第4話・あの方が、全裸でお風呂から来店されました。

強烈なインパクトが続く自己紹介も終盤に差し掛かる。次の次が、私の番だ。


「それでは、i-phoneさんは自己紹介できそうでしょうか?」


画面が非表示で誰かが分からず、表示名が「i-phone」になっている。主催者としては困惑するような、ZOOMあるあるのケースかもしれない。そのi-phoneさんが声を発した瞬間、わたしは耳を疑った。


「あー、ごめんなさーい!わたし、福岡から参加していて、今お風呂入ってまーす!全裸なので画面オフですが、またお風呂上がったら顔出しまーす!」


え?え?え?全裸ですか?



私の頭の中は、さらに混乱する。ここはハプニングBARか。星から来たとか、魔法の国から来たとか、しまいには全裸で来たとか、みんな想像の上を行き過ぎていて、元気ハツラツ!オロナミンビアー!!とか、間違っても言ってる場合ではない。


「いやー、さすがにお風呂からの参加は思いつかなかったですねー!最j高です!」


BARのマスターもご機嫌で楽しそうにしながら、唖然としている私には気づくこともなく、自己紹介を回してきた。


「では、最後の男性の方、よろしくお願いします!」


私は下手なウケ狙いはやめて、普通に自己紹介をした。もう、こうなったら普通が一番だ。そこはかとなく、どこにでもいるような人間としての自己紹介。それでサラッとその場はやり過ごすことにした。



仮想空間で行われる、ZOOMでのオンラインBAR。深夜に集まる、不思議な人たち。ただ、一つ言えることは、こうした非日常のひとときは意外と悪いものではないという感覚だ。


何よりも、ここに集まっている人たちは人がいい。ギスギスした一般社会にはないような、純粋さを感じる空間でもあった。おかしな人たちは多いけど、ある意味心は純粋でまともな人ばかり。



「では、みなさまの自己紹介も終わったところで、乾杯といきましょうか!」



マスターの声かけで、一斉に飲み物を持つ。これも、オンライン上だ。ZOOM越しに映るそれぞれの人たちが、それぞれの環境でお酒やソフトドリンクを持っている。


「本日は素敵な夜にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます!皆様のますますの幸せと、これからの大発展を祝して、かんぱーい!!!」



よくよく考えると、普通のBARで、客が全員で乾杯をすることなどないだろう。知らない人同士で乾杯し合う光景は不思議なものだった。それも、オンラインで。


ただ、不思議と一体感を感じている。これはリアル店舗のBARでは感じられない、繋がり感というか、意思疎通ができる関わりというか、なんというか。


こうして乾杯をした後は、飲みながら、食べながら、リラックスをした時間が流れていった。その頃合いを見た頃にマスターが、一つの投げかけをする。



「それでは皆さま、ここはどんな夢も叶うBARです。ぜひ、みなさまのやりたいことや、叶えたいことを語ってみませんか?一人で胸の内に秘めているよりは、夢が叶う空間で、それに対して肯定的に捉えるメンバーで、心の声は言葉に出していくことが大切です。」



そうマスターが声かけをすると、一人の参加者がすぐに手を挙げた。


「マスター!実は、わたしやってみたいことがあったんです。本の読み聞かせは著作権等々でハードルが高いこともあるのですが、ブログの読み聞かせだったら書いている先生に許可をいただければすぐにできるかなと思って。ブログ読書応援会って企画と、やってみたいと思っていたんです。それを今ここで、チャレンジさせていただいてもいいでしょうか?」



そう、活き活き女性が話し出したことに対して、マスターは間髪入れずに語る。


「それは素晴らしいですね!ぜひ、今すぐやりましょう!みなさま、いいですよね。やりたいことは、今すぐに最小限の行動で初めて見ることが大切ですからね。ここで練習をしてみたら、また改善点も見つかると思いますし、最初の一歩としてぜひトライしてみてください!」


「ありがとうございます!では、一人サポートしてもらいたい方がいるので、一緒にやってもいいですか?」



こうして、即興で始まった夢を叶えていく小さなチャレンジ。一人の女性をきっかけにスタートした行動が、後に大きなムーブメントを巻き起こすことになった。

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