奴隷商人の日記〜これは裏の世界の物語〜
春海レイ
第1話.正直者の街
2019年11月29日〜12月1日
正直者の街
今日から日記を書こうと思う。
描き始めた理由は立ち寄った場所の情報を整理したかったのと、ただ単に日記を書いてみたかったからだ。
さて、この期間に立ち寄った場所はカレン島、通称正直者の街と言われる場所だった。
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11月29日
「さあさあ皆さん!ご注目!今回入荷したのはなかなか手に入らない品物、カナリアの笛でございます。」
おおー!っと観客が賑わう。出された品物には、加工されたガラスの弾がキーホルダーのようについていること以外は普通の笛に見える。
「このカナリアの笛は、一回吹けば大金が、2回吹けば絶世の美女が!なんでも願いを叶えてくれる特別な笛なのさ!」
おおっー!だと観客が騒いでいる。
普通に嘘だろこんな商品、何故わからないんだ
どうやらこの街の住人は疑うことを知らないらしい、王様ですら人を疑わずに色々な人を信じて暮らしている。
それで何故この街が今まで生き残っていられたかは当然の疑問なのだが、それにも理由があった。
この国、1年前まで鎖国していたのだ。
決められた領地の中で狩りをし、畑を耕し、嘘をつかず生活をしていたのだ。
そのせいで嘘という言葉が完全に消滅してしまったらしい。
それで海を渡って貿易商がきて、ここが他の国と貿易をしたら、国民がもっと豊かになりますよ!なんていったらすぐ鎖国をやめて貿易を始めたというわけだ。
「おいおい!商人さん!勘違いしちゃってるよ!」
私がそういうと商人はこちらを見て一瞬睨みつけたかと思ったらすぐ笑顔に戻り、
「おいおい!何を間違っているというんだい?」
「この笛、吹いたら5日以内に死んじまうじゃないかい!私が鑑定士でよかったなぁ。危うく村人が一人死んじゃう所だったよ!」
そういうと村人達は顔を見合わせ
「なんだよ!商人さん。勘違いしちゃってたの?危うく一人死んじゃう所だったじゃん!気をつけてくださいよぉ。」
そう笑顔言った。
私はこの村人達が怖くて仕方がない。願いが叶うという商品を騙されて本気で買おうとしたのに、その笛が吹いたら死ぬと言われたのに、笑顔で商人を許すのだ。
こんな事をされたら、怒らないとおかしいのに。
「とりあえずみなさん、今日は解散してください!そろそろ仕事の時間ですよー!」
「ああ!そうだった!ありがとう鑑定士さん!」
そういうと村人達はバラバラに別れていった。
「おい!なんのつもりだ」
「…なんかむかついたんだよ」
「むかついた…?はっ!お前もここに商売に来た奴隷商人じゃねぇか、水に流してやるから次は邪魔すんなよ」
「…わかったよ。じゃあな」
そう、私はここに商売に来た奴隷商人だ。
貧民は仕事を紹介すると言って檻に閉じ込め、
貴族には食事だけで働く一流の何でも屋として奴隷を売る。そんな仕事をしている。
側から見れば、それは悪だろう。
だが俺にも家族がいて、家族を支えなくてはいけないのだ。これは仕方がない事なんだ。
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11月30日
奴隷を閉じ込めている店に行くために路地裏を通っている。この国で路地裏を通るメリットは二つある。一つは大人の村人と合わない事、二つ目は
「いたいた」
孤児が大体路地裏で生活しているって事だ
「こんにちはお嬢さん。何をしているんだい?」
子供に声をかける。よく見たら首に宝石が入ったネックレスをつけている。おいおい、そんなものしてたら狙われるぞ
「えっとね!お父さんとお母さんを待ってるの!」
孤児の子供はいつもこう言っている。
この国の人も全員がアホというわけではない。嘘というものを知った人間はこの街からほとんど出ていく。嘘を知った瞬間、ここにいる人たちのことを恐ろしくなってしまうからだ。
それは自分の子供も例外ではないのだろう。
当然だ、なんせここにいる奴らは全員、命を奪うであろう勘違いを笑顔で許しちまう奴らなのだから
「あ、お父さんだ!」
と思ったらお父さんは本当にいたようだ
少女がお父さんの方へと駆け寄っていく
私は立ち上がりお父さんの方を見た。
「違う」
一発でわかった、あいつはお父さんじゃない、ここの島の奴らは全員肌が黒い、事実、あの少女もそうだった。だが少女がお父さんと呼んでいた人の肌は白かった。
「一年前に鎖国をやめたのに白人のお父さんがいるわけないだろ…」
だが私は少女を止めるのではなく、真っ直ぐ自分の店へ向かった。普通の人ならあの少女に、あの人はお父さんじゃないというのだろうか?それとも気づきもせずにそのまま街の方へ行くのだろうか?
少なくとも俺は絶対に止めたりなんてしない
何故なら私は嘘で救われる人もいる事を知っているからだ。悪い嘘でもいい嘘でも救われる人がいるのだ。
そう自分に言い聞かせた。
_________
12月1日
街を歩いていると、おそらく外国からきたであろう肌が白い夫婦がやっているコロッケ屋を見つけた。
なんでもここで取れた牛肉を使って作ったらしい、ここには牛肉はないはずなのだがな
「…せっかくだし入るか」
中に入ってみると人がかなり多かった。
席が全部埋まっているわけではないが、9割は埋まっている状態だ。そしてここにいる客は全員肌が黒い人達だ。
「地元の人達だけでこんなに埋まるのは珍しいな…」
確かに牛肉と嘘をついているが、こんなに外国人の客が来ないなんてあり得るのか?
私がそう思っていると奥さんが注文を聞きにきた。
私は奥さんの顔を見た瞬間、何故ここに人が来ないのか理解した。
「ご注文お伺いします!」
そう言った奥さんの首には、昨日少女がつけていたネックレスを首にかけていた。
慌てて厨房を見るとそこには昨日、少女がお父さんと言っていた男が立っていた。
「…すみません。急に具合が悪くなってきたので帰ります。」
「ああ、そうですか?お気をつけてお帰りください」
そう言って私は慌てて路地裏まで走り、
「う!おえぇ…」
朝食べたものを吐き出した。気づいてよかった。あの料理を食べたら俺は少女の一部を吐き出すことになっていた。
「よかったって…何考えてんだよ…」
イカれている…いやイカれちまったこの街は
どうやら正直者の街に嘘つきが大量に入ってくると、こんなことになってしまうらしい。
「ああ…クソが」
私はゆっくり自分の店に戻る。もう昼飯を食べる気分ではない。
「…私もイカれてるんだな」
ここは肌が黒いと家畜扱いされるらしい。ブクブク太らせて金と餌を吐き出させている。
私も同じだ。
こんな事考えても仕方のないのかもしれない。
だが生きる為に人を食い物にしてるのは俺も同じだ。
「あれ、ここは」
気がつけば少女と話した場所に来ていた。
私は手を合わせ、金を少しここにおいた。
「すまんな嬢ちゃん私にはこれくらいしかできないんだ」
少女はお父さんには会えたのだろうか。
そんな事を考えながら、私は自分の店へと歩き出した。
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