第2話.小さな道での出来事

12月3日

私たち奴隷商人は、ほとんど街で商売をする。

街では市民はまず路地裏に近づかない、だから顔がバレることもないのだ。

奴隷商人にとって顔がバレると言うのは致命的だ、街で食料を手に入れることも難しくなるし、街の人から殴られたり金を奪われたりしかねないからだ。

だから私は村や集落での商売はしない。

そう言う小さいコミュニティで出来ている場所は正義感に狂わされた悪人が大量にいるからだ。


だが、そう言う村の近くを通らないといけない時もある。

今日はまさに横を通らないといけない日だった。


ーーーーーーーーーーーー

「私にも魔法が使えたらこんなことしなくてもいいんだがなぁ…」

馬車に乗りながらそんなことを思う。

例えばテレポートが使えたら、奴隷を連れて他の拠点に移動できるから、他の街に支店を置いて同時に商売をすることができる。

「はぁ…まあそんなことありえないか」


魔法なんて私に使えるわけがない。

何故なら魔法は金と地位に恵まれた奴てしか習うことができない。

「まっ、私みたいなやつは学ぶ機会があっても学ばないんだろうな。」

そんなことを考えていると、

「止まれ!」

前に3人、人が立っていた。

私はぶつからないように馬を止める。

検問だろうか、だがこの近くには街はなかったはずだが

「お前、奴隷商人だな」


「ええ、そうですよ。貴方たちは?」


「黙れ!奴隷を売るなど、恥ずかしくないのか!」


ああ、わかった。こいつらはあれか

正義のヒーロー様だ、こっちの事情も知ろうもせずに、自分の正義感で動くタイプだ。


「ええ、そうですね。ですが、私も生きるのに必死なんですよ…話はそれだけですか?」

前に3人、そして後ろに2人と言ったところか?厄介だな。

「我々はアーティアス神を信仰する者だ!

アーティアス神様の教えに従い!奴隷を解放しにきた!」


「アーティスト神ね…ははっ」


「何がおかしい!」

そう言うと男は腰からおそらく自分で作ったであろう。不細工な木刀を取り出した。

なるほど、こいつらは近くにある集落からこちらにきたのだろう。

この武器を見て確信した。こいつらの集落は信仰に縋って自分達の現状を見ないようにしているんだ。

「その木刀、自分で作ったの?」


「?そうだ」


「なんで鍛冶屋に作って貰わないの?」


「何を!鍛冶屋は死をもたらす武器を作るのだぞ!そんなものを集落に入れるわけがないだろう!」


「集落ねぇ…」

こいつの話を聞いているとイライラしてくる。

一緒前に神の教えを説いてくるくせに他の考えは否定する。こいつらはクズだ。私以上の


「あのさ、君たちが信仰している神様が君たちをお救いになってくれるなら、なんで木刀の一つも与えないのさ、そんな木刀、下手すりゃあ人一人殺せる君たちが嫌っている武器だよ。なんで神様は絶対に殺さない武器を与えてくださらないのだろうね」


「神を愚弄するか!取り押さえろ!」

そういうと2人の男が俺を取り押さえた。

さっきまで話していた男は私のポケットから鍵を取り出し、奴隷たちの入っている牢屋を開けた。

「さあ、もう大丈夫だよ」

男達はこの奴隷達は涙を流して感謝を言うと思ったのだろう。

だが、奴隷達から帰ってきた言葉は

「何余計なことしてるの」

であった。

「はははははっ!」

それを聞いて私は笑う。男達の驚いた顔を見てさらに笑った。

「なっなんで…」


「当たり前だろう!お前らこいつらが被害者だと思ってんのか!?いいかこいつらは進んで奴隷に堕ちたんだ!家族を助けるために、仕事を探すために!生きるために奴隷になったんだ!

こいつらが無理矢理奴隷になったと思ったら大間違いなんだ!小さな集落で過ごしていたお前らの

ごみみたいな正義感なんかなんの役にもたたねぇんだよ!」


「何故だ…俺達について来たら、全員生きられるのだぞ」


「お前本当にアホなんだな、

奴隷を解放したとして!そいつらを生かす食料は十分にあるのか?今あったとして食料が十分に手に入らなくなったらどうする?こいつらはお前らの言葉すら知らない奴隷だぞ?そいつに言葉を教えるやつはいるのか?こいつらの面倒を最後まで見てくれるやつはいるのか?

いないだろ!?いないんだよ!

最後まで責任を取れないのに救うなんて言ってんじゃねぇよクソガキが!失せろ!」


そう叫ぶと3人は放心状態のまま歩き出した。


ーーーーーー

牢屋の扉を閉める。

私は思う。貴族と平民の違いは、なんなのだろうと

私は奴隷の身から家族の後継者へと成り上がったやつを知っている。

そいつが貴族になったから話した事もある。

そいつにどうして貴族になれたのか。聞いたら

「運が良かっただけですよ」

と帰って来た。

多分貴族と平民の違いは、これを間に受けるか受けないかだとおもう。

そんなことを考えながら、私は街に向かって

馬車を走らせた。

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