男は少しつまらなく感じた。

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