第2話 転入生フィーバー。
少し時間を戻して。
魔術アカデミーの第四学年が開始する秋の初めに、転入生がやってきた。——三人ほど。多くない?
「___だ。よろしく」
と、軽く頭を下げた転入生その1は焦茶色の髪をツンツンと尖らせた、
「___です。よろしくお願いしまぁす」
可愛らしい雰囲気の転入生その2は、背中にかかるほどの内巻きになった
「___です。よろしくお願いします」
ぺこりと丁寧に美しい礼を取る転入生その3は、癖の少ない、
全員15歳で、共に転入試験を合格したらしく第四学年からこのアカデミーに通うことになったらしい。
×
——ドォン!
と、大きな音が響く。そして、周囲から歓声……のような騒ぐ声がする。
「——ふん。まあ、こんなもんだろ」
なんだか満足気な様子で、転校生その1(以下その1)がグランドの
転入生達が来たその日は学年の初日だった
実は、魔術アカデミーは1〜3年と、4〜6年で仕様が少し変わる。具体的には、前半の三年間は授業が学年制で、後半の三年間は学年制の要素を残しながらの単位制になる。
第四学年からの授業は、簡単に言えば『必修の授業さえ取って出席すれば学年が上がるが、必修以外の授業は自分で取りに行かねばならない』という仕様だ。
後半になると、大抵は家の事で忙しくなるので最低限しか取ってないアカデミー生の方が多い。
今、薬術の魔女が受けている授業は『人間薬学応用Ⅲ』。薬学と人間との関わりや、どうやって薬学が発展したのかを学ぶ授業である。
外で騒いでいるのは魔術師コースの学生達だ。加減が分かっていないのか、先程から大きな音がグランドから響く。初めは驚いていた学生(と教師)達だったが、数日経った今では数名が
「はぁい、先生。これってどういう事ですか?」
周囲の音に構わず、胡桃色の髪の女生徒が手を挙げる。
「これはですねー……」
それに対し、背の高い銀縁眼鏡の教師が丁寧に回答する。……因みに、転入生その2(以下その2)と転入生その3(以下その3)は薬学コースに来た。
魔術師コースは魔術師(か、魔術騎士や軍人)になる為のコースだが、薬学コースは薬師の他に医者、聖職者、軍医など、色々な職になれる。学ぶ内容は難しいものが多いが、様々な資格が取れるので意外と人気なコースである。
ちなみに『在籍した』という実績だけが欲しい場合も薬学コースがお勧めである。草を
ついでに言うともう一つ、貴族達の為の、『貴族コース』なんてものもある。作法や社交等を学ぶ上流階級のお遊びのコースだ(と、薬術の魔女は思っている)。しかし
そして。その3は何故か、薬術の魔女の近くで授業を受けている。
×
「久しぶりだね! 会いたかった」
「うーん、人違いじゃない?」
転入生達の紹介が終わった直後に、その3は薬術の魔女の元に駆け寄り微笑みかけた。それを、薬術の魔女は笑って受け流す。
「知り合いなの?」
「知らないよ?」
「どういう事? 通報する?」
薬術の魔女に問いかける友人Aと怪訝な顔の友人B。薬術の魔女の素っ気ない返事にその3は驚いたように目を
「嘘、昔……初等部よりも前に、会った事あるんだよ?」
などと言われても知らないものは知らない。
「そっかぁ。なら、仕方がないね」
全く心当たりの無さそうな薬術の魔女の様子に、その3は寂しそうに微笑んだ。
そして。
「思い出してもらえないなら、今からお友達になれば良いんだよ!」
との結論に至り、授業では近くの席に座ったり、時折話しかけてくるようになったりしたのだった。
×
薬術の魔女にとってこのアカデミーは、自分の興味を満たす為の場所であった。第四学年に上がるまでは実際にそうであったし、これからもそうであろうと思っていた。
だが。
「……(なーんか、変なのがいっぱいやってきたなぁ)」
毎度、魔力の調整も出来ず(多分)に魔術をぶち
実際の所、その2の質問達は割と良い質問で復習をするには結構役に立っているのであまり気にはしていない。
その3の急な距離詰めは、初めは驚きはしたものの、実害はなく、本当に仲良くしたいだけ(あるいは見知らぬ場所で唯一の知り合いを見つけたかの様な頼り方)の様子なので、そこまで気にはしていない。
だがその1、テメーはダメだ。アカデミーが負担している修繕費とグランド整備の用務員さん、大きな音が苦手なアカデミー生の心労とかどうしてくれるんだ。薬術の魔女自身は関係なかったけれど。
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