第10話 視察の仕事。
魔術師の服が分厚いのも、常に手袋の装着を義務付けられているのも、全ては魔力を周囲に
非常に魔力の濃い者等は、更に体液にまで魔力が
また、高等な魔術師は魔力を介し持ち主に干渉出来るので、魔術師の厚い衣装はそれを防ぐ役割も果たす。
現在、視察の為に来訪している魔術アカデミーの制服も、それなりに魔力を吸着し、或いは防除し、外界へ魔力を溢れさせず、外部からも干渉させない為の構造をしている。
そして、
その為、魔力を持つ者の通う魔術アカデミーの制服ではどのコースでも手袋は付属しており、アカデミー生は必ずと言って良い程に、手袋を着用する。
基本的に初等部の辺りから手袋を着用させる学校が多いからか、着用に難色を示す者は
むしろ、この世の中では着用しない事に難色を示す者の方が圧倒的に多い。
だが、焦茶色の頭髪の転入生男児と胡桃色の頭髪の転入生女児は、手袋を長期間着用する習慣が無かったのか、手袋を着用していない時間がある。
外しているのを他者から指摘され、仕方なく付け直す姿を魔術師の男は幾度か目撃していた。
曰く、『細かい作業が出来ない』、『不自由な感じがする』とのこと。
転入生が皆そうかといえばそうでないらしく、
「(……この違いとは)」
頭が痛くなった。目元に手を
特に、焦茶の頭髪の学生は『転生者』の筈だが、この世界に馴染めていないように見えた。
観察の結果から、恐らく前世の記憶に囚われているのだと魔術師の男は判断した。
『転移者』の胡桃色の頭髪の学生の場合は、転移前の世界と文化の違いだろうと判断する。追々、この世界に馴染めば良いだけの話だ。
『転生者』は何か思い上がり、いや、勘違いのようなものをしているらしく、身分の低い者や自身の友人を優遇し身分の高い者を敵視しがちな傾向にある。
「(……彼の事は、もう少し強く見ておくべきでしたか)」
「……(いや、
現状では扱いは比較的
「(……
基本的には誰も信じやしないだろうし、あの実直な性格ならば自ら最悪に傾く事もないだろう。
実の所、魔力が体液に滲み出る程に保有している者は皆、心眼や魔眼を持っている。
あの時、自称勇者に『心眼である事を証明して見せろ』とは言ったものの、実のところ会話を途切れさせる事と知識の確認の為に問いかけただけである。証明したところで、あの程度の心眼は、魔術師の男にとって何の脅威もない。
「其れに、あの
彼には精霊が見えていない。
「(……本来ならば、あまり有り得ない事なのですが)」
心眼、魔眼、邪眼を持つ者は間違いなく精霊の
心眼は特殊な目の中で最も力の弱い目で、心の有り様が見えるものに影響する。だから、『心眼』と呼ぶ。見えるものは魔力と精霊が有るか、そしてその種類だけだ。
魔眼は最も振れ幅が大きく、心眼に近いものから邪眼に近いものまで。だが心に左右されず魔力と精霊を観測することが出来る。場合によっては魔力の流れと使用予定の術の種類も見える。
邪眼は最も数が少なく、その目を持つ者は短命であることが多いと聞く。例が少な過ぎて詳細は不明だが、魔力、魔術、魔法等を打ち消し、遥か遠くのものや未来までもが視える、『邪道の目』。
「(まあ。邪眼のような目を持つ者が現れたのならば、直ぐに
その目の持ち主の人権等、無いに等しい扱いを受けるのかもしれない。
×
「……(
一番の問題は実の処、
魔術師になる程に魔力の扱いに長けた者、或いは魔力の多い者は、体内の魔力量が多い。城勤や軍部の、魔術が使える者達も例外では無い。
薬術の魔女も、体液に魔力が含まれる程に多量の魔力を保持しているらしい事は分かった。
つまり、婚約者である薬術の魔女も、無自覚ながら魔眼を持っているようだった。
そして、珍しくも放出器官を全身に所持しているらしい事も。
だから、
「(彼女
通知書を畳み、証拠隠滅の為に燃やす。
何故、今頃になってその命令が下ったのだろうか。それとも、
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